第225話 師匠との死闘(前編)

「師匠! どうしてですか?」


「ヴェル、君はおかしなことを言うね。私の今の立場を考えればわかるだろうに」


「ですが!」


「これも運命だ。さあ、私と戦おうじゃないか」





 およそ十年ぶりに師匠と再会を果たしたというのに、俺は彼と戦うことを強いられた。

 会食の時に顔を合せたターラントという魔法使いは、『英霊召喚』という特殊な聖魔法を使い、すでに鬼籍に入っている過去の偉人や達人を呼び出せる。

 最初ターラントは、導師のご先祖様である初代アームストロング伯爵を召喚したが、これは術者との相性が悪く、すぐに別の人物に切り替えた。

 次に彼は、俺の師匠であるアルフレッド・レインフォードを召喚し、躊躇なく俺にと戦うと宣言したのだ。

 まさか、こんな理由で師匠と戦うことになるとは……。


「(本当に、本物の師匠なのか? 実は魔法による変装……しかし、導師のご先祖様は、導師と同じような攻撃を仕掛けてきた。あのターラントが、魔法格闘が得意なようには見えない。つまり、本当に導師のご先祖様を呼び寄せたことになる)」


 『英霊召喚』の仕組みがわからない以上、正確な答えは出せなかった。

 もしかすると、ターラントが師匠に変装しているだけ……その可能性は低いようだ。


「さて、どれほど上達したのか見てあげよう」


 師匠は、頭上にドッヂボール大の『氷弾』を数十個も浮かせると、それを矢継ぎ早に俺にぶつけてきた。

 一個一個の威力は低いが、絶え間なく襲いかかってくる『氷弾』を弾くのに、俺は忙しかった。

 

「くそっ!」


 『魔法障壁』で防ぐが、その中の一つに罠が潜んでいた。

 『氷弾』の貫通力にわざと強弱をつけ、一つだけが『魔法障壁』を貫通して俺の顔に向かって飛んできたのだ。

 『氷弾』を『魔法障壁』で防ぐという、半ばルーチンワーク化した作業をこなす俺の心の隙を突く、厭らしい戦法であった。

 俺は咄嗟に回避をするが、『氷弾』が頬を掠って切り傷ができる。

 軽傷ではあったが、俺はショックを受けた。


「(氷弾一個だけに多くの魔力を篭め、残りはすべてダミーか! 魔力を節約しながら、俺の強固な『魔法障壁』を少ない魔力で破る。こんな器用な戦い方が可能なのは……)」 


 俺の心の隙を突くことまで計算して魔法を使う。

 こんな戦い方ができるのは、師匠しかあり得なかった。

 あとは、ブランタークさんくらいか。

 いくら魔力が多くても、俺やカタリーナにはいまだ到底できない領域なのだ。


「ヴェル、君はただの変装だと思ったのかな?」


 続けて、また数十個の『岩弾』が展開した『魔法障壁』に炸裂する。

 同じくまた一つだけが『魔法障壁』を貫通し、今度は右肩に命中して激痛が走った。

 『魔法障壁』を貫通した時に威力が落ち、装備しているローブのおかげでさほどの負傷ではないが、そのままの威力だったら肩の骨が砕けていたはずだ。

 師匠からの攻撃を、師匠の遺品であるローブが軽減してくれた。

 なんという皮肉であろうか?


「それよりも……」


 師匠は続けて二回も同じ攻撃パターンを繰り返したのに、俺はそれを回避できなかった。

 魔法自体はそれほど難しいことはしておらず、師匠の魔力量からいえばそれほど消耗もしていない。

 なのに俺は、すでに二ヵ所も負傷している。


「魔法はイメージだよ。出会った頃よりも圧倒的に魔力量は増えているけど、まだまだコントロールが足りないね。若いから仕方がないとも言えるけど、戦場ではそういう言い訳は通用しない。惜しいね。私がまた教えたくなってくるよ」


 間違いなく、師匠は本物だ。

 死んだはずの弟子の復活がよほど衝撃だったのか、食い入るようにこちらを見ているブランタークさんに対し、嫌味なほど爽やかな笑みを浮かべながらそう言い放ったのだから。


「お久しぶりですね、お師さん」


「その呼び方は……」


「私が二十歳になるくらいまでは、ずっとそう呼んでいたではないですか」


「そんなバカな……。ターラントとかいう奴が、アルが俺をなんて呼んでいたのかなて知るはずがない……」


 ブランタークさんは師匠が本物であると確信すると、普段のポーカーフェイスを維持できず、見てわかるほど顔面蒼白の状態となった。


「お師匠様……」


「カタリーナの嬢ちゃん、しばらく済まない」


「いえ。お気持ちはお察しいたします。しかし、あの方は……」


「カタリーナの嬢ちゃん。気持ちはわかるが下手に助けに入るな。それすらあの男は利用するからな。それよりも……」


「はい、本陣の守りはお任せください」


「すまん」


「本当は、ヴェンデリンさんを助けたいのですが……」


「本当にすまない。アルに化けたターラントだけに関わっていられないんだ」


 ターラントが師匠に化けた効果は絶大であった。

 俺、ブランタークさん、導師を戦場から引き剥がしているからだ。

 ここでカタリーナも抜けると、解放軍の本陣が危なくなる。 


「ですが、これでヴェンデリンさんになにかがあれば、いくらお師匠様でも……」


「最悪、俺が犠牲になっても伯爵様は死なせない」


「わかりました」


 カタリーナは納得して、味方本陣の守りに専念し始める。


「とはいえ、アルが相手か……。一番厄介なタイプの魔法使いなのに……」


 俺たちが対峙する外では、両軍による死闘が続いていた。

 テレーゼのいる本陣には大量に矢と魔法が飛んでくるので、カタリーナがしばらく一人で対応することを決意したようだ。

 ただひたすら、『魔法障壁』を順次展開して反乱軍からの攻撃を防いでいる。

 テレーゼたちや、フィリップたち王国軍組も俺たちが気になるようであったが、他の場所では激しい攻防戦が続いている。

 こちらにばかり気にしてられず、懸命に戦闘指揮を続けているようだ。


「こうなると、お師匠様からの特訓を受けていて幸運でしたわね」


 以前のカタリーナの魔法の使い方では、大量の矢と魔法にいつか押されていたかもしれない。

 あとはテレーゼの前なので口にしないが、結婚後に魔力が増えていたのは幸運だったと思っているはずだ。

 ブランタークさんが抜けても、カタリーナは鉄壁の守りでテレーゼと本陣を守っていた。


「アル」


「『英霊召喚』などという魔法は聞いたことがないですか? ええ、こんな魔法が使えるのはターラントだけです」


 師匠はブランタークさんに話しかけながらも、俺への攻撃を止めない。

 『火炎』で俺の周囲だけを攻撃し、それを『魔法障壁』で防いでいると突然地面から尖った岩が大量に飛び出てくる。

 俺は慌てて『岩棘』をかわしつつ、小型の『ウィンドカッター』で斬り裂くが、一つ対処し損ねて右フトモモを切り裂かれてしまった。

 ズボンと一緒に皮膚と肉が裂け、傷口から激しく出血する。

 本当であれば縫わなければいけない深さの傷であったが、先の二ヵ所と合わせて急ぎ治癒魔法で治した。

 俺と師匠との戦いは、俺が圧倒的に不利だ。

 魔法を教えてもらった頃の俺と今の俺とでは、魔力量も使える魔法の種類もまるで違う。

 なので実は、もし師匠が本物だとしても勝てると慢心していた。

 それなのに、実際に蓋を開ければこういう結果になっている。

 今の師匠の魔力量は俺よりも遥かに低いが、それでも一般の魔法使いの基準で言えば上級の上である。

 一定以上の魔力があるのでそれを効率よく使い、俺の隙を上手く突いてダメージを与える。

 ブランタークさんと導師は、師匠の復活に動揺しているのもあるが、下手に俺たちの勝負に割り込むと、それすら利用されて致命的な結果をもたらすと考えているみたいだ。

 外縁部の敵に遠距離魔法攻撃を仕掛けて他の敵の接近を防ぎつつ、どうにか師匠に一撃かまそうと、こちらを伺っていた。 


「このターラントという男は、生まれた時から極端に存在感が薄かったのです」


 師匠なのかターラントなのかはわからないが、彼の一人語りは続く。

 

「親にもなかなか気がついてもらえなかった。魔力があると知れば普通親は喜びます。それすらなくて、彼は家を出て冒険者になった」


 ただの影が薄いを通り越していたわけか。

 そして冒険者になっても、ターラントは存在感が薄かったそうだ。


「いくら稼いでも、なぜか誰からも注目されませんでした。不思議なことではありましたが、これが『英霊召喚』を習得する条件でもあったのです」


 自分が無に近いから、過去に死んだ人間の魂を自分の体に簡単に降ろせるというわけか。


「『英霊召喚』の条件は、その対象が死んでいることと、名前くらいは知っていることです。その人について詳しく知る必要はない。だから初代アームストロング伯爵を降ろせた。逆に生きている人はいくらその人のことをよく知っていても降ろせません。生きているから当たり前ですが」


「だから、さほど有名でもないアルを降ろせたのか……」


「『英霊召喚』はあくまでも魔法名ですね。死んでいる人を降ろしてその人の持つ能力を駆使させる。ターラントが私を選んだのは、歴史に残る偉大な魔法使いと実力に差がなく、ヴェル、お師さん、クリムトの動揺を誘えるからですね」


「ふんっ! 底意地が悪い!」


「最高の褒め言葉ですよ、お師さん」 


 説明を続けながらも、師匠の攻撃は続く。

 基本は俺の目を晦ませてから、フェイントで嫌らしい一撃を加える。

 それがわかっているのに、俺はそれを防げずに負傷し続けていた。

 ローブは頑丈なので切れないが、その下のシャツやズボンは切り裂かれて血で染まっている。

 負傷は治癒魔法で治せるが、負傷ばかりしているので精神的な疲労感が強い。

 出血量も徐々に増えており、失った血は治癒魔法では回復しないので体が少し重くなってきた。

 

「意外としぶといな。私の予想以上に揉まれたのかな? だが……」


 俺は肩で息をしているのに、師匠の方はブランタークさんに話しかけながら余裕の表情を浮かべていた。


「お師さん、ヴェルは順調に成長していますね。唯一惜しいのは、これ以上成長する時間がないことですか。実に惜しい」


「お前、自分の弟子を殺すつもりか!」


「殺します。仕方がありません。今、ターラントは引っ込んでいるのですが、主導権は彼にあるのですから、私は逆らえないのです。しかし惜しい。ここまで素晴らしい魔法使いに育っているのに」


「アルフレッド!」


 ここで、今まで静かにしていた導師が突然大声をあげた。

 予想外であったすでに死んでいる親友との再会と、俺への容赦ない攻撃に感情が爆発してしまったのであろう。


「クリムト。あなたが、体捌きなどを教えたのですか?」


「なにか至らぬ点でもあったか?」


「いえ。ヴェルはまだ若いので、すべて時間で解決できる問題です。ですが、その時間はもうないのです」


「時間がない? 残念ながらここは戦場で、師匠と弟子の再会対決ゴッコが許される場所ではないんだがな。アルこそ、なにか考え違いをしているんじゃないのか?」


「左様、ブランターク殿の言うとおりである! 色々と思うところはあるが、ここは三人で、再びアルフレッドをあの世に送ってやるのである!」


「師匠からの最後の手向けだ」


「某は、アルフレッドと戦ってみたかったのである! 命をかけて!」


 俺の苦戦を見て、ブランタークさんと導師も参戦を決意したようだ。

 ただこの二人が抜けた分、解放軍の魔法使いたちは忙しくなることは確実だ。

 そのくらいこの二人の実力は圧倒的で、数が多い反乱軍との戦闘で味方を支えていた。


「(あまり時間をかけられないのか……。しかし、変だ?)」


 俺は、肩で息をしながら疑問を感じていた。

 師匠が俺に一対一の勝負を挑んでも、ここは戦場なのですぐにブランタークさんと導師が助っ人に入ってくることくらい理解しているはず。

 一対一の師匠と弟子の戦いに割って入るなど卑怯。

 なんて二人が言うわけがないことくらい、師匠も重々承知のはずだ。

 それなのに、彼の余裕綽々な態度はなんなのだと。


「いくらアルでも、三対一では苦しいよな」


「一対一の正々堂々の勝負を見守るのが人情であろうが、そうも言っていられないのである!」


 ブランタークさんと導師が師匠との距離を縮めると、突然師匠は大きな声で笑い始めた。


「お師さんとクリムトこそ甘い。私が三対一で戦う理由がどこにあるのです? その前に、勝てるわけがありませんよ」


「では、降伏するか?」


「お師さん、それは絶対にできないのですよ。私はターラントの支配下にあるのですから。そして、不利な状況を解決する方法もターラントが用意しています」


 そう言うのと同時に、師匠は懐から出した二つの物体を二人の前に放り投げた。

 地面に落下したそれを見ると、拳大ほどの黒光りのする魔晶石に、見たこともない幾何学的な文様が掘られた銀色の枠が付いた装飾品のように見える。


「魔道具? 見たことがないが、もしかして……」


「さすがはお師さん、正解です。これは、ターラントが私にこれ以上喋るなと言うルートから仕入れたもの」


 つまりは、ニュルンベルク公爵が領内の地下遺跡から入手した古代魔法文明時代の遺産なのであろう。

 果たして、どのような効果があるのか。

 俺たちは思わず身構えてしまった。


「少し設定に時間がかかりますがね……」


 師匠が目を瞑りながらなにかの呪文を呟くと、二つの魔道具の形状が変化を始める。

 徐々に人型になっていき、ついに師匠とまるで同じ格好になった。


「これで三対三ですよ」


「そんな木偶に負けるか!」


「確かに木偶ですけどね。これが意外と性能がいいのですよ」


 二体の木偶は、それぞれブランタークさんと導師の前に立つ。

 そして、躊躇うことなく二人に攻撃を開始した。


「それに、別に勝つ必要などないのですから」


「俺を殺すまで、二人を釘づけにできればいいから?」


「正解だよ、ヴェル」


 木偶は、師匠の戦闘パターンと魔晶石に込められた魔力によって戦うコピー兵器のようだ。

 今の師匠が木偶の方に意識を集中しているのは、自分の戦闘データを木偶に反映させるのに時間がかかるからであろう。

 

「(木偶の操作はターラントがやっているのか? とにかく、今は俺に目を向けていない)」


 このまま師匠の行動を座視し続けても、俺が不利な状況に違いはない。

 師匠と弟子による、一対一の正々堂々の勝負。

 なんていう綺麗事は捨て、俺は密かに『ウィンドカッター』を師匠に向けて放った。

 戦場では、卑怯もクソもないと言ったのは師匠自身なのだから。


「いい判断だ、ヴェル。だが、私には効かないね」


 師匠は木偶を操作しながらも、俺が放った『ウィンドカッター』を『ウィンドカッター』で相殺した。

 一瞬で俺が放った『ウィンドカッター』の威力を計算し、同じ威力の『ウィンドカッター』を展開して魔力を節約している。

 そんな細かいこと、魔法使い以外にはわからないだろうが、俺はあらためて師匠の強さを再確認する羽目になった。

 師匠に一ミリの隙もなく、彼は俺を確実に殺せると確信している。

 あの状況で、自分の魔力を節約することをやめないというのはそういうことだ。

 

「(恐ろしいまでの冷静さだ)」


「私はヴェルよりも魔力が少ないからね。魔力の節約は基本だよ」


 自分と俺との魔力量の差を理解しつつ、効率よく魔法を駆使して、徐々に俺を追い込んでいる。

 これを覆せるであろう隙などあろうはずがなく、段々と打てる手が思いつけなくなってきた。


「ヴェル、見てごらん」


 木偶の設定は完全に終わったようだ。

 一体は、ブランタークさんと戦っていた。


「ちっ! 今の俺では、偽物でもアルには勝てん!」


 師匠の木偶は、ブランタークさんを防戦一方の状況に追いやっていた。

 元々魔力量で負けており、ブランタークさんに有利だと思われていた技術でも、すでにほとんど差はなくなっている。

 二人は様々な魔法を放ち合って相殺していたが、残念ながらブランタークさんの方が押されているのが現状だ。


「木偶だからなんとか戦えている。これがもし本物のアルなら、俺はもう死んでいるな」


 咄嗟の判断力や対応力が欠けている木偶だからこそ、ブランタークさんがこれまでの経験でなんとか対応している。

 前にブランタークさんが言っていた、もう魔法使いの力量では師匠に抜かれているという発言は、事実であったようだ。


「お師さん、木偶を倒さないとヴェルを救援できませんよ」


「そうだな」


 ここで激高して自分を見失わないのは、さすがはブランタークさんといったところか。

 師匠のわずかな隙を見出すことを諦めていないが、徐々に呼吸が乱れて追い込まれているのも事実であった。


「こんなものを大量に使われたら、俺たちは負けるな」


「でしょう。ターラントの雇い主は、これを絶賛量産中ですとも。私の軍団が大陸を席巻するのです」


「ほほう」


 師匠の軽口に、ブランタークさんは意味ありげな笑みを浮かべた。

 わざとふざけたような口調で師匠がそう言うということは、木偶を発生させる魔道具はこれだけしかないという証拠であった。

 本当に量産中なら、師匠は絶対にはぐらかすはずだ。


「さて、クリムトは頑張っているのかな?」


「ちっ! この手数の多さと早さ、魔法の威力と収束力は、アルフレッドの能力をコピーしているだけのことはあるのである!」


 今度は導師を見ると、彼は木偶から大量の魔法を連発され、防戦一方の状態であった。


「ヴェル。クリムトの魔法は常に激流だ。こういうタイプの魔法使いに、タイプが違う受け流すタイプの魔法使いが対応する。すると、どうなると思う?」


「戦況が膠着する?」


「そんな物語のような話は滅多にないね。クリムトの攻勢を受け流せる者などまずいないさ。これに対抗するには、それよりも強力な攻撃力で圧倒する」


 実際に、導師と戦っている木偶は師匠と同じレベルで大量の魔法を連続して放っていた。

 これには導師も、防戦一方で対応するしかない。

 無理に攻勢に入ろうとすると、即座に大量の魔法を叩きつけられ、いくら導師でもズタズタにされてしまうはずだ。


「いや、しかし……」


 師匠の魔力量では、今の魔力が増大した導師に勝てるはずがない。

 いくら初手で圧倒しても、魔力が尽きてしまえばあとは負けるだけなのでは?

 いつまでも、あの木偶の魔法連射が続くとは思えないのだ。


「そんな心配はいらないさ。私がヴェルを殺すまでのわずかな時間、お師さんとクリムトが手を出せなければいいのだから」


 いくら師匠の能力をコピーしたとはいえ、所詮は木偶。

 だから足止めだけに使って、俺を殺すのは自身がやる、ということか。


「俺は、えらく評価されていますね」


「まだそんなことを言う余裕があるんだね。助っ人たちは、自分の身を守るので精一杯だ。さて、ヴェルはどう戦うのかな?」


 木偶の設定が終わり、再びすべての意識を俺に集中する師匠。

 その整っていながらも冷静さを崩さない顔を見た俺は、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。

 どうにか打開策を見つけなければ、俺は確実に殺されてしまう。

 どうにかしなければ。

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