第123話 バウマイスター領滞在と、クルトとのトラブル(その5)

「ようやく、神の元に帰することができる者たちを送り出すため、それを行った者たちに明日を生きるための糧を与えるため。ささやかながらも、このような食事が提供されることとなりました」


「別にささやかじゃないよな? 頑張って食材を確保したのにさぁ」


「ヴェル、しっ! 言葉の綾なんだから」


「おほん、なにか?」


「いいえ、なんでもないです(ヴェルのせいで、俺が怒られたじゃないか!)」


「(俺のせいか?)」


「(お前ら、静かにしろ)」





 夕方になる少し前。

 バウマイスター騎士爵領に戻ると、すでにエリーゼたちが、応援のマルレーネ義姉さんたちや遺族の女性たちと共に食事会の準備に奔走していた。

 大量に肉料理を作り、会場となる借りている家の庭にテーブルを並べていたのだ。


「俺たちも手伝うか」


「その方が、早く宴会を始められるからな」


「重たいものは任せて」


 俺はエルやヴィルマと共に、庭に数箇所石を積んで即席の竈を作り、金網を載せてから炭火で温め始めた。

 バーベキュ-の準備というわけだ。

 

「肉でも焼くのか?」


「肉も焼くけど、今日のメインは今日の収穫物だ」


 温まった金網の上に、今日獲って半割りにしたエビやカニ、貝類、下ごしらえした魚やイカなどを乗せていく。

 ある程度焼けたら、醤油や事前に作っておいた味噌タレを塗って完成だ。

 焼け具合をエルたちに見てもらっている間に、一部の魚を捌いて刺身を作っていく。

 素人調理なので、先日の魔導ギルドのお姉さんよりは下手であったが、多少形が崩れていても味にそう変わりはないはずだ。

 切り分けた刺身は、紫蘇と大根の千切りとワサビを添えて完成である。

 大根は王都より北では普通に流通していたし、紫蘇は胃腸の薬として大都市のほとんどで流通している。

 そういえば赤紫蘇もあったので、それで色をつける梅干の試作も、今とある商家に依頼しているところであった。

 一刻も早い完成が望まれるところである。

 ワサビも、普段王都で流通している西洋ワサビではなく、学名ワサビア・ジャポニカに似たものが山地に自生していると聞いたので、ここに来る前に大量に入手していた。

 ワサビは成長が遅いので、『根が大きいのだけ、高値で買うよ』と言ったら、同業者たちがこぞって持ち込んでくれたのだ。

 自生地が高地で、魔物の領域ではないが採りに行くのが困難な場所だったので、自分で行く時間がなかったからだ。

 自由にワサビも採りにいけないなんて、貴族とは面倒なものだな。


「さてと、刺身の盛り合わせの完成と」


「美味しそう」


「あとは……」


 皿に乗った刺身の半分に、オリジナルの熟成の魔法をかけていく。

 実はこの魔法。

 醤油や味噌を醸造する魔法の仲間で、土系統の魔法に該当する。

 刺身は、獲れたてのコリコリ感を楽しむ人と、二~三日熟成させて旨味を引き出して調理する人が存在する。

 どちらがいいのかはその人次第なので、両方楽しむ方がいい思ったからだ。

 なおこの魔法は、肉の熟成でもエリーゼなどには重宝されていた。

 そして数時間後。

 辺りが完全に暗くなってから料理の準備が終了し、まずは神父様からの挨拶で宴会は始まった。

 彼の挨拶が終わると、エリーゼと一緒に作っていた祭壇に料理が供えられ、ヘルマン兄さんの献杯の合図と共に食事会はスタートする。

 テーブルの上に置かれた大皿の肉料理を中心に、作られた料理が参加者たちに分配され、同じく金網で焼かれた海産物も次々に配られていく。

 領民たちは、遠征で戦死した家族の話をしながら、楽しそうに食事をしていた。


「神父様、料理のお味はいかがですか?」


「この地に赴任してから初めての海の魚ですが、やはりとても美味しいですな」


 もう九十歳近いマイスターと言う名の神父様は、美味しそうに魚を焼いたものを食べていた。

 

「この地に赴任する前、王都でアヒム枢機卿に食べさせてもらったキリですかな。いやはや、長生きはしてみるもので」


 一部古典的な宗派を除き、聖職者が食べてはいけないものは基本的に存在しなかった。

 せいぜい、なるべく人前で酒は飲まない方がいいくらいであろうか?

 なのでさすがに、神父様は酒は飲んでいないようだ。

 ちなみに俺たちも、しばらくお酒は禁止ということになっている。

 あのブランタークさんですら、ハチミツ水や野ブドウジュースで我慢していた。

 念のためではあるが、クルトの暴走に備えているわけだ。

 

「しかし、よくサーペントなんていたよな。無人の浜辺だったからかね?」


 ブランタークさんは、サーペント肉の網焼きを食べながら、中央に置かれたその頭部を感心しながら見学している。

 実は、サーペントの首を飾るように言ったのはブランタークさんであった。

 『坊主は、あのヘッポコ長男とは違う』と領民たちに思わせるには、ちょうどいい証拠となるわけだ。

 実際に多くの領民たちが、サーペントの網焼きを食べながら飾られた頭部を興味深そうに見ていた。

 風聞で聞いている竜退治よりも、実際のサーペントの首の方がインパクトが強いというわけだ。


「あのサーペントの気まぐれだったのかな? もっとも、その気まぐれのせいでご覧の有様ですけど」


 ヴィルマによってあっという間に首を戦斧で刎ねられ、その肉を貪り食われているのだから。

 量が多すぎるということで、急遽食事会に来ていない領民たちにも配られることとなり、領民たちが切り分けたサーペントの網焼きを各家庭に配り始めていた。

 せっかくのサーペントのお肉なので、余って捨てると勿体ないからな。

 決して、領民たちへのアピールではないぞ、多分。


「あのヴィルマとか言う嬢ちゃんは、想像以上にやるな」


「ええ」


「じゃあ、坊主が最後まで面倒見ないとな」


「やっぱりですか?」


 ヴィルマは、エドガー軍務卿が大貴族特有の『なにかに使えるかもしれないから面倒を見ておこう』という性質のおかげで養われていた。

 腕っ節で見ると切り札とも言えるのだが、女性はほぼ入れない王国軍では使えないし、政略結婚で使おうにも、あの食欲のせいで普通の貴族家からは引かれてしまう。

 そこで、冒険者として活動もしている俺に、使える新メンバー兼護衛兼側室候補として送り出されたのが現状だったのだから。


「坊主がいらないと言って戻すと、のちの人生大変だろうな」


 エドガー軍務卿の私的な護衛などができればいいが、よくて成人後に冒険者として一人立ち。

 下手をすると、なにか貴族特有の裏の仕事で使い潰される可能性もあるらしい。


「そう言われると……」


 見た目は可愛らしい少女であったし、今日一緒に漁をしてみて、性格も素直で好感が持てた。

 よく食べるのが難点とも言えたが、そのくらいなら俺ならなんとかなってしまうのだ。


「嫁にするかはともかく、俺の私的な護衛として面倒みます」


 ヴィルマはまだ未成年なので魔物の領域には入れないことになっているが、貴族である俺の護衛扱いなら、特例で魔物の領域にも入れるのだ。

 実力面でいえば、ヴィルマよりも弱い冒険者の方が圧倒的に多いはず。

 その点では、問題になるはずもなかった。


「でも、随分と優しいですね」


「俺は子供には優しいんだぜ。知らなかったのか?」


 そういえば、先ほど子供たちに王都で購入したお菓子を配っていたのを思い出す。

 果物以外で甘い物をあまり知らなかった子供たちは、その美味しさに大喜びであった。

 『小父ちゃんありがとう』と子供たちから言われて微妙な顔をしていたが、そこは年相応なので仕方がないと思う。


「坊主はなにか配らないのか?」


「そうですね……」


 せっかくクルトを挑発するために開いた食事会なので、露骨とはいえ子供たちへの人気取りも必要であろう。

 なお、肝心の食事会への参加者であったが、これは六百人を超えていた。

 遺族限定にした割には数が多いような気もするが、別に何親等までの親族と限定したわけでないからだ。

 戦死者の遺族の親戚を否定するわけにもいかず、別に否定する理由もないので、そのまま参加していたというのが現実であった。

 むしろ、多くの領民たちが参加した方がクルトを挑発できるのだから。

 料理がなくなる速度は早かったが、それは事前に想定していた。

 食材は大量にあるので、その都度領民たちが、事前に下ごしらえ、調理していたものを配ったり食べたりしているようだ。

 バーベキュー用の金網では、常に大量のサーペントの肉や魚介類が焼かれている。

 他にも、エリーゼが自作したお菓子や、普段飲んでいるものよりも高級なマテ茶、採取した果物と砂糖で作ったジュース、大人には魔法で自作したお酒なども出され、領民たちは食事会に満足しているようであった。


「では、水飴でも作りますか」


「ああ、あの甘いのか」


 果汁やハチミツや穀物をお酒にする魔法は大分前から普及していたが、なぜか水飴はこの世界では知られていなかった。

 一部醸造元で、アルコールに変わる前の甘い液体をジュースとして販売しているくらいだ。

 なので早速、甕の中に材料である餅米や玄米を入れ、それに魔法をかけて素早く水飴を精製した。

 本当なら結構な手間がかかるのだが、魔法はその辺を省略してくれるのがありがたい。

 すぐに粘度が高い水飴が甕一杯に完成し、それを木の棒に巻いて子供たちに配っていく。


「ヴェンデリン様、ありがとう」


「甘ぁーーーい」


「美味しい!」


 甘い水飴に、子供たちは大喜びであった。


「しかし、よく集まったな」


「ほぼ全員……ではないか。いないのは……」


「クルトの目が気になる連中だろうな」


 ブランタークさんの推論どおりであろう。

 この場にいないのは、遺族以外の本村落の住民たちと一部他村落の保守的な人たち。 

 あとは、どうしても仕事が忙しくて来れなかった人たちくらいであろうか?


「それで、これからの展望は?」


「相手次第ですね」


 ここで一時的にクルトが次期領主になって安定したにしても、それは将来の混乱の原因にしかならないはず。

 そのため、彼には強制隠居をしてもらう予定であった。

 今の領地と一部未開地をヘルマン兄さんが相続し、残りの未開地は俺が金をばら撒いて開発を進める。

 ただし俺は軽い神輿でしかなく、あまり口は出さないで冒険者としてしばらく……できれば長い間活動を続けたい。

 別にそうしたいですと直接相談したわけではなかったが、王国側やブライヒレーダー辺境伯もそのくらいは察してくれているはず。

 ブランタークさんが特になにも言わないのは、彼もそういう認識なのだと思う……そういうことにしよう。

 その目的のため、彼は昼間、魔法で気配を消しながらクルトにくっ付いてその行動を監視しているはずなのだから。

 そして彼は、ブライヒレーダー辺境伯からの命令に従っているはず。


「(クルトの暴発をみんなが待っているのか……。ある意味、哀れでもあるな……)」


 とはいえ、実家絡みでこれ以上の面倒事はゴメンである。

 ここは、心を鬼にして彼を排除する必要があった。


「明日から、また挑発の日々だな」


「挑発ですか……柄じゃないですね」


「だからちゃんとやって早く終わらせる。違うか?」


「結局、それが一番の近道ですか……」


 ブライヒレーダー辺境伯が、遺品の選別や素材の査定を終了するまでには時間がかかる。

 とはいえ、どうせクルトが五日以内に暴発するとも思えないので、しばらくは領内に留まり続けるしかないな。

 俺は魔法で魔の森に行けるので、そこを拠点とする専属冒険者としてしばらく活動する予定だ。

 魔の森で採取可能な貴重なものを求める冒険者ギルドや、王都の名だたる大商人たち、そして多くの貴族たちがそれを望んでいるからという名分で。

 封建的な田舎の人たちには、そういう上の存在を匂わせた方が話が早く進むからだ。

 すでに条件面などは、ブランタークさんが密かに父やクラウスと相談して決定しているそうだ。

 うるさいだけのクルトは、その席からすでに排除されている。

 いても邪魔でしかしないと、父が判断したからであろう。

 他にも、領内での定期的なバザーと、領民たちから売れる品の買い取り業務なども行う。

 そしてそれを行う俺たちを、休職を延長したパウル兄さんたちや、ヘルマン兄さんの一家が補助することが決まった。

 普通に考えれば、領内の経済発展のために商売もする冒険者とその護衛を受け入れ、従士長の家にその手助けを命じたとも言えるが、内情はある種の下克上フラグとも言える。

 多分王国としては、とっととクルトに暴発してほしいのであろう。

 そしてそれを、なるべく犠牲を出さないように俺たちが鎮圧する。

 父は……もう抗えないと理解したのであろう。

 気に入らないクラウスの筋書きどおりだが、それに逆らってクルトを庇えば、バウマイスター騎士爵家が消え去ってしまうのだから。

 残念だが、すでにそういうシナリオになっているのだ。


「とにかく、なるべく早く冒険者本来の生活にですね……」


「坊主は拘るなぁ……」


 そんな話をしていると、突然宴会をしていた領民たちが騒ぎ始める。  

 なぜなら、会場にクルトの奥さんであるアマーリエ義姉さんが姿を見せたからだ。

 しかも、彼女とクルトの子供であり、クルトの次の領主と見なされているカールとその弟であるオスカーも連れてだ。


「へえ、大胆な奥方だな」


「いや、そういう女傑タイプの方じゃないんですけど……」


 うちよりはブライヒブルクに近いところに領地がある騎士爵家の次女で、降家の可能性も考慮し、読み書き計算などの教育をちゃんと受けていた大人し目の女性。

 それが、俺の彼女に対する印象であったからだ。

 あと、エーリッヒ兄さんが家を出た後は一番話が合う人でもあった。

 あまり馴れ馴れしく話すとクルトが怒りそうなので、それほどよく話したわけではないけど。

 

「お久しぶりです、バウマイスター男爵様」  


「こちらこそ。アマーリエ義姉さん」


 確か、今年で二十六歳のはずであったが、見た目はもう少し若く見える。

 そんなに美人ではないが可愛らしい人で、感じがよくて話しやすい人であったのを、俺は改めて想い出していた。


「今回の戦死者遺族慰労の食事会主催に対し、お義父様が感謝をしておりました」


 本来、自分たちが主催しなければならない類の宴であったが、クルトとその取り巻きたちが反対して開くことができなかったのだと、アマーリエ義姉さんは説明した。


「その件に関しては、戦死者の中で最上位者であった前従士長の家族が主催しているので問題はないと思います」


 今回の宴会は、建て前上はヘルマン兄さんの分家が主催している……随分と苦しい建前だけど……俺たちがその手伝いをしているいう名分だった。

 それで問題がないとは言えないが、あまり気にしても仕方のないことであった。

 どうせ裏の目的があるのは俺たちも同じなのだから。


「そう言っていただけますと……」


 アマーリエ義姉さんは、父とクルトの名代扱いのようだ。

 多分、まだ彼女が仲がよかった俺と顔を合わせていないので、父が気を使ったのであろう。

 クルトからすれば、『お前らに送る名代など女で十分』くらいの認識だと思うが、そんな思考すら父に読まれてしまっているようだ。


「では、早速に祭壇の方に……」


 アマーリエ義姉さんは、持参したお供え、花束、供物料などが入った袋を祭壇に置き、連れて来た自分の子供たちと一緒に祈りを捧げる。


「よかったら食事をされていけば。ご子息たちもいらっしゃるのですから」


「ありがとうございます、バウマイスター男爵様」


「はははっ、昔みたいに『ヴェル君』でいいですよ」


「そういうわけにはいきません」


「お互い、随分と立場が変わってしまいましたね」


「ええ……」


 やはり、昔のようにはいかないか。

 すぐに、アマーリエ義姉さんと子供たちに食事やお菓子が提供された。 

 ただ、給仕をしているマルレーネ義姉さんたちの表情は複雑だ。

 外から嫁いで苦労しているアマーリエ義姉さん個人に含むものはなくても、彼女はクルトの奥さんなのだ。

 次の次の跡取りとされる甥たちもいて、多くの領民たちの目もある。

 同じ女性として、夫の暴走に巻き込まれつつある彼女が可哀想だとは思いつつも、彼女からクルトに情報が洩れる危険もあるので話しかけるわけにもいかない。

 領民たちも今の領内の状況を理解しているので、不安そうにアマーリエ義姉さんたちに視線を送ることしかできなかった。


「ご活躍ですね」


「ええ。その分、王都の強欲貴族たちに振り回されていますけど」


「それは貴族なので仕方がありません。私の父のような零細騎士ですら、よく嘆いていましたから」


 食事をしながらアマーリエ義姉さんと話をするが、お互いにクルトのことを話すのはNGという空気となり、当たり障りのない話題ばかりになってしまう。

 王都の強欲貴族の話題が当たり障りがないのかと言われると困るのだが、彼らがアレなのは数千年前からなので、一般の世間話に相当するものになっていた。


「俺の甥たちですか。大きくなりましたね」


 家にいた頃は、たまに顔を見かけるだけの関係であった。

 どうせ俺は家を出て行くので、なるべく接しない方がいい。

 当時の父やクルトの考えはこんな感じで、俺もそれを実践していたから、ろくに会話すらしたことがなかったのだ。


「久しぶりなので、急に大きくなったような気がしますよ」


「バウマイスター男爵様も立派になられて。ですが私は年を取りました。子供たちも大きくなり、残る心配はカールとオスカーの将来のみです」


「俺はまだ親になっていないのでよくわからないのですが、そういうものなのでしょうね」


 二人で話をしている間に、エリーゼたちが気を利かせて二人の甥にお菓子をあげて気を逸らせてくれていた。

 

「将来嵐が起きるかもしれませんが、なるべく遠ざかることですね。子供たちを連れて」


「やはり避けられませんか……」


 アマーリエ義姉さんは外部の人間であったので、この領地の変わらなさと、クルトたちの偏屈ぶりは理解しているはず。

 そして、以前ならばそれでもどうにか領主としてやって行けたのだが、今では通用しないという現実にもだ。


「ここで一時だけ凌いでも、じきに……」


「そうですね……」


 もうすでに、領民たちの大半は外に目を向けてしまった。

 そして、クルトのやり方ではもう駄目だと気がついてしまっていたのだから。


「子供たちの将来については、いくばくか貸しがある連中がいるのでなんとかさせます」


「ありがとうございます。私は、そのご厚意に縋るしかありません」


「できる限り穏便に済ませるしかないのです。だから俺はそういう風に動きますよ。それだけは信じていただければ」


「私は信じていますから」


 それから三十分ほど世間話に興じてから、アマーリエ義姉さんは子供たちと共に家路につく。

 俺の甥であるカールとオスカーは、俺から竜退治の話を聞き、王都のお土産であるお菓子や玩具などを貰って嬉しそうであった。

 

「おい、なんとかするって?」


「なんとかします。当然、ブライヒレーダー辺境伯様にも……。こっちはやりたくないことをやっているのですから、そのくらいはどうにかしてくれてもいいと思いますよ」


「……しょうがなねえなぁ。途中で坊主に逃げられた困るからな」


 別に、血の粛清をしたいわけでもないのだ。

 クルトさえ強制引退させれば、それで終わってしまう案件である。

 こんなことは性に合わないので、一刻も早く終わって欲しいものだ。


「明日は、魔の森で狩りでもするかな?」


「状況が動かなければ、俺たちは冒険者として行動した方がいいからな。人間よりも魔物の相手の方が楽だって思えるのはどうかと思うぜ」


「ですよねぇ」


 俺は、二人の子供を連れて家路へと向かうアマーリエ義姉さんの背中を見送りながら、なるべく早く事態が収拾するようにと、信じてもいない神に心の中で祈り続けるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る