第307話 世界が違っても、同じような料理を考える人がいる
「待たせたな。バウマイスター伯爵。そして、やはりいたのか……ヴィルマ嬢よ」
「今日は大盛を超え、特盛りだと聞いている。これに参加しない私は私じゃない」
「なるほど……納得なのである」
「せっかくのヴェンデリンさんとの外出ですが、激しく場違いな気がしてきましたわ……」
麺料理のプロデュース業に専念しすぎた結果、俺はしばらく、ローデリヒから領内の土木工事のみに従事させられてしまった。
そして俺が工事計画を早めれば早めるほど、ローデリヒは計画を前倒ししてしまう。
ひょっとすると、奴にはブラック経営者の気質が……いや、彼は一般作業者への労務管理は完璧なんだよな。
つまり、ブラック待遇で扱き使われているのは俺だけ。
あとは自分のみという、セルフブラック労働ぶりを発揮していた。
俺が忙しいのは、貴族としての義務ノブレス・オブリージュで、ローデリヒは自分が大きな権限を持っているからか。
ローデリヒは俺よりも忙しいから、文句を言えないで困ってしまう。
せっかく二人目の子供が産まれるのだから、もう少し休んでもいいと思うけど……。
過労死しないようにしてくれと願うが、バウマイスター伯爵領誕生直後はともかくローデリヒは睡眠時間は必ず取っていると聞くから過労死はないのか?
ようやくお休みが貰えたので、俺は先日なんちゃってコンサルティング業を行った王都の麺料理地区へと向かった。
この地区に多くの麺料理店をオープンさせ、ラーメン博物館のようにしてしまう計画を立てたのだ。
俺の計画なので多少粗はあったが、まったく新しい商売を初めて行う利点というのは凄いと思う。
地区には、オープン当初から多くの客が集まった。
近隣で働く労働者たちが昼食を食べに来たり、お休みには家族連れが食事に来るようになったのだ。
麺料理のみならず、喫茶スペース、テイクアウト可能な軽食、デザート、乾麺や瓶入りのパスタソース、麺つゆなども販売され、これはお土産や簡単な贈り物としても人気が出た。
予想以上の盛況ぶりに、アルテリオとリネンハイムは同様の地区を王都の他の場所にも作ろうと、今物件を探しているそうだ。
これは、リネンハイムの息子であるゴッチからの情報である。
まあ、そちらは二人に任せるとして、今日は新しい麺料理の店に試食に行くのが目的だ。
オープン前に、関係者などに試食を行うので顔を出してほしいとローザさんに頼まれ……ベッティの兄にも頼まれたけど、彼はオマケみたいなものだな。
ただとても量が多い麺料理だそうで、メンバーは大食いに自信があるヴィルマと、導師とも待ち合わせた。
この二人なら、多少の大盛でも必ず完食するはずだ。
『ヴェンデリンさんは、最近私を蔑ろにしていませんか?』
『今日の料理は、ダイエットに励むカタリーナには不向きかと……』
『ご安心を。あくまでも試食なので、量は抑えますから』
そして今日は、カタリーナも同行することになった。
メニューの内容を考えると、参加しない方がいいかも……。
ただ、俺がそう思ってもカタリーナ本人が同行を希望し、最近夫婦としてのスキンシップが足りないからと言われてしまうと、夫としては断れない。
カナタリーナも、ダイエットより夫婦で仲良く出かける方を優先したのであろう。
いや、もしかしたらこれはチートデーなのか?
カタリーナの場合、チートデーの日数が多い疑惑があるけど。
ただ、もし彼女がダイエットをしたければ、大量の魔力を使う土木工事に従事すれば少なくとも太らない。
俺の代わりに……カタリーナには、沢山食べてもらわないと。
「バウマイスター伯爵、そのお店はどこなのであるか?」
「ええと……地図によればこの辺ですね」
場所は、例の老舗フォン屋からさほど離れていない。
以前は小さなレストランだったそうだが、店主が急逝してお店は閉店していた。
そこに、元冒険者である息子が入って跡を継いだと聞いている。
オープンが遅れたのは、メニュー開発に時間をかけたからだそうだ。
なんとなく親の店を継ぐだけでは不安なので、ちゃんとメニュー開発を行った点は評価できる。
「元冒険者なのか。よくあるパターンではあるな」
「そうなのですか? 導師様」
「うむ。『冒険者の商法』とかよく言われるのである!」
『武士の商法』によく似ているな。
この世界では、冒険者に当てはまるらしい。
冒険者は危険だが実入りは多いから、引退後にその資金を使って第二の人生として商売を始める者が多い。
ところが冒険者とは勝手が違うから、失敗する確率が非常に高かった。
アルテリオみたいな人は、なかなかいないわけだ。
「実は冒険者の商法という言葉、裏の意味があるのである!」
「裏の意味ですか?」
「ふむ、世の中には暇人がおり、冒険者と冒険者以外が始めた商売の成功率を調べたのである!」
「実は、そんなに違わなかったとか?」
「然り、ヴィルマ嬢が正解であるな!」
冒険者の方が、畑違いだから商売が失敗しやすいイメージなんだろうな。
冒険者以外の人が商売に失敗してもあまり印象に残らないが、冒険者が商売に失敗すると、『ほれ見たことか!』と言い出す人が多いわけだ。
「導師様、つまり裏の意味とは?」
「簡単なことである! なにをやっても上手く行く者はいくし、駄目な者はなにをしても駄目という意味である!」
「ぶっちゃけましたね」
「身も蓋もありませんわね」
俺もカタリーナも、正直酷いと思った。
「バウマイスター伯爵様ぁーーー!」
そんな話をしながら歩いていると、俺たちは突然声をかけられた。
「こっちよぉーーー」
野太い声の方に視線を向けると、非常に印象的で、見慣れたというよりも一度見ると忘れられない人が乙女のように手を振っていた。
なんとその人物は、見た目はマッチョ、中身は乙女のキャンディーさんであった。
今日もフリフリがついたシャツに、なぜかエプロンもつけていた。
エプロンの色はピンクで、中心部分にウサギの刺繍が入っている。
どうやら、キャンディーさん手作りのようだ。
「あれ? キャンディーさんも招待されたのですか?」
「ええ、このお店の店主って、私が最後に冒険者として色々と教えたのよ。今日はちょっとお手伝いもね。あら、ロンちゃんじゃないの」
「「「ロンちゃん?」」」
俺やヴィルマやカタリーナがロンちゃんのわけないので、となるとあとは導師だけか。
導師も昔は凄腕の冒険者だったから、キャンディーさんと知り合いでもおかしくはないんだよな。
年齢的にいえば、キャンディーさんの方が十年以上ベテランのはず。
「アームストロングだからロンちゃんよ。私がつけたあだ名なの。ロンちゃんは若いのに実力がある魔法使いだったけど、お坊ちゃん育ちで、社会常識に疎い部分もあってね。私が少しだけ指導したの」
「……お久しぶりなのである……」
「やだぁ! ロンちゃんったら珍しく真面目ね。それにしても、ロンちゃんも大人しくなったものね」
「某は、昔から大人しいのである……」
今の導師でも昔に比べれば大人しくなったのだという事実を聞き、俺たちは目を丸くさせた。
彼の若い頃って、一体どれほど元気だったのであろうか?
そしてどういうわけか、キャンディーさんに出会ってからの導師は、まるで借りてきた猫の子のように大人しかった。
若い頃の凶状を知られているので、キャンディーさんに苦手意識を感じているようだ。
でも、それだけで導師が大人しくなるかな?
「(導師にも、苦手な人なんていたんだな)」
「(ちょっと意外)」
「(意外でしたわ)」
「(でも)」
「(好都合だ)」
「(いい情報を得られましたわね、ヴェンデリンさん)」
導師の苦手な人が判明しただけで、今日はこのお店に来てよかったと思う。
ヴィルマとカタリーナも同じ考えのようで、三人で目を合せると、思わずにんまりと笑ってしまった。
「キャンディーさん、導師が若い頃の話を聞きたいです」
「そうねぇ……ロンちゃんが初めて冒険者ギルドに姿を見せた時、体は大きいけど、可愛らしい坊やでね。あの頃は寝る時に熊のヌイグルミがないと……「店主殿は、まだ若いのであるか?」」
「熊のヌイグルミですか?」
「空耳である!」
どうやら、俺たちには知られたくない過去があるようだ。
導師は強引に、キャンディーさんの話に割って入った。
「そうね。本当は、もう少し冒険者を続ける予定だったの。でも、お父様が急に亡くなられてね。元々料理は上手で、パーティの料理番も進んでする子だったのよ。この地区はお客さんも増えたでしょう? そこで新メニューを開発して殴り込みをかけたってわけ」
殴り込みという言い方だけで、店の性格がよくわかるよな。
キャンディーさんが教えた冒険者というだけでも、イメージ的に強そうな感じがする。
「うっす! バウマイスター伯爵様」
お店からその元冒険者の店主が顔を出すが、彼は俺のイメージどおりの人であった。
身長は二メートル近いと思う。
小太りだが、力士体形で筋肉の量も多く、完全なパワーファイターだったようだ。
「うっす! 自分はダットマンって言うっす!」
そして、喋り方が典型的な体育会系だ。
後輩が先輩に話しかけているみたいだな。
「それで、どんな麺料理を?」
「それは実際に試食してもらった方がいいわね」
キャンディーさんに促され、俺たちはお店へと入って行く。
すると……。
「へいらっしゃい!」
「らっしゃい!」
「ヴェンデリンさん?」
ダットマンと似たような体型をした二名の店員が、老人なら心臓が止まりそうな声で挨拶をしてきた。
ビックリしたカタリーナが、俺にしがみついてくる。
確かに女性はビビるかも。
「威勢がいいな」
「自分と同じく、元冒険者っす! ここで修行させて、将来はのれん分けをさせてあげたいっす!」
ダットマンは見た目どおりの体育会系であると共に、後輩たちの面倒見もいいようだ。
体が大きい冒険者ってのは、引退後に意外と潰しが効かない。
力仕事がメインになってしまい、下手をするとマフィアの構成員とかになってしまうケースも多かった。
ダットマンは彼らに新しい麺料理の修行をさせ、のれん分けして第二の人生を歩ませたいようだ。
キャンディーさんが力を貸しているのは、彼の考えに賛同したからであろう。
「みんなが、私みたいにお裁縫で生きていけないものね。飲食店ならいいかもしれないと思ったのよ」
「悪くない考えですね」
「問題は、その麺料理の味」
「あら、ヴィルマちゃんは厳しいわね」
ヴィルマの言うとおりだ。
いくら考えが素晴らしくても、料理の味が悪いと客が来ないからな。
「私は大丈夫だと思うのよ。だから、ロンちゃんたちも試食してバシバシ意見を言ってね」
「わかったのである……」
「ロンちゃん、今日は本当に大人しいわね。昔は酒飲みの冒険者仲間たちと一緒に酒場の酒の在庫を飲み干したり、喧嘩で百名以上の冒険者を一人で叩きのめしたりしてたじゃないの。私が一緒に謝りに行ってあげて……」
「いや……それは昔のことで……」
予想の範囲内というか、導師は若い頃は無茶苦茶やっていたんだな。
そしてその頃の導師をよく知り、後始末もしてくれた生き証人キャンディーさんか……。
自分の過去の悪行をよく知っている彼女に対し、導師が苦手意識を持っても当然か。
「それで、新しい麺料理なのであるが……」
これ以上、俺たちの前で過去の悪行を曝されることを嫌がった導師は、再び自分で話題を切り替えた。
新しい麺料理について聞いてくる。
「ほら、バウマイスター伯爵様が考案した『らーめん』ってあるじゃない。それの改良ね」
「汁がある麺料理ってことですか?」
「そうよ。私も料理は得意な方だから、ちょっとだけアドバイスしたの」
確かにお店の奥の調理場を見ると、巨大な寸胴が火にかかっている。
スープの匂いは豚骨系で臭みもなく、よく仕上がっているようだ。
「ダットマンちゃん、いい腕しているでしょう? 私が教えていた頃は、よく食事当番をしてくれたのよ」
「なるほど、さすがは料理店の息子」
「昔、『俺は料理人になんてならない! 冒険者になるんだ!』ってお父様に反抗し、このお店を飛び出して冒険者になったそうよ。でも、お父様が急死されたら、やっぱり自分は料理人になるって」
「キャンディーさんにはよくしてもらったし、冒険者の仕事も好きだったんすが、やっぱり自分は料理が一番好きなんだって気がついたっす! 親父はもういないけど、このお店が成功すれば、天国で喜ぶはずっす!」
「いいお話ですわね」
亡くなった父親の跡を継ぎ、料理店を経営する。
カタリーナは自分と同じく親の意志を継いだダットマンの話を聞き、一人しんみりと感動していた。
「でも、問題は味」
「ヴィルマさん、そこで急に冷静にならないでくださいまし。きっと、素晴らしい麺料理ですわ。これは必ず完食いたしませんと」
感動秘話を聞いてしまったカタリーナは、試食で新しい麺料理を完食すると宣言した。
俺は量が多いと聞いていたので、ちょっと嫌な予感がしてくる。
「ダイエットは?」
「夕食を抜けばいいのですわ」
「まあ、そこまでカタリーナが言うのなら……」
「お待たせっす!」
そしてダットマンと店員二人が、俺たちの前に完成した麺料理を目の前に置いてくれた。
「カタリーナ、大丈夫か?」
「勿論ですわ……」
とは言っているが、カタリーナの顔は引きつっている。
なぜなら、俺たちの目の前に洗面器のような器が置かれたからだ。
「美味しそう」
「確かに」
ヴィルマと導師は、量の多さだけで気に入ったようだ。
そのラーメンはうどんのように太い麺で、これは伸びないように加水率をあげてあるようだ。
これが三人前くらい入っており、スープも醤油トンコツベースのものがなみなみと注がれている。
そしてその上には、山のように盛られた茹でた野菜と、分厚い猪肉のチャーシューも入っていた。
俺は、このラーメンに見覚えがあった。
前世で一部マニアたちに人気があった、あの爆食系ラーメンに非常に酷似していたのだ。
「お好みで、卓上の刻みニンニクを入れてくださいっす! 沢山入れても、全然問題ないっす!」
地球のお店では麺の量と野菜の量を自由に調整できたが、まだ試作段階だからなのか? ちょっとシステムに違いがあるみたいだ。
「駄目っすか?」
「いや、そんなことはないさ」
ダットマンが不安そうな顔をするので、俺たちは早速試食を開始する。
すると、味は悪くないどころかとても美味しいと思う。
問題はこの量なので、美味しいという感覚がいつまで続くかだな。
「ヴェル様、茹でた野菜にスープをつけられない」
「ああ、これは……」
俺は素早く天地返しを行って、スープに浸った麺と、浸っていない野菜の位置を交換した。
「ヴェル様、凄い」
「こうすると、麺が伸びなくなり、野菜がスープに浸って美味しくなるんだ」
どうして俺が詳しいかって?
実はある期間、この爆食系ラーメンを定期的に食べていたからだ。
この世界の飛ばされる一年ほど前、俺はある新入社員の指導を行うことになった。
彼はとある中堅大学のラグビー部出身で、大した先輩でもない俺を立ててくれるいい奴だった。
体育会系だから、先輩を敬ってくれたんだな。
研修名目で彼をお得意先回りにつき合わせ、さてお昼になにを食べるかという話になった時。
『自分、お勧めのお店があるっす』
彼にその爆食系ラーメンのお店に案内され、俺も爆食系ラーメンにハマってしまったわけだ。
ところがその報いとして、なんと体重が二ヵ月で七キロも増えるという悲劇に見舞われてしまった。
俺は慌ててダイエットをして体重を元に戻し、好きになっていた爆食系ラーメンを食べる頻度を減らした。
でも、たまに無性に食べたくなるんだよなぁ。
この世界に転生してからは諦めていたけど、まさかこの世界でも出会えるとは。
「あの……ヴェンデリンさん……」
「やってあげるよ」
「ありがとうございます!」
「えっ? そこまで感謝されることか?」
俺がカタリーナの分のラーメンに天地返しを行うと、もの凄い勢いで感謝された。
別に宣言どおり完食しなくてもいいと思うのだが、どうせカタリーナのことだ。
貴族が、一度決めたことを実行しないのはよくないと思っているのかもしれない。
「店主、この量だと利益率は低くないか?」
「そこは薄利多売で頑張るっす! 自分も新人冒険者の頃は食べるのにも苦労したっす! だから、お客さんには沢山食べてほしいっす!」
見た目とは違い、随分といい人みたいだ。
そして俺は、このお店は必ず成功するであろうと思った。
「ふう……なんとか食べきったが、お腹いっぱいだな」
体は違うが、前世で大ラーメンを完食したこともあるし、魔法使いは大食いになりやすいからな。
俺は無事に、出されたラーメンを完食した。
「まだ全然足りない。お代わり」
「某も!」
ヴィルマと導師なら、このくらいの量はなんでもない。
ダットマンに空いた器を見せてお代わりを要求した。
いや、あの……あくまでも試食なんですけど……。
「いやーーー、噂には聞いてたけど凄いっすね。試食は大量に用意してあるのでどうぞ」
「やったのである! 沢山食べるのである!」
「ロンちゃん、宣伝のためにあとで試食に来る人たちが沢山いるから、ちょっと遠慮してね」
「はい、なのである……」
だが、導師の暴走はキャンディーさんによって未然に防がれた。
再び導師は、借りてきた猫のように大人しくなってしまう。
「カタリーナ、無理するなよ」
「バウマイスター伯爵様の言うとおりっすよ」
なんとか三分の二ほどを食べる事に成功したカタリーナであったが、そこで箸が止まってしまった。
女性でここまで食べられた時点で、俺は凄いと思う。
ダットマンも、無理をするなとカタリーナに配慮してくれた。
「俺が改善点をあげるとすれば、女性や子供用に量が半分くらいのメニューを用意するくらいかな?」
「なるほど、みんながこれを完食できるはずがないから必要っすね」
「逆に、追加料金を取って量を増やすっていう手もあるけど」
「バウマイスター伯爵様をお呼びしてよかったわ。ちゃんとした改善点が出るから。ロンちゃんは、ちょっと駄目ね」
「すまないのである……」
本当に導師は、キャンディーさんが苦手なようだ。
俺たちは、こんなに大人しい彼を見たことがない。
「私は貴族ですわ……貴族が一度宣言したことを実行しないわけには……」
そしてカタリーナは、気合を入れ直してどうにか出されたラーメンを完食することに成功した。
「やりましたわ! ヴェンデリンさん」
「おっおう……」
人間とは、たとえそれがどんなことでも、困難な挑戦に成功すると嬉しい生き物らしい。
カタリーナが、ただラーメンを完食したというだけで異常に喜んでいる。
だがな、カタリーナ。
俺も経験があるのだが、この種のラーメンは食べたあとに、ある種の後悔が襲い掛かってくる可能性があるのだ。
「バウマイスター伯爵様、カタリーナちゃん、ヴィルマちゃん、ロンちゃんもまた来てね」
こうして、無事に試食会は終了したのであるが……。
「カタリーナ、なんか臭くない?」
「あと、お腹が少し出ているような……」
「いやぁーーー!」
「そんな予感はした」
屋敷に戻ったカタリーナは、イーナからニンニク臭いと指摘され、ルイーゼからはお腹が出ていると言われて一人絶叫する羽目になる。
「ヴィルマは大丈夫だな」
「臭いはミントで消せる。あと、私はいくら食べてもお腹が出ない」
「それは凄いな」
一方、そのラーメンをお代わりまでしたヴィルマにはなんの変化もなかった。
「理不尽ですわ!」
「カタリーナ、お腹ポンポン」
「それを言わないでくださいまし!」
ヴィルマから出っ張ったお腹を指摘され、カタリーナが大きな悲鳴をあげた。
貴族にあるまじき失態だと思っているのであろう。
「ヴェル様、またあのお店に行きたい」
「たまにはいいよなぁ。ああいうお店も。今度はもう少し量を減らすけど」
「あの……ヴェンデリンさん」
「どうした? カタリーナ」
「たまにでしたら、私もあのお店に一緒に行ってもよろしいですわよ……」
「たまにならいいかもね」
そしてもう一つ、食べ終わった直後にはもう二度と食べたくないのに、しばらくするとまた食べたくなる。
カタリーナも、その呪縛から逃れられなかったようだ。
「量が多いのに対処するには、事前に魔力を大量に消費すればいいのですから」
これ以降、俺はたまにカタリーナをあのお店に連れて行くようになった。
当然ダイエットにはよくないので、お店に行く前に、彼女は魔力を大量に使うのが日課となったのであった。
「伯爵様、あの店はえらく繁昌しているのですが、客層がかなり偏っているような……」
「繁昌しているから問題ないと思うよ。リピーターも多いみたいだし」
「みたいですな……」
ダットマンの爆食系ラーメン店は無事にオープンを迎え、開店初日から多くの客で賑わった。
だが、アルテリオの言うとおり、その客層はえらく偏っている。
ガタイのいい若い男性と冒険者が、多数押しかけるお店になったのだ。
「(まあ、どの世界でもこういうお店の客層は偏るよね……)」
ダットマンのお店は大人気となり、のれん分けによって元冒険者が店主を務める支店が次々とオープンすることとなる。
彼は引退した冒険者たちの第二の人生を安定化させた功労者として尊敬を集めることになるが、それはまだもう少し先のことであった。
「ロンちゃんが新人冒険者の頃、寝る時に使っていた熊のヌイグルミって、ちゃんと名前がついていたのよ」
「伯父様が、意外でした」
「初恋の女性の名前からつけたんですって。意外とロマンチックなのよ。ロンちゃん」
「もう勘弁してほしいのである……」
導師唯一の弱点であることが判明したキャンディーさんは、エリーゼが服を買いに来た時、彼女にせがまれると導師の昔話を始め、それを聞いた導師は、萎れた菜っ葉にように大人しくなってしまうのであった。
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