第180話 新婚生活で秘密が増える

「その『精力回復』だけど、私に使っては駄目よ」


「勿論ですとも」


「奥さんが五人もいるんだから、彼女たちを優先しないと駄目」


「わかってますって」




 無事にエリーゼたちと結婚してから一ヵ月ほど。

 時刻は夕方であったが、俺はアマーリエ義姉さんとの密会をそのまま続けていた。

 どうして二人の秘密の関係が続いているのか?

 『私たちを蔑ろにして、あの方の所にばかり行かないようにしてくださいね』とエリーゼが言っていたから、禁止されていないという意味に受け取り……俺も弱い人間なんだって思ってくれ。

 

「『あてがい女』の私は、ヴェル君の結婚と同時にお払い箱のはずなんだけど……」


「まあ……いいじゃないですか……」


 アマーリエ義姉さんの罪悪感が増すと、向こうから関係を絶たれてしまうかもしれないので、どうにか大義名分を……そうだ!


「俺は大貴族になったので、時に我儘になることも必要なんです」


 俺ほどの大貴族ともなれば、気に入った『あてがい女』との関係を続けたところで問題ない。

 大商人の妻妾が多いのと同じで、むしろその方が世間の人たちも安心してくれる。

 ましてや、アマーリエ義姉さんの元夫クルトは世間の評判が悪い。

 それなのに、甥たちは将来領地を分与される。

 成人するまでの生活費も出しているので、俺とアマーリエ義姉さんの関係が続いていても、誰もおかしいとは思わない。

 そんな言い訳を事あるごとに言い続け、結婚後も関係を終わらせていなかった。

 俺が強引に続けているのだ。

 伯爵様である、今は飛ぶ鳥も落とす勢いの俺が言う我侭なので、周囲はなにも言わない。

 少なくとも表面上はだ。

 裏でなにを言われようとも、そんなことは気にしないのが大貴族。

 前世の大政治家、大物芸能人、大企業経営者、インフルエンサー。

 みんなそうだ。

 ローデリヒも特に気にしている様子がないので、きっとこれでいいんだよ。

 実際、パウル兄さんの領地開発も順調で、成果も出ているのだから。


『その程度のことで、文句を言う輩もおりませぬが……』


 地球では大問題になるかもしれないが、この世界ではおかしいと思われなかったりする。

 むしろ、『自分を殺そうとした兄の妻を養い、その子供に爵位と領地を与える約束までして、バウマイスター伯爵は剛毅なことだ』と思う人の方が多いそうだ。

 前世との価値観の違いにただ驚くばかりであったが、そんなわけで彼女との週に一回の逢瀬は続いている。

 一週間の内五日は順番に妻たちの相手をして、残り二日は自由な日となる。

 その自由な二日の内の一日で、彼女と数時間の逢瀬を楽しむのだ。

 当然エリーゼたちは気がついているが、この時間は黙認されている。

 ただ屋敷に帰らないといけないので、そんなにガッつくようなことはしない。

 『瞬間移動』で王都に移動してデートをしたりすることもあり、これは俺の気休めのためでもあった。

 アマーリエ義姉さんは癒し。

 それはわかるんだよね。


「ヴェル君も変わっているわね。五人も若くて可愛い奥さんがいるのに、こんなオバさんを相手にして」


 本人が言うほど、アマーリエ義姉さんはオバさんでもない。

 二十七歳で二人の子持ちにしては、むしろ若く見える方だ。

 スタイルも悪くないし、肌も綺麗であり。

 今までは、貧しいバウマイスター騎士爵家での生活のせいで少しやつれていただけだと思う。

 なにより、二人だけでいる時には、彼女は昔のように俺を『ヴェル君』と呼んでくれる。

 俺が頼んだのだが、それがよかった。

 最近、『お館様』とか『バウマイスター伯爵様』、『ヴェンデリン様』と呼ぶ人ばかり増えて、なんとなく嫌だったからだ。

 前世が根っからの庶民なので、耳と脳がなかなか慣れないのであろう。

 精神の均衡を図るため、あえてアマーリエ義姉さんにそう呼ばせているとも言える。


「秘めたる愛人である私は、ヴェル君が飽きるまでお相手させていただくけど……」


「貴族ってのは面倒ですね」


「零細騎士であるうちの実家の父でもそうだもの。当たり前よ」


 貴族が多くの奥さんを持ったり、多少の贅沢をする理由がなんとなくわかってきた。

 普段が色々と大変なので、そのストレス発散が必要なのだ。

 それが過ぎて評判が落ちたり、借金で首が回らなくなる人も定期的に出現するけど。


「つまり、ここで息を抜いているとも言います」


「それなら納得できるわね。ええと、私の顔になにかついている?」


 お互いに裸でベッドに寝ながら話をしていたのだけど、アマーリエ義姉さんは俺の視線に気がついたようだ。


「いえね、魔力を計っているのですよ」


「魔力? 私は普通の人と同じよ」


 何度も確認するが、確かにアマーリエ義姉さんの魔力は普通の人と同じであった。

 極微量といった感じで、この世界の大半の人がそうである。

 ブランタークさんに教わらなかったら、『測定』できないレベルだ。


「ですよねぇ……」


「なにかあったの?」


「ええ。漏れると色々と大変な重要機密が。でも、じきにバレるかな?」


「聞かなきゃよかったわ……」


 アマーリエ義姉さんは口が堅いので、俺は結構ポロポロとあまり人に言えないことを漏らしている。

 嫌な貴族の話や、寄生虫のような貴族の話や、しょうもない貴族の話などである。

 あとは、上手く行っているとはいえまったく不満がないわけでもないので、奥さんたちへの軽い愚痴もたまに聞いてもらっていた。

 そういう面でも、俺はアマーリエ義姉さんを必要としているのだ。  


「実はですね……」


 俺は、新婚直後に発覚した事実を話し始める。




 あれは、エリーゼとの初夜を終えた翌朝のことだ。

 風呂からあがり、朝食をとるために食堂へと向かうと、屋敷に泊まり込んでいたブランタークさん、導師、カタリーナが一斉にエリーゼに詰め寄っていた。


『あのよぅ、少し魔力が上がっていないか?』


『某もそう思うが……』


『私でも気がつきましたわ』


 昨夜から完全に舞い上がっていた俺も、急ぎエリーゼの魔力を計り始めるが、確かにわかるくらいには魔力が上昇していた。

 中級の上の魔力を持っているエリーゼは、幼い頃からの訓練と、『治癒』と『浄化』の連続行使で、十一歳の頃には魔力の増加が止まっていた。

 『聖女』としての魔法による治療行為で忙しく、早めに魔力の成長限界が来てしまったわけだ。

 それが、十六歳近くになってからまた魔力量が成長したのだ。

 普通に考えれば、まずあり得ないことであった。

 器合わせの定義をかなり無視しているからだ。


『『なにをした?』って、『ナニ』をしたわけだな』


『あの……その……』


 ブランタークさんによる、年齢相応の下品なダジャレが飛び出した。

 恥ずかしさからエリーゼが顔を赤らめていて、実はその様子を見てニヤニヤしている俺も同類なのかもしれないが。


『お師匠様、下品ですわよ』


『すまないが、それが原因の可能性が高い』


 カタリーナの非難を制しつつ、ブランタークさんは一つの可能性を提示した。


『つまりだ。伯爵様とそういうことをすると魔力が増えるわけだな。なぜかとか、細かな条件はわからないがな。原理とかは聞くなよ。そういうのは、王都にいる骨董品のようなアカデミーや魔導ギルドで調べる類の案件だ』


 ブランタークさんの推論とその可能性の高さに、俺たちの間で衝撃が走る。

 そういうことをすると、女性の魔力が上がる?

 また面倒事が増えたのではないかと。


 



「それで私の魔力を見ていたの? でも……」


 もう数ヵ月もこういう関係を続けているが、アマーリエ義姉さんの魔力量に変化はなかった。

 ということは、微量でも魔法の才能がないと魔力量は増えないというわけか。


「残念ね。魔法使いになって、なにかできたら面白かったのに。それで他の奥さんたちは?」


 俺に質問しながら、アマーリエ義姉さんは魔法使いのように両手を出して『エイヤー』などとやっている。

 その様子を見ながら、俺はちょっと可愛いと思ってしまう。


「大変だったんじゃないの?」


「まあ、それなりに……」

 

 そしてその可能性が示唆されてから、俺は異常に忙しくなった。


『ヴェンデリンさん、遠慮なくどうぞ』


『魔法使いたい』


『魔力が増えれば、ボクにも『ファイヤーボール』とか使えるかも』


『私だって、その可能性は……』


 それが原因で、完全に肉食系にチェンジした四人の相手で大変だった話をアマーリエ義姉さんにする。

 肝心の効果であったが、四人ともブランタークさんの予想どおり魔力量が増えていた。


『ヴェンデリン様、あまり無理をなさらないでくださいね』


 正妻であるエリーゼは唯一優しかったが、やはり胸が大きいので俺はその誘惑に負けてしまう。

 間違いなく、あの胸がいけないのだと思うのだ。


『ヴェンデリン様、お疲れではないですか?』


『そのために、回復魔法もある』


 そんな理由で、週に五日は夜も忙しかったわけだ。


「それは欲望に負けたヴェル君が悪いというか、エリーゼさんは正妻なのだから早く子供を作らないと」


「ですよねぇ」


「それでイーナさんもなの?」


「イーナは、無意識に魔力を槍術や身体能力強化に使っていましたから」


 普通の人でもそれは無意識にするのだが、イーナはそれよりもほんの少しだけ多く魔力を行使していた。

 ブランタークさんによるとギリギリ魔法使いとも言えなくはないとの話で、実際翌朝には大分魔力が上がっていたのだ。




『イーナちゃんの増加量が多いね』


『魔力が少ない人の方が、同じ回数をしても増加量は増えるのでしょうか?』


 カタリーナの推測は、ほぼ間違っていないはず。

 同じ経験値を得ても、レベル(魔力)が少ない人の方がレベル(魔力)が上がりやすいのであろうと。

 その手の行為で、本当に経験値が入っているのかどうかは不明だが、例えとしてはそうズレた話でもないのか。

 あっ、俺は女性経験が増えて、きっとプレイボーイ、リア充としてのレベルが増した……とは思わないなぁ。


『ヴェル様、私も結構上がった。もっと魔力を上げたい』


 ヴィルマもイーナと魔力の量にそれほど差がなかったので、初回からかなり増えていた。


『ボクも目指せ上級だね。勿論、新婚だから色々と頑張らないと』


 ルイーゼも、まるで肉食獣のように俺を見ている。


『ヴィルマさん。ルイーゼさん。ヴェンデリン様の体力なども考慮いたしませんと……』

 

 治癒魔法の名手で半分医者のような立場であるエリーゼが、元気いっぱいの二人に釘を刺していた。

 俺が腹上死でもしたら大変だからであろう。


『イーナさんもですよ』


『あれ? 私ってガッついているかしら?』


『イーナちゃん、魔力量が増えてもの凄く嬉しそうだもの』


 実際に効果があったのでというわけでもないが、この一ヵ月は新婚期間でローデリヒが休みを多くしている。

 魔法の鍛錬と、普段よりも少なめな土木工事や魔の森での狩りの間に、またドミニクが絶句するような光景が展開されたのである。


『エリーゼ、それは?』


『ヴェンデリン様の体調なども考慮して、しっかりと予定を立てておきました』


 色欲と自由と捕食の狭間で揺れていた俺に、エリーゼは笑みを浮かべながら夜の予定表を渡した。

 やはりこういう時には、エリーゼの内助の功が際立つわけだ。


『勿論、早く赤ちゃんが欲しいのもありますよ。でも、しばらくは新婚気分もいいですね』


 それが目的の大半であったが、魔力量が増えるのを嫌がる人はあまりいない。

 そのせいで、色々と大変だったような気がする。

 悪くはない一ヵ月だったと思うのだけど……。




「ヴェル君が色に塗れたわけね」


「はっはっはっーーー。男ってのは、女か、酒か、金のどれかで身を持ち崩す生き物ですから」


「聞いたことないけど、納得はできるわね」


 とにかく、この一ヵ月は大貴族らしく色欲に溺れていたといっても過言ではない。

 エリーゼたちのみならず、アマーリエ義姉さんとの密会も行っていたからな。

 人間の欲とはキリがないのかもしれないと思いつつも、やめるつもりはさらさらないけど。

 

「それで、どうなったの?」


「それでですね……」


 この一ヵ月で、奥さん全員の魔力量が大幅に上がった。

 エリーゼは、上級の真ん中程度まで。

 使える魔法の種類は増えなかったが、使える回数と威力が増しているので十分に凄いと言える。


『攻撃魔法が使えればよかったのですが……』


『それは、他の人に任せなよ。回復魔法では、髄一の実力なんだから』


『それもそうですね』


 エリーゼは俺の言葉に納得する。

 次に、ヴィルマの魔力は中級程度まで上がっていた。


『魔法、使えない……』


『使えているじゃないか』


 ブランタークさんが基本的な魔力のコントロールなどを教え、『身体能力強化』と『武器付与』が使えるようになっていた。

 才能の関係で属性魔法すべてに適性がなく、無属性の魔法で体を強化し、武器に魔力を纏わせて威力を高める。

 今までの戦い方を強化する形の進化といえよう。


『ヴェンデリン様、ヴィルマさんが言う魔法とは、『ファイヤーボール』のようなものでは?』


『俺もそう思うけど……』


 エリーゼの言うとおりであろうが、こればかりは生まれ持った適性なので仕方がない。

 十分に強くなったのだからそれでいいような気もするが、ヴィルマが心に抱く魔法とは、派手に炎などをぶっ放すものなのであろう。

 世間一般ではそういうイメージが強く、見た目が重視されるわけだ。


『魔力量は増えたんだけど……』


 ルイーゼも、魔力量がブランタークさんとほぼ同じレベルにまで増えている。


『でも、使える魔法は増えなかった』


『魔力量と、使用可能魔法の才能は別だからな。強くなったからいいじゃないか。魔力量でも俺に追いついているし』


 魔力量でほぼ追いつかれたブランタークさんは、苦笑しながらルイーゼを慰めていた。

 

『カタリーナの魔力量は凄くない?』


『ちょっと前の導師に匹敵しているな』


『ですが、使える魔法は増えませんでしたわ。魔力量の増大はありがたいですけど……』


 カタリーナの魔力量も、かなり増えていた。

 元から魔力量があると、増える量も上がる?

 それは関係ないか。

 ただ、やはり使える魔法は天性の才能に依るようで、カタリーナほど最初から魔力が多いと新しく使える魔法は増えないようだ。

 最初から彼女ほど魔力があると、魔力不足で使えない魔法などないのだから。


『そして、イーナか』


 そして最後にイーナであったが、彼女が一番劇的に変化したかもしれない。


『ブランタークさん、この『火炎槍』って凄いですね』


『繰り返し練習して習熟度を増してくれよ』


 中級レベルまで魔力が上がったイーナは、『身体機能強化』と『属性槍術』の魔法を覚えていた。

 後者はその名のとおり、槍の穂先に属性魔法を纏わせて威力を上げるというものである。

 彼女は『火』と『風』の属性魔法に適性があったが、放出系の魔法が覚えられなかった。

 槍に魔法を纏わせるのは、苦肉の策でもあったわけだ。

 庭にある岩に『火炎槍』『風斬槍』という技をぶつけて、既に岩は切り裂かれ、ドロドロに溶けている。


『凄い威力ね。もっと練習しないと』


『イーナちゃん、楽しそうだね……』


『魔法って、楽しい!』


 いくつもの岩を破壊して喜ぶイーナに、親友であるルイーゼですら若干引いていた。

 よほど嬉しかったんだな。


『でも、槍の消耗が激しいですね』


『回数をこなすと、鉄製や青銅製の槍だと劣化してしまうからな。純ミスリル製の槍なら大丈夫だ』


『早速購入します』


 ブランタークさんが、イーナに武器を変えるようにと指導する。

 こんな感じで、新婚期間は『妻強化月間』でもあったわけだ。

 俺も『精力回復』の名手になっていたが、これってあまり他人には自慢できないよな。

 年配の貴族たちに頼られそうなので、これは隠さないと。




「それって、大変じゃない?」


「実はもの凄く」


 導師とブランタークさんの分析によると、微量でも魔法使いの素養がある女性が俺とすれば魔力が増える可能性が高い。

 使える魔法の種類は、本人の才能に準拠する。

 今までは魔力が不足していて発動しなかった魔法が使えたイーナを見れば、それは一目瞭然であった。

 どの程度魔力量が増えるのかは、これも本人の才能次第だと思われる。

 器合わせで魔力量の増加が止まった人でも、糊代が残っていれば魔力量はさらに増える。

 一ヵ月ほどで五人の魔力量の成長は一回止まったが、また増える可能性もあるのか?

 要調査継続であったが、これは夫婦関係が続けば簡単に観察可能であった。


「外部に漏れると大変じゃない?」


「ええ……内緒でお願いします」


「お義父様にも言えない……」


「父上にはやめてください。卒倒します」


 母と同じく小市民的な貴族なので、その話の重さに耐えられないであろうからだ。


『つうか、一ヵ月でこんなに魔力量が上がったのか……。絶対に他の魔法使いが見ればバレるな。どうしたものか……』


 魔力量が増えたエリーゼたちに指導をするブランタークがため息をついていた。

 普通ではあり得ない短期間での魔力量の増大と、一旦成長が止まった魔法使いの魔力量の増大。

 他所の魔法使いが知れば、俺に疑念を抱くのは確実だからだ。

 すでにブランタークさんは主君であるブライヒレーダー辺境伯に、導師はもう陛下に報告しているが、これからどうしたものか。


「ヴェル君、大丈夫?」


「逆においそれとは漏らせないでしょうけど、どうなるんでしょうね?」


「確かに、わからないわよね」


「ええ……」


 もし世間に漏れれば混乱は必至だが、永遠に隠し続けるのも難しい。

 よって、現時点で知っているのは導師と陛下だけ。 

 ブライヒレーダー辺境伯家でも、知っているのはブランタークさんとブライヒレーダー辺境伯本人だけだと聞く。

 あの家の一族や重臣の中には、俺が気に食わない人も多い。

 もし彼らに知られると大変なことになるので、情報封鎖は完璧に行っているとブランタークさんが言っていたな。


「多くの女性魔法使いたちが、『抱いて』と殺到するのね」


 想像するだけで身震いがする光景である。

 創作物なら見ていて笑えるのかもしれないが、自分が実際に押し掛けられるのは堪らない。

 魔法使いの半分は女性で、その中にはおばさんもお婆さんも沢山いる。

 さすがの俺でも……マジ勘弁してください!


「もっと面倒なことがあります」


 イーナの例を見れば、今までは魔法使い扱いされていない人でも、わずかでも魔法使いとしての素養があれば魔力量が上がる可能性があるのだ。

 魔法使い志望者の女性たちが殺到する可能性もあった。

 勿論そこには、おばさんもお婆さんも混じっているであろう。

 他にも、貴族が自分の娘を差し出し、もし魔力量が上がらなければ『傷物にしたのだから責任を取れ』というパターンだ。

 詐欺のような手法であったが、実際に俺が手を出していればおかしな意見でもあるまい。


「それでも、まだ女性ならいいです!」


 魔力量が上がってほしいのは、なにも女性だけではないのだ。




『エルが一番弱くなった。前からだけど』


『よくぞ言ったヴィルマ! ヴェル、俺の尻を!』


『冗談でも洒落にならんわ!』


 ヴィルマの毒舌も大概であったが、冗談でも男の尻を掘る話など御免である。


『俺は、もう今の魔力でいいし……』


『某は、毎日修練して今も魔力が上がっているので問題ないのである!』


 俺も、ブランタークさんと導師とはいいです……。

 そういう創作物じゃないので。

 第一、男を相手にそういうことをしても魔力量が上がる可能性は未知の領域であった。

 というか、その前に試したくもない。


『エルさん。同性愛は異端です。ヴェンデリン様にそういう噂が立つだけでも、処罰の対象になる可能性があるのです』


『すまない……』


 教会関係者であるエリーゼは、冗談でもエルの発言を厳しく糾弾した。

 この世界では、同性愛は洒落にならないくらいに糾弾される。

 貴族でも、下手をすると当主交代か改易の原因になってしまう。

 教会が一部宗派を除いて婚姻が自由なのも、過去に男性神官同士の同性愛が問題になったからだそうだ。


『ヴィルマさんも駄目ですよ』


『エル、ごめんなさい』


『それはいいけど、肝心のヴェルはどうするんだ?』


『隠すしかありません』


 魔力量が上がったのは器合わせをしたからで、理由は不明。

 そういうことにしておかないと、男性魔法使いですら『俺の尻を掘ってくれ!』と押しかけかねなかった。

 想像するだけでも、悪夢としか言いようがない。

 



「本当に聞かなきゃよかったわ」


「漏らさないでくださいね」


「軽々しく漏らせないじゃないの。あと、もう一つ問題があるわね」


「はい……」


 それは、こんな奇妙な能力が判明した俺と魔法の素養がある妻達との間に子供が生まれたら、その子たちは魔力を持っているのではないかと。

 確かに、その可能性がゼロではないか……。


「大変ねぇ……」


「だから、こうしてたまにここに来ているんです」


「納得できたわ。ごめんなさい、週に一度だけだけど、ここではゆっくりしてね」


「ゆっくりします」

 

 そのあとは、膝枕をしてもらった。

 なにもそういうことだけをするわけでは……あとでしたけど。

 それは精神の疲労が癒えたから……そう、アマーリエ義姉さんは俺の心の癒しなのだ!

 俺はまた増えた難題を今は忘れるべく、アマーリエ義姉さんと時間をすごす。

 一時圧し掛かる問題を忘れたところで、そこから逃げられるわけでもなかったのだけど。

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