第183話 レジャーに出かけてみる(その3)

「エルがちょっと可哀想じゃない?」


「エルは明日休みだから。それとも、イーナが代わりに塗る?」


「さあ、早く遊びましょう」




 イーナも、いくらエルが可哀想でも自分で導師に日焼け止めは塗りたくなかったらしい。

 すぐに話題を切り替えて誤魔化した。


「遊ぶぞ! その前に……」


 今度は屋敷に『瞬間移動』で飛んでから、朝の仕事を終えて待機していたドミニクと新人メイドのレーアを呼び出した。

 彼女たちに、昼食や飲み物などの準備を任せることにしたのだ。


「凄いですね、ドミニク姉さん。プライベートビーチとか」


 海沿いに領地を持っている貴族だと小身でも持っている者は多いが、領内に海がない貴族だと、よほどの大物でなければプライベートビーチを持っていない。

 平民であるレーアからすると、もの凄い贅沢に見えるのであろう。


「レーア、余計なことは言わずに、飲み物と食事の準備です」


「わかりました、ドミニク姉さん」


 男手が少ないので、俺と導師で魔法の袋から取り出したパラソルを立て、リクライニングチェアーを並べ、バーベキューパーティーをするので竈の設置などを行う。

 食材も用意してあり、ドミニクたちは肉や野菜を切ったり、魚を捌いたり、冷たいマテ茶を作ったり、フルーツでシャーベットやジュースなどを作っていた。


「野外のパーティーで高価な魔道具を惜しみなくとは。お館様は凄いですね」


 レーアは感心しているようだが、すべて魔の森の地下倉庫から手に入れた品である。

 あそこの魔道具は、日本の家電製品のようにコンパクトで使い勝手がいいのだ。

 コードがついておらず、自分で魔力を補充して使えるのが尚いい。

 燃費も従来品とは段違いなので、あまり魔力の補充に手間もかからない。

 そういえば、これらを買い取った魔道具ギルドは成果を出したのであろうか?


「拾い物だけどな。仕事の合間に適当に飲み食いしてもいいよ。今日は、他のメイドたちもいないし」


 屋敷内だと他のメイドや使用人たちの手前もあって言えないが、ここには俺たち以外誰もいないので今日は構わないであろう。


「ありがとうございます。お館様」


「今日はラッキーですね、ドミニク姉さん」


「まずは、お館様にお礼を言いなさい!」


「ふえい……ありがとうございますぅ……」


 またドミニクは、レーアの頭上に拳骨を落としていた。

 新人教育って大変だなぁ……。


「ああ……。今度は、六歳の時に家族でピクニックに行った思い出が……」


「覚えているじゃないですか」


「なんと言うか、ドミニクは大変だな」


「仕事の覚えも手際もいいのですが、口の利き方に問題が……」


 ドミニクは、年下の従妹のメイド教育に苦労しているようだ。


「それじゃあ、任せるから」


 ドミニクたちに食事の準備を任せて海に向かうと、俺たちは全員で海に入って泳いだり潜ったりして遊び始める。

 久しぶりの海水浴は心地よく、ヴィルマは深く潜ってエビや貝を獲り始めた。


「この中で一番泳ぎが得意なのは、ヴィルマだな」


「そうみたいですね。あのヴェンデリン様、手を離さないでくださいね」


「エリーゼが泳げなかったのは意外だったなぁ……」


 俺は、エリーゼの手を引きながら彼女にバタ足から教えていた。

 

「海水浴の経験はありますが、女性は砂浜付近で遊ぶだけでしたので……」


 泳ぐという行為自体をした経験がないそうだ。

 貴族の令嬢が泳ぐとはしたないとか、そういうことなのかな?

 

「屋敷にプールでも作って、そこで俺が教えればすぐに覚えるさ」


「ありがとうございます、ヴェンデリン様」


 そのうち、屋敷の庭にプールでも作ろうかな。

 あとでローデリヒと相談しよう。


「ヴェル、このクロールってスイスイ泳げるねぇーーー」


「平泳ぎも楽だわ」


 俺がエリーゼに泳ぎを教えている横では、クロールを速攻で覚えたルイーゼがスイスイと泳いでいた。

 イーナも、ノンビリと楽しそうに平泳ぎで泳いでいる。

 この世界では、泳ぎは古泳法のようなものしか存在していない。

 重い鎧を着ても沈まずに泳げるようにとか、水泳は男性だけのものという認識があったのだ。

 

「ヴェルは、よくこんな泳法を思いつくね」


「子供の頃は暇だったからな」


 実は、前世で中学、高校時代と水泳部だったからだ。

 勿論才能はなく、一通りの泳法はできるが、オール補欠でしたというオチはあったのだけど。

 それよりも、ルイーゼとイーナは凄いと思う。

 一度泳ぎ方をレクチャーしただけで、すぐに俺よりも速く泳げるようになっているのだから。

 運動神経に関しては、二人に一日の長があるようだ。


「そして、カタリーナは……」


「手と足の動きが難しいですわね……」


 彼女も普通に泳げるのだが、新泳法の習得には苦労しているようだ。


「屋敷にプールを作るから、そこで教えるよ」


「ええと……手の動きがこうで……足の動きがこうで……」


 カタリーナの運動神経は、俺とそう違いがないようだ。

 クロールで手を動かすと足の動きが止まり、足の動きに集中すると今度は手の動きが疎かとなりと。

 俺の子供の頃と同じような失敗を繰り返していた。


「泳げなくても、魔法使いには魔法がありますから問題ないですわ」


「それを言うと、それまでなんだけどな」


 空気の泡を作ってその中で水中移動をする魔法があるので、魔力が尽きなければ泳げなくても問題はないと言える。


「せっかくヴェンデリンさんが教えてくれるので、ありがたくお受けいたしますが」


 カタリーナは、そう言いながら俺の手を掴んでバタ足の訓練を続けていた。

 基本真面目なのだ。


「伯父様も、覚えるのが早いですね」


「導師はなぁ……」


 エリーゼは、少し離れた場所で盛大な水飛沫をあげながら泳ぐ導師を羨ましそうに見ていた。

 彼はクロール、平泳ぎ、背泳ぎとすべて無視してバタフライだけを素早く習得したのだけど、随分と型破りというか……。


「大型の魔物が泳いでいるみたい」


 本人は楽しそうであるが、傍から見るとルイーゼの言うとおりで、水生の魔物が接近でもしてくるかのように見える。

 

「話題にしたら、こっちに来たな……」


 恐ろしいスピードでこちらに泳いできた導師は寸前の位置で止まるが、大量の水飛沫が俺たちを襲い、全員が水浸しになってしまう。


「この泳法は便利であるな!」


 導師は、バタフライをえらく気に入ったようだ。


「ところでヴィルマは?」


「確か、素潜りでエビや貝を獲っているはず……」


 そうルイーゼに答えた直後に海面が大きく盛り上がり、ヴィルマが顔を出す。

 その手には、大量の獲物が入った網袋を持っていた。


「沢山獲れた」


「そうか、よかったな」


 ヴィルマにとっては、新しい泳法を習うよりも、遊ぶよりも、ただ漁の成果だけがなによりも楽しみのようだ。

 そのまま砂浜へと上陸すると、袋の中には尋常ではない量のエビ、貝、魚などが入っていた。


「随分といっぱい入っているけど、全部食べられるのか?」


「魔法の袋に入れておけば鮮度は落ちないから、しばらく楽しめる」


「シッカリしているなぁ……」


 ここでちょうどお昼となり、ドミニクたちが準備をしていた昼食をとることにした。

 メニューはバーベキューが主になっており、網の上で焼いた肉、魚介類、野菜などをタレにつけて食べる。


「ショウユダレも、ミソダレも、シオダレも美味い」


 すべて俺が独自に配合をして完成させたものだが、導師は焼けた肉と魚介類にタップリとタレをつけ、タレごと飲むように食べていた。

 塩分摂取量とか、栄養のバランスとかは、導師にとっては知らない子のようだ。

 

「伯父様、お野菜はいかがですか?」


「野菜は後日でも構うまい。今は、肉や魚介類を優先するのである!」


「あまり健康によろしくありませんよ」


 導師がまるで子供のようなことを言い、逆にエリーゼの方がお母さんのようであった。

 もしかしたら、精神年齢が逆なのかも。


「ヴェンデリン様はお野菜も食べていますね」


「そのためのタレだもの」


 前世で高級な食材を使ったタレを作っているメーカーの品をパクったのだが、思っていた以上に調合に苦戦した。

 同じ材料が手に入らなかったり、入っても味が違っていたり、大体の材料が揃っても細かな配合比率で苦労したりと。

 この三種類のタレは、俺の苦労の結晶なのだ。


『そんな細かい配合比率で味が変わるのか?』


 人が苦労してタレの配合をしているのに、エルは横からよく茶々を入れていた。

 タレの配合にケチを付けるとはとんでもない男である。

 だからこそ、導師に日焼け止めを塗る刑を執行したとも言えるのだが。


「確かに、このタレはよくできていますね」


「アルテリオがレシピを売って欲しいだって」


「あの方は商売上手ですね」


「元冒険者だから、目端が利くんだろうね」


「ヴェル様」


 エリーゼと話をしていると、今度はヴィルマが俺に声をかけてくる。


「なんだい? ヴィルマ」


「お腹が溜まらない」


「某もである」


 どうやら導師と共に、肉や魚介類ばかり食べているので炭水化物が不足していると感じたのであろう。


「あれだけ食べて、まだ食べるの?」


 イーナは、二人が焼いて食べたエビや貝の殻が山積みになっているのを見て呆れている様子だ。


「じゃあ、作るとするかな?」


「ヴェルがなにかを作るの?」


「海に来たからには、ちょっと変わったものを食べないとな」


 俺は魔法の袋から鉄板を取り出すと、空いている網と交換して加熱を始める。

 続けて油を引き、刻んだ肉と野菜を入れて炒め、事前に用意していた蒸した麺も加えて炒める。

 味付けにはタレと同じく自作したソースを使い、ほどよく炒まったら皿に載せて紅ショウガと青のりを乗せて完成だ。

 俺は、夏の海の風物詩であるソース焼きそばを作っていたのだ。

 これの再現にも苦労したが、屋敷にいる料理人が優秀なので助かっていた。

 彼らにある程度の説明をすると、蒸し麺、紅ショウガ、青のりなどを用意してくれたのだから。


「別バージョンで、具を魚介にした塩焼きそばも完成だ」


「美味しそうですわね」


 焼けたソースと青のりの香りに、カタリーナも吸い込まれたようだ。


「貴族らしくない料理だけどな」


「ヴェンデリンさん。貴族とは、いかに珍しい料理を食べてパーティーなどで自慢するかですわよ」


 カタリーナは、素早く焼きそばを皿に盛って食べ始めた。

 えらく大盛りだが、いつも気にしているダイエットはいいのであろうか?

 もしかすると、今日はチートデーってことなのか?


「美味しいわね」


「塩味の方も美味しいよ」


「初めて食べる麺料理ですね」


 イーナ、ルイーゼ、エリーゼも焼きそばを気に入ったようだ。


「美味しいけど、足りないからもっと作る」


「作り方は見ていたので、某がやってみるのである!」


 やはり二人には、量が足りなかったらしい。

 ヴィルマと導師は、競うようにして焼きそばを焼き始める。

 麺などの材料は多めに準備していたのだが、それらはすべて鉄板の上で焼かれていた。

 その量たるや、まるで縁日の屋台のようである。

 用意していたすべての食材が鉄板の上で焼かれ、ジュージューと音を立てている。 

 焼けたソ-スの匂いが漂う中、二人は神妙な表情でコテを動かしながら焼き加減を見ていた。


「導師、全部食べられますか?」


「物足りないくらいである!」


「導師様、前にお義父様が腹八分だと言っていた」


「エドガー軍務卿であるか。至言である!」


 などと導師は言っているが、数十玉分の焼きそばをヴィルマと競うようにして食べている人が言っても説得力は皆無であろう。


「よく胸やけしないわね」


 自分は食べていないのに、胸やけでもしたかのようにイーナが言う。

 ただ、さすがに二人とも食後は、砂浜に置いたリクライニングチェアーに寝転がって昼寝を始めた。

 導師から爆音のような鼾が聞こえ、その音量たるや魔物除けにでも使えそうだ。

 奥さんたちは、どうやって一緒に寝ているのであろうか?


「ヴィルマさんは、見た目は可愛いですわね」


 カタリーナの言うとおりで、ヴィルマは小リスのように丸まって寝ており、保護欲を誘う可愛さだ。

 とても、導師よりも食べるようには見えない。

 

「俺たちも少し昼寝でもするか」


「はい、お腹いっぱいで少し眠くなりました」


「こういう時にダラダラ寝られるのもお休みの醍醐味さ」


「そうですね」


 結婚式以来、色々とあって疲れたので、俺たちもリクライニングチェアーに寝転がって冷たいお茶やジュースを飲みながらうたた寝を開始する。


「贅沢な時間ですね」


「そうだな」


 まだ二人とも十六歳なのに、色々と忙しいせいで、エリーゼとはまるで老夫婦のような会話になってしまう。

 地球なら高校生で遊んでいられる年齢なのに、この世界の人間は生き急いでいる人が多い気がするのだ。


「エリーゼがいてくれて助かっているよ。俺は王都の貴族連中のことなんてよく知らないから」


「ヴェンデリン様にそう言っていただけると嬉しいです」


 俺に向けてニッコリと微笑むエリーゼは可愛かった。

 そして、やはり寝転がっても形が崩れない胸は最強である。


「そうね。私は陪臣の娘だから、その方面ではヴェルに助言できないから」


「ボクもだね。今まで世界が違ったからね。カタリーナは見かけだけだし」


「私は没落貴族なので仕方がありませんわね。見かけも宣伝には必要でしてよ。ルイーゼさん」


「確かにそれは言えている」


 イーナも、ルイーゼも、カタリーナも、エリーゼには一目置いている。

 俺がそれを再確認した時には、すでにエリーゼは眠りの世界に旅立っていた。


「疲れているんだろうな」


 俺はエリーゼにタオルケットをかけ、自分もしばしの昼寝を楽しむ。

 そして数時間後、砂浜は夕日で赤く染まり、その美しさを際立たせていた。


「綺麗だなぁ」


 俺とエリーゼたちは、砂浜から見える美しい夕日に感動していた。


「本当に綺麗ですね。ヴェンデリン様」


「また来ましょうね、ヴェル」


「いやーーー、今日は休んだなぁーーー」


「美味しいものが沢山食べられた」


「プライベートビーチ、堪能いたしましたわ」


 かなり長い時間夕日を見てから、俺たちは屋敷に戻ろうと、片づけをしているドミニクたちに声をかけた。

 昼食後は、夕方までに片づけをしておいてくれたら、あとは自由に残った食材を調理して食べていていいからと任せていたのだ。

 ドミニクなら暴走はあり得ないと思ったのだが、あの新人メイドのレーアが片付いた荷物の傍で座り込んでいた。


「この娘はどうしたんだ?」


「お恥ずかしながら、純粋に食べすぎです」


「えっ! そうなの?」


「滅多に食べられない大量の海の幸なので、食い溜めを決行いたしました」


 片付けはちゃんとしたようだが、そこで限界がきて座り込んでいるらしい。


「限度があるでしょうが!」


 これで何度目か?

 ドミニクは、レーアの頭上に拳骨を落としていた。


「ああ……七歳の時に高級なレストランに家族で行った記憶が……」


「だから消えていないではありませんか」 


 真面目なドミニクと面白キャラのレーアとの組み合わせは、まるで漫才コンビのようだな。 

 真面目なドミニクには悪いけど、いい組み合わせに見えてしまう。


「食べすぎなら、胃薬でも飲んでおけば?」


 俺は魔法の袋から、生薬由来の胃薬を取り出してレーアに渡した。


「ああ……お館様のご慈悲がこの身に沁みます……」


「(この娘、面白いなぁ……)」 


 レーアに胃薬を飲ませたあと、俺たちは着替えてから『瞬間移動』で屋敷へと戻る。

 海の塩が体に付着しているので、シャワーを浴びてから夕食をとるためにリビングへと入ると、そこでは分厚い紙の束を捲って読んでいるエルの姿があった。


「エル、なにを読んでいるんだ?」


「軍隊指揮の心得。まずは座学からだって」


「なるほど」


 トリスタンから、軍学書の中から必要な部分だけを束ねたものを貰ったらしい。

 エルはそれを熱心に読んでいた。


「それにしても、今日は酷いじゃないか」


「アレはなぁ……」


 誰もが筋肉ムキムキの導師に日焼け止めを塗りたくなかった結果、ふと頭にエルの存在が浮かんでしまっただけの不幸な事故であると俺は説明する。


「エルも、明日はお休みじゃないか」


「別に、導師の体に日焼け止めを塗らなくても明日は休みだ」


「やはり、それに気がついたか」


「気がつかない奴を、むしろ俺は知りたいわ!」


 確かに、エルの言うとおりである。


「今日のお詫びと言ってはなんだが、代わりに一人女の子を紹介してやろう」


「本当か?」


「ああ、なかなかに可愛い娘だぞ」


 俺は、嘘は言っていない。

 新人メイドであるレーアはドミニクよりも二歳年下だそうだが、スタイルはドミニクにも負けていないし、亜麻色の髪で可愛らしい容姿をしている。

 ドミニクに言わせると、『あの口の利き方がなんとかなれば……』というくらい、実はメイドとしては優れていた。


「本当か? 誰なんだ?」


 あまりに嬉しそうに聞いてくるので、俺はレーアの名前をあげた。

 すると、途端にエルの顔色が曇り始める。


「えっ! あれ?」


「知っていたのか?」


「まあな……」

 

 教育係のドミニクに拳骨を落とされているのを、実際に何度か目撃しているそうだ。

 

「アレ、大丈夫か?」


「ちょっと口の利き方が微妙だけど、とてもいい娘だと思うよ」


 メイドとしての能力は、ドミニクにもそう負けていないはずだ。

 それにあの子はたまにやらかすけど、見ていて微笑ましいというか。

 いわゆる、愛されキャラに見えるんだよなぁ。

 奥さんに向いているように思えるのだ。


「試しに、デートにでも誘ってみたら?」


「うーーーん。考えておく」




 翌日、エルは一人でバウルブルクの街中に休暇に出かけてしまったが、実はレーアもうちに来て初めての休日であった。

 俺は、バウルブルクに出かけるレーアを見送るドミニクを目撃した。

 

「ドミニク姉さん、もし私が街中で男性に声をかけられでもしたら?」


「しつこかったら、警備隊の人に言いなさい。お館様の屋敷に勤めてるといえば助けてくれますから」


 いつも拳骨を落としているが、ドミニクはレーアを可愛がっているようだ。

 初めての休日で街に出るレーアを屋敷の前で見送っていた。


「わかりました。では、早速甘い物の探訪開始です」


「無駄遣いをしないように」


「わかっていますって。お土産を買って来ますね」


 元気に駆け出したレーアの姿が見えなくなったところで、俺はドミニクに、エルにレーアを勧めた件を話す。


「えっ? レーアをですか?」


「エルの親友としては、無理やり彼女を勧めたくないけど、選択肢の一つとしては選べるようにね」


「大丈夫でしょうか?」


 ドミニクに言わせると、あの微妙な口の利き方が気になって仕方がないのであろう。

 もう少し、自分が修正をしてからだと。


「悪い子じゃないし、ああいう明るい子の方がエルには似合うような気がする」


「わかりました。一応、気にかけておくことにします」


 果たして、本当に二人が結婚する未来が実現するのか?

 それは、現時点では神のみぞ知るであった。

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