第193話 ミズホ上級伯爵(その1)

 帝都バルデッシュで起こったクーデターから逃れた俺たちは、ただひたすら北に向けて馬車を走らせた。

 ニュルンベルク公爵家諸侯軍による追撃は、北方主要街道を走っている時に一回、ミズホ伯国経由の支線に曲がってからさらに一回受けたが、これはカタリーナがすべて『ウィンドカッター』で派手に切り裂いてしまった。

 通信妨害のせいで、味方同士の間でも連絡が十分ではないのか?

 反乱軍は、あまり有能な魔法使いを追撃に参加させていなかった。

 『ファイヤーボール』を放ちながら追撃してきたが、まずはカタリーナの『魔法障壁』によって防がれ、反撃されて殺されている。




『高位の魔法使いの方々は追撃に現れませんわね』


『中央の把握に忙しいのだと思う。あの四兄弟も死んだからな』


『あの方たち、あれでもトップレベルの魔法使いでしたからね』


『性格はともかく、魔法の腕はよかった……もう過去の話だけど』


 カタリーナは、倒した魔法使いの死体から装備品や魔法の袋などを回収しながら俺に話しかけてくる。

 まるで追剥ぎのようだが、これも戦場の習いなのだと、ブランタークさんは言っていた。


『どんなに偉くて強い奴でも、死ねば首ナシとなり、身ぐるみ剝がされて下着だけにされる。躯は腐るか獣の餌だ。弱い奴は殺されてすべてを奪われる』


『ブランタークさんは、戦場の経験があるのですか?』


『某もブランターク殿も、冒険者として長年活動していたのである! 官憲の目が及ばない場所で、海千山千の冒険者が仕事をすることの意味を、バウマイスター伯爵には理解してほしいのである!』


 どうりで、導師もブランタークさんもなんの躊躇いもなく人を殺すわけだ。

 経験者なのだから当然というか、これまで少しでも躊躇すれば、二人はとっくにこの世にいなかったかもしれない。

 それに俺たちも、この一日で随分と人殺しが上手くなったものだ。

 決していい気分とは言えないが、生き延びるためには仕方がない。




「ところでテレーゼ殿、『ミズホ伯国』ってどんな国です?」


「我らとは、かなり文化形態が違う国じゃな」


 馬を休ませる時間以外はすべて移動に費やしていたが、もう丸一日も走ればミズホ伯国に到着して一息つけるそうだ。

 俺は馬車内の向かい側の席に座るテレーゼに、ミズホ伯国のことを聞いてみる。

 

「古の、まだアーカート神聖帝国が成立する前には存在していた古き民族の国よ」


 黒髪、黒目の者が多く、独自の文化を持つ独立した民族だそうだ。


「フィリップ公爵領の主要民族であるラン族よりも前から、帝国にはその存在が知られておる」


 フィリップ公爵領と接しているアキツ大盆地を生存圏とし、人口は百二十万人ほど。

 盆地なので夏は暑く冬は寒いそうだが、水が豊富なのと寒暖の差の激しさから水田で美味しいお米が主食として栽培され、特産品としても有名らしい。

 バウマイスター伯爵領以下の南方でも米は大量に採れるが、味でいうとミズホ伯国産の方が圧倒的に上という評価だそうだ。

 そういえば、日本の有名なお米の産地も寒暖の差が激しい北陸や東北地方が多かった。

 加えて、手先が器用で工芸品や魔道具の製造技術では群を抜く存在だそうだ。

 アーカート神聖帝国の臣民たちの中でもかなり豊かな生活を送っており、領内を訪れる客は丁寧にもてなす。

 大商会や大工房の中には領外に進出して稼いでいるところも多く、彼らは地球で言うところの華僑のような存在となっていた。

 

「(日本人みたい……)」


「着る物、書物、食べ物、建造物と。すべてが独特で、バルデッシュにもミズホ風の建造物が建っておるの」


 最初帝都に到着した時に見えた、瓦屋根や寺院風の建物がミズホ風と呼ばれる建築物なのだそうだ。

 俺から見れば、ただの和風にしか見えなかったが。


「普段は大人しい者が多いの。じゃが、戦になると途端に凶悪になる」


 サムライと呼ばれる騎士たちが、刀という片刃の剣を振るって死に物狂いで己の領地を守るらしい。

 というか、どう聞いても昔の日本そのものである。


「ラン族の手前にいた連中じゃ。帝国は何度も討伐の兵を出しておる」


 だが征服はすべて失敗し、彼らも甚大な被害を出したが、帝国の方もその度に洒落にならない損害を受けたそうだ。


「当時の帝国は、東西南北すべてで領地を積極的に拡大しておった。じゃが、ミズホ派遣軍の損害は毎回酷いので、その度に他の方面の進撃も止まっての」


 それでも、フィリップ家がラン族の地を制圧するまで定期的に出兵は行われていたが、そろそろミズホ人によって冥土に旅立った味方兵士が数十万人に達しようかという時、ついに時の皇帝が折れて、彼らの自治権を認めた。


「彼らは、アキツ大盆地から外に領地を求めないからの。上級伯爵などという特殊な爵位を与え、領地は伯国と呼んで他の伯爵領とは違う扱いにした。年に一度の朝貢と、外交権をアーカート神聖帝国に委ねる条件でその存続を認めたのじゃな」


 その外交権も、要はヘルムート王国と勝手に交渉するなというものでしかないそうだ。

 あまり強い条件を出すと、王国に靡くかもしれないと思われたのかも。


「帝国は、ミズホ人とヘルムート王国に組まれるのを恐れたのじゃ」


「やっぱり」


「挟撃などされたら、目も当てられぬからの」


 こうしてミズホ伯国は成立したのだが、一度講和を結べばミズホ人は大人しかった。

 観光客も受け入れるし、高品質な織物、酒、食品、工芸品、魔道具などは高級品として人気が高い。

 

「我がフィリップ公爵領で、最初に漁をしたのもミズホ人じゃ」


 海のない盆地に住んでいるのになぜか海の魚が大好きで、フィリップ公爵領で漁を行う漁師の半分はミズホ人だそうだ。


「出稼ぎの者が多いのじゃ。食べられる魚の知識や、処理の仕方や保存、輸送方法にと詳しくての。漁獲量制限、漁礁の設置、養殖などの知識もすべて彼らから得たものじゃ。あとは、妙な海藻を干したり、カツオとかいう魚で木のように堅い棒を作ったりと。普段は温厚で変わっている連中じゃの」


「(来たぁーーー! 日本的文化来たぁーーー!)」


 王都で人殺しばかりして心が荒みかけた俺に、久々のご褒美である。

 この西洋風ファンタジーな世界に、日本風の文化を持つ国家があった。

 観光に、食事に、文化にと。

 これは滞在して楽しまねばならない。


「フィリップ公爵領とミズホ伯国は隣接しているからの。一泊くらいしても構うまい。いや、何日か滞在する必要があるかの?」


「援軍の要請ですか?」


「そういうことじゃ」


 突然のクーデターで、他の選帝侯や貴族たちの生存や去就が不明なので、テレーゼはまず北方の近隣諸侯たちを纏めるという仕事から始めないといけない。

 

「テレーゼ様。そのミズホ伯国は、ニュルンベルク公爵打倒に力を貸してくれるのですか? お話を聞いたところ、ほぼ独立国扱いなような……」

 

 エリーゼの懸念はわかる。

 ミズホ伯国からすれば、帝国の皇帝がニュルンベルク公爵でも、今の待遇を保証してくれれば、無理に戦う必要などないのだから。


「ところが、そうでもない」


 ニュルンベルク公爵は、テレーゼですら殺害しようとした。

 皇帝の権力を一本化するために、選帝侯の排除を目論んだわけだ。


「あの男の国是は、強い一つに纏まった帝国なのじゃ。数千年も帝国に屈しないミズホ伯国など邪魔であろう。実際にニュルンベルク公爵領内では、在留ミズホ人の扱いでトラブルになったことがある」


 貿易収支が大幅な赤字なうえに、ニュルンベルク公爵領内で展開しているミズホ資本の商会や工房が、国内業者の経営を圧迫しているという理由で多額の関税をかけ、双方で対立が先鋭化しているそうだ。


「彼ならば、ミズホ伯国の完全征服を狙うであろうな。そのうえで技術などを手に入れる」


「それって、考え方が甘いような……」


 多分帝国としても、百万の軍勢で攻めればミズホ伯国の完全征服も不可能ではないと気がついているはず。

 だがそのあとに、技術や生産力を持つ男手が大量に戦死し、荒れ果てた旧ミズホ伯国の領地の面倒を見ないといけない。

 抵抗が過激なので、無理に征服してもなんの意味もない。

 だからこそ、帝国はミズホ伯国の存続を認めているのだろうから。


「ニュルンベルク公爵からすれば、破壊の後の再生をすればいいと思っているのじゃ。数十年の歳月に多額の予算と手間をかけ、ミズホ人を屈服させて帝国に組み込めば、長い目で見れば新帝国のプラスになると考えておる」


「ガチガチの国粋主義者なんですね」


「自領、自国想いと思われていて、領内外に一定の支持層がおるから厄介なのじゃ」


 帝国軍にも一定の支持者がいたからこそ、あそこまで鮮やかにクーデターが行われたとも言える。

 加えて、移動と通信系の魔法と魔道具が封じられている。

 帝国政府も貴族たちも、いまだ混乱からは脱していないはずだ。

 対処する暇もなく、クーデター軍の軍門に降っている可能性も高い。


「これは厄介な……」


「そこまで思い詰めているとは思わなんだがの。やはり、アレの報告を受けて危機感を抱いたのかもしれぬ」


「アレ?」


「ほれ、ヴェンデリンが稼動に協力したアレじゃ」


 俺が偶然討伐したアンデッド古代竜の魔石を利用して再稼動に成功した遺跡の発掘品である巨大魔導飛行船。

 今は船名を『リンガイア』と名付けられていたが、全長四百メートルの巨大船は無事に就役し、現在は大陸外への探索を行うべく訓練に没頭している最中だと聞いた。


「通常の百メートル級の大型魔導飛行船の数でも、差をつけられたからの」


 空軍戦力比が2.2対1にまで広がり、これがニュルンベルク公爵にかなりの危機感を抱かせたらしい。

 彼は軍人だから、両国の戦力比が気になるのであろう。


「それは、つまり俺のせいだと?」


「少なくとも、ニュルンベルク公爵はそう思っておる」


 なるほど。

 だから彼は、俺を鋭い視線で見つめていたわけだ。

 普段の目付きも鋭いので、ただ見ていただけかもしれない……わけがないか。

 俺を名指しして、色々と言っていたのだから。


「つまり、俺の将来の安寧のためにニュルンベルク公爵を殺せと?」


「できれば、傭兵扱いで参戦してほしいと思っておる。ニュルンベルク公爵は殺すしかあるまい。彼は危険じゃ」


 動く過激思想な上に、実力行使にまで出たのだ。

 彼の行動で帝国にも大きな損害が出ているし、ニュルンベルク公爵家を潰してその補填に当てなければ、当然周囲から不満は噴出するであろう。

 反乱の首謀者を生かしておく甘い国家など、どこの世界にも存在しないのだから。


「その前に、クーデターに成功したニュルンベルク公爵によって妾たちが綺麗サッパリ討伐される可能性もあるがの」


「縁起でもない……」


「戦とは、水物な部分もあるからの。確実に勝利できるとは言えぬの」


 中央、東西南部の貴族たちの去就が気になるところであるが、ここでも通信の阻害が祟っていて、まったく情報が入手できていなかった。

 

「あてにはできまい。新陛下即位のためにバルデッシュにいた連中は、クーデター軍に捕らえられるか殺されているであろう」


 ニュルンベルク公爵が北に向けて討伐軍を送る前に、北方諸侯の取り纏めをテレーゼが行う。

 まずは、それを急ぎ行うことがなによりも重要であろう。

 幸いにして、北方諸侯の大半は新皇帝が即位した日か翌日には帝都を発っている者が多かった。

 みんな領主として忙しく、移動にも時間がかかるからだ。

 俺が思っているほど、在地貴族は暇ではないらしい。


「しかし、困ったものじゃの。通信の妨害は」


 俺たちが持っている魔導携帯通信機は、大分帝都から離れたがいまだにウンともスンとも言わない。

 妨害可能な魔法が限定されている分、かなり効果範囲が広かった。

 この分だと、ヘルムート王国でも北部は通信機や魔導飛行船の運用が不可能になっているはずだ。


「バウマイスター伯爵領が心配ね」


 イーナの言うとおりである。

 もし魔導飛行船が動かせない事態になれば、開発に大きな支障が出るのだから。


「ローデリヒだから、なんとかしていると思うしかないな」


 通信できないのが、こんなにもどかしいとは思わなかった。

 無謀なクーデターに見えて、実はニュルンベルク公爵なりに勝ち目があるのかもしれない。


「本当、ろくなことをしないな。あの目付きの悪い野郎は」


 しかも奴はイケメンだ。

 それもあって女性からも人気が高いそうだが、それだけで奴は信用するに値しない人間だと思ってしまう。

 決して、顔で負けているからムカつているわけではないのだ。


「私は、あなたの方が一緒にいて楽しいですし落ち着きますから」


「エリーゼの言うとおりよ。私もさすがに、ニュルンベルク公爵が旦那様だとしたら息が詰まると思う」


「イーナちゃんが駄目なら、ボクなんて窒息死しそう」


 エリーゼ、イーナ、ルイーゼは、イケメンではあるが雰囲気が怖いニュルンベルク公爵は苦手だと話し始めた。


「私も食事の量とかで注意されそう。あの鋭い目付きは、見下されている感じがして嫌」


「そうですわね。自分が正しいのだから、『つべこべ言わずに俺について来い!』 という感じの方に見えますわ」


 生まれついての独裁者気質とでも言えばいいのであろうか?

 案外、ヴィルマとカタリーナの意見は、ニュルンベルク公爵の本質を突いているのかもしれない。


「ヴェル様が旦那様の方が断然いい」


「私もですわ」


「みんな。ありがとう!」


 俺は感極まって、五人に次々と抱き付いた。

 俺にも、ニュルンベルク公爵に勝てる部分があったのだ。


「わけがわからん。ニュルンベルク公爵からすれば、ヴェルこそ嫉妬の対象だろうに……」


「そういう内面系の複雑な話はパス」


 俺は、ボソっと自分の意見を述べたエルを、無言で導師の方に追いやった。


「エルヴィン少年よ。男とは、筋肉と甲斐性がすべてである!」


 導師は、狭い馬車の中で無理やり筋肉を強調するポーズを取った。

 狭いし、暑苦しいからやめてほしいな。

 かなり強引な論法だが、なぜか導師が言うと説得力を感じてしまうのだけど。

 しかも、それほど間違っていないという。


「いや、年を取った男だけが持てる、大人の魅力というやつが大切なんだ」


 続けて、すでに魔力が回復したブランタークさんも話に加わってきた。


「正直、どうでもいいです。そう思いませんか? テレーゼ様」


 確かにエルの言うとおりで、こんな時に女性にモテても仕方がないというか……。


「そなたの主人には色々と問題も多いようじゃが、とにかく今は、ミズホ伯国で一息つこうではないか」


 馬車の中でそんな話をしているうちに、馬車はミズホ伯国との領地境に到着した。

 ミズホ伯国は、アキツ大盆地とそれを囲う山脈によって構成されている。

 山脈はさほど標高がないので、馬車も通行可能なように街道が整備されているが、山道の入り口には検問所が設けられていた。

 簡素な砦のような建物の入り口に、警備兵が立っている。

 黒髪、黒目で日本人に似ているが、体の大きさなどはこの世界の人たちの平均と大差がない。

 よく見ると、その服装は江戸時代の侍のような格好で、腰には刀を三本差していた。

 左には日本刀に見える長い剣を二本、右には短い脇差のような剣を一本である。


「三本刀か……。『抜刀隊』が警備に加わっておるの」


「『抜刀隊』?」


「帝国では、戦死者量産部隊と揶揄を込めて言われておる」


 普通の兵士は刀を大小二本しか装備していないが、精鋭である抜刀隊には魔道具である『魔刀』を下賜されているので、三本の刀を差しているそうだ。


「『魔刀』は、高度な魔道具での」


 汎用魔道具で、刀に好きな系統の魔力を纏わせて敵を斬り裂くそうだ。

 

「妾は諸侯軍の合同軍事演習で見たことがある。火の魔力を魔刀に纏わせたサムライが、袈裟斬りで標的の鋼製の鎧を斬り裂くのをな」


「なにそれ、怖い」


「過去の帝国軍による遠征では、千人の抜刀隊に攻撃されて二万人の軍勢が溶けてなくなったとか、そういう話も聞く」


 過去のミズホ国討伐で得た、帝国侵攻軍の末路らしい。

 二万人の軍勢は、一万五千人が死傷して残りは敗走。

 『抜刀隊』も半数が死傷したらしいが、どう計算しても損害比がおかしい。

 誇張かと思ったが、損害を被った帝国軍側の戦史資料なので間違いないそうだ。

 

「アキツ大盆地の外の領地には興味がないが、侵略者には容赦しないというわけじゃ」


「その魔刀を量産すればいいのに」


「無理じゃの」


 帝国とてバカではないので、剣に同じ細工をした魔剣を装備している部隊が存在している。

 だが彼らでは、魔刀の一撃を受け切れないそうだ。

 なんでも、装備品の性能に隔絶した差があるらしい。


「魔刀の一撃は避けるか、ヴェンデリンならば強固な『魔法障壁』が張れるであろう? それしか手がない」


「鹵獲品は?」


「一ヵ月もしないうちに使えなくなるのだ。一度壊れたら、帝国の技術では直せん」


 ルイーゼの問いに、テレーゼは苦笑しながら答えた。

 

「構造が複雑なうえに、定期的に特別なメンテナンスが必要なようでな」


 火・土・水・風とレバーで切り替えて自由な系統の魔力を纏わせることが可能で、他にも込める魔力量を調整するレバーもついている。

 付属している魔晶石に魔力を込めればしばらく使えるが、一ヵ月もしないうちに突然使えなくなって、普通の刀に戻ってしまうそうだ。


「刀身自体の手入れもあるらしいからの。帝国の魔道具職人も解析と複製を試みておるが、大した成果もあがっておらぬ」

 

 その辺の技術は厳重に隠匿されており、それもミズホ人の魔道具製造技術が優れている証拠であった。


「そういう部分も、ニュルンベルク公爵は気に入らないらしいがの」


 国内に巣食う獅子身中の虫なので、ミズホ伯国は排除せねばならない。

 そういう考えを持っているらしく、テレーゼは共闘が可能だと思っているようだ。


「そのミズホ上級伯爵様は、バルデッシュにいなかったのですか?」


「ミズホ泊国は実質別国じゃからの。新皇帝が即位してしばらく落ち着いてから、お祝いの品を持って謁見するのが決まりじゃ」


 その場で、新皇帝から今のミズホ伯国の地位が再承認される。

 これも、新皇帝が最初に行う仕事なのだそうだ。


「よって、他の貴族のように巻き込まれてはおらぬ」


 クーデターは、新皇帝の即位から三日後に発生している。 

 先に領地に戻っていた貴族たちは難を逃れていたが、選帝侯で逃げ出せたのは自分だけであろうとテレーゼは語った。

 

「とにかく兵を挙げねばならぬ。妾が死ぬか、ニュルンベルク公爵が死ぬか。これしか、結論はないのじゃからの」


 俺たちを乗せた馬車は、ミズホ伯国の国境沿いにある砦へと無事に入ることに成功したのであった。

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