シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-8
二人とも中央での接近戦を選んだ。バーディーの強パンチからのバッドハンマー。ザンギエフはどちらもガード。バーディーは少し後ろに下がり、バナナを食べて皮を投げる。同時にザンギエフに近づき下キック。ザンギエフは後ろに倒れる。そこにすかさずバッドハンマー。ザンギエフガード。
ザンギエフの強キックが当たる。後ろに下がったバーディーがヘッドバッド。その瞬間。ザンギエフが吸い込んだ!スクリューパイルドライバー。立ち上がりに再びスクリューパイルドライバーが襲う。決まった!そのまま畳みかけた。ラウンド1はマッチョ紀本先輩が先取!
まさかの展開に会場が沸く。そのままラウンド2へ。勢いに乗るかと思ったが、さすがは校内一、ニの実力。バーディーの空中からの多彩な攻撃で金剛がラウンド2を取った。 勢いに乗ったのは金剛だった。ラウンド3も金剛が奪取。追い込まれたマッチョ紀本先輩。
負ければ敗北のラウンド4。必死に食らいつく。両者互角の戦いの末。取ったのは、マッチョ紀本先輩!これで二本対二本。次を取った方が勝利だ。
「FIGHT」
最終ラウンドがはじまった。お互い細かいレバー捌きでじりじりと距離を詰めていく。バーディーの強キック。ギリギリの距離で空振り。ザンギエフも強キックを返す。こちらもギリギリで空振り。
バーディーがブルスライダーで一気に距離を縮める。ザンギエフは尻餅をつく。立ち上がりにバッドハンマーを食らわす。その時だった。一瞬の隙をついて、吸い込んだ。ザンギエフのスクリューパイルドライバーが炸裂。
バーディーは立ち上がりすぐさま後ろにジャンプして距離を取りブルホーンを放つ。読んでいたザンギエフはガード。バーディーは続けざまにヘッドバッドから踏みつけ、下バンチでザンギエフに確実にダメージを与えていく。
ザンギエフもチョップから下キックで返す。バーディーは小さいジャンプで後ろに飛びヘッドバッドから掴みにかかる。ギリギリで空振りを誘ったザンギエフが炎を纏った。超必殺技ボリショイ・ロシアン・スープレックスが決まった!
「K.O.」
なんと!マッチョ紀本先輩の勝利!「よっしゃー」飛び上がって喜びを爆発させる。何度も飛び上がりながら中央に向かい、両手の人差し指を天に掲げた。
「我が鋼の肉体に死角なし!」
ザンギエフの定番のセリフだ。笑いと拍手がマッチョ紀本先輩を包み込む。拍手は長く、長く、勝者を称えた。拍手の波は目頭を熱くさせた。毎日の練習を思い出させる。「おめでとうございます。先輩」心の中でつぶやいた。
「すごい対戦でした。紀本おめでとう」
中メガネ部長の温かい声が響く。
「ありがとう。金剛もありがとう。みんなも応援ありがとう!」
「俺に勝ったんだから優勝しろよな」
二人が力強い握手を交わした。汗が輝いている。本気で戦った証。努力の結晶。
「さて続きまして四回戦、ですが……うちの部の一年がまだ来てません」
「不戦勝だな」
牧田の対戦相手、陸上部三年の岡本が勝利をアピールしている。
「ちょっとだけ待ってくれないか。十分だけ」
「なんでだよ。早く次やろうぜ」「そうだ。そうだ」
会場からも声が上がる。
「牧田は……学校にもあまり来れてないんだ。中学校の時もあまり行ってなかったらしい。牧田はストファイがほんとに強いんだ。みんなに牧田のすごさを見てもらいたい。それはきっと牧田の自信になるはず。だから、絶対に来るはずだから、もう少しだけ待ってほしい」
「ふー、ちょうどいいや。喉渇いたから水飲みに行ってくる」
一番前で観戦していたバスケ部のキャプテンが席を立った。数人が続き、会場の緊張が解かれた。
「休憩とさせていただきます。十分後、十分後に再開します」
中メガネ部長が頭を深く下げる。頭を上げた部長がオレに目で合図をした。牧田を探しに行こう。携帯を取りにダッシュで部室に向かった。何回かメッセージを送っている。返事が来てるかもしれない。息を切らしながら部室のドアを勢いよく開けた。
あっ!モニターの前に人影があった。ストファイをしている。楽器を奏でるようなリズミカルな音がコントローラーから響いている。
「牧田……」
振り返る牧田の表情は西日で見えない。オレは精一杯の笑顔で応えた。
「牧田、行くぞ」
「まだ、間に合う?」
「ああ」
「でも、やっぱり……」
「走るぞ。走って、逃げてもいい。とにかく一緒に走ろう」
牧田に手を差し伸べた。牧田が手をつかむ。手を引き一緒に走った。とにかく走った。がむしゃらに。なんだか体く感じる。牧田の目には少し輝くものが見える。
「入るぞ。いいか?」
牧田は深く目を瞑り、ゆっくり開いた。
「うん」
牧田の背中に両手を乗せ、会場へと入った。牧田の背中が熱く熱を発していた。
「あっ!」
中メガネ部長が牧田とオレを見つけた。マイク入ってるってば。会場のみんながこちらを注目する。一瞬の静けさの後、誰かが遠慮がちに拍手をはじめ、会場中に拍手が広がった。拍手に戸惑う牧田の背中を支えながらステージの上まで一緒に上がった。中メガネ部長が「ありがとう」と声を出さずにお礼を言った。
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