第2話 おもしろい話

  窓から入ってくる風が気持ちいい。


「ねー、なんかおもしろい話ないー?」


  前髪をくるくるといじりながら誰にということもなく話しかけているのはマヤちゃん。いつもぼくをからかってくる。


「そんなのねーよ」


  ぶっきらぼうだけど律儀に答えるのはナギトくん。


「最近はないわね」


  静かに答えるのはアカリちゃん。いつもおとなしく本を読んでいる。


「この前ですねー、子ネコちゃんがいてー。とってもかわいかったんですよー」


  ほわわんと答えるのはリサちゃん。

  でもそれって、おもしろい話?


「リサ、それただのかわいい話でしょ」


  早速マヤちゃんにツッコまれているし。


「そうですかー?」  

「そうだよ」

「じゃあ、マヤさんの言うおもしろい話ってなんですか?」

「えっ? んーと、えーっと……」


 マヤちゃんがリサちゃんに困らされてる。


「ほ、ほら! 下校中に不良に絡まれたけどコテンパンにしてやったとか! 遅刻ギリギリだったけどなんとか間に合いそうでホッとした途端すっ転んでみんなに笑われたとか!」

「そんなこと普通ありませんよー」

「あるって! だって私がそうだったもん! 恥ずかしかったんだから!」


 え? さっきのってマヤちゃんの実体験なの?


「お前、やっぱ野蛮なんだな」


  ナギトくんが呆れたように言った。


「ナギトさん、野蛮だなんてひどいです! かっこいいじゃないですかー!」


 リサちゃんがほっぺをぷくーっと膨らませて反論する。


「みんなの目の前でずっこけたのが?」

「それは、かわいいんですよー」


 リサちゃんがほんわかスマイルにもどった。


「か……かわいい? えへへ……」


 当のマヤちゃんは照れちゃってる。


「マヤはもっと落ち着くべき。私みたいに」


 アカリちゃんが静かに注意するけど、


「かわいいかな……。へへへ」


 聞いちゃいなかった。

 アカリちゃんは大きなため息を一つ。そしてこっちを向くと、


「ヒカリは何かないの?」

「えーと……ぼくが買い物に行ったときにね、どこからか猫の鳴き声がしたんだ。ニャーって。どこかなーってキョロキョロしてたら、曲がり角から猫が歩いていくのが見えてね。きれいな白い毛だったの。身体のスミからスミまで。かわいいなーって思って見てたんだけど、かわいさの余り何を買いに来たか忘れちゃったって話、どうかな?」


 話し終えると、何故かナギトくんが頭に手を当てていた。


「ヒカリ、まさかとは思うが、『おもしろい』話か?」


 ん?どうゆうこと?

 …………そういうことか!


「いや、そういうつもりじゃなくて、ぼくが度忘れしたのがちょっとおもしろいかなーって!」


 ぼくはあわてて説明すると、


「あっははー! 『おもしろい』だってー! ヒカリちゃん、それ寒い! 寒くて逆に笑える、あーお腹いたい! あはははー!」


 マヤちゃんがお腹おさえて笑ってる。


「…………」


 アカリちゃんまで、肩を震わせて笑ってるー!

 そんな中、リサちゃんはポカンとしてる。


「えーと、なんで皆さん笑ってるんですか? 何がそんなにおもしろいんですか?」

「リサ、アンタ、わかってないの!? ヒカリちゃんが猫の話してたでしょ?」

「はい、してました」

「身体ぜんぶが真っ白だから、尻尾まで白いの。だから『尻尾が白い』つまり『尾も白い』ってこと。しかも、自分で気づいてないの。天然なの。」


 やめてー! 解説しないでーー! 恥ずかしくなってきた!


「あー、なるほど。そういうことだったんですね。やっとわかりました。おもしろいですねー、かわいいですねー」


 もう、いっそ殺して……。


「ヒカリちゃん、顔まっかー。ほんっと、おもしろいね」

「マヤちゃんだって、みんなの前で転んだんでしょ! 天然じゃん!」

「私はただ転んだだけだもん。天然じゃないよ。」

「一緒だよ!」

「——っていうか!ナギトくんはなんで写真撮ってるの?!」


 ちゃっかりスマホを構えてた。


「すまん、つい……」


 ナギトくんが少しうつむく。言い過ぎたかな?

「…………(レア顔ゲット)」

「ん? ナギトくん、何か言った?」

「いや、なんでもない」


 ナギトくんのほうから何か聞こえたと思ったけど、気のせいかな?


「じゃあ、どっちもかわいくて天然ってことでいいんじゃない?」

「そうですね、アカリさん。」

「「天然じゃない!!」」

「はいはい」


 アカリちゃんがため息をつく。まあ、マヤちゃんは天然だから、ため息つきたくもなるよね。ぼくは違うけど。

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