第5話 コンタクト

「ただいまー。あれ? ナギトくん、メガネどうしたの?」


 いつもメガネをかけているナギトくんが今日はかけていない。


「コンタクトにしてみたんだがどうも合わなくてな。気持ち悪いんで外した」

「メガネは? 持ってきてないの?」

「家に忘れた。でも、少しぼやける程度だから日常生活には支障はない」

「そうなんだ。メガネかけてないナギトくんってなんか新鮮だね」


 メガネがないとなんだか別人のように見える。口調や仕草は同じなのに。


「そうか。変じゃないか?」

「全然変じゃないよ。メガネがないナギトくんもかっこいいよ」

「——っ! ゲホッ! ゴホッ! そ、そうか。ありがとな、ヒカリ」

「うん」


 ナギトくん、咳き込んでたけど、風邪かな?


「ただいまーー!」


 マヤちゃんが元気よくドアを開ける。後ろにリサちゃんとアカリちゃんもいる。


「マヤちゃん、リサちゃん、アカリちゃん、おかえり」

「ただいま戻りました」

「ただいま」


 すると、ナギトくんがツカツカと三人の方に歩いていく。そして、顔をマヤちゃんにぐっーと近づける。


「ん? あれ? メガネは? ってか近い近い! なんなのさ!」

「ああ、マヤか」


 え? 日常生活には支障はないって言ってたけど全然見えてないじゃん!


「見りゃわかるでしょ! なにやってんの!?」

「今コンタクトしてない」

「なんでよ?」

「気持ち悪いかったんで外した」

「それにしたって近いって!」


 マヤちゃんがナギトくんの顔をぐいっーと押しのける。


「じゃあ、こっちがリサで、ちっこいのがアカリか」

「ちっこいは余計」


 アカリちゃんが少しほっぺを膨らませる。


「もー、びっくりしたじゃん。あ、それなら今ほとんど見えてないんでしょ。これ何本?」


 マヤちゃんが手でチョキをつくる。


「バカにするな、それくらい見える。ニ本だろ?」

「正解。ちぇっ、つまんない」

「ではマヤさん、こうされてはどうでしょう?」


 リサちゃんがマヤちゃんになにやら耳打ちする。


「リサ、アンタ天才! それすっごく面白そう! ヒカリちゃん、アカリ、ちょっとこっち来て! それとナギト、アンタは外に出てて!」

「お、おい、なにすんだ」


 ナギトくんは廊下へと押し出される。


「でね、ヒカリちゃん——



「おーい、もう入っていいかー?」

「オッケー。入っていいよー」

「じゃーん。どっちがヒカリちゃんで、どっちがアカリでしょー?」


 ぼくはまた女装させられていた。リサちゃんの考えはこうだ。メガネをかけてないナギトくんは視力がめちゃくちゃ弱いから、もしかしたら、女装したぼくとアカリちゃんの見分けがつかないんじゃないか、というもの。

 ぼくとアカリちゃんは全く同じ格好をしている。セーラー服を着て、スカート履いて。髪の毛はウィッグ? ていうカツラみたいのをかぶってる。ていうか制服もう一着あったんだ。じゃあこの前の制服はアカリちゃんのじゃなかったのかな? よかった。


「ヒカリちゃん、なんかそわそわしてるけど、大丈夫? 出したばかりの新品だから、おかしなとこないと思うけど?」


 ん……? 新品? てことは、この前のはアカリちゃんのだったのー!? よくなかった!


「えーー!」

「ヒカリちゃん、どうかした?」

「い、いや、なんでもないよ」

「ん? まあ、いいや。ナギトはそこから動いちゃダメ! 制限時間は三分! ヒントとして一回だけ二人に好きなポーズをとってもらえます! レディー、ゴー!」


 マヤちゃんが号令をかけ、リサちゃんがタイマーを押す。

 ぼくは右にアカリちゃんは左に並んで立っている。ちらっとアカリちゃんのほうを見ると、アカリちゃんが顔を赤くしてた。


「ヒカリ、ちょっと近い」


 アカリちゃんが小声で言う。そうだよね。アカリちゃんだって恥ずかしいよね。


「んー? 難しいな。どっちだ?」

「ほら、あと一分!」

「ナギトさん、ファイトです」

「二人とも、一回くるっと回ってくれ」

「おお、ヒント使った。ほらヒカリちゃん、アカリ、回って回って」


 ぼくたちは同時に回る。


「あと、三十秒です」


 リサちゃんが言う。


「ナギト、早く決めなきゃ失敗だよー」

「よし、マヤたちから見て右がヒカリ。どうだ?」

「正解……。悔しいー! なんでわかったのー?」

「ふふん。ヒカリは回った後、恥ずかしさからか顔が真っ赤になる。この前もそうだった」


 みんなが一斉にぼくを見る。


「「「あ、ほんとだ(です)」」」


 顔が熱くなる。


「ヒカリちゃん、どんどん赤くなってるー。りんごみたいー。おもしろーい」

「ヒカリさん、赤くなるなんてかわいいですね」


 この勝負はナギトくんの勝ち。ナギトくんの観察力はすごいなあ。

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