第7話 王都と夢〜7〜

セセラと別れたあと僕はまだ花畑にいた。

来た時はもっと早くセセラと会ったあの場所にいたのに……。

レイはどこにいるんだろう……。

そしてついに見つけた。


「あの時の扉だ……」


レイがこの花畑にいないとしたらこの扉の向こう、教会の2階にいるしかない。


「ふん!」


扉を開ける。

そこは何ひとつ汚れたところがない純白の室内。


「うっ……。ぐすっ……。ハルぅ……」


その一角に座り込み泣いているレイを見つけた。


「どこぉ……。もう私をひとりにしないでよ……」

「っ! レイ!」


近寄りぎゅっと抱きしめる。レイの目がハッと見開く。

ここまで心を乱しているレイを見るのは初めてだった。


「……ハル?」

「うん。僕だ。ハルだよ。ごめんね、ひとりにして……」

「……ん……」


レイは1度泣き止み抱きしめている僕に手を回す。

そして、軽く嗚咽をしながら、その青い瞳から大粒の涙をぽろぽろと流し始めた。


「私、ハルが扉の奥にいなくなって……目の前が真っ暗になって……。怖くなって……」

「うん。そうだね。大丈夫。もう大丈夫だから」


昔にとあることが起こったあの時 からレイは僕のそばを離れるのをとても嫌がるようになった。

ほとんどずっと一緒にいた。

僕がいなくなるとここまで取り乱すとは思わなかった。

早めに帰ってきて良かった。ほんとに。

優しくレイの背中を叩く。ゆっくり、ゆっくりと。ポン、ポンって。

幸い2階は誰もいなかった。

レイの泣き顔は僕以外に見られることはなかっただろう。




それから20分くらいが経った。

レイは泣き疲れたのか僕の腕の中で眠っている。

かわいい。とっても。


「さてと」


そろそろ行かないとマインが心配するかな。

眠っているレイを起こさないように立ち上がり、おんぶをする。


「よいしょっと」


歩き出し、1階に向かった。




階段を降りて1階に着く。

あんまりひとはいないみたい?


「あ! ハル! 遅いよー」

「マイン! ごめんねー。遅くなっちゃった」

「ごめんねーじゃないよー」


20分も待たせてしまったのだ。怒っていても仕方ない。


「あれ? レイは?」


やっぱり来たかー、その質問。


「後ろ後ろ」

「あ、いたー。え? 何かあったの?」

「 疲れちゃったんじゃない? あー……。ほら、大都市に来たの初めてだし」

「怪しいなぁ……」


怪しまれている。そりゃあそうか。


「大丈夫だから! ほんとに大丈夫……」

「うーん……。まあいっか。ハルがレイになにかする訳ないもんね」


まだ怪しまれているけど押し切るしかない。

レイのあんな姿は僕以外の人に見せたくないし、レイも見られたくないはずだから。


「まあ、そろそろ帰ろっか」


唐突に話題を変える。


「そうだね。ハルも疲れたんじゃない?」

「うん。確かにちょっと疲れちゃったかも」


話題を変えて正解だったかも。色んなことがあったし、確かに疲れた。


「それじゃあ行こっか」

「うん」


歩き出したマインの隣を僕は共に歩いた。




教会を出て少し経った。


「そういえば、教会の2階ってお花畑があるの?」


疑問に思ってたことを聞いてみる。

あの花畑はとてもカラフルで本当に綺麗だった。


「うーん。確かあったと思うよ。もうすぐコスモスの花が満開を迎えるはずだった気がする」

「え……?」


おかしい……。僕が見たあの花畑は既に満開だったし、コスモスだけでなく様々な花が咲いていたのだから……。


「ハルたちは見てきたんだよね、2階行ったんだし」

「う、うん見てきたよ」

「どうだった?」

「き、綺麗だったよ」

「そっかー」


咄嗟に嘘をつく。

いや、嘘はついてない。

あの花畑はとっても綺麗だった。

でも、あの時レイは扉の奥にいなくなったと言っていた。

マインの言っている花畑に僕が行ったとしたらレイと離れ離れになることはなかっただろう。

それが少し引っかかる。いや、かなり引っかかる。


「ハール! 着いたよ」

「うわぁ! びっくりしたー」


いつの間にかルキに着いていたみたい。

気づかなかったー。


「ぼーっとしてるからだよもう。どうかした?」

「ううん。どうもしてないよ」

「そう。ならいいの」


何かを思い出したようにマインが手を叩く。


「そうだ。もうすぐ夕飯だからレイを起こしといてね」

「了解。1度部屋に戻るよ」

「分かった。それじゃあ後で呼びに行くね」

「ありがとう。また後でね」

「うん!」


ロビーでマインと別れ、お部屋に向かった。




「あら、おかえり。マインちゃん」

「ルキさん。ただいま戻りました」


ハルと別れ夕飯のお手伝いをするために厨房に向かうと準備中のルキさんを見つけた。


「何かお手伝いすることありますか?」

「うーん。特にないわねー。もうすぐ出来るから」


ルキさんはおっとりと言葉を返す。


「そうですかー」

「あ、そうだ、ハルくんとレイちゃんは?」

「今はお部屋で休憩中です」

「そうなのね。じゃあゆっくりしてていいわよ」

「分かりました」


よいしょっと。

ロビーのカウンターの椅子に座る。

ハルたちに会えてほんとに良かった。

ハルたちが王都を出る前に色んなことを話したいな。

ゆっくりとした時間が流れる。

こういう時間は心地いい。


「マインちゃーん。お夕飯できたからハルくんたち呼んできてー!」

「はーい」


立ち上がる。

ルキさんのご飯はとっても美味しい。

ハルもレイも絶対喜んでくれるだろう。


「ふふっ」


そんな顔を想像し自然と笑みが零れた。



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あとがき


皆さんこんにちは!シュシュ・トウカです!

7話目もお付き合いありがとうございます!

今回はいつもよりほんの少しだけシリアスな展開になったかなぁと思います。

難しいですね。

ということで、このお話が面白かったら応援ボタンをポチってしてくれると嬉しいです。

コメントのほうもぜひ!

別シリーズの「異剣使いと虹雪姫」もよろしくお願いします!

それでは!

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