第11話 捕まえた


僕はマリナーシャ王国の第一王子だ



以前会ったまっすぐな目をした女の子、ルージュ・エリュトロンをどうにかして僕のものにしたい…



僕は生まれた時から次期王として見られてきたから、誰かに甘えたことはなかった



それなのに彼女は

「寂しい時は一日中一緒にいてあげるわ」

と僕に言った


なんでも与えられている僕が寂しい気持ちをしていると思う人は彼女以外にいないだろう



だから彼女ならどんな僕でも真摯に受け止めてくれると思った



彼女がいたらきっと王子という立場でも気楽に息が吸えるようになるだろう



「どうしたらいいだろうか…」


「どうしたのですか殿下?」

書類を整理していたロイが不思議そうにこちらを向いた


「いや、なんでもないよ」



「あー前に街であった女の子のことですね」

ロイがニヤニヤしながら言った


「な、んで知ってるんだ!」


「護衛に口止めしなかったでしょう?別に知ってても問題ないのでは?」


「まさか、その女の子を探しているのですか?貴族のお嬢さんだったんでしょう」

でも、フードで顔を隠されていたら探しようがないですよね…と呟きながら机の書類を棚に持って行った



「いや、誰かはわかってる」


「え、わかってるんですか?」

誰です!?


と興味津々に聞いてきた


「ルージュ・エリュトロンだよ」



「ルージュ・エリュトロン…といえばたしか…我儘お嬢様ではなかったですか?あ、でも最近優しくなったとか」


公爵家の方ですよね…と知ったように話す


「君はいつもどこでそんな情報つかんで来るんだ?」


「まぁ、僕にはつてがいっぱいいますので…それに殿下の婚約者候補の情報は大事ですしね」



「婚約者候補…」


「ええ、そうですよ。公爵家の方なら殿下につり合います。ルージュ・エリュトロンは有力な婚約者候補ですよ」



「そ、うか、そうだよね……なにを悩んでいたんだろう。婚約すればいいだけじゃないか」


「え、婚約するんですか!?ルージュ・エリュトロンに?」


「あぁ、今から行ってくる」


「ちょ、ちょっと待ってください!」

今から突然行ってもエリュトロン家の方々に迷惑ですし、嫌われます!一回落ち着きましょう!と椅子に戻された



「じゃあロイはいつがいいと思う?」


「婚約する前提なんですね……そうですね…まず国王に許可を取らないといけないですし、婚約を申し込みに行くなら事前にエリュトロン家に連絡するほうが好感度がいいでしょう」



「じゃあ、彼女の9歳の誕生日パーティーで婚約を申し込むことにするよ」


ロイが驚いたようにこちらを見た

「今すぐ行動に移すのかと思っていました。なんでその日なのですか?国王はすぐその婚約に賛成してくれると思いますけど…」



「エリュトロン家のことだから大きなパーティーを開くだろう、きっと彼女はたくさんの人の前で僕からの婚約は断れない」

そう言って立ち上がって扉に向かった



「…あぁ、かわいそうなルージュ様…こんな執着男に目を付けられるなんて…」


「なにかいった?」

「いーえ、何も…」



♦♦♦♦♦♦♦♦



ルージュ・エリュトロンの9歳の誕生日は僕が思っていたより小さく開かれた


「まぁ、エリュトロン家の親せきは多いから、いいかな…」


招待状を手渡して、会場に入っていった


周りの人たちが驚いたようにこちらを見る


「アズラク殿下じゃないかしら?」

「なんて美しい」

「どうしてこのパーティーに…」


そのなかで同じ年ぐらいの女の子たちに囲まれた子がいた



シャンデリアに反射してきらきらと輝いたブロンドの髪に、ルビーのような真っ赤な瞳



「みつけた」

久しぶりに会えたことに嬉しくてたまらなかった



困ったように令嬢たちに笑いかけていた彼女がこちらを向いた


あの時と同じ、まっすぐな目で僕を見る


始めはきょとんとしていたが、僕が王子だと気づいたのか瞳が零れ落ちそうなほど目を見開いた


あぁ、今日のドレス彼女にとても似合ってる…かわいいな…次は僕が選んであげたい



彼女の前でピタッと足を止めた


「お誕生日おめでとう。ルージュ・エリュトロン」


「ありがとうございます。アズラク殿下からそのような言葉をいただけるなんて恐縮ですわ」

困惑した表情で完璧な受け答えをした


なんできたのかしら?と聞こえてきそうなほど困った顔をしている


「今日は君に婚約を申し込みに来たんだよ」



「こんやく…」

まだ理解が追いついてないみたいだ


それでも彼女は冗談だと信じ込みたいようで

「アズラク殿下、なんのご冗談でしょうか、このような場でやめてくださいませ」

と笑った



逃げようとしてる?絶対逃がさないよ



「ルージュ・エリュトロン、僕の婚約者になってくれませんか?」

ひざまずき、そっとバラの花束を差し出した


「アズラク殿下、立ってください!」

彼女は焦ったように僕に言った




「受け取ってくれるまで、立たないよ」

と笑って見せた



ねぇ、君は僕の婚約を拒否することはできないよね



「受け取ってくれないの?」




誰にひどいと言われても、僕は君を手に入れたいんだ…




「ありがとうございます。お受けいたしますわ」




あぁ、やっと…




捕まえた


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る