東京都町田北町田廃品町のラジカセと太閤っち

「変形機構…完了…ドローン射出機構…完了…ブレード展開…正常…システム、オールグリーン…!」

「着心地もバッチリだぜ。アキラ、テメーら…文句なしだ!!」

「全機能テスト完了…!!!”ヤギューバスター”、ロールアウト!」

「「「よっしゃああああああああああ!!!」」」


アキラの力強い宣言と共に、ウォーモンガータワーに詰める浮浪児技術スタッフ一同が歓喜の声を上げる。この数か月間、置き引きも賽銭ドロも寸借詐欺も諦めて創り上げたウォーモンガーたみ子専用最強アーマーが遂に完成したのだ。


「オラッシャアアア!!打ち上げだあ!!」

「密造酒!なんだかわからない肉!なんだかわからない煮込み汁!!」

浮浪児技術スタッフたちがどこからともなくなんだかわからない酒や料理を手際よく運んでくる。


「オラ、テメーら!マジでよく頑張ったな!敬意評してやるぜ!今日は存分に飲んだくれな!」

ウォーモンガーたみ子はそういうと、アキラにマチダ・ドルの偽札がたっぷりと詰まった封筒を投げ渡す。全員がたっぷりと三日間豪遊しても釣りがくる金額(偽札)だ。


「姉御は?」

「アーシはパスだ…人間サマの食い物、受け付けねーんでな…」

アキラの問いをさっと躱すと、手をひらひらと振っていつものように立ち去っていく。彼女がこうした打ち上げの場に顔を出すことはほぼ無い。アキラもそれ以上追求せずに打ち上げに向かう。



「折角の打ち上げにカシラが飯も食わずにふんぞり返ってたら興覚めだしな」

ウォーモンガータワーから少し離れた道。たみ子は独り言ちながら歩く。


「さて、アーシの方はといえば…どうしたもんか…」

たみ子は腹を抑える。機械の体には機械の食事が必要だ。今日の気分は…ツルリとしたもんだな。


暫く歩き、廃ジャンク・マウンテンにたどり着く。ジャンク漁りをしていた低品質麻薬中毒サイコ浮浪者が顔を見るなり彼女に襲い掛かり、あっさりと右腕に内蔵されたサイコ・ガン(サイコ射殺用ガン)で撃ち殺される。


「さあ、て、と…お…なかなか状態がいいのが…あるじゃねえか。お、ついでにいいの見っけ、と」

ガラクタの山を漁り、お目当ての品を見つけ出す。


<ウォーモンガーたみ子 本日のランチ>

・ステレオラジカセ CFS-60

 レトロ感あふれる名機 シルバーの無骨なボディがシブい

・太閤っち(たいこっち)

 今日の掘り出し物 ピンクの手のひらサイズがカワイイ


「じゃ、まずはこっちから…」

彼女の体格には少し大きなラジカセを手に取り、食べるのに邪魔な取っ手部分をむしり取る。


ボディから再生ボタンや一時停止ボタンをペキペキと取り外すと、一つずつ口に放り込んで咀嚼する。プラスチック特有の軽やかな歯ごたえが心地よい。


次に金属製の丸いボリュームつまみを取り外し、こちらは噛まずに丸呑みする。なめらかな丸みのボリュームつまみはスルりとした喉ごしで腹に収まる。ひんやりとした冷たさがテクノ消化管を通る感覚も爽快だ。


いきなり丸かじりする輩もいるが、たみ子はこうしたパーツを一つ一つ味わうのが好きな性質だった。貧乏性と言っても良い。


「うん、こりゃ正解だ プラスチックとメタルのアクセントもすごくいい なんだか期待が高まってきたぞ」


あらかたボタンが剥がされた本体を持ち上げると、たみ子は端から噛り付いた。大人が肩に担ぐようなサイズ感のラジカセだが、彼女の顎関節が展開拡張し、丸かじりを可能としている。


先ほどの丁寧な味わい方とは一転し、外殻部のベキベキとした触感、内部のスプリング、ピン、配線やギアなどが混然として彼女の口の中で混ざる。


「このシルバーのヒンヤリとした清涼感!最近のおしゃれな黒物家電じゃ味わえないよなあ 温故知新ってこういうことだよな」


本体を2割がた齧り取った彼女はそこでラジカセ中央部、カセット挿入部のイジェクトボタンを押す。

「で、これがお目当ての…出た出た、出ましたよ」

カセットウィンドウが緩み斬ったバネ仕掛けでゆっくりと開き、中からカセットテープが姿を現す。


たみ子はそれを手に取ると、親指を当てて中心部で二つ折りにする。ぱきり。カセットテープの外殻部分を投げ捨てると、中に治められていた磁気テープロールを取り出す。


「さあて、中身は…」


たみ子はテープの片端を加えると、一気にテープを啜る。シュルシュルとテープロールが回転し、見る間に小さくなっていく。たみ子の腹にテープが収まると同時に、彼女の神経系に磁気情報が流れ込んでくる。それは彼女が生まれる前のたわいもない歌謡曲だったが、飾り気のないレトロ感が今は嬉しい。


「ふう、旨かった…さて、思わぬ伏兵、デザートが今日はいるんだよな、これが」


たみ子は太閤っちのチェーンを掴み、ゆらゆらと揺らす。


太閤っち。彼女が小学生の時に大流行した卵型のデジタルペットだ。白黒の液晶画面で、藤吉っち(とうきっち)の世話をして太閤っちまで進化させていく。


たみ子はブームが終わってから友人に借りたが、何が面白いのかさっぱり理解できなかった。が、食べるとなっては話が別だ。


ボタン電池の充電はとうに切れており、ボタンを押しても何の反応もない。だが、たみ子は表面をこじ開けて回路部を出すと、そこに指先をそっと当てる。たみ子の指先からの適性電圧電流が回路を通電させ、白黒液晶部に低解像度ドットの藤吉っちが表示される。ピーピーと電子音を鳴らしエサを要求する。


「エサの時間だよ…餌はお前だがなァ!」


たみ子がそう笑うと、液晶画面の端から低解像度ドットのたみ子が現れ、低解像度恐怖に震える藤吉っちを低解像度捕食する!


画面に藤吉っちの低解像度食べ散らかしが散乱されるだけになると、たみ子は卵型の太閤っち本体をぼりぼりと捕食し、飲み込む。電子物理両面での捕食行為が彼女の食欲を十分に満たした。


「あー…満足…。さて、アイツらはまだバカ騒ぎしてるだろーし…どっかでもーちょい時間潰してから帰るかね…追い剥ぎホスト団でも狩りにいくかな…あの辺にバレットストーム・フォームの予備置いてたはずだし」


たみ子はゆっくりと起き上がると、歩き始めた。


「そーいや…アーシの生身の脳って、何食って維持されてんだ…?」


(終わり)


これはふらっと@ロボ娘Vtuber運用はじめました(@flat913)さんのリクエスト「ウォーモンガーたみ子の日常話」を受けて書かれたものです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る