第43話 家族になる
今日、ついに母親と渚さんの結婚式が行われる。
ウエディングドレスなんて二度も着たくないということで、今回は和装での式になった。
この年になって、まさか母親の結婚式に出席するとは思ってもみなかったけど、渚さんの隣で笑っている姿は幸せそうだから、心の底から良かったと感じる。
それにしても義理とはいえ、渚さんが父親になるのか。
何だか変な気分だ。
渚さんからは無理してお父さんと呼ぶ必要は無いと言われたけど、それでもゆくゆくは慣れていきたい。
誰もいないところでお父さんと呼ぶ練習をしているのは、絶対に秘密である。
白無垢に身を包んだ母親は、息子の視点から見てもとても綺麗だった。
再婚同士だったため誰かを招待することなく、俺と終夜さんだけだ。
家族4人だけの、ささやかな式。
それでも、幸せがいっぱいつまったいい式になった。
式は滞りなく終わり、俺と終夜さんは片付けが終わるのを待っていた。
この後、4人で食事をとることになっている。
だから敷地の中を、当ても無く歩く。
「……いい式だったな」
「はい。幸せで、いいものでした」
「冬果さんもとても綺麗だったし、式をやって本当に良かった。親父も凄く喜んでいた。むしろデレデレで気持ち悪かったな」
「そんなことないですよ。渚さんも母さんも、とても嬉しそうで。……本当に家族になれたんだなって、そう実感しました」
「俺もだ。……ちょっと行きたいところがあるから、着いてきてくれるか?」
「? はい。分かりました」
並んで歩いていたのだが、終夜さんに手を握られ、そしてどこかへと連れていかれる。
あと少ししたら片付けが終わるのに、どこに行くんだろう。
疑問に思ったけど、手を引かれながら俺は大人しく着いていった。
「……ここって」
連れてこられた先は、同じ敷地内にある教会だった。
ステンドガラスから差し込む光が、真っ直ぐに赤い絨毯を照らしていて、脇には参列者が座る木の椅子が等間隔に並べてある。
ドラマでよく見るような、王道の形をしている教会。
当たり前だけど、今は俺達以外誰もいなかった。
「勝手に入ったら怒られませんか?」
「少しぐらいなら大丈夫だ。ほら、こっちに」
さすがに不法侵入で怒られるんじゃないか。
そう思ってすぐに出て行こうとしたけど、手は繋がれたままで引きずられてしまった。
赤い絨毯の上を進んでいき、そして祭壇の前まで連れてこられた。
「終夜さん?」
「夏樹。ここに立ってくれないか。そう向かい合って」
まるで結婚式みたいだ。
祭壇の前で終夜さんと向かい合うと、そう思ってしまった。
「俺、九十九終夜は、高城夏樹を生涯の伴侶とし」
「しゅ、終夜さん?」
「静かに。……健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、貧しい時も、夏樹を愛し、敬い、慰め合い、ともに助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓います」
嬉しくて、現実のこととは信じらない気分だった。
それでも、これは現実なのだ。
俺は視界が潤むのを自覚しながら、震えながら口を開く。
「俺、高城夏樹は、九十九終夜さんを生涯の伴侶として……えーっと、一生好きであることを誓います」
中身をちゃんと覚えていないから自己流になったけど、それでも終夜さんが嬉しそうに笑ったから、これで合っていたんだろう。
「手をこちらに」
「は、はい」
もしかして、そんな予想をしながら彼の手にそっと左手を重ねる。
その手を持ち上げられ、彼は俺の薬指に指輪をはめた。
「終夜さん!」
「良かった。ぴったりだな」
終夜さんの言う通りぴったりとはまった指輪に、俺は手を掲げて胸が締め付けられる気分になった。
形に見えるもので、彼との繋がりを感じられるのは幸せだ。
「終夜さんの分は?」
「あるが……つけてくれるのか?」
「当たり前じゃないですか。本当は俺が勝った方が良かったと思うんですけど。用意してもらってすみません」
「いや。むしろ俺が勝手にしたことだからな。つけてくれると言ってくれて嬉しい」
指輪をもらい、俺も終夜さんの左の薬指にはめた。
「籍は入れられないけど、これで俺達も立派な夫婦だ」
「はい」
「それじゃあ、誓いのキスを」
本当に結婚するかのように、俺の肩を掴んで引き寄せた終夜さんにキスをされる。
今、この瞬間、一番幸せなのは俺達だ。
世界中の全てに祝福されている気分で、俺達は2人だけの結婚式を挙げた。
絶対に好きになるとは思っていなかったし、むしろ最初の印象は最悪だった。
それなのに、いつの間にか好きになっていて結婚した。
半年前じゃ考えられなかったことだけど、全く後悔は無い。
むしろ幸せで、一生彼を愛し続ける覚悟だ。
不安になったり勘違いしたり、色々な人を犠牲にして成り立った関係だった。
それでも俺は彼と離れることなんて全く考えられないし、何が起こったとしても離れるつもりはない。
終夜さんも同じ気持ちだ。彼がそう言ってくれた。
左手の薬指に光る指輪を眺めながら、俺はこれからの人生が輝いているものだと、そう確信する。
これがその証だ。
5歳の時の約束なんて無効です! 瀬川 @segawa08
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