第12話 少しは近づいた距離?





 悪夢のプレゼント事件があり、終夜さんにも苦労があるのだと知った。

 完璧で俺とは生きている世界が違うと思っていたけど、少し心の距離が近づいた気がする。


 もしも俺が彼の立場だったら、一日で駄目になりそうだ。


 あの後、プレゼントだったものは彼の手によって、厳重に処分された。

 呪いでもかかっていそうな代物だったけど、今のところ元気だから、そこは大丈夫だったのだろう。



 平気そうな顔をしている終夜さんは、こういったことは慣れていると言っていた。

 でもいくら慣れているといっても、気持ち悪さが軽減するわけではない。

 まず、これに慣れること自体がおかしい。


 気持ち悪いものは気持ち悪いと、何も考えずに言えばいいのに。

 大人だから弱いところを見せないのだろうか。


 ……それとも俺だから?

 俺の前では完璧でいたいから、出来る人の姿しか見せないのか。



 少しは距離が近づいたかと思っていたけど、俺の思い違いだったのかもしれない。

 そもそもプレゼントは前々からもらっていたのに、俺には一切教えてくれなかった。


 プレゼントは持って帰ってこなくてもいいけど、何をもらったかぐらいは相談してくれても良かったのに。

 俺じゃ頼りないと思われているんだろう。

 完全に子供扱いされている。



 それが俺にとっては悲しい。

 でもそもそも他人ぐらいの関係だと、最初に線を引いたのは俺だ。

 だから、終夜さんに強く言うことが出来なかった。





「……俺って、そんなに子供っぽいかな?」


 机に突っ伏しながら、俺は隣の席に座っていた友達に質問する。

 こいつは前に俺の元気が無いと気づいた奴で、こういった相談がしやすかった。


「どうした? 急に?」


 言われてみれば、質問が突然すぎた。

 俺は思っている以上に余裕の無い自分に苦笑しながら、言い方を変える。


「困っていると思う人がいるんだけどさ、俺に何も相談してくれないんだよね。だから俺って、そこまで頼りないのかなって……」


 すでに答えは俺の中で出ていた。

 それでも聞いたのは、誰かにはっきりと言ってもらいたかったからだ。


 終夜さんが何も話してくれないのは、きっと俺が最初に突き放したせいだから。


「んー。俺は違うと思うけど」


「違う? 何が?」


「頼りないから相談をしてくれないって考え。たぶんだけどさ、その人って年上でしょ」


「ああ、うん。そうだね」


「やっぱり。その人は夏樹に心配をかけたくないだけだよ」


「いや、でも。話をしてくれてもいいと思わないか? 何も出来ないかもしれないけど、話をするだけで気持ちが軽くなるだろ」


「それも一理あるけど。そう簡単に、気持ちが整理できないんだよ」


「……そういうもの?」


「そういうもん。年上の男心っていうのは」


 何だか、俺よりも当事者らしい雰囲気を出している。

 まるで終夜さんのことも知っているかのような口ぶりだ。


「……あれ? 俺って男だって言ったっけ?」


「ん?」


 そういえば、彼の話をしているとバレたくないから、あまり情報を話さないようにしていたのに。

 どうして男だと断言したのだろう?


「ああ。そんなの話を聞いていたら分かるよ」


「え? どこで? エスパーなのか?」


 分かるって言われても信じられない。

 そこまで俺は分かりやすかっただろうか。


「そんなの夏樹に女子の知り合いがいるわけないからな。そんな悩みが出来るわけがない。だから男しかありえないってわけ」


「この野郎、成敗してやる」


 何か怖い話かと思ったら、まさかのオチで気が抜けたし怒りも湧いてきた。

 俺は机の上にあったノートを丸めて、友達の頭を叩く。


「いてっ! 何すんだよ。せっかく相談に乗ったのに」


「それはありがとう。でもこれとは話が別だ」


 文句を言われたけど、俺は悪くない。


「とにかく相手だって事情があるんだから、そんなに悩まなくていいと思うよ。俺は」


「分かった。頭の隅に置いておく」


「いやいや、ど真ん中に置いておいて」


 その後は別の話題に変わったから、俺はアドバイスを言葉の通り、頭の隅に置いておいた。





 本人に直接言うのも、違うか。

 友達のアドバイスから考えると、俺に心配かけたくないから、あえて何も話してくれないというわけだ。


 もし本当にそうだとしたら、俺が聞いてしまえば気遣いをしてくれた意味が無くなってしまう。

 頼ってくれないことは未だに納得していないけど、それでも嫌がらせでしているわけじゃない。


 学校が終わり家に帰りながら、俺は腕を組んで考える。



 頼ってもらいたい。

 相談をしてもらいたい。

 俺だって役に立ちたい。


 たくさんの欲望が出てきては、どこかに行く。

 でも消えるわけじゃなくて、どんどんたまっていった。



「やっぱり、最初の印象が良くなかったのかな……」



 自分で考えても、あれは酷い。

 子供みたいなわがままを言って、色々な人を困らせていた。


 だから頼りづらくなったのだろう。



「よし! 言わないけど、頼ってもらえるために頑張ろう。そうしよう!」


 今は頼ってもらえないとしても、これから頑張ればいいのだ。

 俺はそう覚悟を決めると、残りの道を走って帰った。




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