第12話 目指すは
「さっきはすみませんでした」
ハクチョウ引越センタートラックの荷室に戻った優紀は、将と穂乃花に、頭を下げる。
「ハッ、頭は冷えたのかよ?」
「はい。なので、常磐さん探しに協力してください!」
もう一度、頭を下げる。さっきより深々と。
優紀の隣で、マリヤも天井を見上げて声をかけた。
「いいですよね、室長? もし常磐さんを無事に保護できたら、改めてスカウトかけるってことで」
『もちろんだ。優紀君、こちらからも謝罪させてもらう。おれとしたことが、冷静さを欠いていた。申し訳ない』
「あ、いえ」
運転席にいるらしい室長、来嶋文雄なる人物は、どうやら天井に備えつけられたカメラから見ているらしいことを、いまさらながらに認識した。
そんな優紀の視界の下で、穂乃花が呆れた目を将に向ける。
バツが悪そうに、将が口を開いた。
「おい……さっきは怒鳴って悪か――」
「あの……どうか協力――あ、えっと」
将の声を遮ったことに気づき、優紀は慌てて口を閉じる。将は顔を真っ赤にしてそっぽを向き、マリヤと穂乃花が顔を見合わせて吹き出した。
「まったく……間が悪いなあ本当に……あはは」
「お兄ちゃん……なにやってるんですか……ふふふ」
聞き取れなかった優紀だけは、不思議そうな顔をしているだけ。
スポーツ刈りの頭を乱暴にかいて、将が叫ぶ。
「だぁー! 詫びは働きで返す! それよか、さっさと捜索方針立てるぞッ!」
「あ、うん!」
先ほどトラックに乗り込む直前、マリヤから、将とは同い年だからタメ口でいいと言われたことを思い出し――将はいじられキャラだからいじってあげた方がいいとも言われた――優紀は照れながらも敬語を止めた。いじる気は、起きないが。
そして、ポケットから紙切れを一枚引っ張り出す。
「実は、さっき見つけたんですけれど……」
数行に渡って大きく『辻見堂医院』と殴り書きされた、シールの貼られたメモ用紙。ちなみにそのシールは、二頭身にデフォルメされた少年のシールであり、首になぜかほうれん草を巻いているデザインだ。
マリヤがポンと手を叩く。
「ああ、そういえば拾っていたね。見せて。……穂乃花ちゃん検索、辻見堂医院」
「はい!」
穂乃花は立ち上がり、ソファの座面を持ち上げる。収納スペースになっているようで、そこから小型のノートパソコンを引っ張り出した。すぐに立ち上げ、驚きの速さでタイピングを開始する。
「……辻見堂医院、で合ってますよね? だとすると、完全一致するのは一つだけですが……五年前に閉業しています。メモ用紙お借りしても?」
「うん。はいこれ」
マリヤからメモ用紙を見せてもらい、やっぱり、と穂乃花が頷く。
一方で、マリヤは眉根を寄せて首を傾げた。
「五年前? どうにも腑に落ちないな……あ、そっかシールだ!」
マリヤはみんなに見えるように、メモ用紙に貼りつけられたシールを指さす。
「このキャラクターは今年完結した『ミックスベジタブル』っていう少女漫画のメインキャラで、この首に巻いているのは主人公の『七草おかゆ』ってキャラが最終話で完成させたほうれん草のマフラーなの」
「……ほうれん草のマフラー?」
想像ができず、穂乃花が首を傾げた。
「ほうれん草のマフラーっていうのはね」
「いきなり脱線するんじゃねぇ!? 今は常磐永和とその病院の関係性の話だろ!?」
「おっとそうだった、マフラーの説明の前にキャラの相関図を説明しないと」
「そ・れ・関・係・ねぇっつってんだろーが!? 黙ってろお前!」
将は呼吸を整えると、おとがいに指を添えた。
「五年前に閉業した病院。メモったってことは用があったってことだよな? つまり五年以上昔のもん……のはず。だが、シールをふまえて考えれば、このメモは今年書かれたことになる……のか?」
眉間にしわを寄せる将に、マリヤがじとーっ、と文句ありげな視線を向ける。
「だからそう言おうとしたんだけど」
「明らかにそうは聞こえなかったけどな」
「位置情報出ました……って、ここは」
穂乃花がパソコンの画面を優紀たちに見せてきた。
「なんだよ、すぐ近所じゃねぇか」
「これって偶然? 優紀君」
三人の視線を受けて、優紀はたじろぎながらも両手を上げる。
「もしかして、そこに逃げたっていう合図のためにシールを貼ったのかもしれません。……でもあの森、常磐さんの家への近道とも言っていたから、家を選ばなかったのはなんでだろ……?」
『考えてわからないなら行ってみるしかないだろう。穂乃花、住所を教えろ』
「データ転送しました」
『助かる。一応基調しておいてくれ』
こうして優紀たちは、旧辻見堂医院を調べることになった。
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