第14話 ブス

「ブスって言われた」


 部室に入ってきたアカリちゃんがポツリとそう言った。

 アカリちゃんは悲しさと怒りの入り混じった表情をしていた。


「ハア!? どこのどいつがそんなこと言ったわけ!?」


 マヤちゃんが怒りをあらわにしながらアカリちゃんに尋ねる。


「クラスの男子。直接言われたわけではないけど、私のほうを見てたから多分そう」


 アカリちゃんは声を震わせている。


「そいつら一発ぶん殴ってくる!」


 そう言ってマヤちゃんは部室を飛び出した。


「とりあえず座って落ち着きましょう」


 リサちゃんがアカリちゃんの手を引く。


「ひどい奴がいたもんだな」


 ナギトくんが顔をしかめる。


「信じられないよね。アカリちゃん可愛いのに」


 悪口を言う人の気持ちが本当に理解できない。誰かを傷つけるだけなのに。


「ヒカリさんてさらっとそういうこと言いますね」

「ん? なんのこと? リサちゃん?」

「いえ、こちらの話です」


 数分後。

「ただいまー! ねえ聞いてよ! とんでもないことになってた!」


 マヤちゃんが帰ってきた。でもセリフとは裏腹にマヤちゃんの顔は明るかった。


「どういうことですか? マヤさん?」

「それがさー。まず、アカリのクラスまで行ってきたの。それで男子がいたから聞いたの。『アカリをブスって言ったのは誰だ』って。そしたらその人たち『違う。あれは誤解だ』って言うの」

「何が違うんだよ」

「でね、話を聞いてみると、アカリのことをブスって言ったんじゃないんだって。『ブスっとしてて無愛想だな』って言ってたんだって」

「それにしたって失礼な話よ」


 アカリちゃんが頬を膨らませる。ちょっと可愛い。


「そう思うでしょ? でもここで終わりじゃなかったのよ」

「なになに? どういうこと?」

「男子たちのセリフには続きがあってね、『ブスっとしてて無愛想だな。あんなに可愛いのに』だって! 言い終わった後、顔真っ赤にしてたよ。思わず笑っちゃった」

「つまりはアカリの早とちりだったってことか」


 ナギトくんが少し呆れたように言った。でもその顔には笑みが浮かんでいた。


「嫌われていたわけではなかったんですね」

「そうだよー。むしろモテモテだよー」


 マヤちゃんがニヤニヤしながらアカリちゃんに言う。


「わかったから」


 そう言いながらもアカリちゃんはほっとしていた。


「あ、そうだ、ヒカリ」


 アカリちゃんがこちらを向く。


「なに? アカリちゃん?」

「さっきはありがとう。……可愛いって言ってくれて」


 そう言ってアカリちゃんは微笑んだ。

 ぼくはアカリちゃんに言われて初めて気づいた。顔が熱くなる。


「えー! なになにー!? 私がいない間に何があったの!?」


 マヤちゃんは相変わらずニヤニヤしていた。

 でも、アカリちゃんが笑顔になって良かった。

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