学園最強へ
氷の女王
第1話 帰還
「馬鹿な!こんな馬鹿な!妾は魔を統べる王じゃ!その妾が!!」
薄暗い城内に、ヒステリックな女の声が響いた。
魔族の支配者である女王ラキア。
追い込まれた彼女は、狂った様に金切り声を上げる。
「終わりだ!!魔王ラキア!」
相手は女だが、一切容赦しない。
いや、そもそもそれが出来る様な相手ではないのだ。
圧倒的に追い詰めているとはいえ、ほんの僅かな緩みから逆に此方がやられかねない。
それが魔王という存在だ。
だからこの一撃で確実に終わらせる。
「おおおおおお!!」
手にした剣――人の身の丈ほどもあり、ブロックの様な厚みを持った大剣を、俺は渾身の力を込めて魔王ラキアへと振り下ろした。
剣はもはや真面に動く事すら出来ないラキアの頭蓋をかち割り、そのまま真っすぐに奴の体を縦に引き裂く。
「ばぎぇえが……この恨み……必ず……や……ベル……ドス……ミリ……ガ……」
最後の恨み言を残し、魔王ラキアは息絶えた。
その肉体は塵となって消えていく。
しかし奴の最後の言葉、ベルドスミリガとはなんだろうか?
まるで呪文の様にも思えたが、何かが起こった様子はない。
まあ気にしても仕方がないか。
俺は片手を上げ、勝利を告げる
「思い知ったか!これがレベルの力だ!」
異世界転生で神から授かったのは、レベルシステムという力だ。
他にはない。
俺だけが訓練や魔物の討伐でレベルが上がるという、それはある意味最強のチートだった。
「やっと終わったな。所でレベルってなんだ?」
俺の言葉を耳聡く聞きつけたシーフのジャンが聞いて来る。
彼女は全身ボロボロで片膝を付いている状態ではあるが、その顔は晴れやかだ。
「気にすんな」
転生チートの事は、仲間達には話していない。
強力すぎて、何となくズルしている気分だったからだ。
実際俺がそれを聞かされたら「うわっ!ズルっ!」ってなるだろうし。
「さて、全部終わったな……じゃあ俺は故郷に帰るよ」
「そんな!?せめてもう暫く一緒に」
ピンク髪の巨乳エルフ――エルザが、悲しげな眼で俺を見た。
エルザは魔王討伐パーティーの魔法使いだ。
魔力切れで辛いはずだろうに、彼女は壁に手をつきながら無理をして俺に歩み寄って来る。
「悪いな」
俺は震える彼女の肩に手を置いた。
正直、可愛いし胸も大きいしで、彼女と離れ離れになるのは本気で惜しく思える。
だが魔王ラキア討伐を果たした以上、俺は元の世界に帰らなければならない。
「ちっ……勝ち逃げかよ」
髪をリーゼントにした、目つきの悪い勇者――サイガが舌打ちする。
彼もボロボロで、剣を杖代わりにしなければ立っていられない程疲弊していた。
「へへっ、悪いな」
彼は悪態を吐いているが、それはが決して本心で無い事を俺は知っている。
その証拠に、サイガの
見た目はヤンキーっぽく口も悪い男ではあるが、なんだかんだで情に厚い奴だからな。
サイガとは色々とぶつかり合ってきたが、それも今ではいい思い出だ。
「俺が居なくなったからって、訓練さぼるなよ?」
「ざっけんな。俺は今よりずっとずっと強くなって……次に会う時は、ゼッテーテメーをへこませてやるぜ」
「はは、楽しみにしてるよ」
どうやら時間切れの様だ。
俺の周囲に強い光の気泡が泡立ち始める。
その眩しさに俺は目を開けておられず、目を閉じた。
「さよなら、皆……」
大気に溢れるマナが、俺の体を高速で通り抜けていくのが分かる。
この感覚は2度目。
一度目は、この世界に飛ばされた時の物だ。
「帰って来た……か」
マナが感じられなくなり、瞼の裏を赤く染め上げていた光が消える。
ゆっくりと目を開けると、前方から横転して車道を滑るトラックが此方へと突っ込んで来るのが見えた。
「おっと」
俺は咄嗟に飛んでそれを躱す。
「流石にもう一度ぺしゃんこはごめん被るぜ」
かつての俺は、滑って来たトラックを躱せずに轢死している。
だが今の俺は違う。
女神から転生チートとしてレベルアップの能力を貰い。
厳しい訓練と戦いで魔王討伐を果たすまでの力を得た俺にとって、路面を滑って来るトラックを躱す事など朝飯前だ。
「取り敢えず110番……いや、119番がいいか」
トラックの中から感じる生命は多少弱っている様に感じるが、死ぬ程酷い状態ではない。
緊急事態なら俺が急いで助け出しても良かったが、この様子なら警察や救急に任せても大丈夫だろう。
ポケットに手を突っ込むと、無機物の感触が指先に当たる。
久しぶりのスマートホンの感触。
俺は顔認証の機能を使って画面を開き、119番へと通報した。
「久しぶりに帰って来たんだ。まずはコーラでも飲むか」
傍に会った自販機はトラックがぶつかってしまい、大破していた。
とてもコーラを買える状態ではないので、近くのコンビニへと向かう事にする。
電話口でそこで待っていて下さいと言われたが、ちょっと飲み物を買いに行くぐらいなら問題ないだろう。
「ぷはー。うっっめぇ」
コンビニで買ったぺットボトルを開け、一気に
久しぶりのコーラは最高に美味い。
これを飲めるだけで、異世界から帰って来た甲斐があるという物だ。
異世界には炭酸飲料はなかったからな。
「帰って来て良かった!」
その日、俺は異世界から4年ぶりに帰還した。
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