第119話 バウマイスター領滞在と、クルトとのトラブル(その1)
「無事に到着っと」
「ヴェル、今までに『瞬間移動』でしくじったことあるのか?」
「ないけどな。あーーーあ、ついてしまった」
「それが本音か……」
「ヴェル、エルヴィン。その会話を聞かれたら面倒だぞ。しかし『瞬間移動』ってのは便利なんだなぁ。そりゃあ、王国に目をつけられるわけだ」
実家に関わる様々なトラブルについて、王都まで飛んでエーリッヒ兄さんたちに相談した翌日。
俺たちは、再びバウマイスター騎士爵領に舞い戻っていた。
つい昨日、魔の森で普通の冒険者なら勘弁してほしいと願うレベルのアンデッド集団と二回も戦闘をしたはずなのに、実家のことを考えてたらもうあまり記憶に残っていない。
大叔父のリッチの態度に感動したくらいしか記憶が残らないってどうなんだろう?
彼は理不尽な遠征で命を落とした怒りから、他のアンデッドよりもはるかに早くリッチにまでなっていた。
だが俺が親族だと気がつき、残された彼の家族のことを教えると、一切戦意を消し去ってしまった。
そして、ただ一言『タノム』と。
大叔父の態度に感銘を受けた俺は彼を浄化し、実家の騒動に介入することを決意したわけだ。
その後、王都ブラント邸においてエーリッヒ兄さんと相談してみがた、結局クラウスの言っていることが事実かどうかはわからなかった。
100%真実でも、100%嘘でもない。
こんな感じであろうか?
それに、エーリッヒ兄さんから言われてしまったのだ。
もう俺の影響力が大きすぎて、それが事実かなど瑣末な問題でしかないのだと。
そんなことを調べるのに労力を使うくらいなら、実家を巡るゴタゴタをなんとかすべきであろうと。
確かに、その方が長い目で見たら無駄な労力を使わずに済むことは確かだ。
人に恨まれるてしまうのは嫌という元日本人らしい考え方も、それを貫くと結局なにも解決しないし、今さらクルトに配慮しても彼は俺を嫌ったままだ。
むしろ、将来さらに俺への憎悪を募らせ、なにをしでかすかわからない。
俺は、実家の領地をこの手に奪取する事を決意する。
とはいっても、俺が自分で領地を統治するのは面倒なので、金だけ出してあとは委任作戦で行く予定であった。
前世でいうと、歴史シミュレーションゲームで敵国と接していない領地に、政治能力に長けた部下を太守にして置き。
時間が経つと、あら不思議。
勝手に国力が増して、前線に金と物資が送れるわ。
という作戦である。
別に今の俺に金と物資を送る前線はないので、ただ領地の国力が増せばそれで成功なのだけど。
ちなみにもし失敗したら、さっさとアーカート神聖帝国に亡命する予定である。
もしそうなったら、願わくはアーカート神聖帝国の飯が美味いことを祈るのみであった。
魚介類は美味しいので、あまり心配はしていないけど。
エーリッヒ兄さん達から話を聞いた俺たちは、翌日にバウマイスター騎士爵領に戻ろうとするが、それに合わせて護衛をつけられてしまう。
エーリッヒ兄さんがルックナー財務卿やエドガー軍務卿に話を持って行き、事前に準備もしていたので、すぐにパウル兄さんと五名の護衛をつけられてしまったというわけだ。
しかもパウル兄さんなどは、領地入りを正当化するため、地方巡検視にまで任命される始末。
そこまで用意周到だと、やはり王国は俺の資金を元手に王国南端部の未開地開発を進めるつもりなのであろう。
なるほど、人のお金ならば最悪失敗しても王国の財政は大丈夫なわけだ。
本当に貴族とは、嫌な生き物である。
同時に、クルトの失脚は避けられないだろうなと、俺は思うようになっていた。
彼の敵は俺ではなく、陛下以下王国であり、それに勝利は不可能でも、受け流すことは可能だが、クルトにその能力はないのだから。
翌日の朝。
優秀な護衛たち、聞けばその大半が貴族の子弟らしい。
そしてその中に一人、困った人物が混じっていた。
エドガー軍務卿の遠戚にして、まだ未成年の少女。
見た目は可愛らしいのに、英雄症候群という体質のために怪力を有する、戦斧の達人ヴィルマ・エトル・フォン・アスガハン。
この子はエドガー軍務卿の切り札で、間違いなく俺の側室候補でもあった。
ここに、俺のハーレム伝説がスタートするかもしれない。
前世では一人でも持て余し気味だったので、モテ属性のない俺は正直勘弁してほしいところなのだけど。
「なあ、エリーゼ」
「はい、なんでしょうか?」
予想以上に人数が増えたので、三回に渡ってバウマイスター騎士爵家本屋敷の裏にある森へと『瞬間移動』で到着した俺たちであったが、目下注目の的はヴィルマと言う少女であった。
「あの娘、ちょっとなぁ……」
また『お腹が空いた』が出ると困るので、彼女に大量の飴を渡したのが幸いしたらしい。
ヴィルマは、それを舐めながらパウル兄さんの護衛たちとなにか話し合いをしているようだ。
多分、護衛計画の相談なのであろう。
「確かに少し言動が幼いような気もしますが、とても頭がいい方だと思いますよ」
護衛たちは、俺の身を守るのが仕事だ。
だからこそ五人で集まってその計画を相談しているのだが、ヴィルマもそれに普通に参加していた。
あのエドガー軍務卿の義娘なので、その手の知識と技能もあるのであろう。
最初の印象で判断するのは、大きな間違いであるようだ。
「彼女のことは知っていた?」
「噂くらいですが」
ヴィルマは、アスガハン準男爵家の三女なのだそうだ。
アスガハン準男爵家はエドガー軍務卿の縁戚で、代々軍人家系とはいえ法衣準男爵家なので、ヴィルマは政略結婚の駒に使えるかも怪しい存在だ。
加えて、英雄症候群というハンデも存在する。
「とにかく沢山食べないと飢え死にしてしまいますから。ある程度大きくならないとハンデですね」
武芸を教えて戦わせれば強いのだが、そこまで育てるには普通の子供の何倍もの食費がかかる。
アスガハン準男爵家としても、惜しい才能ではあるのだが、彼女ばかりにお金を使えないという事情もあった。
世間が羨むほど、法衣準男爵家が裕福というわけでもないからだ。
男ならば、その怪力を生かして軍で活躍したり、武芸大会などで優秀な成績を収め、その功績を利用して、どこか娘しかいない貴族家に婿入りするなどの手もある。
だがヴィルマは女性だ。
冒険者として活躍する以外に、彼女のような存在の居場所は意外と少ないのがこの世界の現状であった。
「ただ、あの娘は子供の頃から逞しかったらしいけどな」
「パウル兄さん?」
「この話は、エドガー軍務卿の家臣から聞いたんだ」
ヴィルマは頭も悪くなかったので、実家にあまり迷惑をかけたくないと思ったらしい。
十歳くらいになると、家に置いてある武器を持ってエドガー軍務卿の屋敷に向かったらしい。
自分の怪力を見せて、彼に売り込みに行ったのだ。
女性なので扱いに困るところであったが、エドガー軍務卿くらいの大物貴族になると持ち駒は多いに越したことはない。
「エドガー軍務卿としては、なにかに使えると思ったんだろうな。教育と鍛錬をして食べさせていたと」
その怪力に見合った戦斧術を会得させ、他にも勉学や食費などで面倒を見ていたらしい。
そして今、彼女の最も有効な使い道が見つかったと言うわけだ。
現在の俺に、あまり露骨に女性を近づけさせようとすると、ホーエンハイム枢機卿から文句くらいならいいが、嫌われる可能性が非常に高い。
だが、護衛兼冒険者メンバーとしても通用する女性ならば、名分が立つので彼でも文句は言いにくいわけだ。
「今のヴェルは、冒険者でもある。そこに、政略結婚用の貴族のご令嬢なんて連れて来ても無駄だろう?」
「確かに、ただの邪魔にしかならないですね」
今は実家の件で寄り道しているが、これからはパーティメンバーで王国各地に出かけて冒険者としての仕事をする予定なので、深窓の令嬢などを紹介されても困るのだ。
「その点ヴィルマなら、まったく不自然じゃないわけだな」
冒険者として魔物の領域に入っても戦えるし、今回のような護衛にも使える。
パーティメンバーとして俺に推薦するのに、最適な人材というわけだ。
「というわけで、ヴィルマはヴェル付きにすることが決まったから」
「はあ……わかりました」
パウル兄さんと話をしている間に、五人での相談は終わったようだ。
五人共、俺を護衛するのが任務なのだが、パウル兄さんには地方巡検視の仕事があることになっている。
とはいえ、これまで一度も来たことがない地方巡検視が俺たちと一緒に姿を見せ、しかもその団長はパウル兄さんなのだ。
いくらクルトでも、額面どおりに受け取るはずがなかった。
俺とパウル兄さんが王国政府と手を組み、自分を次期領主の座から引きずり降ろそうとしているのだと気がつくはず。
ある意味パウル兄さんは、王国からの宣戦布告の使者でもあったのだ。
「親父は知らんが、クルト兄貴の恨みは俺にも向く。そうなると、ヴェルへの圧力も減るわけだ。俺の仕事の一つだ」
ともかくまず最初に、俺とパウル兄さんは父やクルトに挨拶に行かなければならない。
いくら身内同士でも、地方巡検視と視察される領主としての公の挨拶が必要だからだ。
「ジークハルトたちは警備隊に所属しているし、貴族の子弟ではあるから団員に任命されている」
なので、パウル兄さんと一緒に挨拶に行かなければならないのだ。
「ところが、ヴィルマは正式には軍人ではないのさ。まだ未成年だからな」
「私は、バウマイスター男爵様の私的な護衛」
俺から貰った飴をバリバリ食べながら、ヴィルマは自分の役割を語った。
しかし、よく虫歯や糖尿病にならないものだ。
「あと、必要に応じて伽もする」
「それは、あとで要相談ということでお願いします」
「バウマイスター男爵様がそう言うなら」
ヴィルマは、意地でも伽をするとは言わなかった。
あまり意味がわかっていないのか、強引に押すのはよくないと考えたのかは不明であったけど。
話が終わると再び飴をバリバリと食べ始めるが、舐めるのではなく、まさしく食べていたであった。
「その飴、美味しいか?」
「前から食べたいと思っていたお店ので美味しい。自分では買えないから」
王都にある貴族御用達のお店の飴なので、ヴィルマはこれまでに食べたことがなかったらしい。
実家でも、お世話になっていたエドガー軍務卿にも、そんな贅沢は言えなかったのであろう。
そう思うと、この娘が少し可哀想になってしまう。
これが、エドガー軍務卿の狙いであったとしてもだ。
「ただ、飴は舐めた方が美味しいと思うな」
「次からそうする、お替り」
「どうぞ」
俺は再び大量の飴をヴィルマに手渡す。
まだいっぱいあるので構わないけど。
とにかく、全員の移動と事前の相談が終了したので、合計十二名にまで増えた俺たちは、バウマイスター騎士爵領本屋敷裏の森を出て、父やクルトに元に急ぐのであった。
「パウル……いや、バウマイスター卿でしたな」
二年ほど前、ヘルムート兄さんの王都バウマイスター家婿入りとほぼ同時に、パウル兄さんも法衣騎士爵位の爵位を与えられている。
なので父は、実の息子相手に同爵位の貴族を相手にする時の口調に徹していた。
しかし、俺の男爵家に、王都の本家、新法衣騎士爵家、そしてこの領地と。
まるでアメーバーのように、バウマイスター家の数が増えたものである。
先祖がこれを知ったら、さぞや驚くであろう。
「お久しぶりです。実は、先日王国から地方巡検視に任じられまして」
王国政府から、領地が開かれてから百年以上も経つのに、いまだに一度も巡検視が行っていないのはおかしいことであると。
だが、視察にかかる時間などを考慮すると、そう簡単には巡検視は送れない。
そこで、魔法で移動可能なバウマイスター男爵を移動役に、現地の情勢に詳しい王都警備隊所属のパウル兄さんを巡検視に任命した。
と説明しながら、パウル兄さんは王国政府発行の正式な巡検視への任命状と、父に宛てた王国政府からの巡検視への協力命令書の二枚を見せていた。
「これはオフレコですけど。地方巡検視の実情は噂どおりなので、そこまで警戒をする必要はないかと」
「我が領地では、滅多に犯罪も起きませんからな」
「それは私でも知っていますから」
パウル兄さんと父との間で、白々しい会話が続く。
パウル兄さんたちがこの領地にやってきた理由など、パウル兄さん自身も含めてわかりきっていたのだから。
「それで、隣の男爵殿」
「なにか御用でしょうか? クルト殿。俺はバウマイスター卿とパウル殿とのお話が終わってから、自分の仕事の件について報告する予定なのですが……」
パウル兄さんの顔を見てから余計に顔を渋くさせているクルトであったが、今度は俺にその来訪目的を聞いていた。
昨日の今日なので、例の任務が成功したのか?
それとも失敗したのか?
そのどちらかしかないのだが、仕事に関する報告をする義務があるのは父であり、お前にそれを報告する義務はないといった表情をクルトに向けておいた。
「バウマイスター男爵殿は、もう仕事は終わったのですか。さすがと言いますか、早いですな」
「仕事は無事に終了しました。バウマイスター騎士爵家諸侯軍の遺品の回収にも、粗方成功したはずです」
「そうですか」
「遺品に関しては、遺族の方に見てもらうしかないでしょうね」
父とパウル兄さんとの話が終わり、今度は俺の番になった。
仕事が無事に終わったことを報告し、回収した遺品を遺族に返す必要があるのだけど、確認のためどこかに遺族たちを集める必要がある。
確か、バウマイスター諸侯軍の犠牲者は七十七名だったので、その遺族が全員集まれる場所となると、先にバザーを行った広場くらいしかない。
そして広場を使用するには、父の許可を得なければならなかった。
「遺族たちには夕方にでも集まってもらい、そこで遺品を見てもらうということですな?」
「その方法が一番いいと思います」
「いや、必要ない。それらしいものはすべて置いていけ」
「はあ?」
せっかく話が纏まりかけたところで、またしてもクルトがアホみたいなことを言って妨害してきた。
「うちは貧しい農村なんだ。先日のバザーもそうだが、そう簡単に領民たちを集めろとか言われても困る。遺品の照会作業は俺がやっておく」
「それはお断りします」
「なんだと!」
「怒るようなことですか? クルト殿が十五年前に出兵した領民たち七十七名分の遺品を正確に見分けられるというのであれば、一番楽なので預けます。ですが、そんなことはまず不可能でしょう。遺族に見分けてもらうしかありませんよ」
「くっ……」
怒るということは、なにかやましいことを企んでいるとしか思えなかった。
あと、せめて自分の意見を通したかったら、ちゃんと俺に反論してほしい。
そもそも、俺の依頼者はブライヒレーダー辺境伯である。
彼が遺品を遺族の元へ返してほしいと言っている以上、それが完全に履行されるかどうか、自分で確認する必要があったからだ。
もしクルトに任せた結果、彼がすべて自分のポケットに入れてしまったら、俺ばかりでなくブライヒレーダー辺境伯の評判まで落ちてしまうからだ。
あんな錆びた武器や防具を遺族たちから搾取しなくてもと思うのだが、他にも領民たちのサイフなどもほぼ全員分確保できている。
どうも遠征先で狩りの成果があったようで、先代ブライヒレーダー辺境伯から臨時報酬を得ていたらしい。
思った以上に、銀貨などがビッチリと詰っていたのだ。
「(遺品のサイフの中身までネコババかよ……)俺は、ブライヒレーダー辺境伯様から、責任を持って遺族に直接返すようにと言われているのです」
「貴様! 俺はこの領地の!」
「次期当主就任予定者ですよね。バウマイスター卿?」
俺の皮肉を込めた一言に、クルトはさらに顔を真っ赤にさせる。
そして、その状況がよくないと思ったのであろう。
珍しく父が先に俺に話しかけて、言い争いになるのを止めた。
「遺族を呼んで遺品を見せるのは構わないが、本当に判別がつくものなのか?」
「実は、ブライヒレーダー辺境伯家諸侯軍よりも楽に」
ブライヒレーダー辺境伯家諸侯軍の場合、先代当主、幹部連中、魔法使いなどは装備の差で判別が容易であった。
ところが一般兵士ともなると、全員が同じ装備品なので誰のものかの判別が非常に難しい。
逆に、バウマイスター騎士爵家諸侯軍の方は判別が容易だ。
みんな、統一されていないバラバラの装備であったからだ。
金があるブライヒレーダー辺境伯家の装備が統一されているから見分けがつかず、金がないバウマイスター騎士爵家の装備品が統一されていないから判別しやすい。
なんとも皮肉な話ではあった。
「わかった。許可をしよう。遺族たちには、夕方にでも広場で遺品を見に行くようにと伝えておく」
夕方なのは、農作業を終えてからということであろう。
仕事中に遺品を見に来れるほど、この領地に余裕はないだろうからな。
「この領内にはいないと思うが、遺族に成りすまして遺品を持ち去る輩が出る可能性もある。その他トラブルと一緒にこれを防ぐため、クラウスを使うといい」
父は少しだけ表情を曇らせながら、俺にクラウスを助けに出すと伝えてくる。
父とクラウス。
過去の因縁などもあり、その関係が良好とはとても言えない。
だが能力的に考えて、父は使わざるを得ないというのが実情なのであろう。
もしこの仕事をクルトに任せると、トラブルしか起きないのは明白で、だからクラウスなんだと思う。
父は、次第に自分の言うことを聞かなくなってきたクルトに思うところがあるようだ。
「今日はこんなところかな? 巡検視殿は、私の案内で領内を視察してもらうことにして……」
今日父は、パウル兄さんたちを領内に案内する予定なのだそうだ。
地方巡検視本来の仕事を行うのであろうが、すでにクルトでも、パウル兄さんたちが俺の護衛戦力であることに気がついているはず。
かといって、下手にそれを指摘して藪を突く勇気もないわけで。
父は何食わぬ顔で、パウル兄さんたちに領内を案内する予定だ。
パウル兄さんからすれば、見慣れた領地で案内なんて必要ないにも関わらず。
パウル兄さんの方も、領内の統治体制や治安に問題はないかと、形だけのチェックを行う。
これが大人というやつなのだと、中身がおっさんの俺は思うことにした。
「ところで、バウマイスター男爵殿は本日の予定は?」
遺品の照会が夕方なので、それまではなにをするのかと父は尋ねてくる。
「数日大人数で滞在するので、できれば狩猟や採集の許可をお願いしたく」
「確かに。狩りや採集は必要ですな」
「ええ、食料の購入が難しいので」
「確かに……」
というか、それをしないとまた飯がボソボソの黒パンと薄い塩スープになる可能性……はないか。
最悪、魔法の袋から出せばいいのだから。
ただ、ブライヒレーダー辺境伯からの仕事が終わったのに、この領地を離れられないから、ある種の暇つぶしというわけだ。
「採集と狩猟は許可を出します。ですがその前に……」
「その前に?」
「ヨハンナに会いに行きなさい。まさか忘れていないだろうな?」
「……はははっ、まさか。ねえ、パウル兄さん」
「勿論忘れてなんていないさ。一緒に行こう」
「そうですね」
俺は、父から一番大切なことを忘れていると指摘されてしまうのであった。
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