しにたいなあ (15分間でカクヨムバトル)

春嵐

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「しにたいなあ」


 彼女。


 聞こえるか聞こえないかの、ほんのちいさな声。


 聞き間違いだと思って、知らないふりをした。


 彼女。向かい合った、机の向こう側。僕の作ったカレーを、もそもそと、ほおばっている。ほっぺたが、カレーでいっぱいになっているらしい。ハムスターみたい。


 見た目も綺麗で。


 モデルとかそういうのもやってて。


 老若男女、誰からも好かれるキャラクターをしているのに。


 彼女。カレーを飲み込んで。


 何か言おうとして、それを封じ込めるように。また、僕の作ったカレーを、おくちいっぱいに、もぐもぐする。


 彼女の次の言葉を。カレーをもぐもぐし終わるのを。


 ゆっくりと。待つ。


 多少じゃがいもに苦戦しているらしく、お水を飲んでいる。


「ふはあ」


 喉のつまりが解消された彼女。


「しに、たい」


 今度は。はっきりと。


 聞こえた。


「しにたいよお」


 彼女。涙が。


 ぽろぽろとこぼれる。


「しにたい。しにたいよお」


 それだけをちいさく呟き続ける彼女を。


 どうしようもなく、見つめていた。




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