第116話 依頼達成と、バウマイスター騎士爵家の混乱(その2)

「うわっ! もの凄い数の魔物の気配だね……」



 ようやく魔の森へと入った俺たちは、すぐに背筋がゾクっとする感覚に襲われる。

 特に魔闘流の使い手で、こういう気配に敏感なルイーゼは、その感覚に警戒感を露にしていた。

 十五年以上も前。

 ほぼ同じ場所から遠征軍も魔の森に入って行ったはずだが、彼らのそのほとんどが、この地で人生を終えてしまった。

 そして彼らの未練、無念は、彼らの死体をアンデッドにしてしまう。

 最初はゾンビになり、そこからまるで借金の利息のように怨念を募らせた個体からグール、リッチ、スケルトンなどへとジョブチェンジしていくのだ。

 ルイーゼの感じた大量の魔物の気配は、間違いなく彼らアンデッドのものであろう。


「では、作戦を開始する」


 一番の年長者であるブランタークさんの合図で作戦は始まるが、実はそんなに複雑なものではない。

 まずは最初、エリーゼが下草を刈った地面に一辺が二メートルほどの布を広げて敷く。

 これには、教会で祈りを受けながら高位の神官が書いた補助魔法陣が描かれていた。

 エリーゼの唱える聖の浄化魔法の効きがよくなるので、一種の魔法道具とも言える。

 これを手に入れる時に少々高いお布施を包んだので、効き目があることを祈ろうではないか。

 次に、エリーゼが魔法陣の真ん中に立ったのを確認すると、次は残り全員が俺から渡された拡声器を口に当てる。

 そして、一斉に決められた言葉を叫び始めた。


「やーーーい! ブライヒレーダー辺境伯の戦下手!」


「お前なら、十分の一の戦力でも余裕で勝てるわ!」


「軍事的才能が、ゼロどころかマイナスなブライヒレーダー辺境伯!」


 別に、冗談でやっているわけではない。

 戦に敗れた軍勢の戦死者たちがアンデッドになると、当然その知能などは低下する。

 だが、生前からの本能なのか?

 こちらからの悪口などを、ある程度理解できるのだ。

 バカにされていることに気がつく、という程度のものらしいが。

 それともう一つ。

 集団化したアンデッドには、なぜか統率者が現れる。

 これも半ば本能なのであろうが、なぜかその統率者が決まる基準は生前準拠であるケースが多かった。

 ということは、当然先代のブライヒレーダー辺境伯が統率者になっている可能性が高い。

 なので、それを狙った悪口作戦はかなり有効なはずであった。


「うわっ! 本当にやって来た!」


 拡声器で悪口を言い始めてから数分後。

 『ガサガサ』という音と共に、前方の藪から数体のゾンビの姿が確認できた。

 ゾンビ……映画でもそうだったが、見ていて気分がいいものではないな。

 見た目は死体だから当然なんだけど。

 

「先行偵察部隊かね?」


「嫌な偵察部隊だね」


 魔法で燃やせる俺とは違って、もしエリーゼの身に危険が迫れば、ルイーゼはゾンビを素手で殴らないといけない。

 精神衛生上、なるべくお断りしたい心境なのであろう。


「エリーゼ、詠唱準備」


「はいっ!」


 俺の合図で、魔方陣の真ん中で立っていたエリーゼは、静かに祈りを始めてから『エリア浄化』を発動させる。

 その範囲は直径100メートルほど。

 悪口で呼び寄せてから、『エリア浄化』の範囲内に入ってきたら浄化する。

 手順としては簡単なんだけど、迫りくるゾンビの気持ち悪さは、ゲーセンのゾンビゲームの映像なんて目じゃないな。


「うわっ、気持ち悪っ!」

 

 さすがは、十五年以上も前に死んだ死体である。 

 アンデットになると腐敗は遅延化すると聞いたが、まったく腐敗しないわけではない。

 魔物に体を食い千切られ、切り裂かれた部分から腐った内臓や骨が露出し、肌もドス黒くなったゾンビが、俺たちから好印象を得られるはずもなかった。

 着ている服は破れたり汚れており、装備している鎧なども錆だらけで、再利用は不可能であろう。

 剣などの武器も錆びていたり、魔物との戦闘で刃が欠けてボロボロだったり、先が折れていたりと。

 その大半が、遺品として遺族に渡すか、クズ鉄として再利用するしかないようだ。


「当然、気の利いたお宝なんて持ってないだろうしなぁ」


「ブライヒレーダー辺境伯か、その幹部ならもしかして?」


 見栄えのために、剣や鎧に金や宝石などで装飾をしていれば、剥がせばお金にはなるはずだ。

 遺品だし、なんか汚い気もするので、持ち帰ってお礼を貰った方がいいけど。


「彼らの持ち物で、売れる物はあるのかな?」 


 もうゾンビになってから、十五年以上も経っているのだ。

 当時所持していた食料は非常食でも腐っているはずで、その前にゾンビは知性をなくし本能でしか動いていない。

 グルメでもないので、集めていた魔物の素材ですら貪り食ってしまっているはずだ。

 アンデッドが、生前の本能に従ってなにかを齧っていても、それが栄養になるわけでもない。

 ただ噛み砕かれたものが、胃腸などを通って肛門から地面に落ちていく。

 ようするに、垂れ流しだ。

 当然、噛み砕かれた時点で、魔物の素材などは無価値に成りはてる。

 薬草については、言うまでもないであろう。

 次第に集まって来るゾンビたちの中には、お尻からなにかを垂れ流しながら、俺たちのところに向かって来る個体もあった。

 ゾンビの中には腹が食い千切られているせいで、そこからなにかが流れ出ている個体もあり、あまり見ていて気分のいいものではない。

 なにより、ゾンビは腐乱死体なのでもの凄く臭い。

 王都で瑕疵物件を浄化した時はレイスばかりだったので実体がなくて腐敗臭とは無縁だったけど、胃の中のものを吐き出したくなるほどの腐敗臭を漂わせるアンデッドが多かった。

 前世で、ゲームセンターで遊んだゾンビを銃で撃つゲームでも、この臭いは再現されないから余計にくるな。

 ゾンビたちからすれば生きている人間など、満たされない食欲を満たす餌でしかない。

 視界に入れば食らおうと接近してくるので、浄化は必須とも言えた。


「でも、弱いな」


 剣を構えて準備していたエルであったが、ゾンビは次々とエリーゼの展開した『エリア浄化』の光に触れると体ごと消滅していく。

 残ったのは、錆びて薄汚れた装備品のみであった。


「ゾンビは個々では弱いが、数が揃うと脅威だ。気を抜くな」


 元ベテラン冒険者であるブランタークさんの助言により、全員が再び気を引き締め直した。

 だがやはりゾンビたちは、エリーゼが展開を続ける『エリア浄化』に触れると溶けるように消えてしまう。

 普通の浄化聖魔法の使い手ではこうはいかないので、それだけエリーゼが優れている証拠でもあった。


「坊主」


「わかってます」


 俺は予備の魔法の袋を取り出すと、その中に次々と持ち主であるゾンビが装備していた品や、持っていた袋などを仕舞い込んでいく。

 錆びたり腐っている鎧や盾などの防具に、同じく錆びたり折れたりしている剣や槍などの武器。

 持っていた袋には、薄汚れた銅貨や銀貨などが入っている。

 これらの物品は集められる限り集めて、持ち主の判断が付いた物は遺族に返すことになっていた。


「誰のものか不明なら、教会でもう一回浄化してもらって、金属製の壊れた武具などは鋳熔かして再利用する予定だ」


「(なんとも、物騒なエコもあったもので……)」


 この世界の人にエコを説明しても理解できないはずなので、俺はブランタークさんの説明に心の中で突っ込むだけにしておいた。


「しかし、ワラワラとやって来るな」


「なにしろ二千体だからな。油断するなよ、坊主」


「わかってますよ」


 どこか緊張感がないように見える俺たちであったが、この一時間ほどまったく戦闘もせずに遺品集めだけしていたから、仕方がないのかもしれない。

 それに加えてゾンビは、目の前で同胞がエリーゼの『エリア浄化』の光に触れて崩れ去っても、自分が退くという選択肢を取らない。

 強い統率者からの攻撃命令を遵守することに拘り、さらに目の前にいる人間という餌に近づくためという、本能に従って動いているからだ。


「ブランタークさん、何人分くらい集めました?」


「そうだな、およそ八百人分ってところかな」


 確か、この魔の森で骸になった兵士の数は約二千人のはず。

 なので、約半分を成仏させたことになる。


「しかし、早く出て来ないかね。強くはないが臭いし面倒だ」


「出て来れば、俺が『エリア浄化』の範囲を広げて一気に成仏させるんですけどね」


 ブランタークさんが早く出て来てほしいと思っているのは、これらゾンビの群れを統率していると思われる、先代ブライヒレーダー辺境伯であった。

 しかし、ゾンビになってまで生前の人間関係を引きずるとは。

 その話を聞いた時、俺は人間という動物の業の深さを感じてしまった。

 もしある会社の社長以下社員全員がゾンビになった場合、律儀に社長の命令に従うってことだからな。

 アンデッドになっても社畜の運命から逃れられないなんて、悲しくなるじゃないか。


「エモノッ! クウッ!」


「あーーーあ。元大貴族様も、ああなると惨めだな」


 さらに十分ほどゾンビ退治を続けていると、ようやく元は豪華であったと思われる宝石付きの錆びた鎧を着た、初老男性のゾンビが現れた。

 装備している服や装備品から見て、間違いなく彼は先代のブライヒレーダー辺境伯なはず。

 非常にまれなケースであったが、ゾンビのくせに言葉を話していて、さすが元は大物貴族とでも言うべきなのであろうか?

 ただ本能に従って、『エモノッ! クウッ!』を繰り返しているだけにしてもだ。


「ブランターク様、随分と失礼な発言ですね」


「先代なんて、俺は直接顔も見たこともないしな。俺の忠誠心は今のお館様に向いているわけだし、この爺さんから給金を貰っているわけでもないからさ。イーナの嬢ちゃんは違うのか?」


「子供の頃にお菓子とかくれて、優しい人だったんですよ……。と、兄さんたちが言っていました」


 遠征の時期を考えると、イーナもルイーゼも生まれる前か赤ん坊だったはずで、先代とは面識がないはず。

 知らない人の話なので、フォローがかなり微妙なものとなっていた。


「優しいのと、貴族としての能力は違うだろうによ」


「それを言われると、困るんですけど……」


 俺は、身も蓋もない会話を続けているブランタークさんとイーナを尻目に、急ぎ『探知』の範囲を広げる。

 すると、半径二百メートル以内に、残り約千体のゾンビと思しき反応を察知した。


「漏れはないよな? じゃあ一気にやるか」


 そう言うと俺はエリーゼの肩に手を置き、続けて『範囲拡大』の魔法を使う。

 俺の魔力の大量消費と共に、エリーゼの『エリア浄化』の範囲が広がっていく。

 念のために半径五百メートルまで広げた『エリア浄化』は、容赦なくゾンビたちを溶かしながら成仏させていった。

 一番重要な先代ブライヒレーダー辺境伯のゾンビも、やはり基本はゾンビなので簡単に崩れ去ってしまう。

 残された宝石付きの装備品が、彼の存在を証明する唯一の証拠となっていた。


「よーーーし、もう魔法を止めていいぞ」


 そして数分後。

 ブランタークさんも『探知』で周囲に魔物の反応がないことを確認し、これでようやくゾンビ退治が終了するのであった。

 だが、これで落ち着いてなどはいられない。


「周辺の遺品捜索を急げ!」


 俺たちは駆け足で、周辺の遺品探索と回収を再開する。

 これまでは二千体のゾンビがいたので、このエリアには他の魔物は一切存在していなかった。

 ところがゾンビたちの消滅により、一気に空白のエリアができてしまった。

 それを埋めるべく、ここに魔物たちが大挙して押し寄せる可能性があったのだ。


「なに一つ漏らさずなんて言わん。粗方回収したら撤退だ!」


 それから三十分ほどで、『エリア浄化』で消滅したゾンビたちの装備品に、彼らの最期の地であったと思われる野戦陣地跡地などで大量の遺品を回収する。

 彼らは死んでも、野戦陣地を拠点としていたようだな。

 折り重なるようにして、錆びた武具が散乱していた。

 無事に仕事は終わったはずなんだが、ここで一つの疑問にぶち当たっていた。


「元バウマイスター騎士爵家諸侯軍らしき連中がいないな」


「そう言われると、そうだな」


 エルの指摘どおりで、統一されたブライヒレーダー辺境伯家諸侯軍の装備に身を包んだ兵士たちと、高価な装備を着けた幹部らしき連中、数名の元は魔法使いであると思われる人たちのソンビは確認していた。

 すべて、経済力に余裕があるブライヒレーダー辺境伯家でなければ揃えられない装備や人材ばかりだ。

 バウマイスター騎士爵家諸侯軍は、兵士は粗末な統一されていない部分鎧を着けた農民で、諸侯や幹部とは言っても、先代従士長やその息子たちが多少はマシな鎧を着けているくらい。

 魔法使いなど、初級レベルでも雇える財力などなかったから一人もいなかった。

 その前に、魔法使いがわざわざリーグ大山脈を超えて、バウマイスター騎士爵家に仕官しないと思うけど。

 こう言っては悪いが、ギリギリ軍隊と呼べるかどうかという集団なのだ。


「どうして姿を見せないんだ?」


 そんな集団なのに、なぜかまだ浄化されていない。

 俺は再び『探知』で周囲を探るが、半径五百メートル以内にアンデッドを含む魔物の反応はなかった。

 こちらが元ブライヒレーダー辺境伯家諸侯軍を全滅させた直後なので、まだその外縁部で様子を伺っているはず。

 通常の魔物は、アンデッドを避ける傾向にある。

 魔物とて、アンデッドに殺されて仲間入りはゴメンであろうから、絶対に近寄らないのだ。 

 アンデッドを倒せる魔物は、ほぼいないというのが常識だからな。


「バウマイスター騎士爵家諸侯軍は、ブライヒレーダー辺境伯家諸侯軍と別行動を徹底して取っているんですね。大叔父は先代ブライヒレーダー辺境伯の命令に従わなかった。少なくとも、最後の時は」


「その可能性はあるな」


 ブランタークさんは冒険者として多くの経験を積んでいるから、そういう事例を実際に経験したことがあるのであろう。

 普通に考えたら、先代従士長が指揮官であるバウマイスター騎士爵家諸侯軍が、先代ブライヒレーダー辺境伯の命令に従わないなんてことは……建前上は別家の軍勢同士だからあり得るけど、双方の力関係を考えるとやはり別行動は難しい。

 とはいえ、実際に別行動をしているから、ブランタークさんは俺の意見を否定しなかった。


「ゾンビは、生前の本能に引き摺られるからな」


 寄親であり、ブライヒレーダー辺境伯家諸侯軍は当主直々の出陣で、バウマイスター騎士爵家諸侯軍は従士長が主将になっていた。

 そのせいで、先代ブライヒレーダー辺境伯から家臣扱いされ、扱き使われていたのかもしれない。

 いくら小規模の軍勢とはいえ、バウマイスター騎士爵家諸侯軍は指揮系統が別の軍隊なのにだ。

 当主である父に主将を押し付けられ、長い行軍の後に魔物と戦わされる。

 大叔父である従士長は、色々と鬱憤が溜まっていた可能性が高かった。


「その嫌悪感で、あの集団から離れた可能性があるな」


「そんなこともあるんですね」


「アンデッドも、元は人間ってことさ。先代従士長は最後の時、状況判断もろくにできず、こんな事態を招いた先代ブライヒレーダー辺境伯に逆らったのかもな」


 もうお前にはつき合えないとなり、それがアンデッドになっても続いていると。


「なるほど。それで他の可能性は?」


 王都での浄化経験で悪霊系には詳しくなったが、生憎とゾンビには詳しくない俺は、さらにブランタークさんの考えを求めた。


「その小集団なんだが、規模が大きくなっている可能性があるな」


 基本的に理性などないゾンビなので、集団が分割しても時間が経つと、共食いで吸収合併されてしまうケースが多く、滅多なことで長期間二つの集団が残っているケースは少ないそうだ。


「悪霊系は、肉体がないからフットワークが軽いんだよ。逆にゾンビ系は、自分たちが死んだ地点から離れるケースは少ない」


「でも、いませんよ」


「離れないとは言っても、数キロ圏内は移動するさ。『探知』の範囲外なんだろうぜ」


 俺も『探知』の範囲を広げてみるが、外縁部に多数の魔物の反応があることにはある。

 およそ数千体ほどの反応があるのだが、彼らが一斉に襲いかかってくることはないはず。

 こちらが少数なのと、アンデッドに支配されていた空間に慎重を期しながら戻るので、あまり長時間居残らなければそう危険でもないらしい。


「それとな。向こうだって完全なバカじゃないんだ。二千体近いアンデッドを、この少人数で浄化した俺たちに対し慎重になるのさ」


 だが、それはあくまでも、その魔物たちが普通の魔物であった場合のはす。

 もし、その数千の反応がアンデッドであったら?

 そんな疑問が、ふつふつと湧いてくるのだ。


「その中に、バウマイスター騎士爵家諸侯軍のアンデッドもいる可能性がありませんか?」


「ないとは言いきれないが、数が合わないな……」


 バウマイスター騎士爵家諸侯軍は百人以下で、外縁の魔物たちは数千体にも及ぶ。

 確かに数は合わないが、どこか腑に落ちないのだ。


「じゃあ、数が増えたとか?」


「数が増えた? ブランタークさん。本当にそんなことがあるんですか?」


「ないこともないな」


 エルの疑問に、ブランタークさんが即答する。

 その小集団のボスが非常に優れていて、アンデッドの仲間を増やすケースがあるらしい。

 その場合、彼らが死ぬ時に道連れにした魔物や、その後アンデッドとなった彼らの犠牲となった魔物たちが、アンデッドになって数が増える。

 アンデッドの無限増殖ってわけだ。


「嫌な、増え方だな……」


 確かにホラー映画みたいで嫌な増え方だし、放置したらとんでもないことになりそうだ。

 その可能性を考えて、ブライヒレーダー辺境伯は俺たちに仕事を依頼したのか。


「ただなぁ……。そのボスに力がないとな。ゾンビって共食いで数が減るから、そう簡単には増えないぞ」


 優れたアンデッドのボスになるかどうかは、生前の能力が大きく左右される。

 つまり、軍人で言うなら数千人を率いれる大隊長から将軍クラスの実力を持つということだ。

 同時に、魔物相手なので冒険者としての技量。

 つまり、強かったのかなども基準になるそうだ。


「バウマイスター騎士爵家の従士長だもんなぁ……」


 大叔父の能力を否定するのも失礼な気がするが、あのバウマイスター騎士爵家なので、そんな能力があったとは思えないのだ。

 人口から考えても、百人の諸侯軍ですら苦労して揃えたであろうに。

 大叔父に、数千人もの軍勢を率いる機会があったとは到底思えなかった。


「でもさ、実は才能があったのかもしれない」


「というと?」


「あの領地だから、半農民な従士長で止まっていたかもしれないけど。ブライヒレーダー辺境伯家なら、大幹部になれる才能があったのかもってことさ」


 才能はあっても、それが生かされる環境や機会がなかった。

 エルは、こんな世の中なのでそんな人もいるんだろうと、自分の意見を述べた。


「なるほどね。でも、だとすると?」


「それはね、イーナちゃん。探知エリアの端にいる連中はヴェルの大叔父さんのアンデッドに率いられている集団、ボクたちを虎視眈々と狙っているってことだよ」


 イーナの疑問に答えたのは、意外と言うと失礼かもしれないがルイーゼであった。


「えっ? それってかなりヤバいんじゃぁ……」


「もの凄くヤバいかも……」


 イーナとルイーゼのやり取りを聞いていた全員に緊張が走る。

 そして……。


「全員! 戦闘準備!」


 ブランタークさんが叫ぶのと同時に、まるで俺たちを伺うように周囲にあった多数の反応が、一斉に接近してきた。

 ルイーゼの想像どおり、第二のアンデッド軍団が俺たちを殺そうと、一斉に攻撃を仕掛けてきたのであった。


 一つ勉強になった。

 この手の依頼って、依頼者者が口にしていた以上の作業量と危険度になるケースも多いってことを。

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