猫を食う男

@wawawawa1234

猫を食う男

 男は月に一度、夜10時頃に出かける。リュックに缶詰とガムテープを入れ、黒い帽子を被り電車で30分ほど移動する。目的の駅でおり、10分ほど歩くと人気のない公園がある。公園の端の方に行くと男が前回来た時に置いた缶詰がある。男がそれを新しいのに取り替えていると、男の足元に一匹の黒猫が近寄ってきた。

「いいこだ」

 そう呟くと黒猫の頬を指で撫でる。そしてそのまま抱きかかえ黒猫をリュックに入れた。

「こいつは大人しいな」

 男はリュックのチャックをそっと閉め公園を後にした。帰りの電車に乗っているとリュックから猫の鳴き声が聞こえる。男の隣にいたカップルがそれに気づいた。リュックのチャックが少し開き黒猫の手が飛び出す。

「ねえみて、猫、可愛い?」

 カップルの女の顔がほころぶ。男はそれに気づき愛想よく会釈をして再びチャックを閉じた。家に帰るとリュックを床に置きチャックを開けた。黒い猫はゆっくりと顔を出し、また引っ込んでいった。男は台所にいき、皿に水をいれてリュックより少し離れたところに置いた。しばらくすると、黒い猫はリュックから顔を出しキョロキョロしだした。そしてそのまま皿の近くまで行くとピチャピチャと音を立てながら水を飲んだ。男はそれを見ると、その場から離れ、雑に床に敷かれた布団の上で横になった。黒い猫はゴミが散らばった四畳半ほどの部屋を歩き回り布団から一番離れた部屋の端で丸くなった。

 視線は常に男の方に向き、その大きな黒い瞳には薄く男の影が不気味に映っていた。


 *


 男は子供の頃から優秀だった。勉強もでき運動も得意、愛想がよく皆から愛されていた。しかし、親からの愛情を受けてこなかった。父親は男が六歳の頃に銭湯に行ったっきり帰ってこず。母親は中学に上がる前に事故で死んだ。母親の姉の所に引き取られたが中学卒業と同時に離れる。男は優秀であったため寮生活のできる高校に特待生として入学し高校卒業するとそのまま先生の紹介で大手の企業の営業部門に就職した。

 男が初めて猫を食ったのは働き始めてから3年経った頃だった。普段から自宅の近くで人間が用意した餌を食べている膨よかな猫を見かけていた。男はその猫を軽蔑していた。大した外敵もおらず人間が用意した餌を食って寝るだけの猫にこの世がどれだけ生きるのに苦労する世界なのか、男は教えてやりたくなった。男はその場で猫を抱えて連れて帰り弱肉強食を教えた。男はとてつもない高揚感と優越感を味わい、気づけば猫の餌を持って夜出かけるようになっていった。そして男は常に自分に言い聞かせた。

「生きることに必死でなければならない。」


 *


 男はその日、機嫌が良かった。仕事で担当していたプロジェクトの契約が取れたのである。自宅に帰ると男は風呂に入り歯を磨き机の上を簡単に整理した。そして冷凍庫からジップロックに入った舌を取り出し油を引いたフライパンに乗せる。軽く塩胡椒で味付けし、昨晩の残りのサラダを冷蔵庫から出して共に机に並べる。男は部位の中でも舌が好物であった。決して美味だからではなく舌の質感、食感がそれが猫であったと1番実感したからである。食事を終えると床に新聞を敷き押し入れの奥から糸鋸を取り出した。そして冷凍庫から可食部がほとんどなくなった猫の残骸を新聞の上に置き、細かく切り分けていった。細かくなったものをトイレに少しずつ流した。男は全て流し終えると新聞紙をゴミ箱にいれ、糸鋸を洗って元の場所に戻した。そして布団に横になってしばらく天井を見つめていた。男は息を吐くように呟いた。

「次は…」


 *


 男は家の近くで子猫を見かけた。その子猫は白い毛が汚れで茶色くなり目には目脂だらけだった。ゴキブリであろう細い触覚が口の中で蠢いてるのが見えた。小さく華奢なその猫はそれをむしゃむしゃと食べていた。男はそれを見ながら生物に美しさを感じていた。勝った方が食い、負けた方が食われる。これが世の真理だと確信した。同時にもっとその猫に魅了され、自分のものにしたいと切望した。その茶白い子猫は男をちらっと見たあとすぐに姿を消した。


 *


 その日仕事が終わると男は上司に挨拶して足早に家に向かった。家に着くといつもよりそわそわした様子でスーツのまま冷凍庫の前に行きジップロックから舌を取り出した。そのままフライパンで焼き少し塩を振って皿に移した。ナイフとフォークを用意していつとより厚めの舌を一口サイズに切っていく。男はそれを口に運んで咀嚼し始めた。すると突然男は口を押さえながら立ち上がりトイレに向かう。部屋に男のえずきと嘔吐する音が響く。

「最悪だ」

 男が口をゆすいでいるとインターホンが鳴った。ドアに近づき覗き穴から覗いてみるとスーツにコートを羽織った二人の男の姿があった。男はこの男達が何者かすぐに悟り、そしてドアを開けた。

「夜分遅くにすみません、私こういうもんです」

 そう言い、上司であろう方の中年の男が丁寧に警察手帳を渡してきた。手帳には警部補とあり名前は鈴木と書かれていた。

「こっちは部下の一ノ瀬です」

 若くシュッとしたその青年は黙りながら視線を部屋の方に移した。すると上司の方が続けて話し始めた。

「実はこの辺で空き巣が流行ってましてね、ここら辺のかたに安全を呼びかけて回っているんですよ」

「なにかありましたら連絡してもらえると助かります」

 そう言うと鈴木は名刺を渡した。男は少し間を置いて

「わかりました気をつけておきます、夜分遅くにご苦労様ですー」と愛想良く返事をし、刑事達は帰っていった。男は刑事が離れたのを確認してから鍵を音のならないようにかけた。ドアを背にしてもたれかかり、タバコを取り出し火をつけて深く吸いこんだ。まっすぐ立ちのぼるタバコを見つめながらゆっくりと息を吐く。

「最悪だ」


 *


「一ノ瀬、行方不明になった男の情報を」

「はい、男性は30歳、無職で実家暮らし。体型はふくよかだったそうです」

「30歳無職で実家暮らし?最近流行りのニートってやつか」

「男性は高校を中退してからずっと家に引きこもっていたようです」

「そんなら、被害者がいなくなっても誰も困らんな」

「被害者?鈴木さん、まだ事件と決まったわけでは」

「十何年も親のすねかじってのんびり暮らしてたやつが急に誰にも言わず自分探しの旅ってこともねえだろ」

「はあ、なるほど」

「そいつはまったく家から出ないのか?」

「鈴木さん、そいつって…。口悪いですよ」

「うるせえよ。それでどうなの?」

「ああ、男性は週に2.3回は家から出てたようです。主にコンビニとあと公園に通っていたようです」

「公園?公園行って何するんだよ」

「猫に餌をあげていたようです」

「猫?」

「野良猫ですね、案外いいところもあるじゃないですか」

「そうでもないぞ、確かに猫は餌にありつけて満足だろうがそのせいで近所の猫が集まって大繁殖パーティーだよ」

「いいじゃないですか、猫かわいいし」

「うちの娘も猫飼ってるけどな、そういうことじゃないんだよ。そのうち近所で糞やら畑荒らしやらで迷惑かかるだろ?そしたら保健所が必死に去勢させないとだし、最悪殺処分だよ」

「なるほど」

「一ノ瀬、お前はその公園の周りで聞き込みしろ」

「わかりました、鈴木さんは?」

「俺はちょっとツテがあってな、そっちにいく」

 そう言うと鈴木は少し残った缶コーヒーを口に流し込んでコートに袖を通した。


 *


 鈴木は河川敷の高架下のゴミ山をかき分けていった。するとそこにはボロボロになった雑誌をだらけながら読んでいる身なりの汚い男がいた。

「よお、調子はどうだよ」

 鈴木がそう聞くと汚い男は鈴木を少し見てまた雑誌に目をやり口を開いた。

「出世街道まっしぐらの天才刑事がこんなとこになんのようだよ」

「まあそういうな、お前あそこの公園でなんか気になったことないか?」

「またなんか事件の話か?俺はなんも知らねえよ」

「いいのか?このゴミ山はお前の楽園だろうが、お前の土地ではないんだぞ」

「わかったよ」

 そう言うと汚い男は雑誌を置いてこっちを向かないまま話し始めた。

「あそこでよく猫に餌をやってる男がいてよ、まあその男の関係で捜査してるんだろうが」

「察しがいいな」

「毎週男が猫に餌やってるわりによ、猫の数が少ないんだよ」

「猫が少ない?」

 その時、ゴミ山をかき分けて一ノ瀬が現れた。

「鈴木さん、公園の近所の人から聞いたんですが行方不明の男性と仲良さそうに話していた男いたそうです」

 汚い男が一ノ瀬に続くように話し始めた。

「俺もそいつは見たな、男と楽しそうに話してた」

「なるほどね」

 鈴木はそう言うとゴミを避けながらその場を立ち去った。一ノ瀬は汚い男に会釈してから鈴木を追いかけた。

「鈴木さん、何かわかりましたか?」

「まあな」

 鈴木が横断歩道の信号を待っている時、向かい側にスーツを着た若い男が立っているのが見えた。信号が青になる。向かいの男はテンポよく歩き、横断歩道の真ん中で鈴木と一ノ瀬とすれ違う。鈴木は横断歩道を渡り切った後、振り返る。スーツを着た若い男はそのまま足早に路地へと歩いていく。

「一ノ瀬、ちょっと寄り道していいか?」

 そう言うと鈴木は小走り道路渡ってスーツの若い男を追いかけた。スーツの男は古いアパートに入っていくと1番奥の部屋に入っていった。鈴木は部屋に入ったのを確認すると扉の前までいき表札に目をやった。

「柳、か」

 すると後から追ってきた一ノ瀬がやってきた。

「鈴木さん、急にどうしたんですか?」

 鈴木は軽く身なりを整え始めながら

「いいから、お前は黙ってろよ?」

 と言うと鈴木はインターホンを鳴らした。少しするとドアがゆっくり開き、先程のスーツの男が少し蒼白な顔をこちらに覗かせた。

「夜分遅くにすみません、私こういうもんです」

 鈴木は普段聞かないような高いトーン、不自然なほど自然な笑顔で警察手帳を渡した。

「こっちは部下の一ノ瀬です」

 そう言うと男はドアを大きく開いて一ノ瀬の姿を確認した。一ノ瀬は口をつぐみながら、開いたドアの奥の部屋に目をやると、引きっぱなしの布団が目に入った。

「実はこの辺で空き巣が流行ってましてね、ここら辺のかたに安全を呼びかけて回っているんですよ」

「なにかありましたら連絡してもらえると助かります」

 そう言うと鈴木は名刺を渡した。

「わかりました気をつけておきます、夜分遅くにご苦労様ですー」

 男は愛想良く返事をして扉をゆっくり閉めた。一ノ瀬がドアから離れていく鈴木を追いかけながら問いかけた。

「僕、空き巣が流行ってるだなんてここら辺で聞いてないですよ」

 鈴木はめんどくさそうにしながら説明し始めた。

「それは嘘だよ、ちょっと気になることがあってな。さっきの柳と言った男の服装を見たか?」

「ええ、結構良さそうなスーツを着てましたけど」

「あれは有名なブランドのスーツだった。ただ靴がな」

「靴…?」

「そんな高級なスーツに対して、そんな上等なものじゃなかったんだよ。それにここら辺は比較的土地の安い物件ばかりでブランドのスーツを着るような男が住むような場所じゃない」

 そう言いながら鈴木はアパートの裏手に周り何やら探し始めた。

「スーツに比べて靴がボロかっただけで気になったんですか?ただ見栄っ張りなだけかも知れないじゃないですか」

「まあな、ただ外ツラをよくしたい奴には隠したい物でもあるじゃねえかと思ってな。それに…」

 鈴木は話しながら地面にあった青い蓋を次々にあけた。

「ますます気になってきやがった」

 一ノ瀬が不思議そうに顔を覗かせるとそこには水道メーターがあった。そして男の部屋に繋がっているメーターだけが異常に高い数値となっていた。


 *


 男は前に見かけた茶白い子猫に夢中にになっていた。その猫を捕まえるためケージを改造して罠を作り、子猫をよく見かけた細い路地に仕掛けた。茶白い子猫が罠にかかるのに長くはかからなかった。男はケージに上から袋を被せ家に連れて帰った。ケージを開きケージの少し外に水と餌を置いて男は布団に入り就寝した。男が目を覚ますと水と餌が減っていないことに気づいた。ケージの側によって猫の様子を見てみると微動だにせず丸まった子猫が目に入った。男は取り出そう手を伸ばし、子猫に触ろうとした瞬間。子猫は鋭く尖った歯と爪で男の手に噛みついた。男はすぐさま手を引き戻し噛まれたところに目をやる。手からは血がドクドクと流れ出し滴っていった。男は大きく高らかに笑った。滴る血を舐めながら餌と水をケージの中にいれ扉は開けっぱなしにした。

「お前、やるなあ」

 男はその日から仕事に行かなくなり、虫を集めるようになった。集めた虫を猫のケージにいれ観察した。猫は虫を叩き潰し死骸はしばらくすると食べていた。1週間たつと男は猫のにおいを気にして猫に水を浴びさせた。猫についていた汚れが落ちていき毛は真っ白となっていた。男は猫用のトイレを買ってきた。白い猫が先程置いたトイレにいき排便するのをみて男は白い猫の賢さに驚いていた。男は白い猫をじっと見ながら考え込んだ。

「よし、お前はウィンターだ」


 *


 男は家に警察が来た日から食事が喉を通らなくなっていた。適当にものを混ぜてジュースにした物や水を少し取るだけとなっていた。男は痩せ細り、白い猫に噛まれた手は腫れ始めていた。近くのスーパーでいつもの猫の餌をかって家に帰ると、白い猫の姿が見えなかった。

「ウィンター…」

「ウィンター、どこだ」

 呼びかけるが物音ひとつなかった。すると男は窓が少し開いていることに気がついた。すぐさま外に出て男は白い猫を探し始めた。

「おい、ウィンター、どこにいるんだ!」

 白い猫を探し始めてから3時間ほど経過した。男は重い足取りで家に帰った。すると部屋の奥から白い猫はが男の方に擦り寄ってきた。

「ウィンター、無事だったか…」

 白猫は男の腫れた手に頬を擦り寄せた。男は目頭が熱くなると同時に猛烈な吐き気を感じた。その場で嘔吐し深く咳き込んだ。男は仰向けになり小さく呟いた。

「負けか」


 *


 一ノ瀬が路肩に止めてある鈴木の車に乗り込んだ

「一ノ瀬、柳の捜査はどこまで進んだ?」

「はい、柳の会社の元同僚や元上司に話しを聞いたところ仕事も交友関係もよくやっていたと言う方がほとんどでした。ただプライベートの事は皆さん知らないようでした」

「なるほど、公園で被害者と話していた男の目撃情報は?」

「目撃者はみな若く好青年という印象でした。柳の写真を見せると、似てる気もすると言う方もいました」

「柳の家の水道メーターは男一人で住むにしては数値が高かった。被害者の死体を解体してトイレから流した可能性がある」

「でも鈴木さん、証拠がないですし水道メーターが高いだけで家宅捜索もできませんよ。柳がただの水好きの可能性もありますし」

「なんだよただの水好きって。とにかく柳は何か引っかかる。張り込んで一週間だが、もう3日も家から出てきてないんだぞ」

 そう言うと鈴木は車から降り柳の家の方へ歩き始めた。一ノ瀬も慌てて車を降り鈴木の後を追った。

「鈴木さん、行ってもできる事ないですよ。なんて説明するんですか?あなたが殺しましたかとでも聞くんですか?」

「とにかく黙ってろ、責任は俺が持つ」

 そう言うと鈴木は柳の家のインターホンを押した。反応はなくノックをして声をかけても無反応だった。鈴木はドアノブに手をかける。

「開いてる…」

 鈴木はゆっくりと音を立てずに玄関に入るとすぐにひどい匂いがして、部屋の真ん中には男が倒れていた。鈴木はゆっくりと男のそばでしゃがみ男の首元に手をやる。

「死んでる」

 男の手元には糸鋸と紙のようなものを持っていた。鈴木はその紙を取り上げて開いた。

 一ノ瀬が遅れて部屋に入ってきた。

「鈴木さん、一体これどういう事ですか!」

 鈴木は紙から男に視線ずらした。

「こいつ、俺らが調べてることもここに乗り込んでくることも分かってやがった」

 鈴木が取り上げた紙は以前渡した鈴木の名刺であった。裏には

『僕は猫を食べました

 鈴木さん ウィンターをお願いします』

 と書かれていた。ケージの中には弱った様子の白い猫がいた。そして餌皿の上に茶色に変色した舌のようなものが置かれていた。

 手をつけられていないまま。


 *


「一ノ瀬、報告書かいたかあ?」

「鈴木さん!なんで僕が書かなきゃいけないんですか!先に勝手に部屋に入ったのは鈴木さんでしょう」

「一ノ瀬くん、どっちが先か後かだなんてどうでもいいじゃない。結果的に二人とも部屋に入り、死体を見つけ、部下である君が報告書を書く、これの何がおかしいのよ」

「サボりたいだけじゃないですかあ、そもそも報告書になんて書けばいいんですか?」

「まあ適当に書いとけ。そんなことよりニュース見たか?」

「ニュースって何です?」

「都が野良猫の保護に本腰いれて保健所に金出すんだってよ」

「まああんだけマスコミで事件のこと取り上げられましたから。柳の部屋から猫の目玉がたくさん出てきちゃって、日頃から猫を大量に食べていたことがすごいショッキングでしたからネットでも保健所への批判が沢山あったみたいですよ」

「ふーん、じゃあ今後は街で野良猫見かけなくなるかもな」

「そういえばあの現場にいた猫ちゃん大丈夫でしたか?」

「ああ、あの後動物病院につれていったがすぐに退院して今はうちで元気そうにしてるよ」

「その子ラッキーでしたね、食べられなくて」

「ラッキーか…」

 鈴木は少し考える素振りをした。

「柳はこうなる事を予測してたのか?」

「何がですか?」

「柳はあの名刺にわざわざ猫を食べていたと書いていた。そのせいでマスコミは大きく取り上げ東京都がこのように対応せざるをえなくなった」

「猫を食べるような奴がそんなこと考えませんよ」

「考えるきっかけになったのがあの白い猫だとしたら…」

「だとしてもなんでわざわざ死ぬ必要があるんですか?しかも自分の舌を切るなんて死に方」

「そいつなりのけりのつけ方だったのかもな」

 一ノ瀬は考えるのをやめたのがわかるように話を逸らした。

「まあ結局、柳の家からニートの事件の証拠は全く出なかったですし、捜査はまた一からやり直しですよ」

「悪い、今日は早めに上がるんだわ」

「なんでですかぁ」

「へっちょっとな」

 コートに袖を通すと逃げるようにその場を後にした。家に帰る途中、街頭の下を影が通り過ぎる。


「あ、猫」

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