第169話 お前ら、やっと来たのか……(その3)

「ようこそおいでくださいました、バウマイスター伯爵殿」


「遠慮なくご馳走になりましょう、フィリップ殿」




 約束の日の夕方。

 俺は、ブロワ辺境伯家主催の晩餐会に出席すべく、本陣を出て草原を歩いてその会場であるブロワ辺境伯家の本陣を目指した。

 事前にブライヒレーダー辺境伯に対しその旨を伝え、敵陣へと乗り込むのは俺とエルの他に、モーリッツが指名した四名の護衛たち。

 あとは、女性がいた方がいいだろうと、同じく護衛役も兼ねてルイーゼも参加している。

 彼女なら、もしなにかがあっても、多少の敵なら余裕で打ち倒すであろうからだ。


『エリーゼはちょっと危険だからな』


 俺への毒殺はないはずだが、エリーゼには一服盛る可能性があったからだ。

 毒殺が目的ではなく、未来の正妻であるエリーゼが子供を産めないように毒を密かに盛る。

 滅多なことでは手に入らないが、そういう毒薬は実際に存在するらしい。

 万が一の可能性も考えて、今回はルイーゼが参加していたのだ。


『ボクなら、ある程度の毒薬は察知できるからね』


『なに、その能力?』


 毒を嗅ぎ分けるなんて、まるで某世紀末救世主のようだ。


『武芸をある程度極めると、感覚が鋭くなるんだよ』


 100パーセントではないが、かなりの確率で食事などに含まれる毒は感知可能らしい。

 

『『報告』や『探知』みたいなものか』


『二人で気をつければ、毒を食べさせられることもないでしょう。ねえ、カルラ』


『フィリップ兄様がそこまでしないことを祈ります』


 若干顔を引き攣らせているカルラ嬢を置いて、俺たちはフィリップ主催の晩餐の席に参加する。

 ブロワ辺境伯家が設営した小規模な陣地は、対立する二人のために二つの大型テントが張られていた。

 俺たちが入らなかった方の大型テントには、次男のクリストフがいるのであろう。


「陣地なので、大したものは出せませんが……」


 状況が状況なので、フィリップは二十歳も年下の俺に丁寧な口調で対応していた。

 それに、正確に言えば俺は伯爵で、フィリップは跡継ぎ候補でしかないから、間違ってはいないのか。


「普段は冒険者もしておりますので、お気になさらずに」


「貴殿の実力は、よく理解しているつもりだ」


 ブロワ辺境伯家の長男フィリップは、身長が百八十五センチほどで、よく鍛えられ、引き締まった体の持ち主であった。

 軍事的才能に長けるらしいが、俺たちはブロワ辺境伯家諸侯軍の失態を目の前で見ているので、その話を鵜呑みにするわけにもいかない。

 見た感じは、サッパリとした人であった。

 今回の失態がなければ、普通につき合えたかもしれない。

 エドガー軍務卿や、導師を含むアームストロング伯爵一族と比べると『濃い』人ではないからだ。


『フィリップか? あいつは、優れた将軍候補だぞ』


 晩餐の前にエドガー軍務卿から魔導携帯通信機経由で情報を仕入れたのだが、彼の口からフィリップの悪口はあまり出てこなかった。


『ただ、領主となるとなぁ……』

 

 軍系の法衣貴族としてなら彼はとても上手くやれるそうだが、領地を統治するのは難しい。

 本人もそれは重々承知しているはずだが、自分を次期領主にと望む外戚や家臣たちの前で正直に言うわけにいかないので、表面上は異母弟と争っている風に見せるしかない。

 それが真相なのではないかと、エドガー軍務卿は推察していた。


『それで、あの大事件ですか?』


『アレは、コドウィンが焦ってバカやらかしたんだろうな』


 コドウィンとは、最初の裁定の時に責任者になっていた初老の重臣のことであろう。

 ブロワ辺境伯家の従士長で、娘がフィリップの正妻なのだそうだ。


『外戚として、ブロワ辺境伯家で権勢を振るうですか?』


『大貴族家の重臣にはありがちな夢だよな。それどころか、今の職を失いかねない大失敗を犯して、それをなんとか誤魔化そうとしたんだろうが……』


 それで、百名近い死者を出していれば意味がない。

 いくら外戚でも、あの大失態では彼のキャリアはここで終了なわけだし、今は捕虜になっている。

 ブロワ辺境伯家に戻れば処分されるであろうが、こちらがそれをどうこう言うつもりはなかった。


『王都にいると、俺が積極的に仲介に入れとか無理を言うバカがいて困るよな。ここで、俺がフィリップを手助けなんてしたら総スカンだっての』


 領主になれなくて領地を出たなら、再就職先の世話などで力を貸すが、この状況で下手に介入などしたら、自分にまで火の粉が降りかかってしまうからだ。


『デカい和解金になると思うが、支払うしかないだろう。最悪、資産整理命令もあり得るだろうな。どうせ潰せないんだから、素直に受け入れるしかない』


 『資産整理命令』とは、簡単に言えば一度破産してしまうことである。

 負債が著しいが、王国としても潰すわけにはいかない貴族家に第三者の管財人、この場合は王国から派遣される財務系の法衣貴族を入れ、ある程度借金が消えるまでは予算の執行などに大きな制限がかかるのだ。

 この制度がある理由は、いきなり大物貴族が消えるとその地方が大きく混乱するからである。

 少々甘いような気もするが、『資産整理命令』を受けたその地方の大物貴族など、ただの王国の飼い犬でしかなくなる。

 それに、これが適用されるということは、『お前は、領主としては無能だ』と言われたに等しいのだから。


『次期領主の座は、クリストフに譲るしかないだろう。勝手に自爆したんだから。義父である家臣の暴走にしても、それを抑えられなかった時点で同罪だ。俺が引き受けて、面倒見るのが一番いい手なんだがなぁ……』


 ただ、その手だとフィリップはいいのだが、他の彼を支持してきた家臣たちは最悪失業の危機に見舞われる。

 ゆえに一度それを口にしようものなら、明日にはフィリップの息子を『摘孫だから』という理由で後継者に立て、継承問題が余計にややこしくなるかもしれない。

 エドガー軍務卿は、その危険にも言及していた。


『みんな、頭を抱えているんだよ』


 ブロワ辺境伯家を潰して、そこを直轄地にするなり、他の貴族を転封するにしてもしばらくは混乱が避けられない。

 利益どころか持ち出しの方が多いはずなので、中央の大物法衣貴族ほど実は取り潰しが嫌だったりする。

 これが小物なら、躊躇なく取り潰しなのであろうが。

 日本で言うと、○京電力や○イエーは簡単に潰せないのと同じ理屈であろう。


『エドガー軍務卿が、代わりに旧ブロワ辺境伯領を治めるとか?』


『そんないきなり、辺境伯クラスの領地なんて統治できるか!』


 侯爵と辺境伯。

 呼び方は違うが同じ階位を持つはずなのに、法衣貴族である侯爵の方が、財力も抱えている家臣の数でも負けている。

 そのため、転封を命じられても統治できるはずがないというわけか。

 むしろ、土着化した元家臣や兵士たちに反抗されでもしたら、余計に混乱が広がる可能性があった。


『(物語みたいに、主人公がいきなり大きな領地とか下賜されても、統治は無理だよなぁ……)』


 うちだって広大な未開地の開発なので、常に人材不足で困っているのだから。

 法衣貴族がいきなり大きな領地を治めるなんて不可能なのだ。


『和解金が高くて嫌とか言うのなら、鉱山とか、税収とか差し押さえてしまえ』


『強硬な意見ですね』


『向こうが完全に悪いからな。俺たちはある程度の規模のブロワ辺境伯家が残って、東部を統括してくれればいいわけだ。多少の縮小と負債には文句は言わないよ』


 こんな話をしたのだが、実はエドガー軍務卿からフィリップ本人には言わないでほしいと頼まれてしまった。

 彼一人だけの問題ならとっとと継承権を放棄して終了だが、家臣たちが絡んでいるので、下手な外部からの誘導は命取りになってしまうからだ。


「さあ、こちらの席にどうぞ」


 フィリップに勧められるまま、俺は準備されていたテーブル席の上座に座り、その隣に妻役としてルイーゼが座る。

 エルは、俺のすぐ斜め後ろに立って刺客などに警戒していたし、他の護衛たちも同じであった。

 このくらいの警戒は、まだ俺たちは裁定案すら結んでいない敵同士なので当然とも言えた。


「まずは、乾杯といきましょう」


 軍人ぽい人なので、ノリが体育系なのかもしれない。

 早速ワインで乾杯してから、コース料理のオードブルからスタートする。

 料理の質などは、野営をしている割には素晴らしいものが出てきた。

 さすがは、東方を統括する『地方の雄』といった感じであろうか。


「東部でも噂は聞いていましたよ。竜を二匹も倒した素晴らしい魔法使いであると」


「最初はたまたま遭遇して、とにかく大変でした」


「古代竜なんて、なかなか遭遇できるものではありませんからね」


 交流目的の晩餐会なので、今回の戦争の話をするわけにもいかず、話は俺の竜退治の話などに移行していた。

 それと、あの貴族なら一度は出ないといけない武芸大会などの話もだ。


「私は予選五回戦で負けました。貴族の息子にしてはマシというべきですか」


 ワインを飲み、次々と出てくるコース料理を食べながら適当に話を続けていく。

 だが、やはり今回の戦争の話はしてはいけないので、俺はなんのためにこの場にいるのかと、疑問に思ってしまう。

 ルイーゼは警戒をしながらも、その小柄な体に似合わずよく食べているし、エルたちも周囲の警戒を続けたままだ。

 ほぼ100%毒殺や暗殺の可能性はなかったが、仕事なのでこれは仕方がない。

 晩餐は最後にデザートが出て終了し、食後にお茶などを飲みながら話をしていると、やはりあの話題が出てきた。

 

「バウマイスター伯爵殿は、うちのカルラを妻にするつもりはないのかな?」


 やはり、カルラ嬢を俺の妻に押し込もうとしているようだ。


「この状況ではブライヒレーダー辺境伯からの反発が強いでしょうし、まず不可能だと……」


 未開地開発の利権の分け前などで、また戦争になりかねない。

 下手をすると、ブライヒレーダー辺境伯からの妨害もあり得る。

 今は俺との関係は良好だが、彼にだって決して退けない部分があるのだから。


「考えてみてくれないかな?」


 強引に押し込もうとすれば問題になるが、ちょうど今カルラ嬢はバウマイスター伯爵家の捕虜となっている。

 扱いはお客さん準拠であったが、どうにか俺に見初められてとか考えているのかもしれない。


「(まさか、それが目的で交渉を伸ばしていないよな?)」


 晩餐は終わり、俺たちは自分の陣地へと戻る。

 そして翌日、やはり今度はクリストフ主催の晩餐に招待された。


「本当に仲が悪いんだな。普通は一回で済ますだろうに……」


 昨日に続き俺の護衛を担当するエルが、他の護衛たちと一緒に溜息をついていた。

 

「今日は誰が行く?」


「勿論、ボクはパスね」


 まだ結婚はしていないが、婚約はしているのでまた婚約者を同伴しないといけないのだが、ルイーゼは昨日出席したので一番先に断った。


「じゃあイーナか?」


「いいけど。あまり料理の味がわからないでしょうね……」


 ルイーゼはある意味天才なので、大物貴族家の晩餐に呼ばれても、警戒を続けながらデザートのお替りをするような図太さがある。

 ところがイーナは真面目なので、こういう席では極端に緊張してしまうのだ。


「なんか嫌そうだな」


「正直ね……」


「俺も面倒なんだよなぁ……。礼儀的に出ないと駄目だから、仕方なく出ているけど」


 美味しい食事ならいつでも食べられるし、どうせまたカルラ嬢を妻にしてほしいと頼まれるだけなので、俺だって食傷気味なのだ。


「ヴィルマは?」


「うちのご飯の方が美味しいからいい」


「さいですか……」


 ブロワ辺境伯家も大貴族なのでいい食事は出るのだが、俺たちと交流がないので醤油、味噌、マヨネーズ、チョコレートなどの新食材や、新しい調理法などに無縁だったりする。

 そのため、食事の内容が王都で出席した貴族主催のパーティーメニューと大差なくて、もの凄く食べたいとは思わないのだ。


「エリーゼは?」


「私は、今回は遠慮いたします」


 普段から未来の正妻であるエリーゼは、俺と同伴することが多い。

 昨日の感じでは毒を盛られる心配はないので誘ってみたが、やはり彼女から断られてしまった。

 実は、もう一つ断る理由があるそうだ。


「エリーゼを連れて行くと、エリーゼが説得されるしね」


 カルラ嬢を俺と結婚させるため、エリーゼの方に説得や工作が及ぶ可能性が高いとルイーゼが説明してくれた。

 将来はエリーゼがバイマイスター伯爵家の奥を管理するのだから、その管理者を説得した方がいいと考えるわけか。


「私が行くと、余計に面倒なことになる可能性が……」


「さて、どうしたものか……」


 勿論もう一人候補はいて、しかも彼女の様子を伺うともの凄く出席したそうな表情を向けてくる。

 なにが楽しくてあんな晩餐に出たいのかは知らないが、きっと彼女なりの楽しみがあるのであろう。


「あとは……」


「仕方がありませんわね。ここは私が……」


「ルイーゼ、二日連続で悪いけど」


「どうして私を見て、またルイーゼさんなのですか!」


 理由は簡単で、カタリーナがあまりに行きたそうなので、ついからかってしまったからだ。


「冗談だよ。でも、そんなに出たいのか?」


「私、そういうパーティーや晩餐とは無縁で……」


 知らないがゆえに、もの凄く憧れているらしい。

 気持ちはわからないでもなかった。

 

「じゃあ、カタリーナに頼もうかな」


「任せてくださいな。私の優雅さで、晩餐会を成功させましょう」


「そういうのじゃないから……」


 なにかもの凄く勘違いをしているかもしれないが、ただ飯を食ってくるだけなので俺はあまり気にしないことにした。

 そして、その日の夕方。

 そろそろ時間なので、ブロワ辺境伯家の陣地へと出かけることにする。

 

「ヴェンデリンさん。お待たせしました」


「おい……」


 なんとなく嫌な予感はしたのだが、カタリーナは恐ろしく気合を入れてめかし込んでいた。

 シルクを惜しげもなく使用したフリフリが一杯ついた真っ赤なドレスに、普段の魔晶石ではなく本物の宝石が沢山ついたカチューシャ、指輪などのアクセサリー類も宝石を使ったもので、ヒールも踵の高いものに変えていた。


「完璧な正装……」


 今は戦時で、しかも野外なので略装でも十分なのに、カタリーナは王家主催のパーティーにも行けそうな格好をしていたのだ。


「私、止めたのよ。ルイーゼも、昨日は略装だったからと言って……」


 カタリーナの着付けを手伝ったイーナが、一人溜息をついていた。

 ルイーゼ、カタリーナ、ヴィルマと。

 三人三様でフリーダムなので、真面目な彼女に被害が及ぶことがたまにあるのだ。


「別に、間違っているわけじゃないからいいか……」


「では、参りましょう」


 カタリーナも嫌々行くのではなく、楽しみにしているのでそれは唯一の救いであろう。

 案の定、踵の高いヒールなので草原を歩くのは難しく、『飛翔』で地面からわずかに浮いて優雅に歩いているフリをしている。

 俺から言わせれば魔力の無駄遣いだが、カタリーナにとっては大切なことのようだ。


「お招きに預かり、ありがとうございます」


 今日はクリストフ主催の晩餐なので出迎えの執事も別人で、どうやら二人は陣地すら二つに割って寝泊りしているようだ。

 非効率だが、仲が拗れているので仕方がないのか。


「婚約者です」


「カタリーナ・リンダ・フォン・ヴァイゲル名誉準男爵と申します。本日は、お招きに預かりありがとうございます」


 野外なので全員略装なのに、一人だけヒラヒラの高価なドレスに身を包んだカタリーナ。

 それだけで完全に彼女は浮いていたが、本人はまったく気にしていないようだ。


「彼女が……」


 出迎えた家臣たちからは、ざわめきがあがる。

 彼女が、ブロワ辺境伯家のお抱え魔法使いたちを捕らえた凄腕だと気がついたからだ。

 一部にガッカリしたような表情を浮かべている人もいたが、彼からすると『苦労して揃えた魔法使いたちが、こんな派手な女に……』と思ったのかもしれない。


「初めまして。クリストフ・フォン・ブロワです」


 初めて見る次男クリストフは、少し線の細い文系肌に見える人物であった。

 あとは、他には特にないというか……。

 普通の中年一歩前の人にしか見えない。


「今日はご招待に預かり、感謝したします」


 早く裁定案に合意してほしいと思うし、どうせカルラ嬢を妻にしてほしいと言うに決まっているので、正直対応が面倒である。

 まさかそれを、口に出して言うわけにはいかなかったが。

 大人って辛いね。


「さあ、席にどうぞ」


 クリストフが、丁重に俺たちを席に案内する。

 座るとすぐに料理が運ばれてくるが、そのメニューはほぼ同じであった。


『同じような料理が出ると思います。歴史の長い貴族家ほど、上客をもてなす食事のメニューは昔から決まっているのですから』


 エリーゼが教えてくれたとおりだな。 

 季節によってや、普段はいくつかのパターンを準備しているところも多いそうだが、ここは生憎野外の陣地である。

 ここでフルコースを出せるブロワ辺境伯家はさすがは大物貴族なのだが、二日連続で同じ飯を食わされる身としては堪らないものがある。


「(せめて、昨日なにを出したのか、兄貴に聞きに行けよ!)」


 それができれば、ここまで兄弟で揉めることもないか。


「さすがは、ブロワ辺境伯家のディナーですわね」


「お褒めに預かり、光栄です。奥様」


「まだ婚約者ですのよ……」


 俺は二日連続でも、カタリーナは初めて食べる料理であり、さらに彼女はこういう席は初めてだ。

 初めて観光地に行ったお上りさんのように、料理に会話にと楽しんでいた。

 奥様と呼ばれて恥ずかしそうにするカタリーナは可愛かったが、少々浮かれ過ぎな彼女に若干クリストフは引いている。

 だが、今日の席では俺にとって都合がよかった。


「(カタリーナ。大いに楽しんでくれ。クリストフが、アレを言い出ださないように)」


 俺の願いは珍しく天に通じ、クリストフは結局カルラ嬢との婚姻話を口にできなかった。

 彼が高名な魔法使いであるカタリーナに話題を振ったために、彼女の大独演会が始まってしまったからだ。


「私が初めて冒険者として狩りに出た時、巨大な熊の魔物が襲ってきました。その時は大いに慌ててしまい貴族に相応しくない失態を冒すところでしたが、咄嗟に竜巻の魔法で上空に舞い上げてから地面に落として倒しました。あの時は、亡くなった両親の顔が脳裏に思い浮かぶほどでして……。他にも多数いた魔物たちも竜巻で吹き飛ばしたら、みなさんが私を『暴風』だと。以前からもそう呼ばれる方が多かったのですが、あの件で西部全体にこの私の名が……」


「ははは……そうですか」


 結局、晩餐会終了まで彼女の独演会は続き、クリストフは肝心の要件を告げられなくて顔を引き攣らせていた。

 間違いなく、俺がこれを予想してカタリーナを連れて来たと思っているのであろう。

 さすがにそれは、俺を過大評価しすぎというものだ。


「今日は楽しかったですわね」


「そうだな、今日はカタリーナに感謝だな」


「へ?」


 なぜ感謝なのかと首を傾げるカタリーナは、やはり少し可愛かった。

 そして、なんの意味があったのか理解できない二日連続の晩餐も無事に終了するのであった。

 ブロワ辺境伯家のメニュー、もう飽きちゃったかも。

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