「しにたいよお」


 彼が。私の後ろに回ってきて。抱きしめてくれる。


「しにたいよおおお」


 ああもう。ほんとに。ほんとにしにたい。


 なんなのよ、この罰ゲーム。


「罰ゲーム付きって言ったのは、君のほうだからね?」


「しにたい」


 新作のゲームが発売されたから、彼と対戦した。自信があったので、負けたほうが罰ゲームねって言って。私が圧勝して、今日の夜ごはんはカレーにしてもらおうと思った。思ったのに。


 彼のが強かった。こっそり練習してたらしい。しねっ、はやくしねっ、ころしてやるって叫びながら闘ったけどあえなく敗北したので、彼に罰ゲームの権利が渡ってしまって、こうなった。


 今日一日。暴言の罰として、しにたい、としか発話できない。


 彼。わたしを抱きしめながら、にやにやしてる。


「カレー。おいしい?」


「しにたい」


「はいはい。おかわりね」


 不思議なことに。しにたいとしか言ってないのに、彼との会話にはなんの齟齬そごもなかった。彼は全部わかってくれる。


 しにたいってしか言ってないのに、夜ごはんは私の食べたいカレーになったし。


 彼が。カレーのおかわりを持ってきてくれる。


 カレーめちゃくちゃ美味しい。スパイスが絶妙に効いてて、涙が出るほど美味しい。


 でも唐辛子を足す。


 からい。


 涙が出てくる。


「からいの好きだね?」


「しにたいの」


「デトックスね」


 おいしい。カレーおいしい。


「しにたいからね?」


「わかったよ。またいつでも挑戦してください」


 再戦の約束。次。わたしが勝ったら。


 結婚申し込んでやる。

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