シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-7

 幕を閉じているステージの中では、機材の最終チェックが行われていた。フンコロガシ先輩が、映像と音響を担当している。司会の中メガネ部長はマイクのテストをしていた。中央に大きなスクリーンが設置してあり、その下に二つの対戦用の席が配置されている。ここで真剣勝負が行われる。選ばれた特別な人しか座れない貴重な席に見えた。スクリーンを挟んで四つずつ計八つの出場者の椅子が並べられ、すでに出場者が席に着き、開始を待っている。牧田の席だけは空席のまま。


 体育館中にアップテンポの曲が響き始めた。開始の合図だ。ステージの幕が、ゆっくりと真ん中から割れ、大きなスクリーンが視界に飛び込んでくる。

「お待たせしました!只今より校内格ゲートーナメント大会を開催します!It's Showtime!」

中メガネ部長がアナウンスすると拍手と歓声が体育館中に響き渡った。部活の練習している人たちも動きを止め注目している。

「本日はお集りいただき、ありがとうございます。ストリートファイター5で一番強いのは誰か。それを決める時が来ました!奇しくも部活対抗のような様相になっております。どの部活が一番強いのか、プライドをかけた戦いです。異種対抗戦ができるのもゲームだからこそではないでしょうか。対戦者は先に抽選を行いすでに決まっております。対戦表はこちら!」

画面にトーナメント表が映し出される。おぉと低い歓声が沸き上がる。ゲーム部のマッチョ紀本先輩は三回戦、牧田は四回戦に登場する。突破すればお互い準決勝で当たることになる。だがマッチョ紀本先輩の相手は柔道部の金剛。校内一、ニを争う強敵だ。


 「それでは早速はじめたいと思います。一回戦、ボクシング部二年井上対陸上部二年吉田。井上はボクシング東京都三位でさらにストファイでも校内一、ニを競う実力者。陸上部吉田は長距離の選手。どこまで粘り強く立ち向かうことができるか!?」

二人が中央で力強く握手を交わした。席に着きコントローラーの準備をすると大きく頷いた。大画面にゲーム画面が映され、BGMが体育館中を震わせた。井上はいつもの「バイソン」。吉田は「ケン」を選んだ。

「FIGHT」

井上ー!吉田ー!会場が両者の声援で揺れる。さすがは校内一、ニを争う井上。バイソンの速い踏み込みからいきなりラッシュをかける。ケンをあっという間に画面隅に追いやった。ケンはガードするのが精いっぱい。だが、隙をついて昇竜拳を放つ。バイソンは読んでいたかのようにガードした。下りてきたケンに上中下のパンチを出しわけ一気に畳みかけた。勝負あり。「よっしゃ」大きな歓声の中、ガッツポーズで応え、ラウンド2がはじまった。ラウンド2もラウンド3も圧勝だった。

「勝者!井上!」

今回はラウンド3本先取制。井上の準決勝進出が決まった。「すげえな」「強え」「気持ちいい」大きな拍手と共に称賛の言葉が上がる。

「よっしゃ!応援ありがとう!優勝してやるぜ」

井上がシャドーボクシングして、両拳を天に掲げた。会場のボルテージもどんどん上がっていく。


 「続いてニ回戦を開始します。サッカー部三年キャプテンの長谷川対バスケ部一年日下(くさか)!……あれ?バスケ部一年でいいの?出場三年って聞いてたけど……」

会場で見ているバスケ部キャプテンに問いかける。バスケ部のキャプテンは親指を縦て、頷きながら不適な笑いを見せた。

「了解。問題ないみたいだね。サッカー部長谷川はゲーム部に入り浸りゲームの練習ばかりしています。もはやサッカーよりも練習しているでしょう。バスケ部一年は情報なしのダークホース。どこまでやるのか楽しみです。それでは両者前へ!」

サッカー部長谷川は「春麗」、バスケ部日下は「豪鬼」を選んだ。サッカー部の長谷川は、よく井上や金剛とも対戦していて、たまに勝ったりしている中々の実力だ。自信があるのか余裕の表情を見せている。

「FIGHT」

はじまった途端、サッカー部全員が固まった。

「PERFECT!K.O.」

三連続パーフェクト。一分の隙もない圧倒的な勝利。「まじかよ……」サッカー部長谷川も驚きを隠せない。バスケ部の皆が納得の表情を見せている。バスケ部の日下は、とんでもない実力者のようだ。牧田とどっちが強いのだろう。見てみたい!胸の奥から期待が押し寄せてきた。


 「三回戦は、柔道部三年キャプテンの金剛対ゲーム部マッチョ紀本!柔道部金剛は、校内一、ニの実力者。紀本はゲームが強くなるため筋肉も鍛えてきました」

会場が先ほどの試合でざわつきが収まらない中、三回戦がはじまった。マッチョ紀本先輩は上半身タンクトップ。ポージングを決める。

「よっ!切れてるね!上腕二頭筋、富士山かよ!」

会場から掛け声が飛び、笑いに包まれた。さっきの試合の余韻を消し空気をガラッと変えた。柔道部の金剛が、大きな音を立てて椅子に座る。

「茶番はそこまでだ。さっさとはじめようぜ」

今度は一気に緊張が走る。空気の作り合いは、互角といった所だろうか。

金剛は「バーディー」を選択し、マッチョ紀本先輩は「ザンギエフ」を選んだ。大型キャラ同士の戦いだ。画面が狭く感じる。

「FIGHT」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る