第18話 再会
突然マリヤに名前を呼ばれ、優紀はひっくり返した声で返事をした。
「ひゃ、はいっ!」
おもむろに立ち上がると、美空、美空の背後にいた自衛隊員、マリヤの後方に立つ自衛隊員二名から拳銃を向けられる。もちろん、優紀は情けない悲鳴を上げた。
「ひぃい!?」
「って、まさか、ええ!?」
特に美空の驚く様子は大げさだ。
「ふふっ、ずいぶん驚くじゃん」
ニヤニヤとマリヤが美空をおちょくるも、美空は無反応。
絶句する美空に、優紀は複雑な気持ちを込めて声をかける。
「……五年ぶりだね、姉さん」
「……やっぱり、優紀なのね」
思いもよらないやりとりだったのだろう、マリヤは途端に目を丸くして、優紀と美空を交互に見比べてきた。
それを無視して、美空が尋ねてくる。
「なんでこんなところにいるのよ? その恰好、SETの一員よね?」
「……姉さんだって、どうして自衛隊の装備なんか」
気まずい空気。ただでさえ五年前に喧嘩別れのような形で会えなくなったままなのに、知らぬ間に自分たちの所属組織の点でも面倒な関係性になってしまっていた。
動けなくなった優紀の腕を、いつの間にか近づいてきていたマリヤが引っ張る。
「はいはーい、あたしたちは帰るよー。……常磐さん、探すんでしょ」
言われ、優紀は気を引きしめなおす。
それでもなんて言ってこの場を離れればいいかわからなくて、結局無言でマリヤの砕いた窓から立ち去るしかなかった。
「五年前、両親が離婚したんです」
ハクチョウ引越センタートラックに戻った優紀たち。穂乃花に怪我がなかったことを確認したマリヤから尋ねられ、優紀は身の上話を聞かせていた。
五年前まで苗字が宮藤だったこと。突然離婚話を切り出され、なにもできずに今に至ったこと。それに後悔していること。
「……つーかよ、宮藤美空が姉って時点で」
「お父さんは宮藤龍馬さんってことですよね」
将と穂乃花からそう言われて、優紀は首を傾げる。
「なんでお父さんのこと知ってるの?」
「知らないわけないじゃないですか。SACTのトップですよ?」
「そうなの!?」
「おい息子! 知らなかったのかよッ!?」
驚く優紀に、マリヤが微笑みかける。
「時系列的に、SACTができたのは離婚とほぼ同時期だろうし、知らなくてもしょうがないよ。それにそもそも、そういうお立場の人は家族にも言えないでしょ。非公然組織なわけだし」
優紀は曖昧に頷いて、身の上話を打ち切った。
「僕の話はこれくらいにして……。今はとにかく常磐さんの捜索です。旧辻見堂医院にいなかったとなると、自宅を調べて帰ってないか突き止めるくらいしか思いつきません」
『それなんだが』
スピーカーから文雄の声。
『常磐永和、なんだよな? 日常の常にJR磐越西線の磐、永遠の永に和風の和。歳は優紀と同じ高校二年生かそれ以下で、女子。合っているよな?』
優紀が不思議そうに「はい」と答えると、マリヤが天井のカメラに目を向ける。
「なにかあったんですか?」
『いや……戸籍が見つからん。図書館で働いているんだから、周辺地区の区役所から住民票なりマイナンバーなり出てくると思ったんだが』
「じゃあ自宅が分からないじゃん。スマホも持ってないんでしょ、その子」
「直接図書館の人間に聞くしかないですね」
マリヤと穂乃花がそう言うも、文雄の声は浮かなかった。
『そうなるよなぁ。しょうがない、二手に分かれるか』
「二手って……他に急ぎの用事なんてあるんですか?」
『お前らが自衛隊と喧嘩している間に、こっちでは五年前に買い取られた旧辻見堂医院の元所有者と連絡が取れた。今から話を聞かせてくれるそうだ』
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