第47話 集結、サイコホルダー

 咄嗟に優紀がシールドを展開、倉林の目の前で薄紅色の板と鼠色の太い尻尾がぶつかり合う。そしてそのまま、何度も何度もぶつけてくる。

 すかさず、永和は次の攻撃――今度は馬の尾だ――の予備動作を取った。

「アハハハッ、シールドは二枚同時に出せないんだよねーっ!」

 まずい、と思った時にはもう遅い。目にも留まらぬ速さで、二撃目が襲い来る!

 目を閉じ、全身を強張らせた。次いで感じたのは、とても強力な――暴風!

 瞼を開けば、竜巻の渦が馬の尻尾を地面に叩きつけているではないか!

 竜巻の出処ははるか上空。

 見上げれば、眼鏡をかけた少女が、四肢から風の渦を操って、勢いよく降りてくるところだった。

「穂乃花ちゃん!」

「三人ともまったく無線に応答がないから、心配しましたよ!」

 すた、と地面に降りた穂乃花は、異形と化した永和を見つめたまま優紀に訊ねる。

「まあそれはいいとして。……あれ、常磐永和先輩なんですか……?」

「むぅ~。じゃーまーさーれーたー」

 永和があざとく頬を膨らませて不満を言った。優紀は無視して穂乃花に教える。

「うん。サイコストーンの覚醒が暴走してああなっちゃったみたい」

 穂乃花の返事よりも早く、今度は快活な少女の声が耳に届いた。

「おーい! 優紀くーん! どーなってんのこれーッ!?」

 見れば、先ほど紅色の雨が降った方向から、マリヤと美空が駆けてきた。

「マリヤさん! 無事だったんですね!? でも、なんで姉さんと一緒……?」

「仲間にしてきた! ぶい!」

 元気よくピースサインを向けてくるマリヤ。美空はどこか納得いかない顔だ。

「一応言っておくと、アタシが降参したのよ? 本気でやればアタシが勝ってた」

 二人が素早く優紀たちの元へ駆け寄った時、最後のサイコホルダーが目を覚ます。

「はっ……チッ、俺としたことがッ!」

 勢いよく飛び起きた将は、素早く辺りを見渡して永和の姿を視認すると、頬を強くひきつらせた。

「はは……まだ夢の中かよ……!?」

「もう現実だよ! それよか、早くサイコオーラ出しなって! 死ぬよ!?」

 マリヤに言われ、将は自身の右手首を見て再び驚愕する。

「なぁ……っ!? 俺のリストバンドがまたなくなってやがる!?」

「ごめん借りてる!」

 優紀が手首を掲げると、将が鬼の形相で距離を詰めてきた。

「優紀! お前なにやってくれてんだ!?」

「や、緊急事態だったから……返すってば」

 倉林を襲っていたネズミの尻尾が退散しているのを確認し、サイコオーラを解除。連動してシールドも霧散する。そしてリストバンドを将に返した。

 それを見たマリヤが肩を竦める。

「いやいや、それじゃ優紀君がサイコアーツ使えないじゃん」

「たぶん、僕のシールドより将君の電撃の方が役に立つかと思いまして」

「ヘンなところで自信ないんだから……。お姉さんから借りな?」

 得意げな顔で言われ、美空を見ると、ちょうどポニーテールをまとめているヘアゴムを取るところ。

 美空はげんなりとした顔で言う。

「まさか二つもアンタらに貸すことになるとは思わなかったわ……。ほら、使いなさい」

 そう言いながら、ヘアゴムの飾りらしきところをつまんで、そこに嵌め込まれていたサイコストーンを渡してくれる。四つあるヘアゴムのアクセサリーは、サイコストーンを嵌める台座になっているようで、三つの空きができていた。

「あ、ありがとう……姉さん……」

 ぎこちなくお礼を言うと、美空は照れを隠すようにそっぽを向いた。綺麗な所作でポニーテールを作り直しながら、黒から白に変えながら、ポツリと呟く。

「ふん……。成長したとは聞いていたけど、やっぱりまだまだじゃないの」

 慈愛に溢れたマリヤの笑みを向けられて、優紀まで気恥ずかしくなってしまう。が、照れている場合じゃない。

「皆さん、どうすれば常磐さんを救えますかね?」

「お前、ノープランかよ……」

 驚きと呆れが混ざった将のコメント。すかさずマリヤが自分たちの手札を確認する。

「穂乃花ちゃんサイコストーンのスペア持ってないよね?」

「ありませんよ、そもそも集めてないんですから」

「だよねー……。美空さん、実はまだ隠し持ってたりしません?」

 見つめる先は、美空のヘアゴム。

「ホント図々しいわねあんた……。残念だけど、もう予備はないわ」

 美空は氷のポニーテールを撫でる。

「一日に四連続で使った結果が、このザマだもの。三回分しか準備していないわよ」

 穂乃花と将の顔が険しくなる。

「覚醒攻撃は作戦に組み込めないですね……」

「使うとしても、使えば勝ちが確定できるタイミングじゃないとな」

 こうして全員が永和と向き合い、見つめ合うこと、一秒。

「ウフフフフ、次から次へと鬱陶しい……もういっそ、全員殺しちゃおうかなぁ」

 優紀は一歩踏み込んで、不気味に笑う永和に向かって宣言した。

「僕一人じゃ頼りないかもしれない! だけどこんなに心強い仲間たちがいるんだ! だから絶対救ってみせる! 僕らを信じて! 常磐さん!」

「救う? 私を? あなたたちが?」

 おかしそうに口元に手を添え、永和が優紀たちを見下ろした。

「だったら私を拒絶してよ。話しかけないでよ。殺してよ。それが私にとっての救いなんだよ?」

 笑顔で言う台詞じゃない。

「嫌だ! 孤独になんて絶対させない! 生きたまま幸せにして見せるっ!」

 真剣に、そう伝えると、永和は呆れ反ったため息をつく。

「……はぁー。もういいよ。じゃあ、こうしよう?」

 もぞもぞと多種類の尾でできた無数の足が蠢く。それぞれが一メートルほど延長する。

「これから田中君の仲間を一人ずつ殺していくから、田中君は憎悪に耐えられなくなったら私を殺してね? もし田中君一人になっても同じことを言うようなら、一緒に死のう」

 優紀はもちろん、マリヤも、美空も、将も、穂乃花も、臨戦態勢を整えた。

 マリヤがアイコンタクトで倉林に指示、倉林は気絶したままの龍馬の元へ駆け寄り、現場離脱のために動き出す。

 それを横目で見送ってから、応じる。

「じゃあ、僕らが一人も死なずに勝ったら、常磐さんはなにをしてくれるの?」

 永和は頬をかく。

「そーだなぁ。田中君のために生きてあげる。なんでも言うこと聞くよ? 田中君だけのお人形さんになってあげるね?」

「じゃあ、一緒に図書館で勉強して、将来の夢を探して、生きることを頑張ってくれるってことでいい?」

「それを田中君が望むなら……ねー」

「わかった。……よし。はじめよう」

「クスクス。そうこなくっちゃ。それじゃ――こっちから行くよッ!」

 刹那、優紀たちは高く飛び上がった。

 足元の地面に亀裂が入り、地中から迫っていた何本もの尾が飛び出したのだ!

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