第13話
こうして二年が過ぎ去ろうとしていました。もうあと十日ほどで、まりの十七の誕生日になるところでした。
まりは、いつものように神社へ向かいました。すると、後ろから誰かが走ってきます。太一です。太一はまりを追い越すと、まりの前に立ちふさがりました。そして、まりが立ち止まると、真剣な顔をしてまりの目をじっと見つめました。まりは、太一の様子がいつもとちがうので逃げようとしましたが、太一があまりに真剣な目つきをしていたので、思わず、負けずに太一の目をじっと見つめました。
すると、太一はいきなり大声で言いました。
「おまえはおれが好きか。おれはおまえが好きだ。」
そして、まりがまだ返事もしないのに、また走り去ってしまいました。まりはしばらくあっけにとられていましたが、我に返ると急に悲しくなりました。
「こんな、こんなことがあっていいのかしら。こともあろうに私のことを好きだなんて。私と太一さんじゃ、全然釣り合いが取れるわけないじゃないの。きっと太一さんも私をからかっているんだわ。」
まりは、こんなふうに思ったのです。そして、やっとのことで家に帰りつくと、そのまま高い熱を出して寝こんでしまいました。吾平もおたよもたいそう心配して、お医者を呼んでみてもらいましたが、お医者も首をひねるばかりです。まりは眠り続けました。そしてあれほど食べていたのに、今では水をほんの一口飲むだけです。
二、三日して太一がやって来ました。そしてまりの様子を見て、ひどくおどろきました。それから太一は吾平とおたよに向かって、あの日の話をしたのです。
「そうか、そんなことがあったのか。」
と、吾平は言いました。そして太一に、
「おまえさん、本気でまりが好きなのか。」
と聞きました。太一はうなずきました。吾平は難しい顔をして、また言いました。
「まりは、親のわしがみても良い器量とは思えない。ほかにも娘はいくらでもいるだろうに、一体どこが気に入ったんだ。」
太一は吾平の顔をまっすぐに見て言いました。
「心のやさしさです。ほかの娘たちは、器量がよくても、まりほどの心は持ってはいません。おれは本気で好きになったんです。」
吾平は何も言いませんでした。そして太一を家の外に送り出すと戸をぴしゃりと閉めてしまいました。そうすれば、太一もあきらめると思ったからです。でも太一はあきらめませんでいた。毎日やってきては、一日中家の前に座っていました。雨が降っても同じです。
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