第11話 嫉妬? 心配?
「それじゃあ、夏樹。もう一度聞く。このプレゼントについて、どう思う?」
「えーっと、すごい高そうですね。凄い?」
「違う」
目の前で立っている終夜さんが怖い。
俺は自然と正座をしていて、悪いことをしたつもりは無いのに反省させられていた。
誰かにもらったプレゼントを片手に、何度も質問をされているけど、未だに正解に辿り着けていない。
どういう答えを待っているのか、どう答えて欲しいのか、俺は分からなかった。
だから、この時間が終わる気配が無い。
そろそろ足がしびれてきた。
限界が近くてぷるぷると震えていると、ため息を吐いた終夜さんが助け舟を出してくれる。
「このプレゼント、女性の社員からもらった」
「多分そうだと思いました。終夜さんはモテますね」
「……違う」
でもその助け舟を、俺は上手く活用出来なかった。
頭を押さえて、終夜さんは俺の前にしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか? 頭が痛いんですか?」
「夏樹のせいだ」
「ええ!? 俺のせい?」
頭痛を俺のせいにするなんて、それは言い過ぎなんじゃないか。
「このプレゼントを女性からもらっている。それについて婚約者である夏樹は、どうして嬉しそうなんだ?」
「え。だって、モテるのは凄いなって思うんで。というか、今まで持ち帰ってこなかった方がおかしかったんですよ。今日は聞こうと考えていたから、タイミングが良かった……」
「なーつーき」
頭を押さえるのを止めた終夜さんは、俺のほっぺを掴んで引っ張ってきた。
名前を呼んできたけど、その声色が怖い。
また怒っている。
俺はほっぺを引っ張られながら謝った。
「ご、ごへんははい?」
「分かっていないのに謝っても駄目だ。でも可愛い」
楽しそうにしながら、ぐにぐにと引っ張ったり緩めたりしてくる。
くすくすと笑って、まるで子供に言い聞かせるかのように話し始める。
「夏樹は俺の婚約者なんだから、俺がプレゼントをもらっていることにヤキモチを焼かなきゃな。このプレゼントも見たくないってなるのが普通だ。そうだろう?」
「ほ、ほうでふへ?」
「何言っているのか分からない。はは。全く、夏樹は。俺の婚約者だという自覚が全く無いんだから」
「……はひ」
「もうプレゼントは持ってこない。別にいらないし、もらうこともしない。夏樹に悪いから。分かった?」
「はひ」
俺は返事をすることしか出来ず、間抜けな声を出すしかなかった。
それでも満足そうに頷いた彼は、ようやくほっぺを解放してくれた。
「これもいらないな」
「それは、さすがに渡した人に悪いですよ。中身を見て、誰か必要な人に渡したりしてもいいじゃないですか?」
「……夏樹がそういうのなら」
話が終わったとプレゼントを捨てようとしたから、俺はゴミ箱に入る前に止めた。
いくらなんでも捨てるのは可哀想すぎる。
必死に説得をすれば、何とか思い直してくれた。
他人に興味がなさ過ぎて、たまに怖くなる。
俺が止めなかったら、きっと何のためらいもなく捨てていただろう。
そしてすぐに、記憶から消していたはずだ。
そんなことをされたら、プレゼントの送り主に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
俺はプレゼントの包装紙を開け始めた彼の脇に近寄り、中身を一緒に見る。
「……こ、これは……」
「……ちっ」
中から出てきたものに、思わず声が出てしまった。
終夜さんにいたっては、舌打ちをした。
中から出てきたのは、手作りのお菓子とぬいぐるみだった。
そして明らかに、どちらにも良くないものが入っている。
すぐに分かったのは、お菓子からもぬいぐるみからも、見てはいけないものが飛び出ていたからだ。
これは、作った人のものだろうか。
物凄く、気持ちがこもっている。それこそ怨念ぐらい。
今は衝撃のせいで驚きしかないけど、冷静に考えてしまったら気持ち悪くなりそうだ。
「これは、誰からもらったんですか? あ、女性の社員って言っていましたね。同じ会社の人……?」
「違う。取引先の人だ。だから断れなかったし、会社で処分出来なかった。でも帰ってくる途中で捨ててくれば良かったな」
「う……ん」
今度は、駄目だと言えなかった。
さすがに、このプレゼントは予想外すぎた。
それにしても、こんなショッキングなプレゼントをもらっているのに、終夜さんは随分と落ち着いている。
普通だったら、気持ち悪いし動揺だってするだろう。
それなのに、ここまで涼しい顔をしているということは……
「……もしかして、こういうプレゼントって初めてじゃないんですか?」
「ん? まあ、たまにこういうのはあるな」
やっぱり。
何回もあって慣れているから、感覚が麻痺して平気になってしまっているんだ。
こんな気持ち悪いものになれてしまうなんて、今までどんな酷いことをされてきたのだろう。
いくら美形だからといって、それはあまりにも可哀想すぎる。
「な、夏樹……!?」
「今まで、よく頑張りましたね」
俺は思わず終夜さんを抱きしめ、その頭を撫でていた。
これで慰められると思わないけど、どうか少しでも心が救われればいいと願いを込める。
最初は暴れていた終夜さんも、いつしか大人しくなって俺の背中に腕を回していた。
そうしてしばらくの間、俺は終夜さんを抱きしめたまま頭を撫で続けた。
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