第264話 結局、こういう解決方法になる(その2)
「ただいま」
「お館様、あの娘っ子の情報をもらってきました」
「ご苦労様です」
結局、カチヤの乱入で振り出しに戻ってしまった。
このままオイレンベルク卿が当主権限でカチヤを黙らせればいいと思うのだが、それをすると、あの暴走小娘のことなので独自に婿探しを始める可能性がある。
こういう混乱に付け入って利益を得ようと考える貴族は多いから、たとえ小娘一人でも注意が必要だと、ブライヒレーダー辺境伯が言う。
最悪、カチヤと彼女と組んだ貴族による当主押し込めが発生しかねない。
ファイトさんも、気が強い妹には弱い部分があるようだ。
そのまま押し切られてしまう可能性もあった。
『カチヤを納得させないと……』
と言って、ファイトさんはオイレンベルク卿と共に説得を続けている。
その間にブライヒレーダー辺境伯が、ブランタークさんに対しカチヤの情報を収集するように命じた。
そこで俺がブランタークさんを、『瞬間移動』で王都にある冒険者ギルド本部へと送ったのだ。
『ちょいとグレーゾーンだから、伯爵様は目を瞑ってくれるとありがたいな』
『わかりました』
トラブルを避けるため、冒険者ギルドは冒険者の個人情報の流出を避ける傾向にある。
特に稼ぐ冒険者ほどそれが顕著で、なぜなら稼ぐ冒険者の情報が洩れた結果、おかしなタカリや犯罪の被害に遭ったり、親族と金銭トラブルになるなんてケースもあるそうで……。
ネットの某掲示板のような話だが、実入りが減ってしまう冒険者ギルドが損失を恐れて対処する理由がよくわかるというか……。
『よう、オイラリー殿はいるか?』
ブランタークさんは冒険者ギルド本部の裏口から入り、対応した若い女性事務員にある人物の名を告げ、出てきた初老の男性と内緒話を始めた。
『……ああ、あの娘か……。あまり詳しい情報は出せないぞ、ブランターク』
『それがな……』
『はあ? そんなことになっているのか。あの娘にそういう頭を使う仕事は無理だぞ。しょうがない……冒険者に戻るように動いてくれるのなら……あと……』
『安心しな、オイラリー殿。情報源は秘匿するから』
『懲罰会議はゴメンだからな。あとで一杯奢れよ』
『それは任せてくれ』
オヤジ同士の話し合いののち、ブランタークさんは一枚の書類をもらった。
それを持って、俺たちはオイレンベルク騎士爵領に戻ったわけだ。
「それで、彼女はどうなのです?」
「まずいです」
ブランタークさんが貰って来た資料をブライヒレーダー辺境伯に見せると、彼は途端に顔を渋くさせた。
「かなり稼いでいますね……」
「資金有りか……」
カチヤが強気の理由がわかった。
彼女は冒険者として稼いでいて、結構な自己資金があるのだ。
「王都の冒険者予備校を卒業して、十五歳から四年間で一千万長者を超えていますか……」
なぜ、これほどの逸材がブライヒレーダー辺境伯の目に留まらなかったのかと言えば……。
寄子の娘なのだから、彼も知っていれば、ヴィルマのように手元に置こうとするよなぁ。
「登録名がカチヤのみですか……」
実家の情報を一切周囲に言わず、南部の田舎の出だとしか周囲に言っていない点にあった。
さらに彼女は女性なので家臣にはできず、貴族も詳しく自称平民の子であるカチヤのことを調べようとは思わない。
嫁に迎え入れるにしても、あの男勝りの口調と強さでは相手の方が敬遠してしまう。
たまに地方の零細貴族がその稼ぎを目当てに、偉そうな態度で『妾にしてやる』と言ってくることがあるが、カチヤなら蹴ってしまうだろう。
金のない零細貴族が、稼ぐ女性冒険者の金をあてにするという話は度々ある。
『お前も、栄光ある○○家の末席に加えてやる!』と、なぜか上から目線で言ってくるのだ。
たまに引っかかって酷い目に遭う女性冒険者がいて、実力がある女性冒険者ほど情報を共有していて相手にしないのだけど。
「どうして貴族だって言わなかったの?」
「『冒険者に出自なんて関係ねぇ! 稼げれば偉いんだ!』が口癖なんだと」
「正論だけど、面倒そうな人」
ヴィルマの感想に対し俺たちは全員で首を縦に振ったあと、続けて、一斉にカタリーナに視線を向けた。
「なぜ私を見るのです?」
俺たちに見られて、カタリーナは居心地が悪そうな表情を浮かべる。
どうやら彼女は、最初に俺たちと出会った時のトラブルを忘れてしまったようだ。
「初見が面倒な部分が一緒」
「さすがはヴィルマさん……容赦がありませんわね……」
今日も、ヴィルマの毒舌が冴えわたっていた。
カタリーナが顔を引き攣らせる。
「そういう性格だから、自分が主導権を握り、優秀な婿を受け入れてトンネルの経営を行うつもりなのでしょうか?」
「一千万セント以上の資金があるのでしょう? なら、強気になりますよ」
いつの世でも、どこの世でも、なによりも偉いのはスポンサー様である。
ブライヒレーダー辺境伯も、それは誰よりも理解していた。
「自己資金から必要経費を捻り出すのか」
「冒険者を続けて稼げば、追加の資金も出せるでしょうからね……ただ、それで上手くいったとしても……」
紐付きでないか、紐が細い優秀な婿を入れたとしても、ここで兄と妹との対立が発生する可能性があった。
カチヤが資金稼ぎのためにオイレンベルク騎士爵領を留守にする時間が長ければ長いほど、その婿と集めてきた人材が、ファイトさんや以前からの領民たちと対立する可能性があるのだ。
「オイレンベルク騎士爵領の方々は農業が好きだから残っているのに、みなさん開発で農地を奪われますからね」
やりたくもない仕事をやらされた挙句、余所者たちと次期領主の妹とその婿が上から命令してくるのだ。
暴発は必至だと、エリーゼは顔を強張らせる。
オイレンベルク騎士爵領は、昔のバウマイスター騎士爵領とは違うのだ。
その気になればすぐに領地を出て他の仕事を選べるというのに、そんな彼らから農業を奪うのは大変に危険であった。
「カチヤって、そんなに稼いでいるのですか。凄いですね」
「情報によると、バウマイスター伯爵様たちは例外としても、若手のホープという扱いか。『神速のカチヤ』と呼ばれているらしいな」
スピード重視で、魔物をサーベルで切り裂く。
魔法は不得意だが、魔力でスピードを上げるのが得意で、魔物の首筋などを狙って一気に斬り裂くらしい。
「そんなわけで、素材の状態がいいでの評判だと書いてあるな。得意な魔物はワイバーン。待ち伏せして、一気に首筋を切り裂く」
その方法は飛竜だと通用しないが、ワイバーンだとスピードを魔力で増したサーベル攻撃ならいけるかもしれない。
それだけの自己資金を持つカチヤなので、サーベルもいい物を使っているであろうからだ。
「それにしても、カチヤさんはどうやって婿を探すのでしょうか?」
カタリーナは、カチヤの直情的で場当たり的な行動に疑問だらけのようだ。
「冒険者としてのツテで?」
「冒険者として求められるものと、領地開発とインフラ維持に求められるものは違いましてよ」
確かに同じならば、とっくに婿を連れて来ているはずだ。
となるとカチヤは、どうにかして貴族側の人材を見繕わなければいけない。
知り合いにいるのかね?
「ローデリヒさんのような人を探す?」
「ルイーゼさん、ローデリヒさんのような人材はそう簡単に見つかりませんわよ」
「だよねぇ」
最初はなんとなく雇い入れたが、あれほどの逸材はそう簡単に見つからないのも事実だ。
「なにかツテがあるのでしょうか?」
ブライヒレーダー辺境伯も首を傾げていたが、やはりカチヤは独断専行型で行動力が過多のようだ。
このあと、俺たちの度肝を抜く方法で婿探しを宣言するのだから。
「貴族の諸君! オイレンベルク騎士爵領の情勢は知っているな! では、単刀直入に言う! あたいの婿になりたい者は、あたいと戦って勝てる者のみである!」
王都の中心部で、カチヤは多くの観衆たちを前に婿探しの条件を高らかに叫ぶ。
平民たちからは、大きな歓声があがった。
なにか面白いことが始まると思ったからだ。
「極秘裏に進めていたトンネルの件が……」
逆に、ブライヒレーダー辺境伯は顔面蒼白だ。
ややこしい政治と利権の話だから極秘裏に話を進めていたのに、カチヤがすべて喋ってしまったのだから。
これで、搦め手はすべて封じられたのだから当然であろう。
「あのカチヤさん。一見バカそうに見えて、実は色々と計算して動いていますか?」
カチヤがトンネルの件を世間に公表してしまったがために、トンネルを誰が管理するのかが平民たちに注目されることとなる。
貴族がよく使う、搦め手や裏技はすべて封じられてしまった。
すべて計算ずくでやっているのなら、実に大した手腕だと思うのだが……。
「ただ勢いで動いているだけだと思う。動物と同じ」
「ですよねぇ……」
ヴィルマの容赦ない毒舌に、ブライヒレーダー辺境伯は納得の表情を浮かべた。
「トンネルの管理なのに、カチヤさんに勝てないと駄目なの? おかしくない?」
「それが、おかしくないんですよ。イーナさん」
候補者を減らす目的があるのだそうだ。
家柄しか誇るところがなく、実家と共にオイレンベルク騎士爵家の乗っ取りを謀るようなバカたちを排除する狙いもあるらしい。
「用件に沿う人材を広範囲で探せば、それなりの数はいるものです」
「それもあるけど、あたいはこの通り気が強いからな。あたいを抑えつけるくらいの旦那が欲しいじゃないか」
発表を終えて戻ってきたカチヤが、婿を戦闘力で選ぶ理由を俺たちに向けて話した。
文武両道で、コネも持っている。
そんなリア充、本当に存在するのであろうか?
魔法しかない俺には、そんな天才の存在自体が理解できなかった。
「トンネルの管理を行える能力と、自分を超える強さねぇ……。少し贅沢ではありませんか?」
「この国は広いんだ。一人くらい、そういうのがいそうじゃないか」
ブライヒレーダー辺境伯に対し、自信満々な態度で答えるカチヤ。
気が強い自分を抑えられるという部分に、わかりやすくカチヤの好みの男性のタイプも混じっているような気が。
「(なんというか……強さが基準なんだな……)」
女だてらに実家を出て冒険者になるくらいなのだから、相当に気は強いのであろう。
あとは、基本的に他人と自分とを比べる時に、戦闘力で計る人なのかもしれない。
「(実は、戦闘ジャンキー?)」
「その条件だと、力自慢の『脳筋』しかこないと思うけどね」
ルイーゼが、脅すわけではないが、カチヤに忠告めいたことを言う。
「ですから、『貴族に告ぐ!』なんですよ」
トンネル管理の人員を揃えられるコネも持つという条件で、さり気なく同業者の冒険者は排除している。
いくらカチヤより強くても、トンネルの管理ができなければ意味がないからだ。
「商人の子弟は?」
「ルイーゼさん、カチヤさんは貴族の娘なのです。降嫁ならともかく、入婿が商人では駄目なのです」
ブライヒレーダー辺境伯は、ルイーゼに商人が駄目な理由を説明した。
「厳しい条件だなぁ……」
カチヤとしては、厳しい選考条件を貴族たちに強気で発表して先制し、トンネルの件で主導権を握りたいようだ。
「それだけのものだからな。あたいたちが主導権を握り続けるには、このくらいはしないと」
見栄でも、強気の態度を崩さない。
小身の貴族としては、これが唯一できる大物貴族たちへの対抗手段なのかもしれない。
「策があって結構だけど、カチヤ殿が勝負を行うコロシアムの予約は俺がしないと駄目なんだけどね……」
誰が管理するにしても、それが決まらないとせっかく開通したトンネルが使用できない。
結果、俺が王城に赴いて、使用するコロシアムの予約をする羽目になる。
陛下たちにも、詳しい事情を説明しないと駄目であろう。
「バウマイスター伯爵様、しばらく世話になるぜ」
気軽に頼んできたが、もう一つ。
カチヤの婿決め武芸大会が開かれるまで、彼女を王都バウマイスター伯爵邸で預かることになった。
婿決め武芸大会は王都で行われるし、カチヤの独断は父と兄との意見の対立を生んでおり、実家には泊まらないと宣言したからだ。
ブライヒレーダー辺境伯としても、現時点で彼女を預かる義理など存在しない。
「ブライヒレーダー辺境伯預かりはゴメンだな。なにか企まれると困るからな!」
「うちも、痛くもない腹を探られるのは嫌ですからねぇ……」
「で、うちが預かると」
女性冒険者が、一流になってここまで稼いでいるのだ。
誰よりも疑り深くなって当然かもしれない。
ただ、バウマイスター伯爵家がなにかを企む可能性も……ローデリヒもみんなも忙しいから、そんなことをしている暇はないか。
「(うちが一番安全なのがわかっているのか? 案外賢い?)」
「(野生動物の勘みたいなもの)」
またもヴィルマの毒舌が出たが、間違ってはいないだろうからなぁ……。
でも、彼女は決して頭は悪くないと思う。
俺は意外と知恵が回るカチヤに対し、あとで必ず文句を言ってやると心の中で決意するのであった。
「俺は王城に向かいます」
「大変だな、伯爵様」
「本当に、どうしてこうなるのかな?」
「いつもの悪運だろう」
「……」
俺は首を傾げながら、護衛役のエル、ブライヒレーダー辺境伯、ブランタークさんと共に王城へと向かう。
陛下との面会を希望すると、すぐに謁見の間へと通された。
カチヤの大胆な口上は、王城でも話題になっていたらしい。
陛下の横には、導師、ホーエンハイム枢機卿、ルックナー財務卿、エドガー軍務卿などのお歴々が全員揃っていた。
「バウマイスター伯爵よ、困ったじゃじゃ馬が現れたの」
陛下の言う『じゃじゃ馬』とは、言うまでもなくカチヤのことだ。
父と兄の意見に逆らい、できるかどうかもわからないトンネル管理に手を挙げ、そのパートナーとなる自分の婿を民衆の前で堂々と募集する。
その行動は素早く大胆で、一見無鉄砲にも見えるのだが、これまでろくに名前も知られていなかった零細貴族の戦い方としては間違っていない。
カチヤは、『世間からの目』というものを味方にしたのだ。
「おかげで、すべての搦め手を封じられたの」
「陛下も、王族の方々を婿として送り込む案をお考えになられたので?」
「その手を考えなくもなかったが、警備隊が費用負担ゼロで置ける方が重要じゃの。ブライヒレーダー辺境伯家との仲を勘繰られるのは、王国としては嫌なのでな」
「痛くなくても、腹を探られるのは嫌ですね」
ブライヒレーダー辺境伯も、陛下の意見に賛同する。
それが本心かは知らないが、共にそういう認識があるのは確認できた。
「というわけで、うちが管理しようかと思った矢先に、あのじゃじゃ馬が現れまして」
「しかもあのじゃじゃ馬、厳しい条件を出すものよの」
あの完璧超人募集要項には、俺も絶句した。
「王族に、そんな者はおらぬわ」
「代々武芸が駄目なブライヒレーダー辺境伯の一族に、あのじゃじゃ馬に勝てそうな男性はいませんよ」
「有象無象を排除するのが狙いであろうが、困った条件を並べ立ててくれる」
腕の立つ代理人を出すのも禁止とカチヤは宣言おり、それを聞いていた民衆は面白がって彼女を応援していた。
『あのアホ公爵と同じことをされても興ざめだからな』
『あの時は、バウマイスター伯爵様の魔法が凄かったけどな』
『頑張れよ、姉ちゃん』
民衆は、貴族なんて普段は威張り腐っているのだから、決闘で代理人を出すなんてセコいことを言わずに自分で戦えよと、カチヤの意見に賛同したわけだ。
以前に俺と決闘をしたのはいいが、色々と無様を曝したヘルター公爵の件で、代理人を出し難い空気が作られていた。
陛下からすると、それも頭が痛い原因のようだ。
カチヤに勝てそうな貴族の子弟で、コントロールが効きそうな者に覚えがないのであろう。
「実家のコントロールを受けつけないで、あのじゃじゃ馬に勝てる。そういうのは扱いが面倒かもしれぬからの」
元々、跡取りがカチヤに勝負など挑むはずがない。
予備の次男や、いらない三男以下ばかりが出るので、カチヤに勝てても彼女と組んで実家を利用するだけして反逆する可能性もあった。
それだけ優秀な人が、実家の言いなりになるなんて保証もないからな。
「そうなると、婿の実家とトラブルになり、トンネル周辺が騒がしくなる可能性もある。不安定要素は一つでも少ない方がいいのだから」
「ワシらからすれば、ブライヒレーダー辺境伯家か、他の貴族の紐付きの方が扱いが楽だからの」
ルックナー財務卿クラスになると、そんな小さな貴族家の興亡などどうでもいいのだ。
ただトンネルが安定して運用され、それが王国経済にとってプラスになればいいのだから。
彼らからすれば、カチヤは土壇場で現れた反逆者と同じなのだ。
「本人がやりたいと言うのであれば、任せればいいのである!」
「それで失敗したらどうするのだ?」
「ルックナー財務卿殿。その前に、貴族のモヤシ共の中に、そのじゃじゃ馬に勝てる者がいるのであるか? 某はそれだけが心配である!」
導師の意見は、ある意味一番辛辣だ。
カチヤに勝てる貴族の子弟はいない可能性が高いと言っているのだから。
「一人くらいはいるであろう。そこまで言うのであれば、導師が出ては如何かな?」
「元より資格もないが、某はああいうじゃじゃ馬は苦手なのである!」
「ワシも得意ではないよ」
導師ならカチヤに余裕で勝てるであろうが、彼が陛下の側を離れて在地貴族になるはずがない。
ルックナー財務卿とてそれはわかっていると思うが、半分嫌味で言ったのであろう。
「某は、普段はおしとやかな女性が好きなのである」
意外にも、導師の奥さんたちはそういう女性ばかりだ。
エリーゼもお気に入りの姪で、実は導師はそういう女性にモテるらしい。
人とは、自分と正反対の資質を持つ異性を求めるのかもしれない。
「その件に限っては、意見が一致したな」
ルックナー財務卿も、カチヤのような女性は苦手なようだ。
「ここで嘆いてばかりでも仕方あるまい。駄目元で、王族を何人か参加させてみるかの。勝てれば問題ないのだから」
「陛下、勝てるのでしょうか?」
「一応軍人で、剣の腕はなかなかというのが数名おる。これは一種の賭けじゃの」
その王族たちも軍人をしないと居場所がない立場で、それでもカチヤに勝てれば、王国からの支援が期待できるというわけか。
「貴族たちは、なにも言わなくても勝手に参加者が集まるであろう。ところでバウマイスター伯爵よ、そちらのトンネル開通の準備はできておるのかな?」
「はい、予定どおりに」
問題があるわけがない。
ローデリヒが計画を立て、俺が基礎工事で明日から扱き使われるのだから。
むしろ心配なのは、揉めている反対側の方だ。
トンネルは、両出入り口が開通しないと使えないのだから。
「トンネルの情報が公にされた以上、民たちもある程度は納得する結論を出さぬとな。一週間後、コロシアムで試合形式の婿選び戦を行う。余が準備をしておこう」
こうなっては、カチヤを倒せる強い貴族に期待するしかない。
陛下たちまでトンネルに関するゴタゴタに巻き込まれ、その準備に奔走することとなる。
今頃、オイレンベルク卿とファイトさんが顔面蒼白になっていないといいけど……。
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