第32話 終夜さんの友達
「コーヒーよりも紅茶の方がいいかな?」
「あ、えっと。それでお願いします」
イケメンもとい真昼さんの案内で、昔ながらの雰囲気がある喫茶店に連れてこられた。
こういうところには初めて来るから、勝手が分からずおまかせする。
真昼さんは寡黙そうなマスターに慣れたように注文すると、俺の顔をまっすぐ見てきた。
「あらためて、俺は
「えっと、俺の名前は高城夏樹です。終夜さんと、今は一緒に住んでいます」
「夏樹君ね。俺のことは真昼って呼んでいいよ。よろしく」
「それじゃあ真昼さんで。よろしくお願いします」
ようやく自己紹介をしたが、ここに連れてきた目的は、これだけじゃないだろう。
何を言われるのかと緊張してしまい、俺は落ち着くことが出来なかった。
「そんなに怯えなくてもいいよ。別にとって食べようとしているわけじゃないから。少し話が聞きたいだけ」
「何が聞きたいんでしょうか? あ、先ほどは助けていただき、ありがとうございます」
「あのぐらいなんてことないよ。むしろ助けられて良かった。ああいうタイプは、何をするか分からないからね」
確かに、何をされるのか分からなくて怖かった。
俺一人だったら、逃げるか、目も当てられないような結末になっていたかもしれない。
本当にタイミングよく通りかかってくれたものだ。
「そういえば夏樹君は、あそこで何をしていたの?」
「今日は少し遠出をしていて、その帰りだったんです。えっと、真昼さんは?」
「俺も同じ。ちょっと出かけて、その帰りだったんだ。そうしたら人だかりがあって、中心に夏樹君がいたから驚いた」
「あはは。知り合いに見られていなければいいんですけど。……あれ? そういえば、どうして俺のことが分かったんですか?」
真昼さんは元々、俺のことを知っているみたいだった。
どうして知っていたのだろう。
「ああ、それは終夜に教えてもらった」
「終夜さんに?」
「そう。前に写真を見せてもらったことがあるんだ。一緒に住んでいて、大切な人だってね」
「……大切な人」
終夜さんは、俺のことをそんな風に周りに言っているのか。
クラスメイトや瞬兄に話をした俺が言うことじゃないかもしれないけど、恥ずかしいからあまり話さないでほしい。
「でも実際に見てみると、写真と違うね」
「違う、というのは」
「実際の方が格好いいね。美人より? みたいな感じ」
「格好いい? 美人? そんなわけないですよ。終夜さんや真昼さんならまだしも」
謙遜ではなく心からそう思う。
少しはましな方かとは思うけど、2人に比べたらそこら辺の石と同じレベルだ。
「そうかな。終夜が気に入るのも納得したけど」
「……俺は未だに分かっていないですけどね」
終夜さんが俺のどこを好きなのか、真昼さんは納得しているらしいけど、全く信じられない。
「自己評価が低いんだね。なかなか面白い」
「俺、面白いですか?」
「うん。興味深いかな。本当に」
それはいい意味じゃない気がした。
馬鹿な俺は、真昼さんの目が笑っていないことに、ようやく気がついたのだ。
「それで、話ってなんですか?」
このまま話をしていたら、何か嫌な思いをする。
そんな確信めいた予感があり、早く話を終わらせようとした。
「あーあ。警戒されちゃったみたいだね。そこまで馬鹿ってわけじゃないんだ」
そして俺の考えは伝わってしまったらしく、真昼さんの顔から人の良さそうな表情が消え、小馬鹿にしたようなものに変わった。
きっと好青年じゃなく、こっちが本性なのだろう。
「俺に何の用なんですか?」
「せっかく助けてあげたのに、その態度はないんじゃないの?」
「助けてもらったのは感謝しますけど、でも今のこの状況が分からないので、どう対処していいのか迷っているんです」
「……どうぞ」
「そう。あ、ここの紅茶冷める前に飲みなよ」
マスターは俺達の不穏な空気を感じていないのか、それともあえて無視をしているのか、紅茶とコーヒーをテーブルの上に置いて去っていく。
少しだけ嫌な感じが消え、俺は遠慮せずに紅茶を飲んだ。
喫茶店なのでコーヒーに力を入れているとばかり思っていたけど、紅茶も美味しい。
変な渋みもなく、誰でも飲みやすい味だ。
「美味しい、です」
「でしょう。ここは何を頼んでもハズレはないから」
「ここにお店があることを初めて知りました」
「まあ大通りからは離れているからね。知る人ぞ知る、穴場って所かな」
「こういう店を知っている人は、大人って感じがします」
「はは。子供みたいな感想だね」
馬鹿にされているけど、さっきよりも嫌ではない。
俺はリラックスすると、真昼さんを見た。
終夜さんが男らしさのある美形だとしたら、この人は中性的な美形だ。
ふわふわの髪は地毛なのか、根元まで明るい茶色で、たれ目は優しそうに見える。
終夜さんと同じく、見た目と年齢が一致しない。
こんな美形ばかり見ていたら、容姿のハードルが上がってしまいそうだ。
ただでさえ終夜さんのせいで少しずつ上がってしまっているのに、これ以上は生活に支障が出る。
俺がそっと視線を外すと、真昼さんは鼻で笑ってきた。
「ここに連れてきたのは、一つだけ言っておきたいことがあるからなんだ」
「……なんでしょう?」
彼はこの場に、その言葉に見合わないぐらい明るく言い放つ。
「終夜から離れてくれないかな?」
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