第2話 能力判定F

能力の判定には、AからFの6段階が用いられる。

Aが最高判定であり、そこからBCDと続き、Fが最低だ。


「能力、出力、コントロール……全てFになりますね」


白衣に眼鏡を身に着けた、いかにも研究職然とした職員が俺に判定を告げる。

トリプルF。

つまりお前はゴミだと通告されたに等しい。

実際、職員も微妙な表情で俺を見ていた。


能力者には3種類の判定が用いられる。


一つ目は能力自体の判定だ。

優秀な物ならAで、俺の髪を伸ばすと言うゴミの様な能力はFにカテゴライズされる。

まあほとんど使い道がないから、当たり前と言えば当たり前の評価だ。


次いで出力。

これは能力のパワーを指している。


例えば炎を操る能力を持っていたとして、パワーが低ければマッチの火程度しかだせず。

逆にパワーが大きいと、火炎放射の様な強烈な炎を生み出す事も出来る。


そして最後はコントロールだ。

これは能力をいかに精密に支配できるか、その技術で決まる。

パワーを完璧にコントロールし、かつギフトを自由自在に動かせるならA。

取り敢えず発動させられる程度ならFって感じだ。


ま、全て想定内である。

入学前に色々試したからな。


チートのレベルアップで能力がデタラメに上がっている俺だが、この能力も、ギフト関連にだけは影響していない様だった。

残念。


「まあ、あれだね。能力は変えられないけど、努力次第でパワーやコントロールは上がるから。だから頑張ってくれ」


白衣の係員に同情的な優しい声で励まされた。


「ギフトは増やせるとパンフレットで見たんですが?」


ギフトは種類を増やす事が出来るそうだ。

実際、学園内には複数の能力を持つ者も少なくないと、パンフレットには書いてある。


ギフトに関しては、基本的にその因子が無ければまず発動しない――エラのない人間が水中呼吸できないのと一緒。

だが一つでもギフトを発露した者は、二つ以上の能力の素養を開花させる可能性があった。


つまり、訓練次第で新たなギフトの覚醒も有り得ると言う事だ。


「うーん、そこは運しだいだからねぇ。あんまり期待しすぎるのは……」


あくまでも可能性の問題であるため、係員の言う通り過度な期待は禁物なのだろう。

出たらラッキー程度に考えておいた方が良さそうだ。


「まあ発露するか分からない能力に期待するより、僕は今ある能力を伸ばす事をお勧めするよ」


「はぁ……」


髪を伸ばす能力を伸ばせ。

ダジャレでもかけているのだろうか?

この能力に、将来性みらいがあるとは到底思えないのだが?


「よ!竜也!」


検査室を出ると、男子生徒が声を掛けて来た。

背は俺と同じで170ちょい。

顔立ちはちょいブサだが、愛嬌のある顔立ちをしている。


「久しぶりだな、泰三。元気にしてたか?」


彼の名は原田泰三。

一応俺の幼馴染だ。

こいつは11歳の時に能力が発露して、この学園に先んじて入っていた。


基本全寮制で有り、出入りの制限が厳しい学園であるため、泰三とはほぼ5年ぶりの再会となる。

まあ異世界に居た4年も合わすと、足掛け9年ぶりの再会という事になるが。


「随分デカくなったなぁ」


「お前だってそうだろ?」


何せ5年ぶりだ。

あの頃とはお互い、背の高さも体つきもまるで違っている。

顔だってあどけなさが抜け、以前よりずっと大人っぽくなっていた。


「まっさかお前まで覚醒しちまうなんてな。母ちゃんから電話で聞いて驚いちまったよ。で、どんな能力なんだ?母ちゃんが聞けなかったっていうから、滅茶苦茶気になっててさぁ」


泰三が興味津々と言わんばかりに、顔をグイッと近づけて来た。

荒い鼻息が顔にかかって気持ち悪いので、俺はその顔を掴んで押しのける。


「絶対笑うなよ」


俺の能力はまだ家族以外には話していない。

髪を伸ばすだけの能力なんて、胸をはってご近所様に言えた物ではないからな。


「笑わねぇよ!親友だろ!」


5年間ほぼ没交渉だったくせに、よくもまあ親友だなんて言えるもんだ。

まあいずれバレると思い、俺は素直に自分の能力を奴に話した。


「ぶはっ!?マジかよ!ぶはははははははは!」


ギフトを聞いた途端、泰三が腹を抱えて笑い出す。

約束を一瞬で破るとか、良い親友もいたもんだ。


「やべぇな……その能力。ふつう……干渉系は強力だって言われてるけど、それは流石にひでぇ」


充分笑ってすっきりしたのか、泰三は「はー、はー」と荒くなった息を整える。

干渉系というのは、対象に働きかける能力の事だ。

メジャー所で言うと、回復ヒーリング異常回復キュアなどだ。


前者は怪我や部位の破損を治し、後者は毒や病原菌などを体から排除する効果を有している。

どちらも医療現場なんかでは引っ張りだこだ。


「まあでも、16じゃしょうがないのかもな」


「まあな」


能力の発露は主に18までと言われている。

そして低年齢で発露した者程、優秀な能力者になると言われていた。

これはより早く能力の訓練に関われる様になると言うのもあるが、若年層で有れば有る程、稀有で優秀な能力を発露する傾向が強いからだ。


「別の能力の発露に期待するよ」


2つ目以降の能力も同じ傾向にあるが、それでも、髪を伸ばす等というゴミの様なスキルに比べればまではある筈。


つうか、これ以下の能力があるなら聞いてみたい物だ。

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