第4話 作戦

 軍議の終了後、幸村は一人廊下を進みながら頭を抱えていた。

「さて、厄介な事になったな……」

 幸村が編み出した策はこうだ。

 まず手始めに畿内を制圧し、関東の徳川と西国の諸大名の連携を分断する。畿内が粗方落ち着いたら、近江おうみ国の瀬田川と京の宇治川まで進軍し、橋を落とす。瀬田川と宇治川が川幅が広い上に流れが激しく、徳川の大軍がおいそれと渡れるようなものではない。さらに、瀬田川と宇治川の間には急峻な山々が連なり、もし敵が二軍に分かれて攻めてきたとしたら、両軍の連携は困難となる。また、もし宇治川を渡り攻めてきたとしても、すぐ近くには伏見城があり、そこで敵軍に迎え撃つことも出来る。つまり、二つの大河を畿内の外堀に流用してしまう作戦である。大坂城に籠城するのは、川を超えられた後にすればいい――。

「私も幸村殿と同意見でございます。徳川本隊と正面衝突するのはあまりに危険、ならば、そもそも畿内に入れないのが最適解かと」

「大坂城は確かに天下の名城でございます。しかし籠城戦は、地の利がこちらにあるとはいえ、補給路がままならない今の状況では長くは持たないでしょう。かの鳥取城でも、城は名城、城主も名将でありながら、補給路が分断されたがために落城してしまいました。籠城は、畿内を制圧した後でも遅くはないかと」

 盛親もりちか勝永かつながからも同意、いつもは幸村に突っかかる牢人達からも賛同の声が上がった。

 しかし、豊臣家中の者から帰ってきたのは、渋い回答だった。

「畿内に進軍……という事は、殿も進軍めされるという事ですか!? 断じて許しませぬ! 殿を戦場なぞに連れ出そうなど!」

「秀頼を危険な目に遭わせるなど、真田殿の頼みであろうと許容出来ぬ!」

「気持ちは分かるが、そんな上手く行くかね? 畿内制圧で手間取るのが関の山だろ」

治房はるふさの言う通り、現状の戦力では、畿内制圧も成功するかどうか怪しいでしょう。それに、この大坂城の防御網は鉄壁、正に天下の名城でございます。兵糧も十分蓄えております。それに、籠城戦であれば殿を戦場へお連れせずとも良い。ならば、籠城する方が手堅いかと」

 大蔵卿局おおくらきょうのつぼねどころか、淀君や治房、治長はるながまでも、幸村の策に首を横に振った。

 さらに、又兵衛またべえが渋い顔を見せたのが痛手だった。

「確かに幸村の策が成功すれば、徳川本隊と西国を分断出来るだろうな……理論上は。しかしよく考えてみろ。瀬田の唐橋は何度も焼き落とされているがな、唐橋を焼いた側が川を突破されて敗北した戦なんざいくらでもあるだろう。仮に瀬田川と宇治川を防衛網に組み込むにしろ、過信はしねえ方が良い。それに、こいつらが言うように、畿内制圧が間に合わねぇで各軍がてんでばらばらになった隙を突いて徳川が進軍してくる可能性だって大いにある。それにだな……」

 深い溜め息が響く。

「お前ら、西国の大名連中の存在を忘れちゃいねえか? 俺達の敵が東国の連中だけだと思わねえ方がいいぞ。西国にも、徳川と仲良くやってる連中はいくらでもいるぞ。厄介そうな連中だけでも、立花宗茂むねしげに細川忠興ただおき……島津も怪しいな」

 そこまで言うと、又兵衛がばつが悪そうに頭を掻く。

「……あと、俺が言えた義理じゃねえんだが、黒田長政ながまさ、あいつも厄介だぞ。何せ、武芸自慢の先陣大好き猪野郎だが、あれでいて官兵衛かんべえ様程ではないが頭はよく回る。西軍の連中は、あいつの工作に散々痛い目を見たからよく分かってるだろ? 家臣も腕っ節が強い連中揃い、おまけに結束力も妙に強いときてる。本気のあいつを敵に回すとろくな目に遭わねえぞ」

 最後の長政賛辞はともかく、そこまで言われてしまうと、幸村もぐうの音も出なかった。

「まああれだ。幸村の策は良いとは思うがな。どうせなら、瀬田川を超えてくる徳川兵共に対岸からひっきりなしに鉛玉を浴びせるくらいの、もう一押しの嫌がらせが欲しいな」

 なら籠城戦が良いのか……そう問うと、彼は渋い顔を見せた。

「確かに大坂城は名城だが、今の時期に籠城するのは難しいだろうな。大坂城の防備は、東西と北の低湿地にかなり依存している。しかし、乾燥する冬は低湿地の利点を活かしきれねえな。どうせ籠城するなら、湿地が雨でどろどろになる梅雨の時期が最適だろ。……まあ、徳川の連中は、梅雨どころか年明けの前に攻めてきそうだがな」

 又兵衛の意見に「どっちつかずだ」と抗議する牢人もいたが、彼は「決戦は避けられないが、今はその時期ではない」と言いたいのだろう。

 結局、その後も激しい口論はあったものの、豊臣家中は籠城すべしと言って頑として譲らず、籠城戦が色濃くなっていた。

 いずれにせよ、自信満々だった策の穴をことごとく突かれてしまった幸村は意気消沈していた。

 こういう時に幸村が向かう場所は二つ。第一はお竹の膝の上。そして第二は、

「お、どうした幸村」

 いつも指揮役五人がたむろしているくりや

 しかし、今回はどういった風の吹き回しか、又兵衛が一人で焼き餅をつまんでいる。

「何だ? さっきの軍議の続きか? 」

「……ばれましたか」

 幸村は苦い顔で又兵衛と向き合って腰掛ける。

「で、仮に籠城するとして、守備をどうするかが問題だな。今の季節は、東西と北の低湿地が多少乾燥してはいるが、それなりに障害になるだろうな。しかし、南は手薄だな」

 渋い表情を一瞥しても何も言わず、又兵衛は淡々と城の見取り図を広げる。

 そうか、と幸村は思い出す。この名将は、他人の考えを読むのは得意だが、他人の心を読むのは苦手だ。

「……先程の件ですが、てっきり作戦に賛成して下さると思うていたので、否定されてしまって少し落ち込んでいます」

「何だ? 作戦を否定されたから落ち込んでいるのか?」

 又兵衛はけろっとした顔で餅に手を伸ばす。

「何、単に実行する上での問題点を挙げただけだ。作戦自体を否定したつもりは無え。これくらいで落ち込んでいたら、それこそ今後やけっぱちになる羽目になるぞ」

 又兵衛に強く背を叩かれた幸村が咳き込む。

「それに、豊臣の連中が言っていた籠城も、最善策というわけではねえ。確かに大坂城は落城した事は無えが、それは単に一度も攻められた事が無えというだけだ。俺が見た限りじゃ堅牢である事は間違いねえが、一度も戦を経験した事が無え城だ、防備に未だ俺も気付いていねえ穴がある可能性も十分ある。少なくとも俺は、初陣ういじんの城に命運をそっくりそのまま託す気にはなれねえな」

「それもそうですね……」

「特に、一番の問題点は南だな。さっきも言った通り、東西と北は低湿地が一種の外堀になっちゃいるが、南は低湿地が無えせいで、敵が悠々と騎馬で攻めて来られる。城の周りにいくつか砦はあるが、それじゃあ間に合わねえ」

「ならば……」

「「南に出丸を造る」」

 又兵衛と幸村が指さした場所は、全く同じだった。

「俺がやるぞ」

「ここは私に手柄をお譲り頂けませんか?」

「いや何でだよ」

「私は未だ特筆すべき武功も無く、牢人達からも不審の目で見られています。ここで武功を立てて結束力を高めたいのです」

「手柄を焦るな。経験に乏しい将が武功欲しさに先走ってもろくな事にならねえぞ」

「確かに、私は自ら戦術を練り決行した経験が乏しいですし、不安ありますが……」

 図星を突かれた。苦虫を噛み潰したように、幸村が唇を噛む。

「……ならばこうしませんか? 私が主体となって作戦を考え、又兵衛殿がその作戦を吟味し改良する――これならば、仮に私の作戦に穴があったとしても、実行前に塞がるでしょう。幸い、私は父より敵を嫌がらせる方法を目で学んできました。もう一押しの嫌がらせ、少し試してみたいのです」

 静かな語調ながら、幸村の目には既に殺気が宿っていた。

「……あー、分かった。散々作戦をなじられても泣き付かねえって言うんなら手伝ってやる」

 恐らく殺気は又兵衛に向けられたものではない。しかし又兵衛は降参したとばかりに諸手を挙げた。

「で、どんな嫌がらせを思いついたんだ? 部屋でじっくり教えてくれや」

「ええもちろん父上直伝の嫌がらせ戦術をご覧に入れますよ」

 二人の表情は、悪戯いたずらを思いついた子供のよう輝いていた。

 

 出丸の築造は、それから間も無く始まった。

 突然城の南に土を盛り始めたのを見て、「真田が怪しい動きをしている」と言う者もいた。

 お竹が組み紐を量産するのを見て「真田が何か企んでいる」と言う者もいた。

 自宅に鉄砲を大量に揃えるのを見て、「もしや豊臣を裏切る腹づもりでは」と言う者もいた。

 空堀を掘り進めるのを見て、「何がしたいんだ」と言う者もいた。

 幸村を信じる仲間達は、彼に矛先が向くたびに睨みを効かせた。

 幸村は、仲間達に頭を下げながらも、黙々と計画を進める。

「大坂城は南の防備が薄い。だから、徳川の大半は恐らく南より攻めてくるだろう。そこで敵を一網打尽すれば、城を守り抜けるやもしれねえ」

「実はもう一つ『後藤丸』でも作ってやろうとも思ったがな。だが、この『真田丸』は守る為の砦では無い。虫を引き寄せる火であり、敵を屠る為の特大級の罠だ。なら、真田丸に敵を一点集中させてやる方が良いと思ってな、やめておいた」

「なあに、これなら大丈夫だ。俺とお前自身を信じろ」

 又兵衛のその言葉を信じて、幸村は脇目も振らず自ら築城の指揮を行なう。

 その真価が明らかになるのは、もう間も無くの事。

 

 10月11日、徳川家康が軍勢を率いて駿府すんぷを発った。23日には、徳川本軍が二条城に到着したと報せが届き、豊臣方の緊張は一気に高まった。

 11月15日、二条城を発った徳川本軍は、茶臼山ちゃうすやまに陣を取った。

 家康の元には、一族から外様とざままで、全国の大名が集結した。彼らは、ある者は大坂に布陣し、ある者は京や瀬田の守備を固めた。その数、二十万。

 一方の豊臣方は、ある者は大坂城へ通路を塞ぐように布陣し、ある者は周囲の砦を守備した。その数、十万。

 数日間睨み合った両者はついに、11月19日、木津川砦が徳川方の蜂須賀はちすか至鎮よししげに落とされたのを皮切りに、激突する。

 

「鴫野に築いた柵が突破されました!」

「今福で、後藤殿・木村殿が徳川方と交戦、後藤殿・木村殿が撤退されました!」

博労淵ばくろうぶちの砦が陥落しました!」

「野田・福島の砦が陥落しました!」

 大坂城には、次々と敗報がもたらされる。

「仕方ない……。残りの城は打ち捨てよ。全軍、城へ帰還させよ」

「はっ」

 各地に繰り出していた将が全員帰還し、再び城内は賑やかしくなる。

「まさか、私が城で側仕えしている間に攻め落とされるとは……」

「いや全登てるずみ、お前の場合は仕方ねえだろ。責めるなら、守備の最中に夜遊びに惚けていた兼相かねすけだな」

「畜生……何でよりによって遊びに繰り出した日に限って攻め込んでくるんだよ……」

「敵も、攻め込むのなら薄田すすきだ殿が不在の時に攻め込みたいでしょうからね。睨み合いが続く中で砦を空けるのは、失策かと」

「うぐっ……。痛い所を突いてくれるなよ重成しげなり……」

「まあ、砦に居ながらもあっさり逃げ帰ってきた治胤はるたねも大概だけどな」

「ったく……何やってんだよ治胤。しっかりしろよ」

「うう……。お恥ずかしい……」

 広間では、大坂城に戻っている間に砦を攻め落とされた全登、善戦するも上杉景勝かげかつら三軍に攻められあえなく撤退した又兵衛と重成、うっかり遊廓へ繰り出した間に砦を攻め落とされた薄田兼相、砦に居ながらも急襲を許してしまった大野治胤ら、城を出ていた将で反省会が行われている。その脇では、治胤の兄である治房が、土下座のように体を丸めうずくまる弟を叱咤している。

「まあ過去をなじっても仕方ねえか。おら、これでも食えや」

 そして、なぜか兼相と治胤の頭にだいだいが乗せられる。

「又兵衛殿、橙食べられませんよ」

「お前嫌味かよ! 牢人連中に『橙武者』呼ばわりされてるの、密かに落ち込んでるんだぞ!」

「うるせえな。身が無い奴には橙がお似合いだろ」

 ここまでくればもはや罵倒の域である。遠巻きに聞いていた幸村もさすがに心が痛む。

「ま、まあまあ。失敗は誰にもある事です。致命傷ではないのですから、籠城戦での働きによっては秀頼様も見直して下さると思いますよ?」

「うるせえ! こういう時にはな、そういう慰めが一番刺さるんだよこの野郎!」

 そう言って強がる兼相の目は既に潤んでいる。

「大体、お前何で他人事なんだよ! お前が変な出丸? を造って何を企んでいるか知らんが、もし失態をやらかしてみろ、ぶん殴ってやるからな!」

 そしてなぜか治房まで釘を刺してくる。

「まあしかし、幸村殿の言う通りですよ。国一つを失った私の失態と比べれば、砦の一つや二つ」

「お……おぅ……」

 盛親も何とか励まそうとするが、その自虐は返答に困る。

「なに、多少失態しようとも華々しく討死すれば後の世まで誉れになりますよ」

「うむ……ん?」

 勝永の慰めはもはや自殺教唆としか思えない。

「仕方ねえ。その機会がありゃあ汚名を返上してやる」

 兼相は、又兵衛に押し付けられた橙を弄りながら重い溜め息を吐いた。

 

 もちろん、この大敗を見聞きした幸村の頭にも、作戦失敗の四文字がちらつくようになる。彼とて負ける気は無く、時間の許す限り推敲し、防備を改良していく。

 彼の出丸が戦場となるまで、後四日。

 

 豊臣軍が砦を撤収した後、徳川軍は、大坂城を取り囲むように布陣した。

 前々日。徳川家康は、各将の陣を視察した。

「前田殿。向かいの奇妙な出丸を陣取るのは真田昌幸まさゆきの次男、油断ならぬ相手だ。塹壕ざんごうを掘り、土塁を築く事に専念されよ。例え挑発されようとも、決して真田の相手はなさらぬよう」

直孝なおたか。お前は父に似て無鉄砲な所がある。良いか。決して、真田の挑発には乗るな」

忠直ただなお。お前の目の前にいるのは、長宗我部盛親殿の手勢、牢人衆の中では最も兵力が大きい。よいか。軽率な行動は取らぬように」

 といった具合に、家康が自ら大将に忠告を下していく。

「不安なのですか? 父上」

 本陣に戻ると、息子であり現征夷大将軍、徳川秀忠が待っていた。

「不安だとも。何せ、相手はこの泰平の世を享受する事を拒み、なお戦を望む者達だ。何をしでかすかまるで予想が付かぬ。おまけに、牢人衆の中には歴戦の猛将もいれば、真田の次男までおる。わしが不安がるのも分かるだろう?」

「ええ。真田の次男には上田で酷い目に遭わされましたので」

 秀忠の目には、既に憎悪の色が宿っている。

 そんな息子の肩を、家康が軽く叩く。

「気持ちは分かるが、あまり戦場で我を忘れるな。今世の将軍はわしではない、お前なのだからな」

「ええ。もちろん」

 秀忠は軽く笑うが、その瞳の奥は冷たい光を宿していた。

「私にも父上にも、やるべき事が山ほどあるのですから」

 

 そして、12月4日。

「敵ながら、壮観だな」

 完成した『真田丸』の目前に並ぶ敵軍を前に、幸村は口振りとは裏腹に子供のように微笑んでいた。

「あの旗印は?」

「加賀の、前田利常としつね公にございます」

「あの前田利家公のご子息か」

「左様にございます。一昨日、塹壕を掘っている所を、篠山に配置していた手勢で狙撃したのも、前田軍でした」

「なるほど……。前田利常公、相手にとって不足なし。皆の者! 撃ち方、構え!」

 銃口が、一斉に前田軍に向けられる。

「――では、始めるぞ」

 

「あれが、真田の出丸か」

 前田利常が、鼻毛がぼうぼうと伸びた鼻の下を擦りながら、目の前にそびえる出丸の土塁を見上げる。

「某は大御所様の御息女を奥に迎えておる身。この度の戦で武功を挙げたいところだが……」

「なりませぬぞ殿。大御所様より、真田には攻め入るなと厳命が出ております」

「うむ、そうだな」

 その時

「やあやあこれはこれは前田殿! わざわざこんな小さな城までお越しいただきご苦労ですなぁ! 何に参られたのです? 鳥獣の狩りですかな? もう戦のせいで鳥も獣ももうおりませぬ。こんな所にいても、ご自慢の鉄砲が錆びるだけですぞ! もし暇を持て余しておられるならば、私がお相手しましょうか?」

 出丸の石垣の上に小柄な赤備えの武者が登り、眼下の前田軍をせせら笑う。

「早まるな。これは罠だ。無視するぞ」

「御意」

 前田軍が微動だにしないのを確認したのか、赤備えは更に続ける。

「かの加賀百万石の大大名と名高き前田殿が、一介の流人相手に恐れをなすとは! いやはや、徳川も堕ちたものですなぁ!」

「まだだ……まだ早まるな……」

 そう言いながらも、利常の声色は既に震えている。

 赤備えが、聞こえよがしと鼻で笑う。

「かの槍の又左またざと名高き前田利家公の後継がこの体たらくとは! 前田家も落ちぶれたというもの! あの世で利家公が嘆いておられるなぁ!」

 利常のこめかみから、ぷつりと音が聞こえた、気がした。

「……何だと!?」

 利常は、折れそうな程采配を握り締める。

「殿……」

「否、ここで攻撃を仕掛けるのは不味い。これは確実に罠だ。攻めかけては――」

 しかし時既に遅し、先鋒から鍔迫り合いの音が響き、それに引き寄せられるように陣形が乱れ始めた。もう、退く事は出来ない。

「ええいままよ! 総員、突撃!」

 大軍が、瞬く間に出丸へと押し寄せた。

 

「いやぁ、見事なまでに引っかかってくれましたね」

「お見事です」

 真田丸に攻め寄る前田軍を見下ろす幸村の背後に、重成が現れる。

「おや、持ち場はどうされたのです?」

「家臣達に任せてきました。又兵衛殿から、『あの出丸が一番の戦場になるぞ。真田昌幸公直伝の戦術だ、じっくり見て来い』と言いつけられまして」

「それは……責任重大ですね」

 苦笑しながらも、幸村は采配を上空目掛けて掲げる。

「まだ砲撃はするな。もう少し引き寄せろ……」

 敵軍が、空堀へと迫ってくる。

「信繁殿! 敵が迫っておりますよ!」

「まだです。もう少し……」

 そして、敵軍の先鋒が空堀の淵に差し掛かった、その時、

「――放て!」

 城壁に並べられた銃砲が、一斉に火を噴いた。

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