閑話25 大エビフライと大人のお子様ランチ(後編)

「バウマイスター辺境伯、閣僚でもないのに済まぬの」


「私は特に意見も述べず、椅子に座っているだけですから」


「毎年毎年、ワシのみならず陛下に対しても、予算案にケチをつける貴族たちが鬱陶しくてな。とはいえ、そいつらに予算案を任せたら、私利私欲に満ちたろくでもない予算案しか出してこぬのだ。予算会議に、プラッテ伯爵を討ち取ったバウマイスター辺境伯が出席していると聞けば、臆病者たちは怯えて文句も言えまい」


「ルックナー財務卿、俺ってそんなに怖がられているんですか? 導師やエドガー軍務卿やアームストロング侯爵の方がよっぽど怖がられていると思いますけど……」


「彼らはわかりやすく怖いのでな。バウマイスター辺境伯のように一見温和に見える男が、魔法でプラッテ伯爵を討ち取った事実を恐れている貴族たちは多いのだ。今日だけは我慢してくれ」


「すまないな、バウマイスター辺境伯」


「予算会議なのに、アームストロング軍務卿もエドガー侯爵も出席されているんですね」


「常に王国軍には、過激な軍事予算拡張派が一定数いてな。俺とエドガー侯爵が予算会議に出席して陛下に物申す、ように見せないとうるさいのだ」


「いまだ帝国に対し、レーガー侯爵が討たれた報復を謳う連中すらいるからな」


「アームストロング軍務卿、レーガー侯爵ってそんなに人望があったんですか?」


「いや、ただ軍事予算増強の名目に使われているだけだ。どちらかと言うと、レーガー侯爵は人望が不足していたからな」


「やっぱりそうですか……」


 ガトル大陸で死んだ息子からして、あまり評判はよくなかったからな。


「上にいる者ほど予算は無限ではないという事実を知っているのだが、中堅や現場には跳ねっ返りが多くてな。予算を取ってくる者が出世できるという現実もある。年を取って出世すれば落ち着くんだが、今はまだ難しいんだよ」


「お金の問題は大切ですからね」




 突然陛下から、予算会議に出席してくれと命令された。

 ご多分に漏れず、ヘルムート王国でも予算を巡って激しい論戦、批判が繰り広げられており、俺はそんな彼らに対する重しのような役割を期待されているようだ。

 社畜の鑑である俺は陛下からの命令を断れず、この会議に参加していた。

 昼食の時間になったので一時休憩となったが、今日は大切な予算会議なので、さすがに陛下もフルコースを食べている時間はない。

 陛下にはサンドウィッチなどの軽食が運ばれてくるそうで、他の参加者も同じようなメニューの弁当を持参していた。

 予算会議に参加している時ぐらい、参加者全員に昼食を用意すればいいのに王国も案外ケチだなと思ってしまったが、 重要な会議の時はそういうものなのだとエドガー侯爵から説明を受けた。


「王国主催の晩さん会や、陛下との会食ともなれば、王城の調理人が腕を振るうさ。だが、今日はあくまでも会議だからな。我々も、いちいち屋敷に戻って食事をとるわけにいかない。この手の会議に参加する貴族が弁当を持参するのは伝統なのさ。まあ、ルックナー財務卿が予算を出してくれれば別だけどよ」


「エドガー侯爵、そう簡単に言ってくれるな。我々閣僚でなくても、王城内で仕事をしたり、会議に参加している貴族はかなりの数いるのだ。その全員に食事を出すとなると、無視できない出費になるんだぞ。まさか、王家が粗末な食事を出すわけにいかないのだからな」


「相変わらずの締まり屋だな」


「ガトル大陸の開発事業がある。さらに東の大陸探索でも、帝国とどちらが先に到着するか熾烈な競争になっている。メリハリのついた予算案というものが必要なのだ」


「わかってるって」


 二人は言い争いながらも、それぞれに自分が用意したお弁当をテーブルの上に出した。

 やはり、パンに肉を挟んだサンドイッチ的なものだ。

 というか、この世界のお弁当は大貴族でもかなりレパートリーが少ない。

 冒険して、新しい料理を弁当に入れたらお腹を壊してしまった、なんてことにならないようにメニューが保守的なのだ。

 唯一の例外は、やはり魔法使いであろう。

 魔法の袋なら、できたての料理を入れておくと、いつでも熱々の料理が食べられるからだ。

 俺は、先日ペーター夫妻とフリードリヒたちに出したお子様ランチのゴージャス版を魔法の袋から取り出した。

 退屈な会議なのでせめて食事くらいはと、調理人たちにお子様ランチの改良版を作らせ、これを魔法の袋に入れておいたのだ。


「また改良を加えたから、美味しそうだな」


 大人のお子様ランチというか、洋食プレートみたいだが、俺が調理人たちに指示を出してさらに改良を加えている。

 まずは主役級の大エビフライだが、衣のパン粉はバウマイスター辺境伯家で雇った腕のいいパン職人に作らせた新鮮な生パン粉を使用し、さらに衣がサクサクに仕上がっている。

 さらに大粒の牡蠣フライ、ホタテフライ、イカフライ、オニオンリングに、タルタルソースも調理人たちがさらに味を改良してくれた。

 今のバウマイスター辺境伯家において、揚げ物に手作りタルタルソースを出さないなんてことはあり得ない。

 もはや伝統となっており、もし出てこなかったらみんなが文句を言うはずだ。

 次に、小型のハンバーグ。

 これも、上にトロトロのチーズが載っており、ナイフで切ると肉汁が溢れ出るように材料も焼き方も大幅に改良を加えた。

 ハンバーグ自体も柔らかく、肉汁タップリで、『飲めるハンバーグ』というのが、バウマイスター辺境伯家特製ハンバーグのあだ名となっている。

 トマトケチャップも手作りだ。

 ナポリタンも細かい改良を加えてさらに美味しくなっており、オムライスもちょうどいい半熟具合に仕上がっていた。

 俺は調理人たちに言ったんだ。

 『プロの調理人を名乗るくらいだから、オムレツは美味しく焼けるよね?』って。

 そして『えーーー! 卵を焼くフライパンで、他の食材も調理するなんて信じられない! オムレツはとても繊細な料理で、他の食材の匂いが移ったら駄目なのに!』とも。

 現在、バウマイスター辺境伯家の調理人たちは、全員がオムレツ専用のフライパンを持っている。

 当然言い出しっぺの俺が全部購入して、調理人たちに無料でプレゼントしたが。

 オムレツにはハンバーグで使っている手作りトマトケチャップではなく、やはり調理人たちが手作りした特製デミグラスソースがタップリとかかっていた。


「(さすがに盛りすぎて、デザートは別皿になってしまったが……)」


 カラメルソースも手作りしたプリンの上に、生クリームを搾り、さらにその上に魔の森のフルーツをカットしたものを載せている。

 飲料は、エリーゼが淹れてくれたマテ茶だ。

 魔法の袋に入れておけば冷めないので、保温瓶がいらないのは便利だな。

 ちなみに保温瓶だけど、飲み物を冷たいまま保存することも可能なので、バウルブルクの職人たちに作らせているが、意外と作るのが難しくてまだとても高価だと聞いている。


「大きなエビにタルタルソースをタップリと載せてっと。エビも火を通しすぎていないのでパサつかず、身が甘くて、タルタルソースともよく合うな。牡蠣フライもプリプリで最高だ! ホタテのフライもレギュラーに入れる価値はある」


 何度も調理人たちと相談しながら改良を加えた大人のお子様ランチは、これまでで一番美味しかった。

 やはり美味しさを極めるためには、現状で満足せず、常に改良を加えなければいけないな。


「ハンバーグを切ると、ちゃんと肉汁が出るな。これがないと、ハンバーグの美味しさが半減してしまうからな」


 ちゃんと前に作った大人のお子様ランチよりも美味しいか、丁寧に確認しながら試食していたら、不意に他人の視線を感じてしまった。

 顔をあげて周囲を見渡すと、陛下も、エドガー軍務卿たちも、 用意した自分のお弁当に手をつけず、俺を『ジィーーー』と見ていたのだ。


「あれ?  陛下も、他のみなさんも食事をとらないのですか?」


 午後からも会議があるので、昼食の時間はそんなに取れない。

 急いで昼食をとった方がいいと思うのだが。


「おほん、バウマイスター辺境伯。なかなかに美味しいそうなものを食べているではないか」


「ええまあ、我がバウマイスター辺境伯では、これを家の伝統料理にしようと思っているのです」


 貴族の家には、それぞれ伝統料理というものが存在している。

 これを大切な客人に出して、その料理と共に自分の家を覚えてもらうためだ。

 ただ歴史の長い家ほど、その伝統料理の味が微妙だったりする。

 たとえば、エリーゼの実家であるホーエンハイム子爵家の伝統料理は、フナのパイだ。

 噂によるとかなり不味いらしく、だが歴史のある大貴族家ほど、『これが伝統だ!』と言って料理を改善しようとしない。

 ましてや、伝統料理の変更なんてもっての外という考えなのだ。

 考えようによっては、とてつもなく不味い料理の方がその家を覚えてもらえる可能性が高いという意見もあり……いや、ただ単に伝統だから変えたくないだけだと思う。

 俺が大人のお子様ランチの改良に勤しむ大義名分は、バウマイスター辺境伯家の伝統料理を作るため、であった。

 これなら、ローデリヒも文句を言えないというのが素晴らしい。


「伝統料理か……。確かに、これからのバウマイスター辺境伯家には必要になるな。ならば余が試食を手伝ってやろうではないか」


「えっ? いいのですか?」


 ヴァルド殿下もそうだったが、基本的に王族が他人の用意した食事を食べるなんてあり得ない。

 もし毒殺などされたら大変だし、貴族が王族に食事を用意する際には、大分前から細心の注意を払って準備をする必要があった。

 王族側も、被害妄想なのではないかと思うレベルで細かくチェックするのが普通だ。

 だから、俺が陛下に食事を出すわけにはいかないのだ。

 そういう決まり、ルールであり、俺は性格的に言うとそういうものを遵守したくなる人間であった。


「よくはありませんぞ、陛下。もし勝手に陛下がバウマイスター辺境伯が用意した食事を口にしたなどという事実が王城中に広がったら、無責任な王宮雀たちが大騒ぎするのが必定なのですから」


「むむ……」


 ホーエンハイム枢機卿からの注意に対し、陛下はなにも反論できなかった。


「陛下は、ご夕食を存分にお楽しみください。婿殿、ワシにはそういう縛りはない。その美味しそうな料理はまだあるのかな?」


「ありますよ」


 かなりの量を試作したので、魔法の袋にはまだ沢山入っていた。

 すぐに一つ取り出して、ホーエンハイム枢機卿の前に置くと、彼はその年齢に似合わぬ勢いで大人のお子様ランチを食べ始めた。


「最近年を取り、さっぱりとしたミズホ料理がいいと思い始めたが、この料理はとても美味しいだけでなく、子供の時にご馳走を目の前にした特に感じたワクワク感を思い出させてくれるかのようだ」


「バウマイスター辺境伯、俺もくれ」


「俺もくれ! もしかして、弟も同じ料理を食べたことがあるのか?」


「ありますね」


「じゃあ、俺も食いたいな」


「ワシは毒殺を恐れるような貴族ではないし、バウマイスター辺境伯を信じているのでな」


「わかりました」


 エドガー侯爵、アームストロング軍務卿、ルックナー財務卿にも大人のお子様ランチを提供すると、彼らも美味しそうに食べていた。


「なにが凄いって、このプレートの上には美味しいものしか載っていないんだ。ヴィルマもさぞや沢山食べたんだろうな」


「健康を考えてか、生の野菜も載っているが、それすら美味しく感じてしまう。クリムトは、いつもこんなに美味しいものを食べているのか。羨ましいな」


「家の伝統料理ともなれば、エリーゼもその決定に関わっているはず。これなら、十分に合格点を出したであろうな」


「午後の予算会議もこれで無事に乗り切れそうだ。お腹がいっぱいになったせいで居眠りしないように気をつけなければ。デザートまでついて実に豪華じゃないか。さすがはバウマイスター辺境伯」


「……」


 俺たちは大人のお子様ランチを十分に楽しみ、そのおかげか予算会議は予定よりも早く終わった。

 陛下だけは、仕方なさそうな表情でサンドウィッチを食べていたが、まさか勝手に陛下にお弁当を提供するわけにはいかない。

 俺が他の貴族たちから批判されてしまうし、元より俺は性格的にそういう横紙破りが苦手な男だ。

 だって俺は、導師じゃないんだから。

 無事に予算会議が終わり、さて王城をお暇しようと陛下に挨拶をしたのだけど、なぜかなかなか俺を帰してくれなかった。


「そういえば、バウマイスター辺境伯と初めて会ったのはいつだったかな?」


「十二歳の時です」


「そうだったな。余は骨竜を倒した魔法使いに興味津々であったが、あまりに若くて大層驚いたものよ」


「(……。帰りたい……)」


 陛下はまだ年寄りでもなく、いつもならこんな話をクドクドとするタイプではない。

 なにが目的なのか……。


「つまりバウマイスター辺境伯は、余が直々に見出した直臣ということになる」


「そうなりますね」


 だからなんだって話なんだけど、陛下はどうでもいい話をやめなかった。


「ゆえに余は、バウマイスター辺境伯のことを微塵も疑っておらぬのだ。のう、バウマイスター辺境伯」


「それは光栄にございます(まだ終わらないのかな?)」


 これも、社畜の悲しい性。

 だがそれを口にするわけにいかず、俺は陛下の真意を懸命に探り続けていた。


「それにだ。もしバウマイスター辺境伯が余を害しようとしたとしても、わざわざ毒殺などという胡乱な手を使わぬはずだ。なぜなら魔法があるのだから」


「(これ、 どうやって返事したらいいんだろう?)はははっ、畏れ多くも臣が、陛下に対しそのような不遜なことを成そうとするわけがございせん」


「であろうな。そなたほど、野心から遠い人物もおらぬからな」


 さすがは一国の王と言うべきか。

 陛下は、俺の性格をよく理解していた。


「ゆえにだ……」


 ふと陛下の手元を見ると、彼は魔法の袋を持っていた。

 汎用だが、王様なので持っていても別に不思議ではない。

 だが、臣下との謁見の場で持っているのは不自然としか言いようがなかった。


「(陛下はなにを考えて? ああっ! そういうことか!)」


 陛下の持つ魔法の袋の中は、いわば陛下のプライベートと繋がっている。

 そこに、先ほど食べられなかった大人のお子様ランチを移せということか。

 多分そうだと思い、俺は陛下の魔法の袋の口と自分の魔法の袋の口を繋げ、持っていた大人のお子様ランチを移した。


「 バウマイスター辺境伯、ご苦労であったな」


 料理一つで満面の笑みを浮かべる陛下。

 王様ってのは色々と大変なんだなと思った瞬間であった。





「たまにしか王城に呼ばれないけど、食事が自前ってのは面倒臭いなぁ。王国もケチですよね」


「誰にまで出すのか、を決めるのが面倒ですし、ずっと出し続ければ結構な予算規模になりますからね。ルックナー財務卿がいい顔をしませんよ」


「しかも外食できないし」


「王城と接している上級貴族街には飲食店なんてありませんからね。 食事に出かけるだけで時間がかかってしまうので、お弁当が基本なんですよ。王城に勤める使用人とメイド、兵士たちは、交代制で夜勤もあるので食事は支給されますけど。貴族はお金を使えということです」



 陛下に大人のお子様ランチを提供してから半月後。

 ブライヒレーダー辺境伯と共に仕事で王城に呼ばれたのだが、やはり昼食は自分で用意する決まりなのは同じだ。

 ただ、今日は大人のお子様ランチではなかった。

 あれは無事、バウマイスター辺境伯家の伝統料理として認められたし、作るのに手間がかかるからな。

 そこで、よく似ている『トルコライス』を調理人に作ってもらい、これを魔法の袋に入れておいた。

 猪肉の大判カツデミグラスソースかけ、ナポリタン、ドライカレーで構成された、長崎由来の美味しいものしか盛られていない、素晴らしい料理だ。

 本当はピラフを用いるらしいが、俺がこの世界にもカレーを普及させたので、ピリッと辛めのドライカレーに変更している。

 エリー経由で安全に生で食べられるキャベツの千切り、カットトマトも添えてあるのは基本だな。

 昔は生野菜なんてそんなに好きではなかったが、今は添えられているとちょっと嬉しい。

 俺の中身が年を取った証拠であろう。


「おや、とても美味しそうですね」


 ブライヒレーダー辺境伯は、俺が魔法の袋から取り出したトルコライスを食べていると、羨ましそうに声をかけてきた。

 彼はパンに肉を挟んだサンドウィッチモドキを食べており……というか、貴族のお弁当はレパートリーがなさすぎだろう。

 最近、アキラのフジバヤシ乾物店が、バウルブルクと魔の森近くの冒険者村でオニギリとオニギリ弁当を販売しており、 間違いなく冒険者のお弁当の方がレパートリーは豊富なはずだ。


「新しいメニューで私がお腹を壊すと調理人の責任問題になるので、ずっとメニューが固定化してしまうんですよね。今日は王都のお屋敷に戻ってから、ちゃんとしたものを食べますよ」


「なるほど」


 王族や貴族に新しい料理を出してお腹を壊してしまった場合、調理人の責任ということになってしまうのか。

 それなら、新しい料理がなかなか出てこなくても仕方がないのかもしれない。

 俺の場合、調理場に冷蔵庫と冷凍庫が完備されており、必ず石鹸を支給して調理前にしっかりと手を洗わせ、調理人たちに蒸留酒から作ったアルコールを支給して消毒を徹底したり、液状の食器洗い洗剤を導入している。

 なので、今のところは屋敷の調理場から食中毒は出たことはなかった。

 油断はしないよう、調理人たちには徹底しているけど。

 だから、俺のリクエストにもすぐに応えてくれたし、おかげで色々な料理が食べられるというわけだ。


「たまにだからいいかなと思いますけど、やっぱり飽きるものは飽きますから。そうですか……。そこまで衛生管理が徹底しているのでしたら、安心して食べられるでしょうね……」


 ブライヒレーダー辺境伯の食事の手が止まり、俺に懇願するような視線を向けてきた。


「あの……。まだあるんで食べますか?」


「いやあ、催促したようで悪いですね」


 実質催促されたようなものだと思うが、たかが料理なので、予備のプレートを魔法の袋から取り出してブライヒレーダー辺境伯に差し出した。


「美味しそうな料理が沢山盛ってあって、ワクワクしますね。カツはサクサク、ドライカレーはピリ辛で、このパスタもいいですね。途中で生野菜を食べると味がリセットされて、実に素晴らしい」


 ブライヒレーダー辺境伯は、トルコライスを美味しそうに食べていた。

 昼食が終わり、午後の仕事を終えてバウルブルクの屋敷に戻ろうとした時、俺は再び陛下から呼び出されてしまった。

 だが、さすがに二回目なので俺も学習する。

 陛下の回りくどい話を聞いていると時間が惜しいので、魔法の袋に入っていたトルコライスを陛下の魔法の袋に移すと、今日の謁見の時間はとても短かった。


「(要するに、『それ美味しそうだからくれ!』なんだな)」


 王様という仕事は、なかなか本音も言えなくて大変なようだ。

 以後も、月に二~三回大した用事でもないのに呼ばれることが多かったが、その時には俺が再現した料理やデザートを陛下に提供すれば、王城内で無駄な時間を過ごさなくても済むことが判明した。


「バウマイスター辺境伯家のためです。お館様は、陛下からの呼び出しには必ず応じていただかなければ」


「わかっているさ」


 ここが陛下の上手いところなんだが、俺が王城に呼ばれた際には、なにか美味しいものを密かに献上すれば、あとは王都で遊んでいても問題なかった点だ。

 ローデリヒもこの真相には気がつかず、俺は休みが増えて万々歳であった。

 万々歳であったのだが……。




『ヴェンデリン、噂によると父に色々と美味しいものを献上していると聞くが、それはどのようなものなのか、実に興味あるな。今度、そなたにガトル大陸での仕事を頼みたいのだが……』


「はあ……」


 間違いなく、必ず俺がしなければならない類の仕事ではないだろう。

 だが、大人のお子様ランチを献上すれば、あとは遊んでいられるかもしれない。

 俺は、ヴァルド殿下に渡す大人のお子様ランチを用意するのであった。

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