第224話 なぜ敵の親玉は、決戦前にこちらと話したがるのか? そして、ヴェンデリン最大の危機(その3)
「お師匠様、結局あの会食ってなんだったのでしょうか?」
「俺に聞くなよ……。そもそも参加してないし、伯爵様に聞いてくれ」
「ヴェンデリンさんは、『久しく疎遠になっていた幼馴染同士の最後の邂逅』と言っていましたが」
「伯爵様がそう言うのなら、そうなんだろうな。偉い人にも色々あるんだろう」
ブランタークさんとカタリーナが雑談をしている間に、反乱軍が大きく動いた。
例の会食の翌朝。
反乱軍の前衛部隊が、一斉に野戦陣地に向けて突撃を開始したのだ。
「反乱軍前衛は推定で四万人。こちらの迎撃能力を飽和させるつもりであろう」
本陣を正面門上の土塁に移し、テレーゼは優雅に迫りくる反乱軍前衛部隊の突撃を眺めている。
彼女目がけて矢や魔法が飛んでくるが、そのためにブランタークさんとカタリーナが待機しており、その都度『魔法障壁』で防いでいた。
魔法は、初級レベルの魔法使いが放ったものばかりなので、二人によって簡単に防がれてしまう。
テレーゼが指揮する中央軍にはミズホ伯国軍もおり、彼らは早速魔道具仕様のバリスタや魔大砲をぶっ放して反撃を開始した。
使用回数やコストにまだ問題がある兵器だがその威力は抜群で、射程内に入った多くの兵士たちを薙ぎ払っていく。
堀や柵で足を止められたところで、矢や銃弾が次々と飛んでくるのだ。
兵士たちは倒れ、負傷者は後方に、死者はそのまま放置される。
一番前にいた小部隊がほぼ全滅するが、すぐに次が投入された。
犠牲は多いが、次々と堀に板がかけられ、柵は馬によって引き倒される。
反乱軍前衛部隊は多くの犠牲を出しつつも、次第に城壁へと迫っていた。
「城壁に取りつくまでに、どれだけ殺せるかだな」
王国軍組を預かるフィリップは、俺とエルに簡単に解説をしながら王国軍組にも弓を使うようにと命令した。
相変わらずぞんざいな口調だが、それは過去の経緯を考えると仕方がない部分もある。
彼は指揮官の任をまっとうしており、エルへの教育という仕事もちゃんとこなしているからだ。
スポンサーとしては、上々だと思うしかないな。
「兵士の無駄遣いのような……」
「別にそうでもないさ」
フィリップは、ニュルンベルク公爵の戦法にまったく疑問を感じていないようだ。
「先に精鋭を出そうが、捨て駒を出そうが、この野戦陣地を落とさないと反乱軍は北に攻め上がれない。なら、捨て駒でこちらを先に消耗させるのがもっとも効率がいい。手駒の部隊が無事なら、不足したら新しく集めれば済む。ニュルンベルク公爵も、使い捨てに練度や忠誠心など期待していないはずだ。それなりに使えればいいのだから」
戦力を数値でしか見ない、ドライな感覚。
指揮官には必要なのであろうが、俺にはそこまで割り切れない。
つまり、俺は軍人に向いていないというわけだ。
「無理に正面から攻めなくても、たとえば迂回して奇襲するとか……」
「バウマイスター伯爵。簡単に言ってくれるが、奇襲などそう簡単にはできないのだぞ」
「そうなの?」
「この野戦陣地よりも北の諸侯は、大半が解放軍に属している。迂回しても、すぐに通報され、待ち伏せ、迎撃を食らうだろうな。ついでに言うと、フィリップ公爵とミズホ上級伯爵の索敵網に簡単に捕まる」
戦記物語のように、そう簡単に奇襲で戦況が変わるわけがないようだ。
それは、奇襲に成功した人が歴史書で評価されるわけだ。
「では、あんたはなぜ負けた?」
「ニュルンベルク公爵が優秀で地の利があったのと、レーガー侯爵が恐ろしいまでに軍人として無能だったからだ。本隊が敵軍の奇襲で溶けてしまった以上、味方の犠牲を少なくするためには、残った兵たちをかき集めて逃げるしかなかったのさ」
そんな状況で、フィリップは北上までしてここに逃げ込んできた。
今も指揮ぶりは大したものであったし、エドガー軍務卿の人物評価は間違っていなかったというわけだ。
「その軍人としての能力を、先の紛争で使えたらよかったのに」
「まったくだ」
「兄さん。それが最初からできていたら紛争に負けていませんし、その前に紛争自体が起こっていません」
王国軍組の後方を支えるクリストフが、ボソっと漏らす。
この二人は、抱えている外戚や家臣たちに翻弄され、道を誤ってしまったのであろう。
もし相続問題で揉めていなければ、最初からあの出兵などなかった。
カルラを俺に押しつける算段でもしていた方が、よほど建設的でコストもかからないのだから。
「これで勝てれば、騎士爵くらいは貰えるかもしれません。頑張って殺しましょう。矢の在庫については、しばらくは大丈夫です」
クリストフの言い方は感情ではどうかと思うが、言っていることに間違いはない。
俺たちは、ただ目の前の反乱軍将兵たちを殺すしかないのだ。
「バウマイスター伯爵は魔力を温存でいいぞ」
三時間ほどもすると、城壁に敵部隊が取りつきつつあった。
捨て駒部隊にしては奮戦していると感じていたが、その理由は簡単である。
後ろに督戦部隊がいて、大量の矢をいつでも放てるようにしていたからだ。
さらにニュルンベルク公爵は、優れた魔法使いたちを自分の直衛部隊に集めていた。
もし捨て駒部隊が逃げたり裏切ったりすれば、矢のみならず魔法も飛んでくると思わせているのだ。
家族も人質にでもなっているだろうから、いくら優秀でもニュルンベルク公爵は鬼畜だな。
プライベートでは、おつき合いしたくない奴だ。
「外道の極みであるな!」
「まあ、有効な手ではあるな」
ニュルンベルク公爵としては、前衛部隊が全滅しても予備兵力が少ない解放軍に損害を与えられれば勝ちである。
ついでに彼らが消えれば、その領地や爵位を自由にできる。
それを自分の子飼いに与えれば、ニュルンベルク公爵の支配権が増大するのだから。
それがわかっている導師とブランタークさんは、いつもどおりの口調では会話をしているが、内心では面白くないと思っているようだ。
ブランタークさんの相槌と共に、導師が巨大な岩を督戦部隊に向けて放り投げた。
巨岩が直撃した弓兵たちが、まるで虫のように潰されて死んでいく。
まさかその距離で届くと思っていなかった指揮官が後退しようとするが、次に導師が投げた岩で潰されてしまった。
「外道に相応しい最期だ」
「腹立たしいが、すべての督戦隊を始末できないのである!」
投石で潰した督戦隊は一つだけであったが、反乱軍の肝を冷やさせることには成功したようだ。
最前線の部隊も攻撃の勢いが落ちていた。
「あの、ブランタークさん?」
「伯爵様は、まだ魔力を温存だ」
本陣では、テレーゼが優雅に椅子に座りながら戦いを督戦し、味方の士気を上げている。
飛んで来る魔法や矢は、すべてブランタークさんとカタリーナが『魔法障壁』で防いだ。
二人はこの仕事に集中して必ずテレーゼを守る作戦になっており、その代わり、フィリップ公爵家お抱えの魔法使いたちは各部隊に配置され、攻撃力と防御力を魔法で強化していた。
「エリーゼは大丈夫かな?」
「怪我人は、まだそれほど出てないそうだ」
攻撃手段に乏しいエリーゼは、今回も後方で兵士たちの治療に当たっている。
イーナは投擲用の槍を投げ続けているし、ルイーゼもその辺で大量に集めてきた石や岩をひも状の投石器で投げている。
戦争において、投石は意外と有効な兵器だ。
少しの魔力で威力を強化して、器用に兵士の顔面に当てている。
顔に直撃すると、額を割られて後方に搬送されたり、最悪死ぬ兵士もいた。
「なかなか攻勢が弱まらないわね」
「本当にしつこいな」
同じ作業の連続で、二人は気疲れをしているようだ。
「見つけた」
ヴィルマは、ミズホ上級伯爵から貸与された試作狙撃用魔銃で、指揮官や魔法使いの狙撃を続けている。
結局この魔銃は、遠距離狙撃には優れた才能と技量を必要とし、使いこなせるのが今のところヴィルマだけだったので、彼女だけが運用していた。
次々と狙撃を行い、魔力が不足すると、予め準備してあった魔晶石で補充を行う。
寡黙なヴィルマは、某○ルゴ13並に狙撃を続けている。
「ヴェンデリンさんは温存ですか」
「一人気になる奴がいる」
昨日の会食で会った、ターラントという魔法使いのことだ。
あの四兄弟よりも少し魔力が多いくらいだが、彼からはなにか不気味なものを感じてしまい、俺の勘が警鐘を鳴らすのだ。
あのあと、導師とブランタークさんに相談すると、二人も俺の意見を支持してくれた。
「そういう勘を侮ってはいけないのである!」
「導師と同意見だな」
俺が待機なのは、二人の賛成もあってのことだ。
そんな状況でも、土塁を登ろうとする反乱軍兵士たちと、それを阻止しようとする解放軍兵士たちとの間で死闘が続く。
損害比は守備側である解放軍が圧倒的に有利であったが、次第に槍で突かれ、矢や魔法を受けて味方の犠牲者が増えていく。
「前に出るわ!」
イーナが前に出て、土塁を登ってくる兵士たちを次々と槍で突き落とした。
そんな状態がしばらく続いたのち、反乱軍の方で騒ぎというか、ざわめきというか。
後方からあの男が姿を見せ、まるで幽霊のように歩きながら俺との距離を縮め始めたのだ。
この戦場で、ターラントは敵も味方もいっさい気にしていない。
ただゆっくりと、俺たちがいる正面門へ向かってゆっくりと歩いて来る。
その様子があまりに異様だからか、他の敵の相手が忙しいのか。
味方兵士たちは、彼に対し矢や魔法をまったく放っていなかった。
「(もしかして、ターラントを認識している人が少ないのか? )」
俺は、彼の不気味さに冷や汗をかく。
「何者?」
「なんか変な奴がきた!」
ようやくヴィルマが狙撃を、ルイーゼも大岩を放り投げるが、それらはすべて彼の『魔法障壁』によって簡単に防がれてしまう。
やはり彼は、優秀な魔法使いであった。
「あのターラント殿……」
味方ですら彼から距離を置く中で、ついに正面門前に立って静かに声をあげた。
ああ、彼は喋れたのか。
「バウマイスター伯爵、あなたを殺してあげよう」
小さな呟くような声なのに、様々な音で溢れる戦場にも関わらず、俺の耳にハッキリと届いていた。
会食では無言だったので初めて聞くターラントの声であったが、やはりなにも特徴が感じられない。
ただ淡々と話すだけなので、俺は余計に不気味さを感じてしまった。
「本当に不気味である」
あの導師ですら、ターラントになんとも言いようのない不気味さを感じているようだ。
「伯爵様、受けるのか?」
「受けますよ。どうせ戦わないといけないのなら、先に済ませてしまいましょう」
「そうか……。気をつけろよ」
ブランタークさんは、俺を止めなかった。
俺とターラントとの戦いが不可避だと思っているのであろう。
「ならば、某は余計な邪魔を防ぐことにするのである!」
俺はハシゴで城壁を降り、正面門前に立つターラントと対峙する。
すでに正面門前の反乱軍は、その場から離れていた。
ターラントが偉い人であるのと、反乱軍内でも彼は不気味だと思われているようで、触らぬ神に祟りなし状態なのかもしれない。
「一種、不気味な光景である」
「味方からも避けられるって……」
正面門付近だけ、誰が決めたわけでもないのに、両軍が戦闘を止めて俺たちの戦いを見守っていた。
督戦部隊もそれを咎めず、他はこれまでと同じような死闘が続いているので、その差がとにかく不気味だ。
どうしてこういう状態になったのかといえば、やはりこのターラントという男から出る不気味さのせいであろう。
他に説明がつかない。
「某は、一対一の決闘の邪魔を防ぐためにここにいるのである」
導師は俺と一緒に梯子で降りてきて、後ろで反乱軍側からの妨害に対応してくれていた。
「では、始めるのである!」
俺が魔法の展開を準備し始めると、突然ターラントが、抑揚と特徴のない声で語り始める。
「私は子供の頃から魔力があったのに、なぜか存在感が薄かった」
誰に話すでもなく、ただ独語しているだけなのに不気味で、俺はつい攻撃を躊躇ってしまう。
なにか特殊な魔法でも飛び出すのかと、『魔法障壁』の準備に切り替えてしまったのだ。
「上級魔法使いになっても同じです。私に仕官などの声をかける人が少ない。なぜかと悩む日々があったのですが、それがある日解決しました」
「お前はなにを?」
「私の存在の薄さは、ある特殊な魔法の習得条件だったのです。ターラントという男は、ただその魔法を使える体でしかないと」
「特殊な魔法?」
「そうです。私の魔法は、『聖』魔法の一種。『英霊召喚』。過去の英雄に殺されて、その人生を終えなさい。バウマイスター伯爵」
ターラントが両手を天にかざすと、直後に空から雷が落ちて彼の体を直撃する。
思わず目を瞑ってしまうが、次に目を開けた時にはそこにターラントの姿はなく、 代わりに、とても俺の知り合いによく似ている人物が立っていた。
かなりの巨漢で、その体は筋肉の鎧に覆われ、紫色のローブを装着し、両手にはナックルが装着されている。
さらに、パイナップルのヘタのような髪型とカイゼル髭が特徴で、誰が見ても導師にソックリとしか言いようがない。
「導師!」
思わず後ろを確認してしまうが、導師はそこに立っていたので、別人ということになる。
それにしても、ここまで導師にソックリとは……。
「我が名は、アーハント・ミハイル・フォン・アームストロング」
声も、とてもよく導師に似ている。
唯一の違いは、杖を持っておらず、両手にナックルを装着しているくらいか。
「ご先祖様であるか?」
「ご先祖様?」
「左様。実は、初代アームストロング伯爵は魔法使いだったのである!」
初めて聞く衝撃の事実であった。
「貧乏騎士の跡取りがたまたま魔法使いであった。そのおかげで伯爵になったというわけである」
「それにしても、よく似ているな」
ブランタークさんが、二人を見比べて感心していた。
もし同じ格好をされてしまったら、まったく見分けがつかなかったであろう。
まるで双子みたいだ。
「初代は、某以上のパワーファイターであったそうである!」
「相性が最悪だぁーーー!」
それでも、なんとか倒さないといけない。
こいつの正体は、ニュルンベルク公爵のお抱え魔法使いであるターラントなのだから。
最初は様子見のため、数発の『ファイアーボール』を放ってみる。
ところが初代アームストロング伯爵は、それを『魔法障壁』を纏わせた拳で弾いて一気に距離を縮めてきた。
「(導師の先祖だけあって、導師と戦い方がよく似ているな……)」
あっという間に目の前に立たれ、その強烈な一撃を食らってしまった。
咄嗟に両手を前に出し、『魔法障壁』の重ねがけで防ぐが、直後に手の甲に激しい痛みを感じた。
「導師よりも、攻撃力が高い!」
初代アームストロング伯爵は、導師よりもさらに魔力を用いた接近戦闘に特化したタイプであった。
立て続けに、魔力を乗せた突きや蹴りを食らってしまい、その度に体にダメージが蓄積していく。
腹に入れられた一撃で肋骨にヒビが入ったようで、腹部にも激痛が走った。
「幸いにして、放出魔法が苦手……できないのか?」
最初の攻撃で、手の甲の骨にもヒビが入っていたようだ。
腹部と共に治癒魔法で治しながら、俺はこれからの方策を考える。
この防戦一方の展開をどうにかしないと。
「今は時間を稼ぐしかない」
まったく衰えることなく、初代アームストロング伯爵の攻撃は続く。
最初はすべて受け止めていたが、しばらくするとその攻撃パターンに慣れてきた。
こうなると、王都時代に導師に修行をつけてもらったのは正解だったな。
魔力の節約のため、今まで全身にかけていた『魔法障壁』をシールド状にして腕に集中させ、それを傾斜装甲にように駆使して初代アームストロング伯爵の攻撃をいなしていく。
「激流を制する物は清流」
「意味不明である」
後方の導師の呟きは無視して、敵の攻撃をいなし続ける。
さらに目が慣れてきたので、今度は攻撃をいなしたあとに反撃を試みた。
初代アームストロング伯爵渾身のパンチをかわし、彼のガラ空きのお腹に魔力を込めた一撃を入れる。
「ぐふっ」
一点に魔力を集中させた攻撃により、初代アームストロング伯爵は口から血を吐いた。
内臓にかなりのダメージを与えられたようだ。
続けて上段から蹴りが飛んでくるが、これもいなしてからもう片方の足に魔力を込めて足払いをかける。
すると、初代アームストロング伯爵はバランスを崩して倒れてしまった。
すかさず、足に魔力を込めて顔を踏み抜こうとしたが、これはギリギリで回避されてしまった。
「やるな」
「あまり強くないな」
『英霊召喚』という魔法の特性がよくわからないので断言はできないが、この初代アームストロング伯爵は本人よりも弱いような気がする。
パワーや技などは同じであろうが、それを使いこなす技量が追いついていないような気がするのだ。
それとも、体が完全に同期していないのであろうか?
「ご先祖様は、そんなに弱くないのである!」
「少し遊びすぎたか……。やはり、同じ系統の英雄でなければ力を発揮できない」
初代アームストロング伯爵の格好をしたターラントは、素早く治癒魔法で傷を治すと、再び両手を天にかざす。
再び稲妻が落ち、それが消えるとターラントは別の人物に変化していた。
「同じ魔法使いでも、この男の方が戦闘タイプは似ているであろうからな。さてと、始めるとしようか。ヴェル」
「まさか……」
稲妻が晴れてターラントが新しい姿を見せた時から、俺の時は止まっていた。
彼が変身を遂げた人物に、激しく心を揺さぶられていたからだ。
そう、忘れはしない。
十年以上も前。
子供の頃に、俺に魔法を教えてくれたあの人物が……。
俺の師匠であるアルフレッド・レインフォードが、以前と同じ姿で立っていたのだから。
「アルフレッド!」
「アル!」
突然現れた弟子に、ブランタークさんも城壁から身を乗り出して叫んだ。
導師も、親友の登場に驚きを隠せないようだ。
そして俺も、衝撃のあまりその場からまったく動けずにいた。
「いや……。姿格好だけを似せた偽物……」
「違うね、ヴェル。『英霊召喚』とは、存在感が薄くて無に近い私ターラントと、過去に死んだ人物との融合魔法だからだ。だから私は、ターラントでもありアルフレッドでもある」
姿、格好、声のすべてが、師匠とまるで同じだ。
続けて、ターラントが俺に新たな衝撃をもたらした。
「ヴェル。君は、利き手の方にわずかに魔力を多く込める癖があるね。大分改善されたけど、まだまだ努力が必要だ」
「バカな……」
そのアドバイスは、俺が師匠と二人だけで修業していた時に注意されたことだ。
同じことはブランタークさんからも言われているが、師匠と一字一句まで同じ言葉を言われてしまうと、目の前の人物が本物の師匠であると認めざるを得なかった。
「さて。弟子であるヴェルが師匠である私に勝てるかな? 安心するといいよ。ヴェルが死んでも、私があの世で魔法の稽古をつけてあげるから」
「……」
「早速始めようか? ヴェル」
俺は否応無しに、再会した師匠と戦うことになってしまうのであった。
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