第40話 俺はロリコンじゃない! ……と思う
「ヴェル、どこかに連れて行ってよ」
「いきなり唐突だなぁ……(しかも、もうヴェル君からヴェルに変わっているという
)。今日は狩りはお休みだからか。イーナは?」
「確かにボクとイーナちゃんは幼馴染同士でいつも一緒にいるけど、たまには別行動もするのさ」
冒険者予備校に無事入学後、まずは隣の席で剣が得意なエルと二人だけのパーティを組んだ。
その後、狩猟中に狼の群れから助けた美少女二人、槍を使うイーナと、魔闘流を使うルイーゼともパーティを組むことになった。
大分偶然の要素が強いけど、案外人生なんてこんなものだ。
エルは、俺と同じく騎士爵家の五男という厳しい立場にあってお互いを理解しやすかったので、仲良くなるのに時間はかからなかった。
実は冒険者予備校に通う貴族の子弟たちの大半は、俺やエルと似たような立場と境遇だと言われればそれまでだけど。
イーナとルイーゼも大貴族の陪臣の三女だから、その立場と境遇はお察しというわけだ。
いくら特待生になれるほど槍が上手で、たまに見せる鋭い視線が好きな人には堪らない美少女でも。
同じく魔闘流の特待生で、ロリ系美少女であっても。
家を継ぐ長男以外に世界は厳しく、同じような立場の人間が自然に集まったとも。
他の貴族の子弟たちも同じだって?
まあそこは偶然出会った、縁があったのだから仕方がない。
決して、二人が美少女だから贔屓したわけではないぞ。
それに冒険者パーティなんてものは、頻繁に変わることが多いと、先日の園遊会で出会った師匠の師匠であるブランタークさんが言っていた。
実力がない人を仲間にしてしまうと、その人のみならずパーティメンバー全員が命の危険に晒されるから当然というわけだ。
幸いにして、エル、イーナ、ルイーゼの三人は成績優秀者で、これからの成長にも期待……ルイーゼの胸の膨らみはどうかな? おっと、それを口にしては失礼だな。
もしかしたら、今後急激な成長があるかもしれないからだ。
なんてしょうもないことを考えつつ、俺はルイーゼのお願いを聞き続けていた。
「連れて行ってって……。ルイーゼは地元出身で、俺よりもブライヒブルクの地理に詳しいはずじゃないか」
「それでもレディーをエスコートするのは、男性の役割だと思うな」
「そういう学説もあるようだな」
「ヴェルは男性なんだから、ここは格好よくボクをエスコートしてよ」
「残念ながら、経験不足だな」
前世でも、女性にモテるようなタイプではなかったからなぁ。
「それを自分言うかな? では、ボクで存分に練習してくれたまえ」
紆余曲折があったものの、無事に四人によるパーティが始動して最初の休日。
エルは新しい剣を見に行くと言い、イーナも新しい槍を見に行くと言って朝から出かけていた。
エルもイーナも、随分と武器が好きなようだ。
己の命を預けるものなのだから、それを選ぶのに慎重になるのは冒険者として当然とも言えたのだが。
「ルイーゼは、新しい手甲でも見に行くとかしないのか?」
「うーーーん、今のところはね。魔闘流は、高価な手甲があればすぐ強くなれるってものじゃないから。今は貯金が最優先でしょう」
ルイーゼによると、魔闘流において一番重要なのは己の肉体なのだそうだ。
今は、お古だが性能のいい手甲を父親から貰っていたそうで、無理に今すぐ新しい手甲を揃える必要はないのだという。
将来は必要だが、そのために今は貯金一筋なのだそうだ。
「そうか、そうか。貯金は重要だよな」
なにか必要な物を買ったり、するために目標金額まで貯金をする。
前世では俺も、中学生くらいまでは真面目に貯金などをしたものだ。
「そうだね。だから、案内賃としてなにか奢って」
「お前なぁ……」
前世から含めてロリに興味はないと思っていたのだが、ルイーゼがニコニコしながらお願いをしてくると、俺はなにも言えなくなってしまう。
長年、母親や義姉以外、ほとんど女性と話をしてこなかったツケなのであろうか?
いや、前世では彼女がいたこともあったし、そこまで人見知りや女性恐怖症というわけでもないはず。
だが、ここ六年ほどあまり女性どころか人と接してこなかったせいで、リハビリが必要な状態かもしれない。
などど、俺の心の中は色々な考えで渦巻いてしまう。
「魔導具の専門店に案内するから。せっかくの休日なんだから出かけようよ」
「わかった、わかった」
俺はルイーゼに手を引かれながら、ブライヒブルクの町で今まで行ったことがないエリアへと足を向けるのであった。
「結局なにも買わなかったね」
「品揃えが微妙なんだよなぁ……」
約一時間後。
ルイーゼの案内で今まで知らなかった魔道具専門店を見てから、そこを出て表通りにある喫茶店でお茶を飲みながら話をしていた。
「ボクには、魔道具の良し悪しはよくわからないけど」
「魔道具は、そう悪くなかった」
魔法関連の品物を置く店というのは、実にわかり難いものだ。
魔力が低い人でも使える汎用品はちゃんと置いてあるのか?
それとも、魔法使いしか使えない専用品しか置いていないのか?
最後に、魔法使いが装備可能な武器防具が置いてあるのかと。
実は魔法使いの数が少ないせいで、三番目の装備品が置いてある店は非常に少ない。
または、置いてあっても品揃えが……というお店も多いのだ。
それでも、さすがは南部一の商都ブライヒブルクの専門店ではある。
そこそこの品質のものが、一通りは置いてあった。
ただ、師匠からの遺産に比べれば質は大分落ちる。
すべての品を確認してみたが、買う必要はないなと判断して、この喫茶店へと移動していた。
「あのお店の魔道具、値段がもの凄かったね」
特に汎用品ともなれば、火種を起すライターのような物でも一個一千セント近くはする。
その理由は、作れる人が極端に少ないからだ。
「専用品ならそう高くもないさ。ところでルイーゼは買わないのか?」
「えっ、気がついているの?」
「当然、魔法使いは魔法使いを知るだ」
実は、彼女を入学式で見かけた時から俺は気がついていたのだ。
イーナも、このルイーゼも、一般人よりも多くの魔力を保持していることに。
イーナの魔力は、一般人よりも多いけど初級には届かないレベル。
ところがルイーゼの方は、初級と中級の間に相当する魔力を持っていた。
さらに言えば、ルイーゼはこれを意図的に隠蔽し、あえて魔力を伸ばす鍛錬を行っていないようなのだ。
「鍛錬すれば、中級は超えると思うけど」
「その辺は、事情があってね……」
彼女の実家であるオーフェルヴェーク家は、代々魔闘流を教える家柄にある。
だが、そう都合よく家に魔力を多く持った人間が生まれるはずもない。
代々の秘伝として、常人並の魔力量でも相手を圧倒可能な戦闘力を発揮できる戦闘方法とその修練方法。
効率のいい技の型、持久力を増す魔力の効率のいい燃やし方などがあるのは当然とも言えた。
「父も兄たちも常人並の魔力しか持っていなかった。ボクはご覧のとおりさ」
そんなルイーゼが物心つくと、早速父や兄から魔闘流を学び始める。
魔力が多目なのは特に意識していなかったが、おかげでルイーゼはどんどん強くなっていく。
次第に父や兄たちすら、実戦形式の組み手などで圧倒していくようになったそうだ。
「子供心に、『手加減しないと』と思ってね。でも、技術がつたないボクは手加減したらバレるよね」
子供に手加減をされる。
さらに、その子供は女の子であった。
そのせいでルイーゼは、道場で次第に孤立していく。
家では優しい父や兄たちなのに、道場では扱われ方が余所余所しくなっていったそうだ。
それでも、道場に来るなとは言われなかった。
強引に排除すれば、弟子たちから『師範である自分よりも強いから、あんな小さな女の子を排除した』と思われかねない。
しかし、師範よりも強い女の子というのも扱いが難しい。
鍛錬が苦痛になるのに、そう時間はかからなかったそうだ。
「でも、近所に同じ悩みを持つイーナちゃんもいたから」
結果、道場での鍛錬の時間以外は、彼女と一緒にいることが多かったそうだ。
魔力も、別途で鍛錬すれば上がることも知っている。
だが、それで上がった魔力を魔闘流で使えば、余計に父や兄たちを強さで引き離してしまう。
仕方がないので、魔力の鍛錬は後回しにすることにしたそうだ。
それが今の状況らしい。
「でも後悔したね。あの狼の群れに遅れを取った時に」
ちゃんと魔力量を上げていれば、あんな狼如きに遅れを取ることはなかったかもしれない。
そう考えて、今は積極的に鍛錬に励む決意をしたそうだ。
「頑張って、魔闘流を極めるよ、ボクは」
「おおっ、頑張ってくれ」
だが、後にその鍛錬の過程で思わぬ事実が発覚する。
魔力量が増えた影響で、魔闘流での戦闘力は上がったものの、他には一切魔法が使えず、ルイーゼはガックリと肩を落す羽目になったからだ。
実は、たまにこういう人が存在する。
魔力を身体能力の向上や攻撃・防御力の強化にしか使えない、所謂、魔法剣士や魔法武闘家と呼ばれる人たちであった。
「ヴェルぅーーー!」
「俺に言われてもなぁ……。もっと魔力を上げると可能性があるとしか……」
魔力が少ない頃に魔闘流でしか魔力を使っていなかったため、体が勝手に他の魔法を使えないと思い込む。
一説には、深層心理にそう刻み込まれてしまったので、使えないこともあるのだと。
これは師匠が残した本に書かれていた記述であったが、『元から適性がなくて使えない人もいるから、区別が難しいよね』とも書かれていて、俺はかなりガックリときてしまつた。
師匠は優秀な魔法使いであったが、残された自筆の本や手紙などを見ると、かなり軽い性格をしているのがわかる記述が多いからだ。
切実に答えを求めて本をめくっているのに、正直その答えはないと思う。
「魔闘流で強くなればいいじゃない。というか、その才能でブライヒレーダー辺境伯様から誘いが来ないのがおかしい」
ブライヒレーダー辺境伯家に属する人間で、ルイーゼの魔力はすでにブランタークさんの次くらいにはあるはずであった。
魔力を鍛え始めたばかりなのに、もう他の雇われ魔法使いたちよりも魔力量が多かったのだ。
「それは、ボクが女だからさ」
女なので、陪臣にして一家を立てさせるわけにいかないからだ。
この国も、隣国のアーカート神聖帝国も。
女性の地位が低い傾向にあり、女性が一家の主になったり、爵位を持つことなどまずあり得なかったのだ。
もしルイーゼが男性なら、ブライヒレーダー辺境伯は勧誘をかけてきたであろう。
まだ形式上はオーフェルヴェーク家に在籍している関係で、仕官は成人後にという条件はついていたが。
ところが、ルイーゼが女性なのでそれは不可能らしい。
いくら才能はあっても、女性が、代々ブライヒレーダー辺境伯家で魔闘流を指南しているオーフェルヴェーク家を差し置いて……という話になってしまうからだ。
強引にブライヒレーダー辺境伯が押し込むことも可能ではあったが、それをすると今度は家臣団との関係がギクシャクしてしまう可能性がある。
戦乱の時ではないので、どうしても今までの秩序を乱す新参者に過剰に反応してしまうからだ。
能力があるからすぐに雇うということすらそう簡単にいかないのが、ブライヒレーダー辺境伯家という巨大な組織であった。
実はこういう話は、平成日本の官庁や大企業でもよく聞く話なので、俺はそうおかしいとは思わなかったのだけど。
サラリーマンは、それに文句も言えないという。
今も同じようなものか……。
「面倒な話だな(モロに封建社会なのな……)」
「宮仕えなんて面倒だから、別に構わないけどね」
ルイーゼは、これからどんどん強くなる。
そうなれば、兄にとっては宝石よりも貴重なオーフェルヴェーク家当主の地位は邪魔にしかならないのであろう。
実は俺も、彼女と同じだ。
クルト兄さんにとっては宝石よりも貴重なバウマイスター騎士爵家の家督と領地でも、俺からすれば、実入りが少ない管理が面倒なもの、という認識でしかない。
人は必ずしも、他人が欲しいものと同じものを絶対に欲しいとは思わないわけだ。
「なにか、魔法が使えるようになるといいなぁ」
「魔力量を増やして、天に祈りなさい」
「いい加減な先生だなぁ」
俺はルイーゼが魔力を上げるための修練によく付き合うようになり、次第に彼女と仲良くなっていった。
ただ、そのせいでおかしな噂も流れてしまうのだが……。
「なあ、ヴェル」
「なんだ? エル」
「お前、ルイーゼとつき合っているって本当か?」
「んなわけあるか!」
予備校中に俺とルイーゼがつき合っているという噂が流れ、同時に俺が小さい子が好きとか、小さい胸が好きなどという噂まで流されてしまうのであった。
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