第285話 髪は長い友達(その1)

「バウマイスター伯爵、『髪神(カミカミ)』が貴殿の領地で出現したようですぞ」


「えっ? カミカミですか?」


「そうです。髪神(カミカミ)です」





 今日は冒険者予備校の講師業が休みなので、俺はローデリヒからもらった報告書を屋敷で読んでいた。

 広大なバウマイスター伯爵領の政務すべてを見れるはずはないが、領主として徐々に全体を把握していかなければならない。

 今はエリーゼたちも産休中なので、こういう仕事を覚えるのにちょうどよかった。

 商社マン時代の経験も、まったく無駄だったわけではないようだ。

 書類を読むと大凡の把握はできたし、領内の開発は予定よりも順調に進んという風に書類から推察できた。

 領内の大まかな様子を俺が確認し終わったところで、不意の来客が姿を見せる。

 その客はエーレンフリート伯爵だと名乗り、それに相応しい服装と立ち振る舞いを見せていた。

 年齢は四十前後であろう、法衣貴族にして農務閥の大貴族だそうだ。

 俺は相変わらず貴族の名前が覚えられないけど、エリーゼとローデリヒが教えてくれた。

 それでなんの用事かと思ったら……農務閥だから農業関係しかないと思っていたのだが……急に俺の知らない単語を口にしたのだ。


「すみません、俺は若造でいまいちよく知らないのですが、髪神(カミカミ)ってなんですか?」


「伝説上の生き物と言われておりますからな。バウマイスター伯爵殿が知らないのも無理はないですか……」


 エーレンフリート伯爵の説明によると、髪神(カミカミ)とは動物なのか、魔物なのかもわかっていない生き物なのだと言う。


「わからないのですか?」


「とても動きが素早いそうです。目にも留まらぬ速さで動くとか……」


 目にも留まらないので、その正確な姿は誰にもわからず、生息地も目撃例が魔物の領域だったり、普通の森や草原だったりもするそうだ。


「一つ疑問なのですが、正体もわからない生き物が、なぜ目撃されたとわかるのですか?」


「それはですね……」


 髪神(カミカミ)には、ある大きな特徴があるのだという。

 それは、逃げる際に不思議な液体をばら撒くのだそうだ。


「液体ですか? それを浴びると体が溶けるとか?」


「いいえ、違います。その液体を浴びると、髪が生えてくるのです」


「髪ですか……」


 そういえば、俺の前にいるエーレンフリート伯爵には髪がなかった。

 その年齢で毛根が一本もないと、男性としては色々と辛いものがあるのかもしれない。


「つまり、逃げる時に液体をばら撒き、それを浴びた人の髪が復活したと?」


「はい、たまたま髪が薄い冒険者だったそうです。その後は、死ぬまで髪がフサフサだったそうですが」


「それはもの凄い効果ですね……」


 前世でも、髪の薄さに悩む人は多かった。

 俺も上司のカツラに気がついてしまい、その人と話をする時には目線を髪の生え際に持っていかないように苦労したものだ。

 薄毛に効果があると、高い育毛剤に手を出す人も多い。

 科学万能な地球でも、これは絶対に効くという毛生え薬はついぞ生まれなかった。

 少なくとも、俺がこの世界に飛ばされるまではだが。

 この世界にも、怪しげな毛生え薬は存在している。

 効果があるような、ないような……。

 多少怪しい魔法薬でも、お金がある商人や貴族の中には大金を出して購入する人が多いのだ。

 騙されて、また新しい魔法薬に手を出し、また騙される。

 そんな人が多い。

 何度騙されても、いつか効果のある薬に出会えるかもしれないと希望に縋るわけだ。

 世界が変わっても、髪は男性にとって永遠のテーマであった。


「幸いにして、目撃ポイントは魔の森ではありません。そこで、バウマイスター伯爵殿にお願いが」


 エーレンフリート伯爵は、書状の束を俺に差し出した。

 そこに書かれている内容は、すべて俺への依頼であった。


「まさか、断りはしませんよね?」


 これは、俺への圧力であった。

 魔法を用いてなんとか髪神(カミカミ)を捕えるか、逃げる時に出す液体を確保してほしいと。

 そして、優先的に自分に売ってほしいとも書かれている。

 依頼書の主は、間違いなく全員髪が薄いのだと思われる。

 そしてこの依頼を断ると、俺は髪のない人たちから大いに恨まれるという寸法だ。

 恐るべきは、髪への執着心というやつである。


「成功するか、わかりませんよ……」


「それはわかっております。ですが、わずかな可能性に縋ってでも、我らは髪を取り戻したいのです!」

  

 エーレンフリート伯爵のあまりの迫力に、俺は断るという選択肢を選べなかった。

 俺も年を取って髪を失うと、こんなに必死になるのであろうか?





「髪神(カミカミ)ですか。伝説の生き物ですね。その効果ゆえに、多くの権力者たちが、その体液を求めたそうです」




 依頼を受けてしまったのは仕方がないので、先に情報を集めようとエリーゼに髪神(カミカミ)について聞いてみた。

 するとさすがはエリーゼ先生、髪神(カミカミ)のことを知っているようだ。


「髪神(カミカミ)の情報は、あまり平民には流すべからず、という不文律がありまして……」


 下手に平民に知れると、平民も失った髪を取り戻そうとして競争率が上がるかららしい。

 失った髪が元に戻る。

 夢のような効能が確実にあるとわかれば、それを入手するために競争が激しくなりそうだものな。

 成功した商人とか、いくらでも金を出しそうではある。

 平民に知られたくないってところが、『ちょっとセコいなぁ』と思うけど。

 

「髪神(カミカミ)を捕えたという記録は存在しません。体液を浴びたり、入手した人のみが、失った髪を取り戻せたそうです」

 

 つまり、量が限られている体液を入手するため、昔から熾烈な競争があるというわけか。

 

「正体も目視できないほど素早いので、一度にそんなに大量の液体は手に入らないそうです。それも、数百年に一度入手できれば御の字だそうで……」


 滅多に手に入らないし、手に入っても量が少ないので、その恩恵を受けられる人は少ないのか。

 

「ようするに、駄目元?」


「はい。当然大昔の魔法使いたちも髪神(カミカミ)の捕縛に挑戦していますが、成功者は一人もいません。少なくとも、成功したという資料は残っていません。体液を入手した方は、普通の人よりも多いそうですが……」


 つまり、失敗しても怒られないということだよな?

 失った髪を取り戻せるかもしれないと大物貴族たちが騒いでいるけど、入手できる可能性は少ない。

 それでも、そのわずかな可能性に賭けて、成功率が上がる魔法使いの俺に頼んだというわけか。


「努力はするよ。結果については、正直なところ責任を持てないよなぁ……」


「そうですね、それでいいと思います」


 エリーゼ先生がそう言うくらいなのだから、そうなのであろう。

 どうやら、同じ貴族なのだから仲間のために相応の努力をしろよ、ってことみたいだ。


「それで、その髪神(カミカミ)とやらはどこで目撃されたの?」


「それがさぁ……」


 イーナに髪神(カミカミ)の目撃地点について聞かれたが、そこは意外な場所であった。





「そんな生き物が、うちの領地の近くにいるかもしれないのかぁ」


「素早すぎて、目撃は困難らしいですけど……」




 髪神(カミカミ)が目撃されたとされるポイントは、パウル兄さんの領地と接する森の中であった。

 この森はちょうど真ん中に小さな川が流れており、その川がバウマイスター伯爵領との境目となっている。


 目撃されたのはバウマイスター伯爵領側の森であったが、もしかするとパウル兄さんの領地側にも出没するかもしれない。

 そこで俺は、パウル兄さんに森の中での移動許可をもらいに行ったのだ。

 俺とパウル兄さんの関係を考えると別に無許可でも構わないのだが、そこは親しき中にも礼儀ありというやつである。


「なんというか……雲を掴むような話だな……」


「駄目元でも、俺が依頼を受けないと圧力が凄くて……」


 この国は、偉い王様、王族、貴族が支配している。

 国を治める偉い立場にある方は年配の人が多く、そういう人で薄毛、ハゲ……じゃなくて髪がお亡くなりあそばされ、とても困っている人は多い。

 だから俺は駄目元でも、髪神(カミカミ)の探索に全力を傾けないといけないのだ。

 努力する姿勢が大切ってことだ。

 もしそれを拒否してしまうと、余計な恨みを買って俺の貴族生活に重大な支障が出るかもしれない。

 こんな依頼なのに、ローデリヒが俺たちを笑顔で俺を送り出したってことは、まあそういうことなのであろう。


「ふと疑問に思ったんだが、なぜ目視できないほど素早い生き物が目撃されたと報告が入るんだ?」


「ええと……風圧とか残像とかですかね?」


 その辺の詳しい事情は、俺にもわからない。 

 カマイタチみたいに、素早く動くともの凄い風圧があるのかもしれない。


「パウル兄さん、分け前は必要ですか?」


「うちの領内で獲れたら考えるよ」


 たとえ寄親と寄子の関係でも、その辺はキッチリとしないといけない。

 でもパウル兄さんは、髪神(カミカミ)の体液が取れる可能性を大分低く見積もっているのであろう。

 具体的な条件はあとでと言った。

 

「お館様、私も捜索に参加したいのですが」


 とそこに、元はパウル兄さんの警備隊の同僚で、今は従士長をしているオットマーさんが、髪神(カミカミ)の探索に参加したいと声をかけてきた。


「オットマーは、今日は休みだから別にいいけど……」


「ありがとうございます、やったーーー! 気合を入れていくぞーーー!」


 オットマーさんは、喜び勇んで森へと向かっていく。


「あの……パウル兄さん?」


「オットマーの奴、最近薄毛で悩んでいるんだよ……」


 どの時代でも、どの世界でも、髪が薄くなると悩むのはみんな同じようだ。

 無事にパウル兄さんから許可を貰ったので、すぐに髪神(カミカミ)の探索に取りかかるとしよう。





「つうか、本当にそんな生き物がいるのか?」




 俺が集めたいつもの面子と、パウル兄さんの領地からもオットマーさん以下数名が参加して髪神(カミカミ)探しが始まるが、エルは本当にそんな生き物が存在するのかと俺に疑問を投げかけた。


「いても、いなくても、ちゃんと探したという事実が必要だからな」


「つまりアリバイか?」


「そんな感じだな」


 探さないで彼らの怒りを買うと、色々と面倒になってしまう。

 だから見つからなくても、俺はベストを尽くす必要があるのだ。


「金かけているよなぁ……」


「それほどでもないさ」


 いるのかいないのかもわからない生き物の捜索とはいえ、ちゃんと探したというアリバイが必要だ。

 俺の家臣たちは忙しいので、人数を揃えるために、冒険者予備校の生徒たちをアルバイトとして雇った。

 日当を払い、森に分散して置いて監視をさせているのだ。


「必要経費ってやつですな」


「俺が驚いたのは、なぜアルテリオがいるかってことだけど」


 今回の探索には、バウマイスター伯爵家御用商人筆頭のアルテリオも参加していた。

 まさかの大物の登場に、エルは驚いているようだ。


「私も色々と調べたのですが、万が一にも髪神(カミカミ)の体液を入手してしまった時の対策ですよ。エルヴィン、もし見つかれば、貴族や王族が自分が手に入れようと血で血を洗う争いを始めるのだぞ。過去には殺傷沙汰もあったと記録に残っている」


「髪ごときでですか?」


「エルヴィン、それはお前の髪がフサフサだからだ。それがない人からすれば、ライバルを物理的に消去してでも入手したいと思うだろうからな」


 そんな話を聞かされると、とんでもない依頼を受けてしまったなと思ってしまう。

 こちらに圧力をかけられる人たちからの依頼なので、断れなかったのだけど……。


「エルヴィンは、アレを見ても同じことが言えるか?」


「みんな! 気合を入れて探すんだ!」


「「「「はいっ!」」」」


 アルテリオが顎で指し示した場所では、鬼気迫る勢いで髪神(カミカミ)を探すオットマーさん一行の姿があった。

 心なしか、彼の下で捜索に参加している人たちの髪の量が少ない……まったくない人もいるな。

 もし体液を確保できれば、最優先で自分の髪を取り戻せると思っているのであろう。

 確かに、前に会った時と比べるとオットマーさんの髪は薄くなったような気が……。

 それだけ必死なのであろう。


「見ていて怖いですね……」


「男性の髪と、女性の美容関係の魔法薬には色々とな……そんなわけで、俺はここにいるのさ。現物の値段はあってないようなものなので、商人も必要でしょうというわけだ」


 大きな金が動くことは間違いないので、それに備えてアルテリオはここにいるのであろう。


「アルテリオも、髪神(カミカミ)の体液が欲しいのか?」


「いえ、私はハゲていませんので。生まれた娘にええ格好したいブランタークなら必要かもしれませんね」


 確かに、アルテリオさんの髪はフサフサだ。

 年齢のせいで多少白髪は混じっているけど、白髪でも最悪髪を染めればいいからな。


「俺も、髪には問題ねえよ」


 アルテリオと共に、ブランタークさんも今回の探索に参加していた。

 その理由は……。


「ブライヒレーダー辺境伯が必要とか?」


「それはないよ、伯爵様。ブライヒレーダー辺境伯家もほとんどハゲがいない家系だから。万が一伯爵様が髪神(カミカミ)体液を入手すると問題が起こりそうだから、そのために俺が派遣されたってわけだ」


 髪神(カミカミ)体液を手に入れるために、ブライヒレーダー辺境伯家経由で色々と工作される可能性もあり、できれば入手してほしくないのがブライヒレーダー辺境伯の本音だそうだ。


「あくまでも万が一に備えてだよ。髪神(カミカミ)は数十年に一度目撃例があるが、入手できるのは十回に一度くらい。本当に幻の体液なんだよ。俺も一度だけ探索に参加したことがあってな。当時はペーペーの魔法使いだったし、俺はその影すら拝めなかったけど」


 ブランタークさんも、若い頃に髪神(カミカミ)探索に参加したことがあるのか。

 ただ本当に参加しただけなので、どんな生き物かはわからないと言う。


「過去にも魔法使い大動員で捕まらなかったケースも多いそうだし、ぶっちゃけ運だよなぁ……気張らずにやろうぜ」


 ブランタークさんに、やる気は皆無であった。

 それよりも、早く家に帰りたいのかもしれない。


「まあ、導師は必要なのかもしれないけど……」


 今回の探索には、実は導師も参加していた。

 

「ブランターク殿、某のこの髪型は毎日剃っているのである。アームストロング家に髪が薄い者は少ないのである」


「それは知っているけどよ。関係のある貴族から頼まれたんじゃねえの?」


「頼まれなかったといえば嘘になるのであるが、確実に入手できる保証もないので、某からはなんとも言えないのである」


 同じ派閥の軍系貴族で髪が薄い人から頼まれたとか……導師は正確には軍系貴族ではないから、引き受ける義理もないのだけど。


「某が参加しても駄目だった、という風に納得する者もいるのである」


「わざわざすみません」


「構わないのである。男の魅力は髪だけではないのに、いい大人が大騒ぎしてみっともないのである!」


 俺もそう思わんでもないけど、それが平気で言えてしまう導師は凄いよな。

 これ以上話ばかりしていても無駄なので、俺達も髪神(カミカミ)の探索に加わる。

 

「先生、退屈です」


「それはわかるが、所定の位置から動かないように。日当が出ているんだから、真面目に仕事をしないといい冒険者になれないぞ」


 それで、髪神(カミカミ)をどうやって探すのかだが、特に効果のある素晴らしい方法が開発されているわけではない。

 アルバイトにきた生徒たちを髪神(カミカミ)が目撃された森の各地に配置し、どこに現れても急ぎ対応可能なようにするだけだ。

 とは言っても、かれこれ数時間、なにも見つからないでみんな飽きていた。

 とにかく所定の場所で監視を続けないといけないので、狩猟や採集も禁止となっており、正直なところ俺も退屈で仕方がない。


「エル、それっぽい反応はあるか?」


「いいや、髪神(カミカミ)とやらの反応がどんなものなのか知らないけど、それっぽい気配とか反応はない」


 それからさらに数時間が経過し、そろそろ夕暮れなので、今日の探索は一旦中止となった。

 今回の探索は、それを注視している大物貴族たちの意向を酌んで三日間行われる。

 今日はバウルブルクには戻らず、パウル兄さんの領地で全員が宿泊することとなった。


「ヴェル、毎度あり」


「……」


 数十名が宿泊し、飲み食いをする。

 いまだ開発中のバウマイスター準男爵領からすれば、無視できない儲けであった。

 そういえば、過去の地球であったゴールドラッシュの時、一番儲かったのは、彼ら鉱山夫を相手に商売をした人たちだとか……。

 それでも、必要経費だから仕方がない。


「食事と泊まる場所は用意してあるぞ」


 俺、エル、ブランタークさん、導師は、パウル兄さんの屋敷に泊まることになった。

 アルテリオは、髪神(カミカミ)の体液が見つかる可能性が低いと感じたようだ。

 部下を残して、バウルブルクに戻ってしまった。

 仕事が忙しいので、こんな場所で三日間も時間を潰せないのであろう。

 バウマイスター準男爵邸は新しく建てられたばかりであり、以前のバウマイスター騎士爵家のものとは大違いだ。

 バウマイスター伯爵邸ほどではないが、比較対象がアレなので恐ろしく豪華に感じてしまう。


「こんな豪華な屋敷、大丈夫ですか? パウル兄さん」


「いや……前のうちの実家と比べるなよ……外からの来客もあるし、長年維持する予定だから、ボロかったり狭かったりすると、あとで建て直しになってもっと金がかかるから」


 屋敷の中に通されると、メイド服を着た数名の若いメイドたちがテキパキと動いていた。

 

「パウル兄さん! メイドですね!」


 メイドがいるだなんて……。

 俺は、驚きを隠せない。


「メイドは領民の中から通いの人を数名雇っているだけだから。メイド服も貸与で使いまわしだよ」


「それにしても凄い!」


「まあ、気持ちはわかるけどな……」


 昔の実家では、メイドという名のお迎えが近い『冥途さん』が働いており、服装も普段着のままだった。

 家政婦というか、そこにも至っていないような状況だったのだから、これは大きな進歩であろう。


「食事にしようか」


 そして肝心の食事であるが、かなり豪華なメニューとなっていた。

 フルコースでメイドが配膳をしてくれるし、デザートに美味しいケーキがつく。

 俺は再び心配になってしまう。


「パウル兄さん、本当に大丈夫でしょうか?」


「ヴェルは寄親だから歓待しなきゃ駄目だし、費用の方も他の連中の宿泊費や食事代を貰っているから大丈夫だよ。それと、あまり心配しない方がいいぞ。親父が落ち込むから」


「えっ?」


 俺が父の方を向くと、テーブルの端で父がガックリと項垂れていた。


「ヴェルが心配して当然だよなぁ……子供の頃にはまともな食事を出していなかったし……ヴェルが獲ってきた食材がないと、おかずすら付かなかったこともあったし……いいんだ、俺は元駄目領主で……」


「父上! すみません!」


 俺は、ガックリと項垂れる父を宥めるのに、かなりの時間を費やしてしまうのであった。

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