2-3
大股に踏み込み、距離を詰める。
素早くスパタを振りかぶり、小さな機体に剣撃を見舞った。
カキィィン! と鋭い金属音がこだまする。手応えアリだ。従来と同じくフラッシュ・サーチビットも、剣が届かないほど空高くは飛ばないらしい。
が――硬い。
赤いセンサが依然として睨みを利かす。
並のサーチビットなら今の一撃で動きが止まるはずだ。希少な燃料を秘めているがゆえに、装甲も頑丈ということか。
二対の銃口に眩しい光が宿る。
ドゴォッ!!
アルドは後方へ跳び直撃を避けていた。辺りが熱気を帯びる。目の前の道路が持ち前の丈夫さを発揮し、かろうじて足場を保っている。
長期戦に持ち込まれては危険だ。すぐに体勢をととのえ道路を蹴る。
銃口から目を逸らさずに距離を詰める。合間に飛来してくる熱線は体を捻り
真下からスパタの一撃を見舞う。
機体はやや傾いたが、持ち直しアルドを睨んだ。
返しの熱線が飛ぶ。後方へ避けた。
走って距離を詰める。飛んでくる熱線をかわす。一撃入れた。返しの熱線。
反射的に避ける。距離を詰める。熱線、かわし切れず肩に
避ける。距離を詰める。熱線をかわす。一撃。返しの熱線。避ける。距離を詰める。熱線が掠める。一撃。返しの熱線。避ける。距離を詰める。
「はあっ、はあっ……」
じわじわと体力を削られながらも、アルドは幾度目かの
フラッシュ・サーチビットは射撃の弾速こそ速いが、本体の動きはそう速くない。距離を離されたことにより射程の差でカバーされてきたが、装甲が厚いぶん従来よりも
相手もまた剣撃を受け続けて満身創痍だ。アルドは渾身の力でスパタを振るおうとした――
次の瞬間、その背後から一筋の熱が飛来し、脇腹を撃ち抜く。
「がっ!?」
激痛に堪えながら振り向き、戦慄する。
そこにはもう1体のサーチビットが、こちらへ銃口とセンサを向けて浮遊していた。
無論、並の個体ではないだろう。先ほどの射撃の鋭さは、今しがた倒そうとしているフラッシュ・サーチビットと同じものだった。
まさか2体目が来るとは――
アルドは歯噛みしつつ、腰に提げた大剣の柄に触れる。
(ダメだ、まだ抜けない!)
引き抜こうとするも、大剣は頑として青い鞘から動かなかった。
近くの機体から放たれた熱線を紙一重で避ける。
ふらついた体を起こした時には、一本道で2体のフラッシュ・サーチビットに挟まれる格好になっていた。これでは逃走すらもままならない。
打開策を見い出さんと立ち尽くすアルド。
隙だらけの彼に狙いを定め、無傷の2体目が熱線を射ち出そうとした――その時だった。
「せいっ!!」
掛け声と
攻撃を放とうとした機体の後ろに、赤い流星のごとく少女が肉薄していた。
背部に突き立てられた拳から旋風が渦巻く。
衝撃と強い風に揺さぶられ、機体が宙でバランスを崩す。即座にもう一方の拳による
風に煽られていた茶髪がふわりと降りる。エルジオンの街を背にして、ジャケットを羽織った少女が呼吸を整えていた。
「エイミ!」
アルドが名前を叫ぶ。
イシャール堂の看板娘かつ格闘家のエイミは、構えたまま男勝りに声を発した。
「アルド、油断しないで!」
視線の先には手負いのフラッシュ・サーチビット。アルドの注意が逸れるなか、至近距離の銃口に熱が込められる。
「成敗!!」
機体が動く前に、エイミの後ろから一振りの刀が舞った。
アマガエルの容姿をした
「危なかったでござるな、アルド殿」
「サイラス、お前もいたのか!」
サイラスはBC2万年の太古にて出会った旅の仲間である。面妖な姿のワケは今でも分かっていないが、武士としての腕は確かだ。彼も未来にいたのかとアルドは面食らった。
3人のもとへカシャンカシャンと金属めいた足音が近付く。ツインテールを模したピンク色の合金をぶら下げたゴスロリ服のアンドロイドが、身長より大きな
「リィカ……」アルドが名前を呼ぶ。
「メディカルサポート、デス」
機械音声で
リィカはエルジオンの一大企業が造ったソーシャル・ヘルパーであり、同じく旅の仲間である。初めて未来に迷い込んだアルドをエルジオンへ案内したのも彼女であり、古代に飛ばされた時もアルド達を献身的に支えてくれた。
「おう、アルド。間に合ったみてぇだな」
「親父さん……」
遅れてザオルが悠然と歩み寄る。辺りを見渡して戦闘が終わったことを認めると笑みを浮かべ、倒した2体から素材を取り出すことと、全員でイシャール堂に戻ることを提案してきた。
未だに驚きを隠せないアルドだったが、他の3人と同様に首を縦に振った。
エルジオンに帰還してからイシャール堂へ向かう道中で、一行はルート99での出来事について話していた。
「助かったよ、ありがとう。まさかみんなが来てくれるとは思わなかった」
「助かったよじゃないわよ、水くさいじゃない。1人で危険な相手を倒しに行くなんて」
「戦いに役立ってこそ拙者の剣術でござる。エイミ殿についていって正解だったでござるな」
「ワタシもエイミさんミタイニ颯爽と現れテ、ハンマーの一撃ヲ披露シタかったデス!」
「お前は複雑な通路で方向音痴になったからな! 案内した俺もお手柄ってわけだ。ワハハハハ!」
「だから親父さんも来たのか……ご苦労さん」
当たり障りのない会話とともに、アルドは現代でのことや未来を訪れた理由も仲間達に話した。
熱線銃のことはエイミさえも知らなかったらしく衝撃を受けていたが、町娘を助けていると聞くと「いつも通りね」「いつも通りでござる」「いつも通りデス」と言って微笑んだ。さらには自分達も現代へ行って何か手伝いたいと申し出てくれた。
気持ちはありがたかったが、アルドは遠慮した。手間を取らせるからというのもあるがそれとは別に、3人には『今この世界で起きているある異変』について調べてもらいたいからだ。その手掛かりはエルジオンにいる科学者が人知れず握っているという。
リッタの件が一段落つくか、緊急のことがあればまたエルジオンに向かうと伝えて、話はまとまった。タイミングを同じくして、一行の近くにイシャール堂の看板が見えてくる。
「アルド、ビットマグナムの装填の仕方を教えるから来い。少しコツが要るからな。付属の装置を決められた順番で動かすんだが……」
ザオルは保管庫前にアルドを招き、レプリカを用いて
「にしても、まさかフラッシュ・サーチビットが2体も現れるなんてな。良かったじゃねえか。これなら1回は撃ち尽くしても困らないぜ」
「ああ。そのせいで危ないところだったけどな……」
「そうでござるな。次からは用心せねばならぬでござるぞ」
「でも今回はいいじゃない。こっちは3人がかりで倒したんだし」
「エイミさんノ意見も一理ありマス。終ワリ良けレバ全テ良しデス、ノデ!」
エイミとリィカに上手く言いくるめられている気がしたが、「それもそうか」とアルドは頷いた。結果的に欲しいものは無事手に入った。あとはこれを持ってリッタのもとへ向かえばいい。
「ともかく、みんなありがとう。オレはそろそろ行くよ」
「うん……。私達が必要になったらいつでも呼んで」
「うむ。いつでも準備は出来ているでござる」
エルジオンから去ろうとするアルドに、エイミとサイラスが温かく応えた。自信に満ちた表情が確固たる安心感を与えてくれる。
「また来いよ!」
「デス!」
ザオルとリィカにも見送られ、アルドはエルジオンを後にした。
そのままエアポートの末端に辿り着く。そこには月影の森に通じる時空の穴が再び出現していた。
アルドは迷わず穴の奥へ飛び込んでいった。
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