盗み聞き

白木雪

第1話 ベーグル系女子

本来この話は、小説で書くのにはあまり向いていないような

話なんだけどね、どちらかというと直接人に聞かせたほうが面白さが

伝わりやすい話なんだ。

しかし、語り手が僕では、まぁ、わかるだろう。

僕はこの話を出会った友人全員にしたと言っても過言ではない。

だから、語り慣れている。語調も随分それに近くなっているので

どうか容赦してほしい。






9月のいつだったかは忘れたけど、実に暑かったことは覚えている。

ほとんど知り合いもいない講義だったからね、授業内容はよく耳に

入ってきたよ。

よく言えば集中して講義を受けていたんだけど、わざわざ夏休みを

使ってまで受ける価値のあるものだったかといえば、正直怪しいね。

僕は、あくまでまじめだったから後ろに座って授業中麻雀を

するなんてことはしなかったよ。

そんな人たちを視界に入れるのも癪だったから、前から2番目の

3人掛けの席に1人でドカッと座って講義を受けていた。

確か、2日目だったかな、僕の4、5個後ろの席に誰かが座ったんだ。

そして、それについてくるようにもう一人座った。

知り合って間もない人たちの会話ってなんだかワクワクするものが

あるじゃないか、そんなわけで僕はその二人の会話を

盗み聞きしていた。ま、あまりいい趣味とはもちろん言えないんだが

こればかりは趣味というより癖と言ったほうがいいのかもしれない。

簡単な自己紹介から始まって、自分たちの趣味を掘り下げる。

聞いている僕でもわかるぐらい、2人の距離は近づいていたね。

そんなやり取りを聞いているうちに昼休みに入った。

急いで学食をかきこんで、過去最速で教室に戻ったんだ。

すると、女性のほうは教室でパンを食べていて、男性のほうは

教室にいなかった。

2人はこの後どんなやり取りをするのだろうとウキウキしながら、

男子が来るのを待った。

それから、すぐに男子が来た。

当然の流れで、何を食べてきたのか聞きあうわけだ。

男子のほうは何だったか忘れてしまったが、女子のほうは

「ベーグル」を食べていたらしい。

「ベーグルって何?」

その一言がきっかけだった。

「え、ベーグル知らないの?いろんな味あるのに?

あ、そもそもこの付近のパン屋さんほとんどベーグル取り扱って

無いもんね、この前回ったけど一店もなかったのは意外だったなぁ。

スーパーとかにもそんないないからなぁ、あ、私のは実家から定期的に

まとめて送ってもらうんだけど、結構おいしいんだよ。味も色々あって

チョコとかプレーンとかもあるけど、結構抹茶味とかもおいしいんだよ。

そういえばさっき抹茶好きって言ってたよね。でも、抹茶味ちょうど

食べちゃったんだよなぁ。今度実家から抹茶多めに送ってもらうね、

あ、お礼とかはいいからねぇ。ベーグル知らないっていうから是非

この機会に知ってもらいたくてね。」

講師の先生よりも早口でまくし立てるような口調に僕も男子も

若干引き気味だったね。そんな僕たちに彼女はこう言ったんだ。

「今度家に食べに来ない?」

電光石火のような逆ナンだったね。

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盗み聞き 白木雪 @SIRAKIYUKI

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