シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-9
「お待たせしました!それでは注目の四回戦をはじめます」
会場から温かい拍手が届く。オレは袖にはけようとしたが、牧田は緊張で体が動かないようでオレも離れなれない。
「ピカイチくん、がんばれ!」
会場から聞き覚えのある声が飛んできた。
「中くらいめー、空気読んでくれよ」
牧田の体が強張るのを見て、思わず声が出ていた。
「中くらい?」
「あっ、えっとぉ、佐藤先輩、全部が中くらいじゃん。だからオレが勝手にあだ名付けた」
牧田が声を出して笑った。
「ぴったりだね。僕も今度からそう呼ぶよ」
そういうと牧田は中央に向かい、対戦相手と握手を交わした。今ので少しは緊張がほぐれたみたい。あれ?待て待て。本人には中くらいって言ってないからな。絶対言うんじゃないぞ。後で念押ししておかないと。一気に冷や汗があふれ出してきた。
陸上部三年の岡本は「ベガ」を選び、牧田はいつもの「ガイル」を選んだ。会場中が注目する一戦がはじまった。
ラウンド1。岡本のベガの怒涛の攻撃に牧田のガイルは防戦一方だ。徐々にダメージが蓄積する。まさかの展開に会場が固まった。ここまでか、と思ったその時だった。ガイルのソニックブームの連発からのステップで駆け寄りキックの応酬、ソニックブームをガードさせた所にバックドロップ。
大逆転で牧田がラウンド1を取った。会場が今までで一番沸いた。その勢いのまま牧田はストレートで3本奪取した。期待通りの活躍と中メガネ部長の話が相まって興奮は最高潮だ。牧田もほっとした表情で、袖にいるオレに笑顔を見せた。
「すごい戦いでした。やったな。ピカイチ。おっと、思いっきり私情をはさんでしまいました。すいません。あっ。ちなみにピカイチってのは、ゲーム部の中で実力がピカイチだからピカイチ。ハードル上げたハンドルネームだけど、みんなも呼んで上げてくれよな。」
中メガネ部長の本音がみんなを笑顔にさせた。ゲームっていいな。体の小さな牧田が大きい相手にも、スポーツで実績ある人にも立ち向かうことができる。しかも人の心まで動かしてしまうんだ。オレはゲームあんまりうまくはないけど、ゲーム部のために力になりたいと強く思った。
「さぁ、次はいよいよ準決勝第一試合です。準決勝第一試合は、ボクシング部二年井上対バスケ部一年日下。井上はボクシング東京都三位でストファイも校内一、ニの実力者。対するバスケ部日下は、全戦パーフェクト勝利のダークホース。どちらが勝つのか楽しみな戦いです」
両者が中央で握手を交わし、席についた。会場は静まり返り、ゲームサウンドだけが鳴り響いている。二人は前回と同じく井上はバイソン、日下は豪鬼を選んだ。
「FIGHT」
ラウンド1がはじまった。バイソンが仕掛けた。速い踏み込みで距離を縮め、足元への下段フックで豪鬼をダウンさせた。立ち上がった瞬間につかみ技。頭をつかみ一回転させてから投げた。画面隅に追いやり背面からの大振りなフック。これは豪鬼ガードした。
ここからだった。下小キックの連打からの中パンチ、大パンチと出しわけ、そのまま波動拳。次は中キック、大キックからの竜巻旋風脚の二連発。空中で回転しながら二段攻撃を当てダウンさせた。
立ち上がった所を畳みかける。竜巻旋風脚の二連発から昇竜拳、浮き上がったバイソンを叩きつけるように投げた。ラウンド1は日下は豪鬼の勝利。全員がハイレベルな攻防に息をのんだ。
ラウンド2。再びバイソンが仕掛けた。リズミカルで華麗なラッシュ。様々な種類の攻撃が様々な角度から繰り出される。なんと、豪鬼は、それをすべてガードした。格闘ゲームはフレームの中で戦っている。ストファイの1フレームは、60分の1秒。数フレームの中での攻撃をすべてガードするのは至難の技だ。バイソンの攻撃パターンを把握しているんだろう。相当練習しているに違いない。バイソンの攻撃の隙をついて、豪鬼は少しずつダメージを与える。そのまま豪鬼が勝利した。
ラウンド3。バイソンは今度は距離を取って、慎重に攻撃を選んでいる。豪鬼も同じく距離を取り攻撃を選び、両者少しずつ攻撃を当てている。地味な戦いだが、両者のゲージから目を離せない。ずっとほぼ互角。お互いのゲージがペラペラになった。あと一撃当てた方が勝つ。攻撃を繰り出す。ガードする。お互い繰り返す。ダンッ。ダンッ。ダンッ。ダッ。リズムが変わった。バイソンが飛んで上からの攻撃。豪鬼は……読んでいた。昇竜拳。
「K.O.」
勝ったのは、バスケ部一年の日下。
「くー。負けた、負けた。悔しいなぁ。でも新しい目標ができたよ。またリベンジさせてくれ」
「はい。いつでも」
中央で強く握手を交わし、井上が日下の腕を掲げる。ボクシングの勝者のように。
「勝者は、日下。すごい戦いでした。おめでとう」
会場の全員が惜しみなく最大の拍手を贈った。「日下すげえぞ」「井上もよくやった」「いい試合だった。ありがとう」称賛の声も上がる。
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