第3話 案内

「おお、結構凄いな」


泰三に訓練場へと案内された俺は、そのギフトを見せて貰う。

奴の能力は炎を操るという物で、能力判定Bに該当する優秀な物だ。


「以前見た時は、ライターの火みたいなのしか出せてなかったってのに」


彼の手から放たれる炎の噴射は、まるで火炎放射器の様だ。

その能力はこの5年で見違えるほど強化されていた。


「へへへ、まあ頑張ったからな」


「パワー判定的にはどれぐらいなんだ?」


「Cだな」


「これでCなのか?」


「そうなんだよ。こんなに強力なのにまだC判定なんだぜ。上にはもっと上が居るって事さ。驚いたか?」


「あ、ああ……」


この程度でC判定が取れるのかという意味だったのだが、どうやら泰三は真逆の意味で取ってしまった様だ。

まあだが、その感覚の方が本来は正しいのかもしれない。

俺は異世界で魔王と戦ってきたから、どうしても泰三の能力が今一に見えてしまう。


因みに異世界では、今泰三が出した炎程度なら、少し魔法を齧った人間でも容易く生み出す事が出来るレベルだ。


「竜也はF判定なんだろ?まあでもE、いやDぐらいまでなら直ぐに上がると思うぜ。俺も最初はFだったけど、1年でD迄行ったからな。D迄は直ぐさ。ま、きついのはそこから先だな」


「へぇ、そうなんだ」


泰三は学園に入って既に5年経っている。

それでCという事は、DからC、もしくはCからBへは相当厚い壁があると言う事だろう。


まあ、どうでもいい事ではあるが。


なんせ俺の能力は髪を伸ばすだけのゴミだからな。

パワーが上がったからなんだって話ではある。

まあ他のギフトが発露する可能性もあるので、一応訓練は真面目にするつもりではあるが。


「竜也、プラーナってしってるか?」


「なんだそれ?」


初耳の言葉だ。


「ギフトの力の源を、この学園じゃプラーナって呼ぶのさ。お前も授業に入ったらまず最初に聞かされるぜ」


「専門用語かよ。俺が知ってる訳ないだろ」


今日は能力の判定と手続きの為だけに来ている。

本格的な登校は明後日からだ。


「まあこの際、言葉はどうでもいいんだ。要はこれが凄いんだよ」


「凄い?」


ギフトの源泉なのだから、凄いと言うのは分かる。

だが泰三の言う凄いと言う言葉には、別の意味が含まれている様に感じた。


「まあ見てな?」


「ん……」


泰三の全身を急に何かが包み込む。

それはまるで薄い皮膜の様でありながら、それでいて力強い物を感じる不思議な現象だった。


「どうだ?」


「どうだってのは?」


変化には気づいていたが、あえて惚けておく。

俺は感覚で力を感知したが、視界的には何の変化も無かったからだ。


「ふふふ。竜也、俺を殴って良いぜ?」


「は?」


「お前には分からないかもしれないけど、今の俺の肉体はとんでもなく硬い。だから一発殴ってみな。全力でな」


「いや、流石にそれは……」


いきなり友達に殴れと言われても困るのだが?


まあプラーナの効果とやらを俺に見せたいのだろうが……今の俺が本気でぶん殴ったら、ちょっとした防御能力如きないに等しい。

間違いなく泰三は粉々に砕け散って即死だ。


「F判定のお前のしょぼいパンチなんざ、効きやしないから安心しろよ」


泰三は指先をクイクイと動かし、俺に殴るよう更に促した。


「分かったよ」


その際のどや顔が妙に腹が立ったので、ほんの少しだけ・・・・・・・力を籠めてそっとその腹部に拳を叩き込んでやった。


「ぐえぇ……なんでだぁ……」


――俺の拳が無慈悲に泰三の腹部に突き刺さった。


奴は腹を抑えて屈みこみ、顔からは脂汗を流して涙目で俺を見上げる。

少しやり過ぎたかな?

そう思った俺は、気づかれない様さり気無く奴に回復魔法を――異世界で習得した魔法はこの世界でも問題なく扱う事が出来る――かけておいた。


「おいおい、大丈夫かよ?」


回復魔法の効果で泰三の顔色は見る間に良くなっていく。


「ああ、少しじっとしてれば大丈夫だ 」


「で、結局プラーナってのはどういう効果なんだ?」


恐らくギフトの源泉であるプラーナを体で覆うと、防御力が上がるのだろう。

それは一連の流れで理解できたが、他にも何かありそうだと俺の勘が言っている。


「はぁ……なんかこのざまで偉そうに説明するの少し恥ずかしいんだけど……」


泰三は溜息を吐きながら立ち上がる。


「良いから説明しろよ」


自分から振ったんだ。

恥ずかしがってないで、ちゃんと最後まで説明して貰う。


「やれやれ、プラーナってのは――」

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