シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-10
「興奮が収まりませんが、次の試合に進みます。準決勝第ニ試合は、ゲーム部同士の戦い。二年紀本と一年牧田」
マッチョ紀本先輩が毎日どれだけ練習したかを知っている。牧田が学校に来れないほど悩んだことも知っている。どっちにも勝ってほしい。でもそうはいかないのが勝負の世界。たかがゲーム。されどゲーム。スポーツとなんら変わりはない。
マッチョ紀本先輩が中央に立った。でるかマッチョポーズと思ったら、牧田を呼び握手を交わした。
「俺は全力でやるぞ。だからピカイチも全力で来い。いいな。よし!気合いだ!」
最後はよく分からないけど、先輩だからって遠慮するなって言いたかったんだろうな。
「はい。全力でいきます」
牧田は緊張もほぐれたようだ。いい試合になるに違いない。マッチョ紀本先輩は「ザンギエフ、牧田は「ガイル」を選んだ。ガイルは「待ちガイル」という言葉があるぐらい、飛び込んで来るのを待つと強力なキャラだ。飛び道具がなく、接近戦がメインのザンギエフとは相性はよくない。
「FIGHT」
ラウンド1。仕掛けたのは、牧田のガイルだった。距離を取る戦法もあったのに前に出た。怒涛の攻撃がザンギエフを襲う。ザンギエフは防戦一方。なんとかガードするか数発食らう。
しかし、食らいながら吸い込んだ。スクリューパイルドライバー炸裂。そのまま二発連続を狙う。牧田はジャンプで距離を取って逃れた。ガイルが逆さになるリバーススピンキックを繰り出し、弱ソニックブーム、ガイルハイキックからのしゃがみパンチ、そしてサマーソルトキックで決まった。牧田が一本取った。
ラウンド2。またしてもガイルが仕掛ける。弱ソニックブームで距離を詰め、多彩な攻撃を繰り出す。ザンギエフはなんとかガードするが、ダメージが蓄積していく。ザンギエフが強キックを返す。少し距離を詰め浴びせ蹴り。ザンギエフの距離に入った。スクリューパイルドライバー。立ち上がりに再びスクリューパイルドライバーを狙う。入った。
ガイルの体力はあと少し。攻めるガイル。堪えるザンギエフ。その時!ザンギエフが動いた。なんと!三度スクリューパイルドライバーが決まった。勝負あり。マッチョ紀本先輩が一本返した。一進一退の攻防が続く。会場もヒートアップする。「いけーマッチョ!」「やれやれピカイチ!」
ラウンド3。今度はザンギエフから仕掛けた。開始からフライングヘッドバットで一気に距離を詰める。読んでいたガイルがガイルハイキックで返す。そのまま弱ソニックブームを放ち距離を詰める。ガイルがキックの連打でザンギエフを追い込む。と、思ったら、ザンギエフのスクリューパイルドライバーが入った。
またもいい戦いだ。ダメージ量も同じぐらい。ザンギエフが大技を狙い、ガイルが小技で応酬する。ザンギエフに隙ができた。ガイルのリバーススピンキックからのコンボだ。決まった。牧田が二本取った。マッチョ紀本先輩は後がない。
ラウンド4。お互い中央で距離を測り合っている。ザンギエフの大キックとガイルのハイキックがそれぞれ当たる。それをきっかけにザンギエフがダブルラリアットでクルクル回りながら距離を詰める。ガイル下がるも少し被弾。
その時、ザンギエフが仕掛けた。スクリューパイルドライバーが入った。立ち上がりにさらにクリティカルアーツのボリショイ・ロシアン・スープレックスが決まった。ガイルの体力はほぼない。ガイルがジャンプで前後に飛びながら少しずつダメージを削っていく。
そこから牧田得意のコンボが炸裂した。リバーススピンキックからの弱ソニックブーム、ガイルハイキックを繰り出し、サマーソルトキック。そしてさらに、クリティカルアーツのソニックハリケーンが決まった。ザンギエフの体力が、ゼロになった。
「K.O.」
牧田の勝利。牧田が控えめにガッツポーズをする。「おおぉ」「うおぉ」「すげえぇ」会場から獣の唸り声のような歓声が上がる。いい試合だった。あれ?マッチョ紀本先輩が……、泣いている。
「おめでとう。ピカイチ。絶対優勝してくれよな」
牧田が「はい」と口を動かす。
「ほんと嬉しいよ。こんな心強い後輩が入ってきてくれて。俺は、昔から体が弱くてな。強くなりたくて筋肉つけたんだけど、小心者だし、すぐ風邪引くし。そんな俺でもゲームなら堂々とも戦えるんだ。会場に来てくれたみんなもありがとう。ゲーム部って軽蔑されがちだけど、少しは理解してくれたかな。みんな真剣にゲームに取り組んでるんだ。だから、これからも温かく見守ってほしい」
大きな、大きな、拍手が、会場を包んだ。
「紀本、いい戦いだった。ピカイチおめでとう。決勝も楽しんでな」
中メガネ部長の温かい言葉も相まって心に染みた。
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