シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-13
「優勝は、ゲーム部一年、ピカイチこと牧田!」
中メガネ部長のアナウンスが響き渡る。一瞬時が止まったかのような静寂の後、爆発したような大きな拍手と歓声が上がった。「おめでとうピカイチ」「すごかったぞー」「日下もよくやった」
いつの間にか、体育館で練習していたバレー部や卓球部も練習を中断し拍手をしている。さっきのバレー部の女子たちもいる。
「では、優勝したピカイチに一言いただきましょう」
中メガネ部長が牧田を中央に誘導しマイクを渡した。牧田は落ち着かない様子でマイクを受け取る。
「あ、あの、ありがとう……ございました」
言葉を詰まらせながらも、しっかりと前を向いた。
「僕は、学校が苦手です……。内気で友達を作るのが苦手で、ゲームが好きって言うと、オタクって言われるし、勉強はやってるのに、やればやるほどガリ勉って言われる。どこにいても心が痛いんです」
会場が静寂に包まれる。みんなバツが悪そうだ。何かしら心当たりあるんだよね。
「そんな僕を、ゲーム部は温かく受け入れてくれました。居場所を作ってくれました。こんな素晴らしい場を設けてくれました」
袖にいるオレとゲーム部のメンバー、そして部長を見て笑顔を見せた。隣にいる日下と目を合わせ軽く頷き決意したように前を向いた。
「それなのに僕はまた逃げようとしてしまいました。だけどもう逃げません。ゲームってすごいんです。楽しいし、友達もできるし、心も強くなるんです。これからは学校に来ます。ゲーム部にいます。対戦してくれる人は、来てください。いつでも待ってます」
オレは友達の言葉が嬉しくて、たたえるように拍手をしていた。拍手の輪は広がり大きな輪となった。窓から差す夕日が会場にいる全員を温かく照らす。
その時、扉を乱暴に開ける大きな音が響き渡った。
「おい!お前ら何やってんだぁ!」
湯川先生が大股で肩を怒らせながら向かってきた。こんな動き映画でしか見たことないよ。後ろからみっちー先輩が手を合わせ謝りながらついてくる。
中メガネ部長が牧田からマイクを奪うように取った。
「おおっと。ほ、本日はありがとうございました。では、解散!」
掛け声と共に会場のみんなが蜘蛛の子を散らすように動き出した。みんな楽しそうで、まるでコントの落ちのよう。
「体育館半分も使ってゲームで遊びやがって」
中くらい先輩が先生のもとに駆け寄る。
「許可いただいてます」
「俺は聞いてねぇよ。ゲームで遊ぶって知ってたら許可なんてしねえ」
「遊んでません!eスポーツです。れっきとしたスポーツです」
「はん。ゲームがスポーツだ?ふざけんな。とにかくすぐに片づけろ。顧問にも伝えておくからな」
言いたいことを言うだけ言って、肩を怒らせながら帰っていった。なんだかなぁ。でも無理もないか。今まで遊びだったゲームを、しかもゲーム依存とか悪いイメージも多いゲームを、いきなりスポーツとして見ろっていうのは難しいよな。オレたちの世代が、本気で取り組んで、熱意とすごさを見せていくしかないんだ。今日みたいに。そうすれば、いつかきっと認められる時が来るはず。オレはステージの真ん中で談笑している牧田と日下の所へ向かった。オレも入れてくれよ。一緒にゲームやろうぜ。
とあるゲーム部の成り上がり 平川らいあん @hirakawaraian
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。とあるゲーム部の成り上がりの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます