第13話 歓迎

 今回は、二手に分かれての作戦となるようだ。マリヤと穂乃花が周辺に潜んでいる暴獣たちを警戒し、優紀と将が旧辻見堂医院を実地調査する。

 移動中に穂乃花がパソコンで調べたところ、辻見堂医院は院長の辻見堂晴彦が始めた個人経営の病院だったことが判明した。

 立地の都合で、地元の方々、それもご高齢の方ばかりが通院していたそうだが、評判はよかったそうである。特に事件事故などはなく、院長の晴彦が病死したことにより、所有権が妻の玉枝に委譲した。

 玉枝は、大手企業に就職した息子やネット掲示板等に相談した末、思い出深いその土地を建物ごと高値で買い取りたいという人に引き取ってもらったらしい。

 これら、ネットで手に入った情報を振り返りながら、隣を歩く将が言う。

「つまり、今この土地の所有者は別人ってことになるな」

 優紀は無線機のイヤホンがついた右耳を気にしながら答えた。

「買ったってことは、その買った人は自分の病院が欲しかったってことだよね? なんで開業してないんだろう」

 無線機、分厚い防護チョッキ、防護靴。どれも慣れない装備ばかりで、つい触ってしまう。

 将はあまり気にしないよう指摘しながら、会話を続けた。

「意外といい視点してるな。俺もそこが引っ掛かっていたぜ。そもそも、病院ってそう簡単に売り買いしていいものなのか? どうにもきなくせェ」

「きな臭いって……まさか、買った人は犯罪に使う気だったとか?」

「俺はその可能性が高いと踏んでいるぞ。奥さんが相談したっていうネット掲示板は俺もさっき見てきたが、明らかに医療関係の知識がない人の文章だった。適当なこと言って騙すのは容易だろうな」

 優紀が黙り込む隣で、将が呟く。

「どうしてその常磐って娘は、そんな病院に逃げ込もうとしたんだ?」

「さあ……」

「と、話は終わりだ。見えてきたぞ」

 綺麗なオレンジ色の夕日をバックに、不気味な雰囲気のある病院が視界に映った。

 森の中、敷地が高い塀と有刺鉄線で囲まれている。しゃれた鉄の門扉なんて、もはや病院ではなく一般住宅の駐車場入り口だ。

 模様の隙間から見える敷地内では、雑草の生え具合や外壁の汚れ具合がひどい有様。優紀の感想は、不気味、の一言に尽きる。

 この病院と永和は……どう関係しているのだろうか。

「おい、ボーっとしてんじゃねぇ。お前まさか、寝不足か?」

「ご、ごめん」

 声をかけられ見てみれば、将は薄く紅色の光を纏っていた。

「あの、なにを」

「なんか嫌な予感しかしない。心して入れよ」

 ちらりと将が上を見やり、優紀もつられてそれに気がつく。門の正面を映すように、監視カメラが門扉の影から覗き込んでいた。……いよいよ膝が震えそうだ。

「よく気づいたね……」

「優紀もオーラ出しとけ。五感も思考も冴えわたるぞ」

「わ、わかった」

 意識を集中。

 全身に薄く紅色の光を纏わせる。

「いくぜ」

 将が豪快に門扉を開けて、敷地の中へ。

 優紀はなんとなく門扉を閉め、将の後ろを追いかける。

 車いす用の緩やかな正面スロープを進み、一般住宅より一回り大きい玄関ドアの前に立つ。

「インターホンはないみたい?」

「おまけに鍵もかかってねぇ」

 将が棒状のドアノブを回し、押し開ける。待合室と直通だ。病院として造られただけあり、土足での立ち入りを想定した平坦なリノリウムの床が広がっていた。

 受付カウンターと会計カウンターは一つにまとめられているようで、待合室も十人程度がゆったりできる広さが想定されている。個人経営という点をふまえると妥当なところなのかな、と優紀はなんの根拠もなく思った。

 コッ、コッ、コッ。将が靴を鳴らして歩く。優紀もぴったり後ろをついていく。

 待合室からいけるのは、男女別々のトイレと診察室に続く扉だけ。どの扉も、左にスライドさせる引き戸になっていた。

 診察室へ続く引き戸を、将が遠慮なく開くと――。

 カチ。

 ――仕掛けられていた爆弾が、起爆した。

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