シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-6

 校内格ゲートーナメント大会に向けて準備が着々と進んでいた。中メガネ部長が先生達と交渉し、体育館の使用許可が下りた。大会はステージで行うことが決まった。目立つなぁ。さらにバスケットボール部が使うはずだった半面も使わせてもらえることになった。なんかバスケ部のキャプテンの弱みを握っているとか。部長は敵にしちゃダメなタイプだな。

みっちー先輩が備品を手配してくれた。プロジェクターとスクリーン、マイクに観戦用のイス。百人一首大会の運営のおかげで慣れたものらしい。

フンコロガシ先輩は、パソコンでチラシを作った。格闘している複数人のシルエットにデジタルをイメージした緑の光とラインで未来の格闘技を彷彿とさせる。タイトルと大会の案内が上下に分かりやすく配置してある。どう見てもプロの仕事にしか見えなんですけど。フンコロガシ先輩は、画像素材くっつけて、エフェクト乗せれば誰でもできるよって言ってた。紙の質もいい。ネットで注文したそうな。二百部で三千円。ニ日で刷り上がって届いた。こんなクオリティの高いものをこんなに早くできるなんて、オレは知らなかった。

でもそんなオレでも分かることがある。フンコロガシ先輩は、誰でもできるなんて言ってるけど、これだけのデザインを作るためには時間も手間もかかるってこと。部活では一人パソコンで作業してたし、昼休みの時間も使っていた。フンコロガシ先輩の想いが詰まったチラシなのだ。オレと中くらいは、そんな魂の籠ったチラシを学校中に貼る役目をもらった。大切に胸に抱え、少しでも多くの人に想いが届くよう気合いを入れて任務に向かう。

「飛鳥。戻ったら練習付き合ってくれよ」

「オレで大丈夫なんですか?」

「ガチャプレイは予測ができなくて、練習になるよ」

「分かりました。戻ったら手伝います」

マッチョ紀本先輩は大会のために毎日ひたすら練習している。1日四時間以上はやっているみたい。ゲームは本気でやると体力も集中力も使うから想像以上にきつい。ずっとスポーツやってて体力に自信があるオレでも一時間もやったらヘロヘロになる。どれだけすごいことかやってみた人しか分からないだろう。だからこそ応援したくなる。みんなに見てもらいたい。知ってもらいたい。ゲームだって本気でやれば競技になるんだ。


 ゲーム部全員が大会に向けて一丸となっていた。しかし、牧田は、まだ学校に来ていない。

「ピカイチくんは絶対来るよ」

中くらいは、牧田を信じて疑わない。

「だってピカイチくんの部屋。ストファイの練習した跡があったから。たぶん猛練習しているんだと思う」

中くらいの笑顔が夕日に照らされて、どこか寂しく見えた。牧田のことを心配しているからこそ、来たとして、もしボロボロに負けてしまった時のことを考えてしまう。けど、変わりたいのなら、変わるのなら、チャンスかもしれないよ。牧田。


 大会当日。帰りのHRが終わるとダッシュで部室に向かい荷物を投げるように置くと、そのまま体育館に向かった。体育館に着くや否や観戦用の椅子を並べる。椅子を並べるとすぐに出場する選手がいるバスケ部、ボクシング部、柔道部、サッカー部が集まって来た。その光景を見ていた大会のことを知らない人たちが何事かと集まってきて、どんどん輪は広がって、あれよあれよという間に用意した椅子はほぼ満席になった。

たくさんの人が集まって、興奮しているオレの前で、中くらい先輩が周囲を何度も何度も見回している。

「先輩どうしたんですか?何かありました?」

「見てよ。この人数」

「いっぱい集まりましたね」

「ダメ……」

「えっ……?」

中くらいは、深く目を瞑り、肩を落とした。

「見てよ。集まったのは男子ばかり。しかもほとんどが知った顔。ゲームに興味ある人しか来てくれてない。バスケ部にサッカー部、柔道部のキャプテン、ボクシング東京都3位が対決って煽ったんだよ。いつも応援している女の子たちはどこ行ったのよ!」

中くらいは悔しそうに歯を食いしばる。

「このままじゃゲーム部は続かない……。eスポーツが盛り上がってきたって言ってるけど、このままじゃゲーマーだけのものになっちゃう」

中くらい先輩は、もっと高い所を見ていたんだ。オレは大会が無事終わればそれでいいと思っていた。もっと言うと大変だからはやく終わらないかなとも。

「ギリギリまで勧誘してくる。飛鳥くんはここにいて、何かあったら連絡ちょうだい」

中くらい先輩は、体育館を飛び出した。その後ろ姿に心強さを感じると同時に廃部寸前のゲーム部を背負うせつなさを感じた。


 中くらいが出て行ってすぐ、数名の女子が近づいてきた。おっ。女子が増えると嬉しい。席に案内するため声をかけようとしたけど、怪訝な表情に怯んだ。

「これ何やるの?」

「ゲーム大会だって」

「ゲーム?高校生にもなってゲームの大会って」

「だよね。それに体育館でやらないでほしいよね」

「ほんと。部活の邪魔だし」

女子たちは笑いながら部活をしているバレー部の方へ去っていく。女子バレー部のメンバーのようだ。楽しそうに笑う背中を見て胸が苦しくなった。でもオレもちょっと前までは向こう側だった。運動は素晴らしくて、ゲームはただの遊びと見下していた。気持ちは分からないではない。なのに胸が熱くなり、中くらいの後ろ姿が脳裏に浮かぶ。すべてを背負ったその後ろ姿を。

「あ、あの!」

思わず大きな声を出していた。女子たちが振り返る。

「ゲーム部は、今日のために必死に準備してきました。運動部に負けないぐらいいっぱい練習もしています。だから、邪魔とか、言わないでください」

一人の女子が何か言おうとした。だが声にはならない。別の女子が「もう行こう」と言って小走りで去っていった。

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