第15話

 まりは、吾平とおたよに言いました。

「私夢を見たの。夢の中に着物もひげも髪の毛もみんなまっ白なおじいさんが出てきて、私に向かってこう言ったの。

『まり、十七年もの間、わしの宝物を預かってくれて、本当にありがとうよ。では、返してもらうよ。』

 そうしたら、私の手のひらから何かが飛び出したの。そしてみるみる大きくなっていって、背中に羽がはえた、とってもきれいな女の人になったの。おじいさんは私に

『これは食い気の虫といってな、わしの息子の許嫁なんじゃが、十七年間下界の不浄のものを食べ続けなければ、おとなになれないのじゃよ。だからわしの手元には置いておけんので、おまえに預けたのじゃ。だが、時はもう満ちて、これも立派なおとなになることができた。明日はめでたく祝言じゃ。二人は田畑の神にするから、特におまえの家は豊作になるようにしてやろう。では、さらばじゃ。』

そういうと、二人はすっと消えてしまったの。」

 その話を聞いて、吾平とおたよは初めて食い気の虫のことを思いだしたのです。いつか、あのお坊さまの言った通りでした。食い気の虫は、悪い妖怪などではなかったのです。食い気の虫は、まりから離れてゆく時に、すばらしい恩返しをしてくれたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る