【第五部】第一話 恋が性愛に変わる時
彼女――名を美穂子といった――との、次のデートは電話での相談の結果、福井県の気比ノ松原と決まった。片道三時間程度の遠距離ドライブである。彼女の下宿先の近くの喫茶店に、朝九時に迎えに行くことにした。一二時過ぎには着くだろう、そしてランチをして、海を見て帰ろうか。道が渋滞しても、日が暮れる前には帰れるかな。勇二郎は、ざっくりとしたプランを立てた。
デート当日---。ドライブの道中、飽きない会話が続いて、そして、また続いた。勇二郎は思う。やはり、波長が会うのだろう。何を言っても笑ってくれるし、彼女の言うことも面白い。まだお互いをよく知らないため、家族のことや友達の話など、話題には事欠かない。
その頃、勇二郎は、免許を取得し、アルバイトのおかげで、十年以上前の年式ではあるが、格安中古車を買うことができていた。パワーステアリングなどないため、車体が動いてないとハンドルはまともに回せない。窓も自動では開かない。クラッチも油圧式でないため重く、踏むと軋んだ音がする。それでも彼は、初めてのその愛車に満足し、近場での一人ドライブをよく楽しんでいた。
勇二郎にとって、初めての長距離ドライブということもあり、それも楽しさを増していた。カセットテープにラブソングを集めるような小洒落たことは思いもつかない勇二郎、道中では、ただ、AMラジオを流していた。そのラジオから演歌が聞こえてくると、「デートでこの曲はないでしょー」といい、美穂子はただそれだけのことで、けらけらと笑うような女の子で、勇二郎もつい、それだけで楽しくなってしまうのである。勇二郎は行く前までは、(話すことがなくて、気まずくなったらどうしようか)という心配ばかりしていたが、それは全くの杞憂だった。
ようやく海に着いたのは、予定より少し遅れて、午後一時を少し回ったところだったか。二人は海岸を歩く。ランチは途中の喫茶店で軽くすませた。道中、松林があり、昨年のものだろうか、夏だというのに、松ぼっくりがころころと落ちている。勇二郎の見たことのないような大きなものが多く、大きいものだと、ソフトボールくらいのサイズはありそうだ。二人は、記念に一つずつ、持ち帰ることにした。
午後三時を過ぎた頃、勇二郎の「そろそろ帰ろうか」の声で帰路についた。よく晴れた日だった。海の景色は綺麗であったが、潮を含んだ熱風と太陽は、彼らに大量の汗をかかせた。道中、琵琶湖の湖西側の国道を通っているときのこと、「ねえ、琵琶湖でちょっと涼んでいかない?」と彼女が言う。勇二郎は、持参した地図でお勧めスポットになっているマキノの辺りに寄ることにし、湖の近くの湖畔道に入った。車を出て、共に浜辺におりる。確かに涼しい。澄んだ淡水湖がもたらしたその涼しさは、物理的なものからきているだけでなく、視覚的な効果も大きいように思えた。彼女はサンダルを脱いで、透明度の高く冷たい湖北の水の中にじゃばじゃばと入っていき、手で救った水を勇二郎にかける。
古い少女漫画ですら描かれないような、ベタなその展開に、かなりの気恥ずかしさを感じながらも、勇二郎も彼女に合わせて水をかけ返す。あっという間に時間が経ち、いつのまにか、少し日が落ちてきた。(今度こそ、帰ろう)、そう思い、彼女を車にうながす。
「もっと遊びたかったのにー」、と言いながら、助手席に乗り込んだ彼女の顔に、少し斜めになった陽がさし、ぱあっと輝かせた。勇二郎は美穂子をたまらなくかわいいと思ってしまい、次の瞬間、ほぼ無意識に唇を重ねていた。彼は、自分でも自分のとっさにとった大胆な行動に驚く。
すぐに唇を離し、照れくささを隠すように手短に「行こっか」といい、車を出したのだが、美穂子はあまり喋らなくなってしまった。まずかったかな、早かったかな、疲れたのかな、といろいろと考えてはみたものの分からない。取り急ぎ、彼女を自宅へ届けよう。勇二郎は車を走らせた。
帰り道では、帰宅ラッシュも始まり、彼女の下宿先についたのは夜八時を回っていた。勇二郎が当初想定していた予定よりかなり遅れてしまった。
「すっかり遅くなってごめんね」
「ううん。あたしが、はしゃぎ過ぎちゃっただけだから、気にしんといて」
そんな会話をして、勇二郎は、彼女の下宿先であるマンションを見上げた。初回のデートの後、送り届けたときは、緊張していて、あまり見ていないので、改めてまじまじと観察してしまう。さすが女子大生、ちゃんとしたマンションに住んでいる。そりゃそうだよな、と勇二郎は思った。この時代はまだ木造の学生寮があり、マンションに住む男子学生は、あまりいなかった。しかし、美穂子は女の子だ。親御さんとしては、やはりマンションでないと怖くて一人暮らしさせられないもんなんだろうな・・・などと考えていた。すると、そんな勇二郎に対し、美穂子から「寄ってく?」と声がかかる。
「いいの?」
「うん。」
慣れない長時間の運転で疲れていたため、勇二郎は正直なところ、帰って爆睡したかった。が、さすがに断るのは男がすたるだろう、こういうのを断るのは女の子に恥をかかせることになるんだろうな、と思い直し、部屋に入れてもらうことにしたのだった。
座布団に座らせてもらい、女の子の部屋って初めてだと思うと、緊張も手伝って、つい、きょろきょろ見回してしまう。そんな勇二郎に、美穂子は黙ったまま体を預けてきた。部屋に入ってすぐの出来事で、まだクーラーもつけていない。お互いの体がほてって熱い。二人は、再び流れてくる汗にまみれるのも気にせず、抱擁を続けた。二回目のキス。初めてのときよりも、ずっと時間をかけて丁寧に行った。(これでいいのかな?これでいいのかな?)心臓が口から飛び出しそうである。ついに、唾液と唾液が絡み合う。もうこうなったら、奥手の勇二郎も若い男、止まらなくなってしまう。彼女の胸に服の上から手を触れた。
彼女が「いいよ」と言う。その言葉が勇二郎を後押しした。下着の中に手を入れ、何をしていいのか分からないまま、まさぐってみたりした。彼女の首筋に口を這わせ、内股を撫でたりした。全くもって、要領など分からないが、拒んでいないことは確かだ。そのまま、ブラジャーの中に手を入れてみた。彼女の息遣いが荒い。どんどん呼吸が激しくなる。汗も全身から吹き出している。(次、どうしたらいいのかな?どこをどうすればいいのかな?)ためらいつつも、彼は、ついに下着の中に手を入れ、彼女の秘部を指で触れた。美穂子は、「んっ」という小さな声を出した。既に、おびただしい量の液が出ており、下着まで濡れていた。勇二郎は思う。そうか、これが、あれか。
「ちょっと待って。シャワーを浴びてくる」
そうして-----。この日、勇二郎は初めての体験をしたのだった。
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