依頼3「幸運の鍵しっぽ」
重たいドアの前で
すう、はあ。すう、はあ。
息を吸って、息を吐く。これだけのことが、とてもつらい。
突然、異星人にでもなったみたいだ。重力が、空気が重くのしかかる。体が強張って、思うように動かせない。胸のあたりから不安が流れ込んできて、耳のすぐ近くでばくばくと爆ぜている。見慣れない1−3と書かれたプレートが、他人行儀に私を見下ろしている。
どうした、
小窓が付いた教室のドア。古風な色ガラスの向こうに、動く人影が見えた。楽しげな声がざわめいている。引き戸の取っ手に触れれば、金属の冷たさがダイレクトに指先に伝わって、私は拒絶されたように傷ついた。あわてて、シャツの下に隠したペンダントを指で探る。首元の鎖が暖かく揺れた。
すう、はあ。すう、はあ。
怖くない。怖くない。怖くない。
中に居るのは自分と同い年の学生だ。自分と同じように非力で、同じように飽きっぽい。野生動物とは違うのだから、飛びかかって噛み付いたりしない。言葉も通じる。昔から「人の噂も七十五日」なんて言うし、誰も自分のことなんて覚えていないはずだ。
(……怖い)
怖い。同級生は怖い。人間は怖い。反撃の手が届かない安全地帯に逃げ込めば、自由を謳歌するように攻撃を楽しむ。正義という使い勝手の良い武器を手にすれば、誰もが他人を害してみたくなる。自分もいつかは的になるかもしれない可能性を視野の外に追いやって、正義の徒になってみたくなるのだ。正義は愉悦だ。よく知っている。
(……怖い)
けれど、逃げないと決めたのだ。
もう一度ドアの引き手に指をかける。
ぎゅうと目をつぶれば、中学時代の思い出が、瞼の裏に見えてしまった。
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