第7話 忘れもの
「ただいまー。ねえねえ、さっき廊下でカギを拾ったんだけどさ、これ誰のー?」
マヤちゃんがカギを掲げながら部室に入ってくる。
「おかえり、マヤちゃん。カギってどんなの? 見せて見せて」
「これ」
マヤちゃんがテーブルの上にカギを置く。
いたって普通のカギだ。特徴と言えるのは、うさぎのキーホルダーが付いていることくらい。
「俺じゃないな」
ナギトくんのじゃない。
「ぼくのでもないよ」
「私のでもないわ。ていうか、職員室に届けないの?」
アカリちゃんのでもない。
「まあ、そうなんだけど、みんなの中の誰かのものじゃないかなーって思って。じゃあ職員室に届けてくるよ」
そう言ってマヤちゃんがカギを手にとったとき——
「ただいま戻りました。すみません、遅くなって。カギを落としてしまって。探してました」
不安そうな顔でリサちゃんが入ってきた。
「もしかして、これ?」
マヤちゃんがリサちゃんにカギを見せる。
リサちゃんが、ぱっと笑顔になる。
「あーっ! これです! これ! よかったですー。どこにあったんですか?」
「廊下に落ちてたよ」
「マヤさんが拾ってくれたんですか? ありがとうございます。助かりました」
「どうも。うさぎのキーホルダーなんてリサらしいね。ところで、これ、なんのカギなの?」
マヤちゃんが尋ねる。確かに気になる。
「わたしの家のカギなんですよー。だから失くしちゃって困ってたんですー」
「それは大変だね。見つかってよかったね、リサちゃん」
「はい、本当にありがとうございます、マヤさん」
「おおげさだよ、リサ」
マヤちゃんが少し照れてる。
「ところで、みなさんは落としものや忘れもので困ったことってありませんか?」
「うーん、私はよく忘れものするからなあ。この前、筆箱と教科書忘れちゃってさ。ナギトに見せてもらったから、助かったけど」
「ん? ナギトくんとマヤちゃんって、同じクラスだよね? どういうこと?」
「私とナギトは席となりだから」
へー、そうなんだ。
「二人で同じ教科書を見るって、微笑ましいですねー」
「ほんと、いい加減にしてくれよ。だいたい、学校に来てるのに、筆箱とか教科書忘れるってどういう思考回路してんだ」
「だって、勉強しようと思って机に教科書広げるじゃん? でも、やる気でなくて他のことしてたら、忘れちゃったんだよね」
「お前、結局勉強してねーな」
「でも勉強しようとしただけえらくない?」
マヤちゃん、それはどうだろう……。
「お前、財布もよく忘れるよな。俺が金持ってなかったら、どうするつもりなんだ?」
「だって、遊ぶときと学校のときはバック違うし。それに、ナギト、なんだかんだ言ってもいつも貸してくれるじゃん」
「これから貸すときに、利子つけるかな」
「えー! やめてよ! 借りられなくなる!」
「じゃあ、忘れんなよ」
「うーん、忘れるもんは仕方ないでしょ(それに教科書見るとき、ナギトに近づけるし)」
ナギトくん優しいなあ。それにしてもマヤちゃん、忘れもの多くない?
「私は、しおりを忘れたときかしら」
次に口を開いたのはアカリちゃん。
「しおりを忘れると、ページ数覚えてなきゃいけなくて、めんどくさいのよね」
読書家のアカリちゃんらしいなあ。
「ぼくは、お気に入りのストラップを失くしたことかな。気づいたらヒモだけになってて。悲しかったな」
「俺は、あまりないが、さっき言ったように、マヤに困らされることが多いな」
ナギトくんがやれやれと首を振る。
「いろんな体験があるんですね」
「忘れものって、どうしたら減らせるんだろう?」
ぼくはみんなに尋ねた。
「メモに書くとか?」
「書いても見なきゃ意味ないだろ」
マヤちゃんが提案するけど、ナギトくんが鋭い指摘をする。
「確かに、メモしたこと自体忘れる可能性もありますね」
「私の案、即却下されたー。じゃあ、どうしたらいいの? ナギト、なんかいい案あるんでしょ?」
マヤちゃんがふてくされたように言う。
「なら、おでこにでも書いとけ」
「適当すぎ! てか自分じゃ書けないじゃん!」
「忘れるものは忘れるし、失くすものは失くすんだから、どうしようもないんじゃない?」
アカリちゃんがため息をつきながら言う。
「確かにねー。でも、ナギトが言った『身体に書く』ってのは良いかもね」
次の日。
部室のドアが勢いよく開く。
「マヤちゃん、ナギトくん、おかえり」
「ねえ、聞いてよヒカリちゃん! 言われた通り身体に書いてきたのに、クラスのみんなに笑われたし、ちょっと引かれたー!」
「そりゃ、腕にびっしり書いてたら、誰だって引くだろ」
「だって、覚えてなきゃいけないことたくさんあったんだもん!」
腕にびっしり……? 想像したら、ちょっと怖い……。
「それは災難でしたねー」
リサちゃんが慰める。
「普通一個か二個でしょ」
アカリちゃんが呆れたように言う。
「先に言ってよーー!」
マヤちゃんの声が部室に響いた。
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