第34話 意外に悪い人じゃない?
「終夜さんは最近、プリンにはまっているんです。しかも濃厚なやつ。コンビニで買って帰るぐらい好きなんですからね!」
「そんなの知っているよ。特にお気に入りなのは、○○コンビニの濃厚プリンだってこともね」
「俺だってそんなことぐらい知っていますし!」
「なにおう」
何だか楽しくなってきた。
1時間ぐらい終夜さんの良いところを言い合っているのだけど、終わりが見えない。
俺も真昼さんも全く止まらず、ずっと話し続けている。
マスターは呆れて、いつの間にか奥へ引っ込んでしまった。
お客さんが来る気配も無いので、好き勝手に話をすることが出来た。
「思っていたよりも中々やるね」
「そちらこそ、親友というのはダテじゃないですね」
少し話すのに疲れ一旦休憩することにしたが、達成感が体を包んでいる。
真昼さんも同じようで、コーヒーを飲みながら、リラックスした表情になった。
終夜さんのことでもめたけど、終夜さんのことで同志としての繋がりを感じた。
「もっと終夜の容姿や地位しか見ていないのかと思った。だから終夜から離れないのかと考えていたけど、どうやら違ったみたいだね」
「どんな悪女、悪男? ですか。まあ、どっちつかずな態度をとっていた俺も悪いですけど……」
「良い子だね。でも何で、まだ終夜と一緒にいるの? 別に恋愛感情があるわけじゃないんだろう?」
「そうですね。最初は、すぐにでも止めてやると思っていたんですけど、終夜さんの想いにきちんと返したくなったんです」
「想い?」
「一緒にいることで喜んでくれるのなら、半年という期限で俺に出来ることはしたいんです」
「それは……残酷な気もするけどね」
「俺も指摘されて気づきました。確かに終夜さんに残酷なことをしていますね」
「分かっているのに、それでも続ける?」
「……そうですね。それじゃあ傷ついた終夜さんのことを、真昼さんが慰めればいいんじゃないですか?」
「俺が?」
「はい。俺は半年経ったら、きっと終夜さんから離れるでしょう。こんな酷い俺を、終夜さんは許してくれないかもしれません。こんな悪い男に騙された終夜さんを、どうか真昼さんが支えてあげてください」
この人は、終夜さんのことをよく考えている。
俺の元に来たのも、全て終夜さんのためだ。
真昼さんになら、俺がいなくなったあとのことを任せられる。
「何か勝手だけどいいよ。夏樹君がいなくなった後のことは、俺に任せて」
「ありがとうございます」
「あーあ。俺ってなんて優しいんだろう」
「そうですね。あなたに会えて良かったです」
俺の後始末を任せられる人を見つけられて、今日は運がいい日だったようだ。
「まあね。俺は優しいから。夏樹君のことも気に入ったし」
「俺のどこか気に入るところありましたか?」
「なんか面白いし、終夜と一緒にいるのにほだされていないところも珍しい」
「結構ほだされていると思いますけど」
「いや。ほだされたら、もっと凄いよ。老若男女問わずメロメロって感じかな」
「それは……想像出来ますね」
終夜さんなら、誰にでも好かれそうだ。
「それじゃあ、ストーカーとか変な人もいたんじゃないですか?」
「まあ、さっきのもそうだけど、非公認でファンクラブとか作られていてね。しかも統率が取れているわけじゃないから、好き勝手されて困っていたみたい」
「それは大変ですね」
「近くで見ていて、結構やばい時とかもあったよ。刃物持ち出してきたり、合鍵を勝手に作られたり」
「うおう」
思っていた以上に、ヘビーな話である。
俺とは絶対に無縁な話すぎて、現実味が無い。
「今でもあんな人がいるとは。まだまだ影響力があるみたいだね。夏樹君も気を付けなよ?」
「今日、身をもって経験しました。今まで、俺は平和に生きてきたんですね」
「たぶん、終夜が守っていたんじゃないかな」
「終夜さんが……あの人なら、俺に気づかれずに守ってくれそうですね」
そうじゃなきゃ、きっとたくさんいるであろう終夜さんのガチファンに今まで会わなかったことがおかしい。
気づかないうちに守られていたのを知り、俺はますます終夜さんに対する気持ちが大きくなるのを感じた。
それでも恋愛というよりは、親愛に近い。
「それを知ってもなお、恋愛に発展しないんだから逆に凄いよね。尊敬してきた」
「前提として、女の子が好きですから」
「そういう人も魅了するのが終夜なんだけどね。本当、夏樹君って珍しいタイプ。ぜひ、これからも仲良くしたいな」
「俺は……まあ、俺も仲良くしてもいいですかね」
「生意気なこと言うな。こいつ」
「いひゃいです」
ほっぺを掴まれて、横に引っ張られる。
そこまで痛くはないけど、完全に子供扱いされていて、俺は眉間にしわを寄せた。
「凄い。もちもち。伸びる。面白いね」
「たのひまなひでくだはひ」
完全に楽しまれている。
誰か助けてくれないかと、周りを見回して固まってしまった。
「ひゅ、ひゅうひゃさん?」
「ん? 何言って」
「……随分と楽しそうだな」
話に夢中になりすぎて、中に入ってきたことに全く気付かなかった。
押し殺すような声と、俺以上に深い眉間のしわに、絶対に違うのだけど浮気がバレたかのような気まずい空気になった。
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