シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-11

 いよいよ決勝戦だ。決勝はちょっとした演出が入り舞台袖から入場する。バスケ部一年の日下と牧田が袖に待機している。日下が牧田をじっと見つめている。戦いを前に敵意を出しているのとは違う。なんだか物憂げな眼差し。

「マッキー、久しぶり」

小さく遠慮がちに言う。牧田が驚きと困惑の混じった表情をしている。

「覚えてない?背も伸びたからなぁ。中一の時、よく一緒に遊んだ吉高(よしたか)だよ」

「えっ!?あっ。ひ、久しぶり」

牧田はますます困惑し戸惑っている。牧田の家で話を聞いた中学校の友達の一人なんだろう。気まずくなって、疎遠になっていったという。

「ずっとストリートファイター続けていれば、いつか会えると思ってた」

牧田は答えず、ただただ下を向いている。日下は続ける。

「あの時、ゲームセンターで絡まれた時、マッキーに押し付けてしまったのを後悔してたんだ。一緒に戦えばよかった。俺が代わりにやればよかった。ごめん」

日下が深く頭を下げる。ゆっくりと頭を上げながら牧田の様子を伺う。

「まだ怒ってるよな」

牧田は力強く首を横に振った。何度も何度も。

「僕も、ごめん。どう接していいか分からなくて、逃げてしまったんだ。一言声をかければよかったのに。たった一言でよかったはずなのに」

「マッキーがこの学校にいるって知らなかったから、マッキーの姿見てびっくりしたよ。この大会に出ることを先輩に聞いて、絶対に出たくて直談判したんだ。先輩に歯向かうのちょっと怖かった。あの時の気持ちが少しだけ分かったような気がした。でもマッキーとやりたくて、先輩ボコボコにして許可もらったよ」

「ボコボコにしたんだ」

「そう。ボッコボコにしてやった」

二人で声を出して笑っている。友達って時間が経ってもすぐに昔に戻れるよな。

「決勝、本気でいくから。マッキーも本気でやってくれよな」

「うん。よしくんとはいつも接戦だったよね。気を抜かないようにしなくちゃ」

二人の柔らかい笑顔が心地よかった。


 その時、舞台袖に女子が走って来た。息を切らし、すごく焦っている。フンゴロカシ先輩の音響の手伝いをしていたみっちー先輩に駆け寄る。

「美智子、やばいよ。湯川のやつが来る!ゲーム部が体育館で大きな音を出してうるさいって誰かがチクったみたい」

湯川先生はいつもジャージな体育教師。竹刀を持って髪型なんかにネチネチとケチをつける時代錯誤な教師だ。

「チクった!?許可取ってやってるのに。湯川のやつゲーム部嫌ってるからなぁ。ニヤニヤしながら止めにくるだろうね。みんなちょっと行ってくる。時間稼いで来るから最後まで気にしなでやっちゃって」

みっちー先輩が猛スピードで走っていった。どれくらい時間稼げるんだろう。後は決勝戦だけなんだ。頼む。最後までやらせてくれ。

 「さぁ、それではいよいよ決勝戦です。ストファイで誰が一番強いのか!?いよいよ決定します。決勝戦は、バスケ部一年日下対ゲーム部一年ピカイチこと牧田となりました。それでは二人の登場です」

会場に洋楽のロックが大音量で流れる。決勝に出場する二人は堂々と、光が差すステージへ向かった。

「バスケ部一年日下は、一回戦はすべてパーフェクト勝利。準決勝はあのボクシング東京都三位でストファイも校内一、ニの実力者井上を倒したダークホース。決勝も制するのか」

大きな拍手と声援が上がる。「日下、絶対勝てよ。オレに勝ったんだ。勝たないと許さないからな」ボクシング部井上だ。一回戦で敗れたサッカー部も日下を応援している。戦いのあとはお互いの健闘を称え合う。ラグビーのノーサイドのようだ。

「対するは、ゲーム部のエース。ピカイチこと牧田。優勝してゲーム部の実力を見せつけることができるのか。いよいよ開催です」

「ピカイチ応援してるぞ」「いけーピカイチ」牧田に温かい声援が飛ぶ。牧田が照れながら小さくおじぎで応えた。

「マッキー全力でいくよ」

「うん。僕だって」

二人は握手を交わし席に着いた。

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